第226話 焼けつく風
【知恵の書の力により
超微小浮遊粒子をあなたの――化身、従者、武装、どれにしますか?】
あいつの正体は肉眼ではそもそも見ることすらできない。化身や武装にしたところで、実用性があるとは到底思えなかった。だが従者として連れていけるなら、この先、偵察や気づかれずに忍び込む場面できっと役に立つはずだ。
「従者にしよう!」
【従属完了】
【従者:超微小浮遊粒子】
感じられる――あいつが今、俺の周りをあらゆる方向へ飛び回っているのが。
それでも、俺に分かるのはただ「近くにいる」という感覚だけだった。見えないし、聞こえない。この魔像の体のセンサーを総動員してみても、何も引っかからない。一体どこにいるのか、俺には本当に見当もつかなかった。
だが、あいつが今、俺の味方になったということだけは、はっきりと分かった。
もうあいつのことを気にかける必要はない。
俺は意識を今の巽の窓に向け直した。
陥没穴の縁に残っていた白い煙は、徐々に薄れていっている。俺は歩みを進め、機械の脚で体を一節ずつ支えながら、荒野の奥へと進んでいった。
センサー配列が時折かすかなノイズを吐き出し、すぐにまた正常に戻った。おそらく放射線の影響だろうが、まだ動作に支障をきたすほどではない。
風向きが変わっていた。
先ほどまでの、荒れ狂うように不規則だった上昇気流は鳴りを潜め、代わりに一定の方向へ絶え間なく広がり続ける圧力に取って代わられていた。まるでどこかに高圧の中心があって、そこから一点に向かって絶えず空気を押し出し続けているかのようだった。
この風には、どうやら火が乗っているらしい。センサーから返ってくる温度の数値が、何度も高温警告を点滅させた。
まるで、この風が吹いてくる地点そのものが、激しく燃え盛る火の塊であるかのように。
この風の源に、何かがあるはずだ!
俺は圧力が最も強い方向へ向かって、一歩ずつ歩を進めた。体全体で風の強さの変化を感じ取りながら。
黄褐色の大地には、吹きつける風で波打つような筋が刻まれていて、発生源に近づけば近づくほど、その筋はますます密に、くっきりと浮かび上がっていった。
『マスミ何してんの?』
『なんか新しい頭目戦始まりそうな雰囲気』
ワカナの配信コメントが流れてきたが、それに割く注意はなく、全神経は足元の風圧の変化だけに向いていた。
およそ二十分ほど歩き続けたところで、圧力はすでにかなり強くなっていて、一歩進むたびにはっきりとした抵抗を感じるほどになっていた。
同時に、仲間たちの携帯との電子信号の接続を通じて、彼女たちがこの放射線に覆われた戦場に戻る準備を進めているらしいことも、おおまかに伝わってきていた。
「外務省ですか? 劍持祐希です」
ユウキの声が電話越しに届いた。口調は早口で張り詰めている。
「弾頭の件で、まだフォローすべき問題が残っています。放射線防護の装備が必要です。あの常任理事国の代表に連絡を取ってください」
電話の向こうが一瞬、間を置いた。
「つまり……弾頭を提供してくださった、あの国ということですね?」
「はい、装置を提供してくださったのはあちらです。短時間でこの手の装備を揃えられるのも、おそらくあちらしかいません」
ユウキが言った。
「連絡を取って、状況を説明していただけますか。できるだけ早く」
「承知しました。すぐに上に話を通して、そちらで調整してもらいます」
通話が終わると、傍らのワカナが眉をひそめた。
「外務省が間を取り持つだけで、本当にそんなに早く手配できるの?」
「弾頭そのものも、あちらは手配してくれたんだ」
ユウキが言った。
「今回の要請なら、技術的にはそこまで複雑じゃないはず。少なくとも前回よりは面倒にならないと思う」
その言葉にワカナはほっと息をついた。
「じゃあ良かった。今回は一歩の海程の錨を使う必要もなさそうだね――一度行ったことがある場所だから、そのまま瞬間移動できるはず」
ユウキが頷いた。
「装備が揃ったら、前と同じやり方でいく。ピクシーたちに瞬間移動してもらって、そこから引き継いでもらおう」
脇に立っていたエンヴェルが口を挟んだ。
「引き渡しの手続きと詳細、もう一度俺が確認しに行こうか」
「お願い」
ワカナが言った。
「マスミの大将、本当に骨のある人だな。核爆発現場に一人であのまま居座り続けるとは……」
エンヴェルは言葉を切ってから、もう一言付け加えた。いつもの軽い口調の下に、紛れもない感嘆が滲んでいた。
「へえ」
ワカナが笑った。
「これでやっと、あいつの凄さが分かったでしょ」
「ハッ、確かに。コンスタンティンについていくより、こっちについていくほうがよっぽど面白そうだ」
仲間たちが急いで俺を支援しに来ようと相談しているのを聞きながら、胸の奥に何かがもう少し確かな形で据わっていくのを感じた。
そこそこ安全だろうと判断した地点まで辿り着いたところで、不意に風圧が跳ね上がった。
猛烈な突風がまともに体にぶつかってきて、全身が数メートル後ろへ押し流され、機械の脚が地面に浅い溝を削りながら、ようやく体を止めることができた。
ありえない。
先ほどの上昇気流は、俺をびくともさせることすらできなかったはずなのに!
砂埃が装甲板にぱちぱちと当たり続け、まるで装甲を薄い板にまで削り落とそうとしているかのようだった。
「……これはまた、嫌な風だな」
俺は小さく呟いた。
その場でしばらく待ち、圧力がいくらか収まるのを待ってから、また半歩だけ前に進んで、この頭目の反応範囲がどこまでなのかを確かめてみた。
圧力の発生源は、俺が近づいてきたのを察知したかのように、さらに激しさを増していった。渦巻く砂埃が宙で激しく回転し、その端のほうに橙赤色の炎の光がかすかに点滅していて、風の高まりに合わせて明るくなったり暗くなったりを繰り返している。まるで何かの呼吸のリズムのようだった。
俺は一定の距離を取り直し、やり方を変えて、もっと遠回りの角度からゆっくりと近づいていくことにした。
情報系統の電子信号越しに、新しい動きが届いた。
「あの常任理事国が協力に同意してくれました」
外務省からの折り返しがユウキの携帯に届いた。
「装備はできるだけ早く発送します。準備が整い次第、おっしゃっていたそちらのルートで実際の受け渡しを引き継いでください」
「どれくらいかかりそうですか?」
ユウキが食い下がった。
「発送は早ければ今日中。輸送にかかる時間については……そちらでかなり短縮できるはずです」
相手はすでに、こちらの瞬間移動能力のことを把握しているらしかった。
ユウキは電話を切り、長く息を吐いてからワカナのほうを向いた。
「進展があった」
「すぐにこの一式を運ぶ子たちを何人か準備する」
フェアリーがすぐさま十数匹のピクシーを呼び寄せた。
これなら、わりと早く俺のところまで届きそうだった。
俺は風の方向に沿って回り込み、圧力の発生源の側面へと近づいていった。
ようやく、その輪郭がはっきりと見えてきた。
荒野の中心に、橙赤色の炎の竜巻が高々と聳え立っていて、その頂は見失ってしまうほど高く、渦巻く風の柱の中に荒々しく渦巻く炎の塊を包み込んでいた。風の強さの高まりに合わせて明るくなったり暗くなったりを繰り返し、まるで巨大な生き物が静かに呼吸しているかのように、誰かが近づいてくるのを待ち構えているかのように、そこに立っていた。
炎の竜巻の根元では、地面が放射状にひび割れていて、圧力が吹き上がるたびに、そのひび割れがかすかな橙色の光の輪を帯びては、また暗くなっていった。
俺はその炎の柱をしばらく見つめ続けたが、体や核と呼べるようなものは何一つ見当たらなかった――上から下まで、ただ流れ続ける風と炎があるだけで、どこにも固定された、動かない一点というものが存在しなかった。
これが第六の敵の姿なのか?
風と炎の柱?
それとも、この風と炎は何らかの盾か攻撃手段にすぎず、本体はどこか別の場所にあるのか?
俺はすぐには近づかず、さらに距離を取って、炎の竜巻の圧力が高まる間隔を観察した――おおよそ十数秒おきに急激に強まり、しばらく緩んでからまた強くなる、というのを繰り返している。
このリズムが安定しているなら、装備が届いて実際に交戦する段階になったとき、その間隔は利用する価値のある隙になるかもしれない。だがその前に、できる限りこいつの能力を試しておく必要がある。
また一度、圧力の波が襲ってきて、砂丘の表面の細かい砂がかすかに震えた。俺は身を低く構え、その波が過ぎ去るのを待った。
遠くの地平線まで、この炎の竜巻のせいで空がさらに一段明るくなったように見えた。
大気中に満ちた放射性の塵が、この体に絶え間なく警告を発し続けさせていた。
敵の居場所はあっさり見つかった。問題は、この先どう攻めるかだった。




