第233話 乱された経路
強風は吹き続けていた。
機械の脚を一斉に地面に食い込ませ、俺はまた飛び出し、あの線を避けるように回り込んだ。節々が地面に深い溝を次々と削り、砂利が跳ね上がってフレームの隙間に当たり、細かくざらついた音を立てた。
避けられる。それは確かだ。だが、これがそう長く続けられないことも分かっていた。
遠くの地下陥没穴から立ち上る白い煙が、強風に引きちぎられて長く尾を引き、荒野を低く流れて俺の装甲を過ぎ、やがて散り消えていった。
俺は知覚を自分の多節の体に這わせ、残っている装甲を数え直した。剥き出しのフレームの箇所は先ほどよりさらに増えていて、風が吹き込むたびに、そこから細く鋭い口笛のような音が鳴った。
関節の軋みはもう悲鳴に近いほど鋭くなっていて、内部の監視システムも止まらなかった。地面を蹴るたびに、新たな警告の列が知覚へ流れ込んでくる。
【関節負荷、安全閾値を超過】
【外装の完全性、低下を継続中】
警告が次々と知覚に押し入り、自分の思考すら遮るほどだった。それでも、風の柱の中の輪郭は一歩も動いていない。
あの線を、絶対にこの身に届かせてはならない。
「マスミ、動き方が今までと全然違う」
フェアリーの声が受話口越しに届いた。羽ばたきのかすかな音も混じっている。
「何をやってるの?」
「自分でも分かってやってる。でも今は、お前たちへの返事に考える力を割く余裕がないんだ」
俺は温度のない声で答えた。
「何か試してる。失敗しても慌てないでくれ」
「慌てないでって?」
アラユの巨大な鋏が受話口の近くで忙しく開閉する音が聞こえ、声がマイクに向かって怒鳴っているかのように大きかった。
「あんな装甲さえ切られるんだ――見てるだけでも気が狂いそうだってのに!」
「アラユ、声が大きすぎる」
セバスティアンの口調が重く沈み、触角で軽く小突いたような気配があった。
「マスミ様の集中を妨げるな」
一瞬、通話が静まり、プルトンシャのゆっくりとした声だけが残った。
「風……鳴り続けてる……ここからでも……聞こえる」
『マスミの動き急におかしくなった』
『何か避けてるのか?』
『どうかうまくいきますように!』
信号越しに視察官の声も届いた。相変わらず台本を読むような口調だった。
「そちら側の現在の動きのパターンは、事前に計画されたものでしょうか」
「今は観察だけしていてください」
ユウキがすぐさま答えた。言葉の間をほとんど置かずに続ける。
「今、彼は答えられる状態じゃありません」
視察官はそれ以上何も言わなかった。自分が今まさに邪魔者であることに、ようやく多少気づいたらしかった。
配信のコメントが知覚の端を次々と滑っていった。それに割く余裕はなかった。
俺は全神経を粒子の網に引き戻した。
あの線はどれも、風の柱の方向から空気の中を真っ直ぐに通り抜け、俺に届いていた。
直線である以上、俺がどう避けようとも、この経路の大まかな方向――あの輪郭から、俺が今いる場所まで――は変わらない。
網全体を使う必要はない。
一部の粒子を、その一本の経路に集中させればいい。
走りながら、俺は機械の脚の先端を高速で震動させ、風の柱とこの身の間に広がる一帯へ、短く鋭い気流の波を何度も送り込んだ。強風がそれを外へ散らし続け、俺はその都度新たな乱れを加え続けて、その一帯の粒子を混乱させるしかなかった。
これが、あの線に何かを働かせる唯一の思いつける方法だった。
限界まで引き伸ばされているような感覚に、全身がかすかに震えていた。機械の脚の先端の震動は、自分の思考の速さに合わせてさらに重くなっていく。
あの線が実際に何なのか、空気を乱すことで本当に影響があるのかどうか、俺には分かっていなかった。
だが、粒子を押しのけられるのなら、それは空気の中を通り抜けて初めてできることのはずだ。
空気そのものに手を加えられれば、もしかしたら止める手立てになるかもしれない。
知覚の中で、また新たな存在感の列が押しのけられた。
線が落ちてくる。完全には避けきれず、左側の装甲の縁にかすかな震えが走り、一枚が外れて砂埃の中に落ちた。
「主様!」
セバスティアンの触角がぴんと張ったのが分かった。声は今までのどの時よりも切迫していた。
「左側の装甲が――」
「大丈夫だ」
俺はかすかな苛立ちを覚えた。
「角の一枚だけだ」
俺はそれでも止めず、その経路に乱れを一波また一波と積み重ね続けた。砂と砂利が当たる感触がどんどん密になり、関節の軋みと風の唸りが絡み合って、中枢の処理系統が震えるほどだった。
二本目の線が来た。
機械の脚全部を地面に食い込ませて避けたが、今度は、俺がたった今いた場所に線の先端が落ちたとき、わずかに散らばっているのに気づいた。
粒子が押しのけられた位置は、もう整然とした一列には並んでいなかった。
思考と計算を担うすべての機構が、一斉に明るく灯ったような感覚があった。
効いている。
ほんの少しだけだが、あの線は、俺が作り出した乱れによって本当に乱されていた。
油断はできなかった。俺はさらに多くの粒子をその一帯へ押し込み、機械の脚の先端の震動をさらに速くして、その一帯の気流をもっと徹底的に崩していった。
三本目の線が来た。
今度は、俺は動かなかった。
その場に踏みとどまり、全神経を粒子の網に固定して、風の柱の方向から俺のほうへ向かって、存在感の列が一つずつ押しのけられながら迫ってくるのを見続けた。
俺に届く直前、それは散らばった。
異なる位置の粒子がてんでんばらばらな方向へ押し飛ばされ、かつて真っ直ぐだったはずの線の先端が、十年使い古された水彩筆のようにほつれていった。
その線の尾の部分が装甲に落ちたとき、何も起こらなかった。
震えもなく、装甲も外れなかった。
機械の脚はその場で凍りついたように止まった。息をするのを忘れていた。
「……効いたのか?」
俺は小さく言った。
「マスミ?」
フェアリーの声がすぐに食い込んできた。
「効……効いたの?」
「あの線は、もうこの身に届かない」
俺はゆっくりと、一語一語重く言葉を置いた。
「大将、本当なのか?」
エンヴェルも割り込んできた。
このやつ、今「大将」なんて呼んできたのか。
「あれ、もう装甲を削れなくなったってこと?」
エンヴェルの口調には本物の安堵が滲んでいた。
この男のことはいまだによく分からない――その忠誠が俺に向いているとは、正直あまり思っていなかった。だが……今くらいは、多少の信頼くらい向けてやってもいいのかもしれない。
「もう何回か試させてくれ」
俺は言った。
四本目、五本目、六本目。
線が現れるたびに、機械の脚が反射的にびくりと動き、避けようとした。だが、もう必要なかった。俺はまったく恐れることなくその場に踏みとどまり、あの極小の粒子が一つずつフレームに当たって、何の害もなく跳ね返っていく感触をはっきりと感じ取った。
もう走り回る必要はなかった。あとは機械の脚の先端を絶え間なく震動させ続け、あの一帯の粒子を常に乱れさせ続けるだけでいい。
線はどれも、俺に届く頃にはすでにばらばらに散らされていて、その尾が震えもなく装甲に落ちていった。
もう一枚の装甲も落ちなかった。
俺は知覚をぼろぼろになったこの体に這わせ、一節ずつ確かめていった――新たな隙間は増えていない。
強風はまだその開口部に吹き込んでフレームを鳴らし続けていたが、今度はようやく、それが本当にただの風の音にすぎず、何かがこの身を削り取っているわけではないと信じられた。
『持ちこたえた!』
『敵の手口を見破ったのか?』
『何があったにせよ、マスミがこの回を取ったぞ!』
チャットが一気に爆発し、センサー配列が追いつけない速さで流れていった。
しばらくしてフェアリーの声が届いた。
「主様、さっきピクシーたちがみんなで歓声を上げてしまって。静かにさせておきました」
アラユの巨大な鋏が地面に力強く打ちつけられ、受話口が震えるほどの音が響いた。
「よし! これで勝ったってことだな!」
「まだです」
セバスティアンの声が彼を遮った。
「主様の相手は、まだそこに立っております」
俺はようやく体の緊張をいくらか解き、機械の脚を地面に静かに据えた。砂埃がフレームに当たり続けていたが、なぜか、風がさっきまでほど大きく感じられなくなっていた。
ちょうどその時、風の柱の中の人型の輪郭が動いた。
彼はわずかに頭を上げ、その橙赤色の炎の層がゆっくりと内側へ収まり、それからまたゆっくりと広がっていった。何かを整えているかのようだった。
彼の声が、風の柱の中心から届いた。
「どうやら、もうお前の装甲を切り取る機会はなさそうだな」
俺は答えず、ただ彼を見つめ続け、機械の脚が静かに力を溜めていくのを感じていた。
彼の攻撃の原理はまだ分からなかった。どうやってあれを成立させていたのかも、いまだに理解できていなかった。だが、その声の調子から、彼が使っていた何らかの方法が、俺の手によって破られたということだけは分かった。
これからは、距離を詰められれば――この風の柱へ真っ直ぐ突っ込んでいけさえすれば……
もう何の心配もなく踏み込める。
まさに前へ飛び出そうとした瞬間、彼がまた口を開いた。
「だが……」
風の柱の中の炎が不意に激しく噴き上がった。
「お前のその装甲――削れるだけ、もう削り尽くしてある」
言い終えた瞬間、風の柱の根元が鋭く縮み、轟音とともに外側へ爆発的に広がり、これまでのどの一波よりも巨大な気流が、地面近くを這うように俺へ向かって真っ直ぐ押し寄せてきた。
炎の竜巻が再び立ち上がった。
強風がぼろぼろになった装甲の上を唸りながら吹き荒れ、その隙間のどこもかしこもが、鋭く刺すような音を立て続けた。




