第221話 一本の電話
すぐには誰も口を開かなかった。
方向は見つかった。だが力がまったく足りない――その差が目の前に立ちはだかっていて、どんな提案もそれを埋めることができなかった。みんなただその場に立ち尽くし、沈黙がどんどん長引いていくのに任せていた。
ワカナは手引書の表紙を見つめ、指先で無意識にその縁を撫でていた。サチの風纏う爪は両脇で動かないまま垂れ下がっていた。アラユとセバスティアンは顔を見合わせたが、どちらも先に口を開こうとはしなかった。
その重苦しい沈黙の真っ只中で、コメントが不意にざわめき、見慣れないアカウント名が、多額の投げ銭とともに現れた。
『こっちで、あの空間の温度を一気に数千度まで上げる方法、持ってるんだけど』
「数千度?」
ワカナの目が輝いた。
「マジで?」
「どうやって?」
サチも身を乗り出した。目を大きく輝かせている。
そのアカウントは、わざと間を計っているかのように数秒待ってから、次のコメントを落とした。
『こっちで、核弾頭を手に入れられるかもしれない』
みんな一瞬固まり、沈黙が二秒、三秒と続いた後、何かのスイッチが入ったかのように、その場全体が笑いに包まれ、あの重苦しい雰囲気を完全に吹き飛ばした。
「こいつ何者?」
ワカナが体を折り曲げて笑い、膝を叩いた。
「本当にお金払ってまでそれ言うんだ?」
「それ、さっき私たちが言ったのと全く同じ冗談じゃん!」
サチも思わず笑い、目の端に涙を浮かべた。
「マジで盗み聞きして便乗しただけ?」
「たぶん同じアカウントが自分でコピペしてるだけだよ」
ユウキが笑いながら首を振り、手を振って軽く流した。
「気にする価値もない」
アラユはまだその冗談についていけていない様子で、首を傾げた。
「その核弾頭の話、さっきお前たちが言ってた核反応と関係あるのか?」
「同じ発想だけど、もっと馬鹿げたバージョンだよ」
俺はさりげなく答え、その和んだ雰囲気に合わせて一緒に笑った。
「ただの荒らしだ。深く考えなくていい」
コメントは次々と流れ込み続け、みんなその一件をただの暇つぶしの娯楽として扱っていた。
『いや待って、こいつマジで本気っぽいんだけど』
『上の人、騙されるなよ、こういうアカウントの九割は詐欺だから』
『ここ数日の話題便乗して注目集めてるだけかもね』
みんなは温度を上げる問題についてあれこれ話し続け、あの核弾頭のコメントは笑いの中に埋もれ、誰も本気にしていなかった。その冗談は結構長く続き、ワカナがそのアカウントの口調まで真似し始めて、サチをアラユの甲羅にもたれて笑い崩れさせるほどだった。
まだその笑いの余韻が残る中、ユウキの腰にある、めったに鳴らないスマホが不意に振動した。
その着信音は、普段みんなと連絡を取るために使っているものとはまったく違っていた――これは警察の上司に連絡を取るために取っておいてあるもので、わざと低く重い音色に設定されていて、個人的な電話ではないことが一目で分かるものだった。
笑い声が少しずつ小さくなり、それから完全に止まった。
ユウキが画面を見て発信元を確認した瞬間、その表情が目に見えて強張った。彼女はすぐには応答せず、まず深く息を吸い込んでから応答ボタンを押し、背筋を伸ばした。
「ユウキです」
電話の向こうの声は、受話口からかすかに伝わる震動を通して、俺の知覚にはっきりと、一語一語伝わってきた――見知らぬ男の声で、定型的な口調で話していて、簡単な挨拶を済ませるとすぐに本題に入り、外務省の指定された連絡先へできるだけ早く折り返すよう求めていた。具体的な理由は一切告げられなかった。
俺にはユウキの表情の変化も同じようにはっきりと見えた――眉がひそめられ、唇が固く結ばれ、スマホを握る手の関節が徐々に白くなっていく。
「外務省?」
ユウキがその言葉を繰り返した。眉間のしわがさらに深くなる。
みんなの視線が静かに彼女に集まり、誰も何も言わなかった。先ほどまでの気楽な笑いは完全に消えていた。
「私に何の用?」
ユウキがまた尋ねた。スマホを握る手にさらに力がこもる。
ワカナは反射的に俺のほうをちらりと見て、それからみんながさっきまで冗談として扱っていたあのコメントを見返した。その表情が徐々に凍りつき、手引書をさらに強く抱きしめた。
電話はしばらく続いたが、ユウキはあまり多くを語らず、時折「はい」「分かりました」とだけ答えていた。そしてついにゆっくりと電話を切ると、スマホを握る手にわずかに力を込めたまま、すぐには言葉を発しなかった。
「どうした?」
俺は思わず尋ねた。この体の機械的な声が、意図せず一段高くなった。
「外務省の職員が、私を名指しで呼んでる」
ユウキがゆっくりと言い、途中で言葉を止めた。まるで彼女自身も、これが何を意味するのかまだ完全には理解しきれていないかのようだった。
「上司はできるだけ早く返答をよこせって」
みんながさっきまで笑い飛ばしていたあのコメントが、頭の中にまた浮かび上がってきた。急にまったく面白くないものに思えてきた。
その不安がまだ残っている中、コメントがまたざわめき、リンク付きのメッセージが何度も転載され始めた。
『これ早く見て、国連であんたらの巽之窗のことで会議やってるぞ!』
ワカナはすぐさまスマホを取り出し、そのリンクをタップして開いた。画面には安全保障理事会の会合のライブ配信が映し出され、下に流れるテロップにはその会議の議題――近年の異常な空間現象及び関連する安全保障上の懸念に関する緊急協議――が表示されていた。
「私たちのこと話し合ってるの?」
サチが身を乗り出し、画面に並ぶ各国代表の厳粛な顔を見つめた。
画面上の議論は続いていて、各国の代表が順番に発言し、口調は正式かつ慎重で、内容の大半はこの異常な空間が外部世界にもたらしうるリスクを巡るものだった。誰一人として「巽之窗」という名前を明確に口にしてはいなかったが、それでもすべての発言が、まさにそれを中心に回っていた。
「これ、大事になったな」
ユウキが画面を見つめながら、表情をさらに曇らせた。
セバスティアンの触角がワカナのスマホの画面に身を寄せ、画面上のある代表を長い間観察した。
「あれは常任理事国の代表でございますな。この老いぼれの記憶では、彼がこれほど重要な場に最後に姿を見せたのは、二週間前のエネルギーサミットでございました」
「そんな人までお前分かるの?」
ワカナが目を見開き、スマホを取り落としそうになった。
「一体どれだけ渾沌界の資料に目を通してるんだ?」
「時間を潰すには何かしら必要でございますからな」
セバスティアンが顎を少し上げた。触角は相変わらず画面に据えられたままだった。
「もっとも……あの代表の動き、少し妙な気がいたしますが」
俺はその視線を追った――画面上で、その代表はカメラが切り替わる一瞬を使って、少し体を傾け、隣にいる補佐官に何か囁くと、何事もなかったかのようにまた正面を向き、熱心に聞き入っているいつもの姿勢に戻った。
「何て言ったの?」
サチが尋ねた。
「あの距離じゃ、肉眼でも普通のマイクでも拾いようがない」
ユウキが首を振った。
だが俺はすでにその動画の音声トラックに意識を集中させていて、この体独自の知覚の仕方を使って、ほとんどかき消されそうなその息の音を、背景のノイズから少しずつ引き剥がしていった。
その一言は短く、音量も極めて低く抑えられていたが、何度も重ね合わせて分析した末、俺はついにいくつかの言葉を組み立てることができた――「彼らに、特別なものを提供する用意があると伝えろ」
「何?」
俺は思わず声に出して繰り返した。
みんなが一斉に俺を見た。
俺は今聞き取ったことをみんなに伝えた。
「あの人、『特別なものを提供する用意がある』って言った」
「提供?」
ニャリクが困惑して尋ねた。
「それってどういうこと?」
すぐには誰も彼に答えられなかった。
「特別なもの」という言葉は、明らかに何かもっと直接的な言葉を避けているかのように曖昧に聞こえた。そして彼がわざと声を落とし、カメラを避けながらそれを言ったという事実は、どう見ても正当な提案には聞こえなかった。
ユウキは切ったばかりのスマホを手にしたまま、画面に映るその代表の平然とした横顔をもう一度見つめ、声を低く落とした。
「外務省が私を呼んでるのって……まさにこの件に関係あるんじゃないの?」




