第235話 修復には時間がかかる
風の柱の根元から噴き出す灼熱の風が、地面近くを低く這うように何度も押し寄せてきた。俺は体を低く構え、節ごとに風の柱へ向かって這うように進んでいった。機械の脚が砂に食い込み、一歩進むごとに、その圧力でまた半歩押し返された。
【内部温度、安全上限に接近中】
【外部風圧負荷、想定値を超過】
警告が知覚の中に長く並び続け、どれも消える気配がなかった。
受話口から、サチの声が軽く速いリズムで、急いで読み上げているのが届いた。
「見つけた。起動条件はこのページに書いてある」
ページがかすかに擦れる音が、彼女の手の下から聞こえた。
「条件は一つだけ」
サチが息を吸い込んだ。
「利用者が修復命令を出せば、システムが起動する」
「それだけ?」
ワカナの声がすぐに跳ね上がった。
「材料も、設置場所も要らないの?」
「もう一回確認する」
サチがページを戻し、指先がページを擦る音がかすかに届いた。
「本当にそれだけ。でも、その下にもう一行あって。修復には時間がかかる、って書いてある」
「時間がかかる……」
アラユの声がざらついた。
「あの炎の柱の前に立ったまま、待つしかないってことか?」
「主様は止まりません」
セバスティアンの声が低く沈んだ。
「声を落としてください。集中を乱さないように」
「す、すまん!」
アラユの声が縮んだ。
「お――俺、さっき本を逆さに持ってた」
ラットンがつかえながら言い、ページを戻す大きな音が響いた。
「サチ様が俺より速くて助かった……」
「マスミ」
ユウキの声が短く、迷いもなく届いた。
「条件はそれだけ。起動するかどうかはあなたが決めて。こっちは回線を繋いだままにしておく」
「マスミ……」
サチの声が震えた。
「気をつけて」
俺は前方二節の脚を地面にもう一度固定し、押し寄せてくる次の圧力の波に備えた。
「了解」
俺は言った。
「今、命令を出す」
俺は内部で修復命令を発した。
【自動修復システム、起動】
【修復作業、進行中】
その二行が表示された瞬間、処理装置がかすかな音を立てて応答した。
前部の文様の板の縁で、何かが動き始めた。
先ほど剥がされていた隙間の縁に沿って、薄い新しい金属の層が現れ始め、それぞれの裂け目の両側から内側へ這うように広がっていった。まるで目に見えない筆が少しずつ撫で上げているかのようだった。【関節の隙間に砂塵の侵入を検知】の警告が二度点滅し、それから消えた。
だが、【内部温度、安全上限に接近中】はまだ点灯していた。
「大将、何か反応あったか?」
エンヴェルの声が速い言葉で割り込んできた。
「システムが応答した。修復は進行中だ」
俺はできるだけ短い言葉で答えた。
「それ以上は、今説明する余裕がない」
「それ以上ってなに!」
ワカナが叫び、手のひらを机に叩きつけるような音が聞こえた気がした。
「効くの、効かないの、どっち!」
「ワカナ様、集中させてあげてください」
フェアリーの声が張り詰めて届いた。
「子どもたち、静かに。みんな黙って聞いていて」
回線から人の声が一斉に消えた。小さな羽が何組も一緒に畳まれる音と、本が机に静かに置かれる音が聞こえた。
プルトンシャがゆっくりと言った。
「風……まだ……鳴ってる。マスミ……あなた……進んでる」
「ああ」
俺は言った。
「風の柱はもう目の前だ」
「大将、無理はしないでくれ」
エンヴェルの口調がゆっくりになり、言葉を選んでいるのが分かった。
「俺が持ってるとこは全部、お前の内部部品の名前ばっかりだ。意味が分からなくて、力になれない」
「聞いていてくれるだけで十分だ」
俺は答えた。
彼はそれ以上何も言わなかったが、受話口から、何か言いたいことを無理に呑み込んだような、固く意識的な息遣いが聞こえた。
「マスミ大将……」
ラットンの声はほとんど聞き取れないほど小さかった。
「お――俺、本を持ってます。何か調べたいことがあれば、すぐにページを開きます」
「ありがとう」
俺は言った。
俺は止まらなかった。機械の脚を食い込ませ、全身が砂の上を短い距離だけ前へ滑った。剥がされた隙間の縁が風にかすかに震え、新しく生えた金属は光を通すほど薄く、灼熱の風が当たった瞬間、その縁が暗い赤色に染まった。
強風が側面から吹き抜け、背面に残った装甲の縁を鋭くはためかせ、砂粒がフレームの隙間に押し入り、内部の関節の間で細かく擦れる摩擦を生み出した。擦れるたびに、監視システムへ新たな記録が一つ加わった。
【関節の摩耗、増加中】
俺はその警告を最低優先度まで押し下げ、前進を続けた。
風の柱まで、もう体の長さ数本分の距離しか残っていなかった。
俺は粒子の網を前方へ押し出し、目の前の気流を確認した。最も流れが遅い空気の塊が、ちょうど風の柱の根元の縁にあった。あと二回、地面を押せば、そこへ割り込めるはずだった。
ちょうどその時、風の柱の中の炎が収縮した。
その橙赤色の層が人型の輪郭の周りに密に集まり、あまりの密度に俺自身の感覚配列が露出過多の警告を出した。彼の頭がこちらへ向き、その視線が俺の前部に生え始めた新しい金属へ注がれた。
「その体を修復しているのか……こんな短時間で、もう操作の仕方まで分かっているとは」
声が風の柱の中心から届いた。その口調には、どこか……感嘆に近いものが混じっていた。
俺は彼に応えなかった。この沈黙は傲慢からではない。本当に、割く余裕が少しもなかったからだ。
俺はただ耐え抜き、機械の脚をもう一寸前へ押し進めた。
炎が彼の背後で輪のように何度も噴き出し、周囲の砂埃を暗い赤色に照らし、俺のフレームにまだ残っている装甲までも、打ち上がったばかりの鉄板のように光らせた。
「修復には時間がかかる」
彼は言った。
「そして、俺はその時間を与える気はない」
風の柱の根元が不意に沈んだ。
荒野一帯の砂が震え、岩の塊が地面から剥がれ、炎に巻き上げられて次々と空へ飛んでいった。風の向きが一瞬で完全に逆転した。正面から押し寄せていたはずの風が、今度はあらゆる方向から風の柱へ向かって内側へ引き込まれ、俺の機械の脚を前へ引きずり、砂に長い溝を刻んでいった。
【外部風圧負荷、急上昇】
【前方に熱源接近】
警告が積み重なり、更新する間もなく点滅し続けた。
「マスミ!」
ワカナの声が裂けた。
「前に何があるの? 何か言って!」
「主様!」
セバスティアンの声が割れた。
「大将――」
エンヴェルは言葉の途中で止まった。
炎の竜巻全体が地面から引き抜かれるように立ち上がり、真っ直ぐ俺へ向かって襲いかかってきた。
このゴーレムの体の旋回は、とても間に合うほど素早くはなかった。俺は機械の脚全部を一斉に地面へ食い込ませ、粒子の網を完全に自分の周りへ引き戻し、装甲の上に何層も重ねて貼り付けた。前部に新しく生えた金属は、まだ光を通すほど薄かった。
灼熱の風が炎の柱から吹き出し、砂埃を一面の橙赤色に染め上げ、轟音は受話口から届く叫び声さえ呑み込むほどだった。
【前方に熱源接近】
【前方に熱源接近】
炎の竜巻が真正面から俺に叩きつけられた。
衝撃はまず前方三節を直撃した。
全身が壁に正面から殴られたような感覚だった。前方の脚が地面から完全に浮き上がる一方、後方の節は砂に釘付けのまま残り、間を繋ぐ関節が無理に引き伸ばされ、鋭く軋むような金属の悲鳴を上げた。
【関節負荷、安全閾値を超過】
【本体接続部に異常応力を検知】
灼熱の風がフレームのあらゆる隙間に流れ込み、内部温度が一段ずつ上がっていった。新しく生えた金属の層は炎の中で縁が丸まり、風によって一枚ずつ引きちぎられ、その下の損傷した黒い表面が再び剥き出しになった。
俺は脚全部を押し下げ、その先端を真っ直ぐ地面に突き立てた。砂がその周りで巻き上がり、炎の竜巻に引き裂かれて空へ舞い上がった。それでも風の柱の力は強まり続け、全身を後方へ押し流し、これまでで最も長い溝を地面に刻みながら、節だらけの体が鎖のように土の上を前後に引き回された。
十数メートルほど滑らされて、ようやく止まった。
もう避ける余地はなかった。できることは、何か反撃の手段を見つけることだけだった。
このゴーレムにできることは、本当に突っ込むことだけなのか?
俺は処理能力の一部を警告から引き離し、本体の機能一覧へ振り向け、一行ずつ目を通していった。
【機能を検索中】
一覧は長かった。移動、感知、放熱、粒子制御、外部通信――一つまた一つと項目が流れていき、そのほとんどはすでに使ったことのあるものだった。俺は使用履歴のない項目だけを選び出し、一つずつ呼び出して確認していった。
炎の竜巻が再び俺へ向かって襲いかかってきた。
今度は脚を固定する速度が足りなかった。前方二節が地面から完全に引き上げられ、体が仰ぐように傾き、視界が橙赤色の炎で完全に埋め尽くされた。俺は無理にでも残りの処理能力を検索へ注ぎ続けながら、後方の脚を強く踏み込ませ、前部を砂へ叩き戻した。
【外部風圧負荷、急上昇】
【機能を検索中】
受話口からの叫び声は風の轟音に呑み込まれ、ワカナの声の断片だけが途切れ途切れに届いた。
「マスミ……答えて……」
答える余裕はもう残っていなかった。一覧はまだ半分以上、確認が終わっていなかった。
【機能検索、未完了】




