第222話 ワンクリック作戦
先ほどの安全保障理事会のライブ配信はまだ続いていて、画面上の議論も進んでいた。俺はその音声トラックに再び意識を戻し、一文一文丁寧に聞き直した。
代表たちは終始慎重な言葉遣いを保っていた。誰一人として「巽之窗」という言葉をはっきりと口にする者はいなかったが、それでもすべての話は何度もベルゼブブへと戻っていった――「あの異常な放送から、我々は観察できます……」「完全な復活が起きた場合……」「複合的な広域脅威……」「現行の対応メカニズムでは不十分となる可能性が……」意図的に和らげられたように聞こえる言い回しが並んでいたが、代表たちは次々と発言を続け、誰も遮らず、誰も異議を唱えなかった。
「これが議論されてるレベル、想定してたよりずっと高い」
俺はみんなに伝えた。
「じゃあこれ、もう私たちだけの問題じゃなくなったってこと」
サチが呟いた。風纏う爪が静かに引き寄せられる。
ユウキは深く息を吸い込み、外務省から渡された番号に電話をかけた。
電話が繋がると、俺はイヤピースから伝わってくるかすかな震動に意識を集中させ、一語一語をはっきりと聞き取った。
「もしもし、外務省特別事案連絡室です」
電話の向こうの声は平坦で、感情を一切見せなかった。
「折り返しのお電話、ありがとうございます、ユウキ様」
「さっきの安全保障理事会の会議のことですか?」
ユウキがすぐに本題に入った。
電話の向こうは半秒ほど間を置いた。
「はい、巽之窗の状況に関する件でございます」
「それで?」
ユウキが食い下がった。
「私に何をお望みですか?」
「貴チームが現在巽之窗で直面している困難が、極めて高い温度を発生させることに関わっていると承知しております」
相手の言い回しはわざと本題を回りくどく避けていた。
「内部での検討の結果、貴チームがこの障害を突破する助けとなる資源を提供できる立場にあると判断いたしました」
「どんな資源ですか?」
ユウキの声が鋭く跳ね上がった。
「核弾頭です」
その声は相変わらず完全に平坦なままだった。まるであらかじめ用意された文書を読み上げているかのようだった。
「巽之窗の異常空間がもたらす脅威に対処するため、一発を提供する用意がございます」
「なんでそこまでするんですか?」
ユウキが食い下がった。
「それって、どこの国も気軽に渡せるようなものじゃないでしょう?」
「もしベルゼブブが真に復活すれば、その結果は貴国のみに留まらないでしょう」
相手は一旦間を置いてから続けた。
「ここ数日の非公開協議において、大多数の代表がこの点で一致しております――これは地球全体に影響を及ぼしかねない、重大なリスク水準であると」
みんなの表情が一斉に強張った。
「そこまで単刀直入なんだ」
ワカナが小声で呟いた。
ユウキはスマホを握りしめ、表面上は落ち着いた声を保った。
「仲間たちと相談する必要があります。後ほどこちらから折り返してもよろしいですか?」
相手は数言返答してから、丁寧に電話を切った。
ユウキは今聞いたことをみんなに伝えたが、途中で二度言葉を止めた。まるで彼女自身、まだ完全には消化しきれていないかのようだった。
「じゃあ本当に提供してくれる人がいるってこと?」
サチの風纏う爪がわずかに締まり、四本の機械の爪が脇でゆっくりと開閉した。
「まだ先走らないで」
ユウキが首を振り、スマホの画面に残る通話履歴を見つめながら眉をひそめた。
「核弾頭って、スイッチ一つで使えるようなものじゃない」
「一理あるな」
俺は考えながら言った。
「たとえ実際に手に入れられたとしても、この場に操作できる人間がいるのか?」
誰も手を挙げなかった。
「その専門知識は、手引書をざっと読んだだけで身につけられるレベルをはるかに超えているでしょう」
セバスティアンが言い、触角をゆっくりと揺らした。彼にしては珍しく二秒ほど沈黙してから続けた。
「起爆装置、タイミングの手順、安全機構……どの段階にも専門の訓練を受けた者が必要でございます。わずかな手違いが、想像を超えた結果を招きかねません」
「じゃあ手に入れたところで役に立たないってことか」
アラユがため息をつき、無意識に巨大な鋏で地面を叩きかけたが、自分が震動を起こしていることを思い出して途中で止めた。
「急いで専門家でも探さなきゃいけないのか?」
ワカナが腕を組み、二、三歩行ったり来たりした。
「向こうが弾頭を渡す気があったとしても、それを操作する人まで一緒に送ってくれるとは限らないよね」
そのとき、ユウキのスマホがまた鳴った。今度はチャットのコメントではなく、外務省のルートから直接届いたメールだった。
「これによると……」
ユウキは内容にざっと目を通し、行を追うごとに眉間のしわを深くしていった。
「操作の難易度を考慮して、国連は訓練された人員を派遣して支援する用意があるって。まず関連資料を送って、私たちに確認させたいみたい」
まもなく暗号化されたファイルが届いた。ユウキはスマホの画面を俺の巨体に向けた。
「先に見てみる?」
俺はそのファイルに知覚を向け、一語一語丁寧に目を通していった――そこには手順全体に必要なあらゆる工程が詳細に記されていた。項目のリストだけでも何ページにも渡って密に続いていて、それぞれが異なる専門的な判断と特定の操作順序を伴い、一つ一つの工程が次と噛み合っていて、どれ一つとして省略できなかった。
通常なら、これには訓練された人員のチーム丸ごとが必要で、作業を分担しながら互いの手順を確認し合い、一段階ずつ進めていくものだろう――その過程のどこか一つでもミスがあれば、取り返しのつかない結果を招きかねない。
だが俺がこれらの項目を頭の中でもう一度並べ直し、この体特有のやり方で理解してみると、これら一見ばらばらに見える工程には、実は同時に把握できる、ある種の論理性があることに気づいた――俺は同じ瞬間に、すべての判断を正確に実行できる。何人にも、何段階にも分ける必要はなく、ゆっくり一段階ずつ進める必要もない。
「どうしたの?」
ワカナが俺の沈黙に気づき、さらに身を寄せてきた。眉をひそめながら俺を観察している。
「これは……」
俺は口を開いた。自分でも馬鹿げていると思いながら、驚きを声に滲ませた。
「俺一人でこれ、できるかもしれない」
みんなが一斉に俺を見た。
「今何て言った?」
ユウキがほとんど声を上げそうになり、手にしたスマホを取り落としそうになった。
「この手順、複雑に見えるけど、この俺の体にとっては、どうやら一回きりの単一の操作としてまとめて処理できそうだ」
俺ははっきりと説明しようとした。
「以前、いくつものことを同時に細かく把握できたのと同じやり方で――このファイルの手順も、同じように一気にやれる」
「本当に大丈夫なの?」
サチの風纏う爪が不安げに引き寄せられ、彼女は俺を見上げた。
「もし何か間違えたら……」
「百パーセント保証はできない」
俺は正直に答えた。
「でもこのファイルの内容から判断する限り、他の誰かを呼ぶ必要もなく、本当に俺一人でこなせると思う」
アラユが困惑した様子で首を傾げた。
「お前のその体、俺たちがまだ知らない能力、一体あとどれだけ隠し持ってるんだ?」
「俺自身もまだ把握しきれてない」
俺は認めた。
ワカナはしばらく俺を見つめ、指先で自分の腕を無意識に叩いていたが、ようやく口を開いた。
「まず……外務省にこのこと伝えておいたほうがいい?」
「もちろん伝えるべきだ」
ユウキはすでにスマホを手に取り、返信を打ち始めていた。
「もし向こうが弾頭を提供する気があるなら、一番必要としてるのは実際にそれを操作できる人だ――そして俺たちはたまたま今、まさにその問題を解決できる」
セバスティアンの触角が俺のほうを向いた。
「主様、これはつまり、外務省と正式に受け渡しの手配について話し合う必要があるということでございますな」
しばらく誰もそれ以上何も言わなかった。それぞれがこの突然の新しい可能性を静かに噛み締めていた――完全に外部の専門家に頼るしかないと思われていた計画が、この一つの体のおかげで、まったく違う方向へと転がり始めたのだ。




