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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風水渙

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第32話 渙の泉の恩恵


システムメッセージが、高らかな効果音と共に跳ね上がった。


【メスのフォッグシェル・サラマンダー:従者化成功】

【EXP +204800】

【特殊アイテム獲得:迷宮の影・第三層】

【ドロップ:渙の泉の排水の栓】

【ドロップ:フォッグシェル・サラマンダーの血清 ×3】


『EXP 204800!?』

『今の経験値、一体いくらだ!?』

『マスミ、何レベル上がったんだ!』

『ワカナ、速報頼む!』


「皆さん」ワカナの声が、人を惹きつけるような興奮を帯びて響く。

「たった今、マスミくんがメスのフォッグシェル・サラマンダーを従者化し、膨大な経験値を獲得しました。それでは、レベルアップの結果を待ちましょう——」


効果音が次々と鳴り響く。


目の前で数値が跳ね上がるのを眺めながら、体の中で何かが拡張していくのを感じた。

満たされた水袋のように、内側から一層ずつ押し広げられていく感覚だ。


新田真澄 Level 12

EXP: 8960 / 204800


HP: 720 / 720

MP: 260 / 260


反応: 24

筋力: 22

霊感: 26

運: 24


自由分配ポイント: 8


二レベル。

今回は一気に二つ上がった。

アンドリアス・サピエンスが一体 2250 EXP。

フォッグシェル・サラマンダーの幼体が一体 160 EXP。


岸辺で仕留めたあの群れの数に加え、雌の従者化によるボーナスを考えれば、この結果は妥当だろう。


最近のレベルアップで得た自由分配ポイント計 8 点は、いつものように未知の事態に備えて保留しておく。


「やったぁ!」サチが手を挙げた。

その瞳は誕生日のプレゼントを受け取った子供のように輝いている。


「私も上がったよ!」

「何レベルだ?」俺は尋ねた。

「9!」サチは『知恵の書』をこちらに向けた。


福原幸 Level 9

EXP: 4640 / 25600


HP: 490 / 490

MP: 175/175


反応: 17

筋力: 15

霊感: 16

運: 22


「『運』に結構振り分けてるな」

数値を一瞥して俺は言った。


「うん」サチが頷く。

「運が高いほうが、これからの予言ももっとはっきり見えるようになる気がして」


「一理あるな。その方向で続けてくれ」

ユウキは静かだった。

彼女は俺の横に歩み寄り、報告書を検閲するかのような真剣な表情で自分の『知恵の書』を見つめていた。


剣持祐希 Level 8

EXP: 4420 / 12800


HP: 430 / 430

MP: 148 / 148


反応: 17

筋力: 20

霊感: 13

運: 14


「ユウキは筋力と反応を重視しているのか?」


「剣の攻撃には筋力の支えが必要です。霊感や運は、今の私にとって優先事項ではありませんから」


「ユウキは真面目だね、ステータスの振り方までしっかり考えてて」サチが言った。

「私は全部直感だよ」


「あなたの直感も、決して根拠がないわけではありませんわ」ユウキは姉のように穏やかな口調でサチに返した。


「あなたの『幸運の指輪』は、運の数値を最大限に活用できる装備のようですし」


サチは一瞬呆然とした後、顔を赤らめた。

「ユウキさん、今私を褒めてくれたの?」


「事実を言ったまでですよ」


『ユウキがサチを褒めた!!』

『このお姉様属性、最高すぎる』

『この二人の連携、どんどん息が合ってきたな』

『マスミ、そこで静かに見守って何を考えてるんだw』


ぼーっとしているわけじゃない。

戦利品を確認しているんだ。


「戦利品の確認を始めよう」俺は言った。「まずは雌の個体から切り落とした素材からだ」


切り離された肢体や器官を並べていくと、『知恵の書』が自動的に浮遊し、一つひとつに説明文を映し出した。


メスのフォッグシェル・サラマンダーの各器官: 使用者の欠損部位に接合することで、該当部位として再生する。


前足は手に、後足は足に対応。

眼球は目に、えらは内臓に、断尾は脊椎に対応する。


「これって……」サチが説明を読み上げ、複雑な表情を浮かべた。

「欠損した場所に繋げば、再生する? 義肢なの? 生きた義肢?」


「ただの義肢ではないようですわね」

ユウキの口調には、巨大な財宝を掘り当てたような熱がこもっていた。


「脊椎損傷、内臓疾患、視力の喪失……これらは現代医学でも完全な回復が困難なケースです」


「臓器移植を待っている人々が、再び人間らしく生きられるチャンスになるかもしれない」俺はボソリと呟いた。


ユウキが数秒間沈黙し、問いかけてきた。「マスミ……このアイテムを公開するつもりですか?」


少し考え、俺は答えた。

「いいえ。今はまだ、その時じゃない」


『どうして!』

『マスミ、なんでこんな凄いものを隠すんだ?』

『早く教えろよ! どんなアイテムなんだ!』


「皆さん、落ち着いてください」

ワカナが落ち着いたトーンで割って入った。


彼女も理解しているのだ。

「マスミくんには彼の判断があります。私は彼を信じています」


俺の判断は単純だ。

これらを公開すれば、即座に無数の人間が群がるだろう。


半身不随の患者、失明した者、脊椎を損傷したアスリート。

彼らにはそれぞれ、俺に口を開かせるだけの正当な理由がある。


だが、これからの戦いにおいて、俺たちがこれらを必要とする場面が必ず来る。


雌の個体は今や俺の従者だ。

あのメスには再生能力がある。


量産できないわけではないが、

まだそのタイミングではない。


あいつは俺に降伏したんだ。

俺に降った命に対してに対して、

際限のない搾取を行うわけにはいかない。


「せめてもっと人道的な方法を見つけるまでは、雌の素材は量産すべきじゃない」


サチとユウキが顔を見合わせて微笑んだ。

その表情は「この人についてきて正解だった」と語っているようだった。


俺はその件を一旦脇に置き、

さらに清算を続ける。


幼体のドロップ品は比較的素朴だった。

鱗、爪、牙、骨、そして頭殼。


「フェアリー、これらは使えるか?」

フェアリーが材料の山まで飛んでいき、

職人的な目つきで一巡した。


「すべて『蜜蝋みつろうスタジオ』へ送れば、装備の素材として活用できます。

頭殼の硬度は極めて優秀ですし、鱗は防御用のインレイ素材に、爪や牙は攻撃型武装の強化に適していますね」


「蜜蝋スタジオ……」俺は繰り返した。

「まだ建ててなかったな」

「はい、主様」

「なら今すぐ建てよう。これらの材料をすべて生産ラインに叩き込め」


次に、アンドリアス・サピエンスが残したものに取り掛かる。


いくつかの液体が、『知恵の書』が生成した容器に分類されて収まっていた。


粘液: 敵に使用することで移動速度低下。

唾液: 腐蝕効果。対象の防御力を低下させる。

胃液: 直接的なHPダメージ。

涙液: 失明状態。

血液: 混乱状態。


「これではまるで、生物兵器のリストですわね」ユウキが率直に言った。


「そう見えるよな……」

俺はこれらの戦術的な応用を考えた。


フェアリーが提案してくる。

「これらの液体をスタジオで加工すれば、効果の強度と範囲をさらに高めた投擲用アイテムを作成可能です」


「よし。蜜蝋スタジオの建設が最優先事項になりそうだな」


チャット欄では、今回公開された一部のアイテムについて熱い議論が交わされていた。


『血液!? 血液まで使えるのかよ!』

『混乱効果……人間相手に使ったらどうなるんだ?』

『このレシピ、量産できたら軍に売れるんじゃないか?』

『マスミ、お前もう生物兵器商人じゃねえか!』


ワカナが笑いを堪えながら言った。

「皆さん、マスミくんをそんな風に呼ばないでください……否定する材料が私にも見当たりませんけど」


「最後だ」俺は言った。

「フォッグシェル・サラマンダーの血清」

三人分、注射用だ。


効果説明はたった一行だった。


【ウイルスおよび微生物疾患に対する永久免疫】


俺は説明を二度読み、

見間違いではないことを確認した。


永久。

免疫。

ウイルスと微生物疾患。


「サチ」俺は言った。

「大学の学部のラボで、注射器とかは手に入るか?」


サチは瞬きをし、即座に理解した。

「うん! 教授に申請すれば大丈夫だと思う!」

「戻ったら借りるよ。お礼に『秘釀蜜』を一瓶用意する。これから、教授とは長い付き合いになりそうだからな」


俺はフェアリーに命じて血清を『かんの門』へ収めさせた。

チャット欄には、これが何であるかの説明は伏せた。


アンドリアス・サピエンスや幼体、鳥や妖精の産物は量産しても構わない。

彼らは数も多く、生産の負荷も分散されているからだ。


だが雌の個体はたった一体。

こいつを縛り上げて切り刻み続けるような変態にはなりたくない。


「主様」フェアリーの声に困惑が混じる。

「最後にあるその……『栓』というのはどういう意味でしょう? 今、主様の手にあるそれですが」


俺は手の中にある物体を見下ろした。


かんの泉の排水の栓】

説明欄は空欄だった。


周囲を見渡す。

雌の個体が従者になってから、

霧は完全に晴れていた。


渙之泉庭の空気は、場所が入れ替わったかのように澄み渡っている。


そして俺は気づいた。


あの大河の水位が、

目に見える速さで下がっていることに。


引き潮か?

いや、違う。あまりに早すぎる。

通常の十倍以上の速さだ。


まるで浴槽の栓を抜いたかのように、

全域の水がどこかへと流れ去っていく。


「水が……消えていく」

サチが目を見開いた。


「排水の栓」ユウキが言った。

「つまり、この水域にはもともと排水口があって、今それが開いたということですね」


「そしてその栓は今、俺の手の中にある」

俺は言った。

「つまり俺の意思で、これを戻して水位を回復させることもできるし、このまま水を抜き去ることもできるわけだ」


ワカナの声が静かに響く。

「マスミくん、みんなが見てるわよ」


『水が消えてる! マジで消えてる!』

『マスミの手にあるのが排水の栓なんだな!』

『戻さないのか!?』

『戻せ! 戻すな! 両方の投票開始だ!』


「誰が投票の結果なんかに従うかよ」

俺は笑った。

現場にいない連中に勝手な決断をさせるわけにはいかない。


俺は栓を戻さなかった。

この水が引いた後、何か良いことが起きるという予感があったからだ。


数分後、内海のように広大だった水域は完全に干上がり、湿った岩場と点在する水たまりだけが残った。


そして、真の地貌が露わになったこの渙之泉庭の正中央に、一つの噴水が現れた。


噴水の中心から水が静かに湧き上がっている。

澄みきっていて無色、言葉では言い表せないほどの清涼感を纏っている。


「これがきっと、本当の『渙の泉』なんだな」俺は畏敬の念を込めて言った。


歩み寄り、一掬いの水を手に取る。


横で『知恵の書』が展開した。


【渙の泉の水】

あらゆる状態異常を解除し、HPとMPを完全回復させる。


「わあ」サチが泉に駆け寄り、両手で水を掬って顔に浴びせた。

「気持ちいい! さっきまでの疲れが全部洗われていくみたい!」


ユウキは泉の傍らで腰を落とし、

一口含んだ。

そして自身のステータス欄を確認し、頷いた。

「全快です」


俺も一口、飲んでみた。

その感覚を表現するのは難しい。

単に HP の数値が満タンになるだけでなく、

体の中に溜まっていた戦後の重苦しい倦怠感が、

内側から優しく洗い流されたような感覚だ。

さっき卵が肩に当たった微かな痛みすら消え去っていた。


「これは、回復のリソースだ」俺は言った。

「しかも無料。無限。それがここにある」


ワカナの声が穏やかになり、心からの感慨を漏らした。

「マスミくん、あんなに長く戦った……甲斐があったわね」


チャット欄が数秒間沈黙し、

珍しく誰も文字を打たなかった。

そして、一人のユーザーがこう打ち込んだ。


『配信者、お疲れ様。』

続いて二行目、三行目。

何百行と同じ言葉が並び、

画面を埋め尽くした。


俺はその泉を見つめ、何も言わなかった。

割に合ったかどうか、

そんな問いは、最初から野暮なものだ。


「さて、進みますか?」フェアリーが俺の隣で、悠然と問いかけてきた。

「あなたが何と言うか、分かっていますけれど」


「当然だ」俺は言った。

「俺たちは今、活力がみなぎっているんだからな」


サチが泉から立ち上がり、

手についた水滴を払って楽しそうに笑った。

「その通り、行こう!」


ユウキは剣を鞘に納め、前方を向き直る。

俺は最後にもう一度その噴水を見つめ、

排水の栓をしまい込んだ。


準備は整った。


次の目標:巽の塔・第四層の掃討。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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