第37話 ウミネコ対決幸運少女
「ルールはシンプルです。」
セバスティアンが戦場の中央へ歩み出た。
声は澄み渡り、どこか儀式めいた雰囲気を帯びていた。
「時間制限なし、場所制限なし。どちらかが降参するか意識を失うまで。両者に異議はありませんね?」
「ニャい。」
ニャリクが黄色い魚叉を背負って、だるそうに前に出てきた。
この手続きに苛立っているような様子で。
「無駄話はいい、始めよう。」
彼は戦場の中央へ歩み出て、両「手」を広げてぱんぱんと二度叩いた。
その動作が少しおかしかった。
彼には手がないのだから。
上腕が二枚の長い翼になっていた。
羽色は青みがかった濃灰色で、先端に向かって黒くなっている。広げると人間が二人手をつないだほどの幅があった。
翼の中ほどに、まるで始祖鳥のように、細長い三本の指が生えていた。その三本指がしなやかに動いて、魚叉の柄をしっかりと握り締めた。
「俺に、ウミネコ族のニャリクに」
顎を上げ、黄色い目で私たちを一人ずつ見回した。
「海民の不屈の精神を見せてやる。」
周りの観客が歓声を上げた。
岩礁の上に陣取っていた何人かは明らかにウミネコ族の仲間で、声を張り上げて彼の名前を呼んでいた。
「私たちも問題ありません!」
サチは眠れる神の砂袋をしっかりと腰に縛りつけ、片手に翠甲羅、片手にユウキから受け取った警棒を持って、数歩前へ出た。
ユウキが警棒を渡すとき、ひと言添えた。
「サチ、苦しくなったら退いて。無理しないで。」
「わかってますよ!」
サチが振り返って笑った。その笑顔は体育の授業に向かうような気軽さだった。
「ユウキさんは横で応援してくれればいいですから!」
「砂袋が落ちないよう見ててあげる。」
ユウキはため息をついたが、それでもサチの背中に手を伸ばして砂袋の結び目をもう一度きつく締めてやった。
妹の通学鞄を整えてやるような、優しい手つきで。
『サチ出るの!?』
『海鳥系の飛行戦士が相手、サチ勝てる?』
『砂袋と盾って何の作戦?誰か解説して!』
「ニャリク。」
サチは戦場の端に立ち、向かいの鳥人を見上げ、首を傾けた。
「ウミネコって言ったけど……足がちょっと違くないですか?ハーフとかっているんですか?」
ニャリクが目を丸くした。
周りの観客が半拍ぽかんと静まり、それからあちこちで囁き声が上がった——人間の女の子が開戦前にこんな質問をするとは、誰も思っていなかったようだった。
「ニャっはは!」
ニャリクが笑い出した。
その声は猫の鳴き声とカモメの鳴き声の中間だった。
「人間の小娘、よく見てるじゃないか!」
猛禽のような大きな足を持ち上げて、空中でぶらぶらと揺らして見せた——爪は鋭く、水かきはなく、ウミネコ族の柔らかい足裏よりも、鷹のような、掴む力が圧倒的な構造をしていた。
「そうだ、俺の祖父はウミワシ族だ。」
言い終えた瞬間、目の表情が軽薄から鋭さへと切り替わった。
顔が入れ替わったほどの速さで。
「だから——こういうことができる!」
翼をはためかせて、体が宙に舞い上がった。
私が想定していたより三倍速く、足の爪に魚叉を握ったまま、斜め上方からサチ目がけて急降下してきた。
サチが右に一歩踏み出した。
魚叉が左肩をかすめ、砂地に突き刺さり、小さな砂埃を巻き上げた。
「チッ。」ニャリクが魚叉を引き抜いて、再び舞い上がった。
「なかなかやるじゃないか。」
「ありがとうございます!」
サチは肩の砂を払って、中孚堂の海の上の太陽みたいに明るい声で言った。
ニャリクが二度目の急降下をかけた。
今度は角度がさらに厄介で、正面上方から真っすぐ突っ込んできた。
サチが翠甲羅を持ち上げて受け止めた。
魚叉が盾面に当たって鈍い音を立て、彼女を半歩後ろへ押し込んだ。
踵が砂地に二本の浅い溝を刻んだ。
「おっ!」ニャリクが明らかに驚いた声を出した。
「その盾、普通じゃないな!」
彼は戦略を変え始めた。
三度目、四度目、五度目——毎回攻撃の角度が違った。左側から押し込んでくることもあれば、背後から回り込んでくることも、地面すれすれに掠めていくこともある。
サチは盾を上げ、躱し、また盾を上げ、足取りが不思議なほど安定していた。
毎回ギリギリのところで攻撃を凌いでいた。
「毎回ちょうど躱せてるね。」
私は隣でフェアリーに小声で言った。
「これはもう運しか言いようがないんじゃない?」
「そうだと思う。」
フェアリーが目を細めた。
「攻撃が毎回ほんの少しだけずれてる。幸運値が絶対効いてるよ。」
岸の海民亜人たちが固唾をのんで見守り、
岩礁の上に団子になっていた何人かが前のめりになって押し合い、丸木舟の上の何人かは立ち上がって、船をぐらぐら揺らしていた。
『これが幸運値の効果!?』
『毎回ギリギリ!』
『ニャリク焦ってきた!』
『サチ踏ん張れ!!』
ついにニャリクが痺れを切らした。
高く舞い上がって地面を一瞥してから、島の縁の岩礁に降りて、翼の中ほどの三本指で拳大の石を挟み、再び舞い上がった。
「その盾でこれも防げるか?」
高空から石を叩きつけてきた。
サチが盾を上げた。
石が翠甲羅に轟と当たって弾き、横へ飛んでいった——
そして、観客席全体が静まり返るような叫び声が上がった。
「このくそ海藻カス野郎——!!」
弾いた石が、寸分違わずアラユの柄眼に直撃していた。
ヤシガニの亜人が傷つきやすい眼柄を両手で押さえてその場でじたばたし、大きな鋏が怒りでがちがちと鳴り続けていた。
「あのぼんくらが!ここは危ないって言ったんだ!プルートゥンシャ、少し横にずれろ!何を押してるんだ!」
「あなたがこっちに押し込んできたんでしょう。」
プルートゥンシャが少し横にずれながら、この筋肉だるまに一言刺さずにはいられなかった。
「何だと!このへどろカス!」アラユが怒鳴った。
「海藻カスしか言えないの?このナポレオンフィッシュの糞!」プルートゥンシャはまったく怖じない。
怒鳴り合って数回、甲殻に覆われた二人の亜人が場外でいつの間にか取っ組み合いを始めていた。
周りの観客が爆笑した。
岩礁の上の海民亜人の何人かが笑いすぎて前後に揺れ、もう少しで海に落ちそうだった。
『ヤシガニに石が当たった!!』
『これも幸運の指輪が導いたの!?サチ天選の人!』
『アラユ:観に来るんじゃなかった』
ニャリクが上から目を細めてアラユを一瞥し、とってつけたような申し訳なさそうな顔をしてから、さらに石を拾い集めて投げ続けた。
一個、二個、三個、霰のように降ってくる。
サチは翠甲羅を持ちながら石の雨の中で位置を変え続けた。
盾面が打ちつけられてかんかんと鳴り響いたが、本人は無事だった。
ただ地面に砕けた石が増えてきて、足元に気をつけながら動かなければならなかった。
「彼女は大丈夫ですか?」
ユウキが隣で、目を戦場から離さずに言った。声は落ち着いていたが、眉がかすかにひそまれていた。
「盾が全部受け止めてる、本人は無事。」
私は言った。
「そうですか。」
ユウキが頷いたが、手は剣の柄に添えたまま、今すぐ飛び込む気構えでいた。
「一声かけてくれたらすぐ代わりに行きます。」
「言わないよ。」
フェアリーが横で漂いながら、断言した。
ニャリクが最後の石を投げ捨て、高空から急降下してきた——今度は魚叉ではなく、爪だった。
鋭い爪がサチの細い腰を掴み、二枚の翼が力強くはためいて、彼女を引き上げながら宙へ舞い上がった。
「サチ!」ユウキが半歩前に踏み出した。
私が腕を伸ばして遮った。
「待って。」
「でも彼女が——」
「待って。」もう一度繰り返して、空中を見上げた。
「彼女が百三歳まで生きるって忘れた?」
ユウキが止まった。
唇を噛み締めて、視線を空中の小さくなっていく人影に釘付けにしていた。
周りの観客も全員黙り込み、波の音まで少し小さくなったような気がした。
「降参しろよニャー。」
ニャリクが空中から地面を見下ろして、少し得意げな声で言った。
「こんな高さから落ちたら、みっともない死に方をするぞ。」
「えへ!」
サチが舌を出した。
こんな高さで挟まれている人間とはとても思えない反応だった。
「そんなことするわけないってわかってますよ!」
「おい、虚勢を張るなって。」
ニャリクの声に本当に困ったような響きが混じってきた。
「俺だってそんなに長くお前の体重を支えてられないんだ、本当に誤って落としちゃうかもよ。」
「いいえ、落とさない。」
サチの声には恐怖が欠片もなく、最初から答えを用意していたかのようだった。
「なぜなら——」
腰の眠れる神の砂袋へ手を伸ばした。
「一緒に落ちることになるから!」
砂を一掴みつかんで、真上に向かって思い切り撒いた。
ニャリクの顔面に正面からかかった。
さっき地上で戦っていたとき、サチがニャリクの目に砂を撒く隙なんてどこにもなかった。
この鳥人の動きはサチよりずっと速いし、砂なんて翼を一振りすればそれで終わりだ。
でも今、ニャリクの翼は飛ぶために使われていて、爪はサチの腰を掴んでいる。
完全に無防備だった。
「何をする!これは……これ……」
魔法の眠気が波のように押し寄せてきた。
ニャリクの翼が空中でくたりと力を失い、
サチを掴んでいた爪の力が抜けていった。
二人一緒に、高空から落下し始めた。
『今落ちてくる!!』
『誰か受け止めて!!』
『マスミ早く!!』
『フェアリー!!透明翼!!』
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