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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風澤中孚

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第39話 こんな戦い方、ひどすぎる


ワカナが膨らんだエコバッグを提げて、戦場の中央へ大股で歩いていった。


私は横に立って、そのバッグを目を細めながら観察した。


中に丸い缶がいくつか見えて、鉄の柄のついた何かもある。袋の底はずっしりしていて、見た目よりかなり重そうだった。


「何を買ってきたんですか?」

フェアリーが私の隣に漂ってきて、不思議そうに首を傾けた。


「スーパーのもの。」私は言った。

「スーパー?」フェアリーが少し固まった。


「そういう場所で武器が買えるんですか?」

「人を傷つけようと思えば、スーパーで買えるものは思ってるより多い。」

フェアリーがなるほどというふうに頷いたが、まだ完全には腑に落ちていない様子だった。


ユウキは近くの岩の上に座っていて、サチの頭が彼女の腿の上でぐっすり眠っていた。


ユウキが笑いながら言った。


「局長から聞いたんですけど、マスミさんのお友達のワカナさん、高校のころ私たちの署にしょっちゅう来てたみたいですよ。」


「ああ、そうなんです、あのころ私よくいじめられてて、毎回彼女が助けに来てくれて……」私は少し懐かしそうに言った。


『ワカナ!ワカナ!ワカナ!』

『バッグの中身は何!!』

『ワカナ早く開けて見せて!』

『ちょっと待ってワカナの高校時代ってどんな感じ?』


戦場の向かい側で、アラユはその場に立ってワカナが近づいてくるのを見つめていた。

ひびだらけの大きな鋏がゆっくり持ち上がって、またおろされた。

表情がとても複雑だった。


さっき自分で言ったのだ。どんな弱そうな相手を出してきても受けると。


でも今目の前に立っているのは、エコバッグを提げたスーパー帰りみたいな格好の若い女の子だった。


鋏がぱちぱちと二回動いて、また止まった。


「戦う気がないなら……」ワカナがバッグを持ち替えて、にっこり笑った。

「いっそ降参しちゃえば?」


会場が半拍、シンと静まり返った。


それから岩礁の上の観客が一斉にわっとなって、笑い声が上がり、息を呑む声が上がり、あちこちで囁き合いが始まった。


アラユの眼柄がぴんと立った。


「お前——」


そばに立っていた中くらいの高さのヤシの木を、根っこごとぶちぬいた。

根から土と砂が塊になってぶら下がり、空中で大きく一回転して、ぶうんと風を切りながら振り下ろされてきた。


ワカナが悲鳴を上げて、一目散に走り出した。


その悲鳴はかなり派手だったが、走り出した速度は実際なかなか速かった。両足が小気味よく動いて、身のこなしが軽い。エコバッグを持ちながらでも走るペースは落ちなかった。


アラユがそのヤシの木を引きずりながら後を追った。


木はアラユ自身の倍ほどの高さがあって、葉がざわざわと揺れ、根が砂地にくねくねと跡を引いた。

一振りするたびに砂埃が大きくもうもうと舞い上がって、迫力はあったが、ずっと動き続けている相手にはまるで当たらなかった。


「これって……」フェアリーが隣で見ながら、なんとも言えない声で言った。

「凧あげ、してるんですか?」

「どう見てもそうだね。」私は軽く笑いながら言った。


ワカナは走りながら地面で小石を何個か拾い、振り返らずに後ろへ投げた。


石がアラユの甲殻に当たって、こんこんと乾いた音がした。


知恵の書が目の前で開いて、一行の文字が浮かんだ。


HP-1


私はその数字をじっと見て、少し黙った。

ダメージが、完全にくすぐりと同じだった。


でもアラユの顔は、くすぐられた後の表情のほうが、重いパンチをくらったときより腹立たしそうだった。


「お前——立ち止まれ!」


それなりの年齢のくせに、ヤシの木を引きずって、島の南側の空き地で若い女の子を追いかけ回している。

周りの海民亜人が全員後ろへどいて、岩礁に座っていた何人かはすでに笑いすぎて岩から滑り落ちていた。


『ヤシガニが凧あげされてるwwww』

『HP-1って何だこの侮辱的な攻撃!!』

『ワカナこの戦法ずる賢すぎる!』

『アラユ、甲殻類のくせに二本足の人間に追いつけないの!?』


一周追いかけたところで、アラユはようやくこれでは意味がないと気づいた。


怒りのまま両手でヤシの木を放り投げ、

全力で投擲した。


ヤシの木が空中でくるりと回転し、風を切りながらワカナの方向へ叩きつけられてきた——


ワカナが横にひらりとかわし、木が地面に激突して、泥と砂が大きく跳ね上がった。


かすりもしなかった。


アラユが息を切らしながら周りを見回すと、ワカナの姿が消えていた。


きょろきょろと一周見回して、もう一周見回した。眼柄をあちこちの方向へ伸ばしたが、何も見えなかった。


周りの観客が静まり返った。


退屈したからじゃない。

みんな答えを知っていて、でも誰も教えてやろうとしない、あの奇妙な静けさだった。


岩礁の上の海民亜人が数人、目を見合わせて、口の端を上げながら、揃って口を閉じたままでいた。


小さなフジツボ族の子どもが何か言いかけて、隣の大人に口を塞がれ、首を振られた。


アラユの眼柄がぐるぐると回り続けて、最後に腹立たしそうに倒れたヤシの木のそばへ戻り、それを拾い上げて武器として使い続けることにした。


腰をかがめた。


「見つかりました!」

ワカナが木の葉の陰にしゃがんでにこにこしていた。

そのままアラユと正面から向き合う形になった。互いの息が聞こえるほどの距離で。


アラユが反応する前に、ワカナがエコバッグから缶を一つ取り出した。


乳白色で半透明のプラスチック容器に、青い液体が入っていた。

陽光に透かすと少し蛍光がかって見えた。


どう見てもトイレ用洗剤だった。


「ちょっと待って——」

私はその缶を見て、ひどく嫌な予感がした。

ワカナはアラユの眼柄に向けて、容器を思い切り押し込んだ。


青い液体が勢いよく噴き出して、突き出た柄眼にまともに入り込んだ。


アラユが魂が抜けるような悲鳴を上げ、鋏をめちゃくちゃに振り回しながら後ろへよろけ、後ろで観戦していた海民亜人を二人まとめてひっくり返した。


「目が!!目が!!お前——お前この人間、何の妖術を使った!!」


私は額に手を当てた。


「あの……」ユウキが隣で、信じられないという声で言った。

「あれって、トイレ掃除用の塩酸ですか?」


「使用上の注意で絶対に禁止されていることを、彼女は迷わずやります。」私は頷いた。


『は!?これ合法なの!?』

『ワカナ容赦なさすぎる!!』

『洗剤を目に噴きかけるのは危険です、子どもは絶対マネしないでね!』

『禁止されてないからセーフ!禁止されてないからセーフ!』


「みなさん——」

私はカメラ担当のピクシーから鏡を借りて、配信に向かって直接言った。


「がっかりさせてしまうかもしれませんが、ワカナは高校のとき、えげつない手段で知られてた不良少女だったんです……」


コメント欄が一斉に騒然となった。私は鏡をピクシーに返して、戦場の様子を見続けた。


『ワカナにそんな過去が……』

『どうしよう、もっと好きになった!』

『女不良!しかもえげつない手段で有名な!』


アラユの状況はひどかった。

塩酸の刺激で視力がほぼ完全に失われた。

甲殻類の柄眼には脊椎動物のような瞼がなく、液体が入り込んでも瞬きで払うことができない。


ヤシガニの聴覚と触覚はとりわけ鋭いわけでもなく、嗅覚は比較的いいほうだが、素早く動き回る人間を正確に追跡できるほどではなかった。


今の彼はただの、最も大事な感覚を失った大きなカニだった。

戦場をでたらめに突進して、大きな鋏を振り回し、精度の低さを範囲攻撃で補おうとしていた。


ワカナは安全な距離の外でゆっくり待った。


アラユが十数回振り回して、だんだん動きが鈍くなり、鋏の幅がどんどん小さくなって、体力が削れていった。


ワカナはそこでようやく忍び足で近づいて、正面に回り込んで、つま先立ちになり、手の鉄ハンマーを高く掲げ、全身の力を込めて、

アラユの頭のてっぺんにしっかりと叩き込んだ。


その鈍い音が、会場の海民亜人全員に同時に息を呑ませた。


アラユがよろめいた。


ワカナが三歩後ろへ引いて、彼を見た。


アラユがもう一度よろめいた。

大きな鋏がぐたりと下がって、地面に突っ張り、崩れそうな体を支えた。


頭の甲殻に新しいひびが一本走り、さっきサチがつけた傷と繋がって広がった。


「まだ続けますか?」ワカナが手をぱんと叩いて、仕事を片付けたばかりの気楽さで言った。


アラユがゆっくりと、ゆっくりと前のめりになり、大きな鋏が砂地に叩きつかさって砂埃を上げ、体がそのまま崩れ落ちて、完全に動かなくなった。


場内が数秒、静まり返った。


それから海面の観客全員が同時に声を上げて、その波が四方から押し寄せてきて、小島全体が揺れるようだった。


「第二戦、三界の覇者側の勝利。」


セバスティアンが前に出て、横たわるアラユを見下ろしてから、何も衝撃的なものを見ていないという顔で振り向き、静かに言った。


「手段……なかなか独創的でした。」


「ありがとうございます。」ワカナが鉄ハンマーをエコバッグに押し込み、肩にかけて、私たちのほうへ戻ってきた。


ユウキの隣に来て、まだ眠っているサチをちらりと見下ろしてから、しゃがんで顔のそばの髪をかき上げて、顔色を確かめた。

それからようやく息をついた。


「寝てるだけみたいね。」

「回復中です。」ユウキが言った。

「秘釀酒の効果で。」


「よかった。」ワカナが立ち上がって私を振り返り、目をきらきらさせた。

「マスミ、ここほんとに綺麗だね、あの乙姫様もすごい人だよね、入ってくるとき見かけて——」


「ワカナ、」私が遮った。

「バッグの中に他に何が入ってるの?」


ワカナがバッグを覗き込んで、顔を上げ、少し照れたように笑った。


「えっと……家事用品とキッチン用品、

ちょっとだけ。」

「家事用品とキッチン用品。」私は繰り返した。


「鉄ハンマー、洗濯洗剤、サラダ油、料理用赤ワイン……」彼女が一つずつ数えた。


全部開封済みだった。

事前に何かを調合していたのは間違いない。


ビール瓶らしき茶色い瓶を何本かさりげなく飛ばしていたが……あの色はどう見ても飲めるものじゃない。

中身はビールじゃないはずだ。


私はしばらく黙って、何を言えばいいか完全にわからなかった。


コメント欄の人たちが代わりに言ってくれた。

『ワカナって本当に元不良なの?』

『見る目が変わった』

『キッチン用品戦法、メモメモ!』

『三界覇者チームの戦い方、毎回予想外すぎる』

『マスミ、このメンバーどうやって集めたの笑』


「次!」ワカナが気軽に手をぱんと叩いて、戦場に向き直り、残りの相手を見渡した。

さっき一戦終えたばかりとはまるで思えない口ぶりで言った。


「誰が来る?」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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