第220話 空想上の連鎖反応
「震動なしで、それでいて影響を与える必要がある」
ワカナが腕を組み、さらに眉をひそめた。
「これ、言ってる自分ですら矛盾してるように聞こえる」
みんなが集まったが、しばらくは誰も糸口を見つけられなかった。サチは地面にしゃがみ込み、指で砂埃に円を描いては消し、消しては描くを繰り返していた。明らかにその動きで考えを整理しているだけだった。ユウキは手引書を手にしたまま、ページを次々とめくっていたが、どこにも落ち着かなかった。アラユの巨大な鋏がぼんやりと何度か開閉し、それからまた自分が震動を起こしていることに気づいて慌てて止めた。
プルートゥンシャとマファガイスは少し離れた場所に立ち、静かにその議論を聞いていた。時折視線を交わすものの、口を挟むことはなかった――こういうブレインストーミングは明らかに彼らの得意分野ではなかった。
「震動がゼロでいて、それでも何か影響を与えられるものって、何かないの?」
ワカナが先に沈黙を破った。
「言ってる自分でも矛盾してる気がする」
「震動がゼロである必要はないのかもしれない」
俺は別の角度を提示してみた。
「必要なのは、標的そのものにだけダメージを与えて、周囲には広がらないもの、かもしれない」
「それって震動と同じ問題じゃない?」
サチが顔を上げた。
「何かが近づいた瞬間、そのわずかな乱れだけで逃げちゃうんじゃないの?」
「一理ある」
俺はその死角を認めた。
「どんな手段を使うにしても、俺たちが積極的に近づく限り、あいつはそれを感知して逃げてしまうみたいだ」
セバスティアンの触角がぴくりと動いた。何かに思い当たったようだった。
「マスミ様、渾沌界では数十年前からオゾン層の穴について頭を悩ませているのではありませんでしたか。連鎖反応を起こして、膨大な数の気体分子を破壊できるある種の気体があったと記憶しております」
「それも知ってるのか?」
ワカナが驚いて彼を見た。
「この老いぼれ、時折渾沌界の文献にも手を出しておりますので」
セバスティアンが誇らしげに言った。
ユウキが考え込みながら引き継いだ。
「フロンガスのことだと思う――紫外線を浴びると塩素ラジカルに分解される。塩素ラジカルはオゾン分子を攻撃してそれを壊すけど、その過程で自分は消費されない。だから繰り返し、次のオゾン分子を攻撃し続ける。その連鎖反応で、理論上は塩素原子一個で何万ものオゾン分子を破壊できる」
「それはすごい!」
サチの目が輝いた。
「同じような、大規模な破壊を起こせるものを見つけられないかな?」
「ここの空気の組成、地上と何ら変わらない感じがする」
俺は言った。
「もし本当に大規模で十分な範囲を持つ連鎖反応を起こしたいなら、標的はあの粒子自体じゃなくて、大部分を占めているもの――窒素とか酸素、特に窒素だ。ほぼ八割を占めてる」
「それは筋が通ってる」
ワカナが頷いた。
「一番割合の多い気体を吹き飛ばせれば、あの粒子がどれだけうまく逃げても、完全にそれに巻き込まれるのを避けるのは難しいはず」
「問題は、窒素はオゾンほど脆くないってこと」
ユウキが首を振った。
「オゾンそのものが不安定で結合が弱いからこそ、ラジカルが簡単に壊せるの。でも窒素分子の中心にある三重結合は、結合エネルギーが馬鹿げて高くて、二原子分子の中で最も安定した結合の一つなの。普通のラジカルじゃまったくこじ開けられない。この方法は窒素には効かない」
セバスティアンの触角がわずかに垂れ下がった。
「なるほど……この老いぼれ、思慮が足りませんでした」
「連鎖反応を求めるなら……核反応はどう?」
俺は半分冗談めかしてその選択肢を投げてみた。
「あれなら十分な威力があるはずだよな? あいつがどれだけうまく逃げても、それからは逃れられないだろうし」
俺自身、口に出した瞬間にその提案が馬鹿げていると気づき、結局みんなと一緒に笑ってしまった。
「どれだけ危険かはひとまず置いといて」
ワカナが笑いながら首を振った。
「私たちもう普通の人間じゃないかもしれないけど、核反応を起こせる装置を手に入れるのはさすがに現実的じゃなさそう」
「うーん……あなたの下にいる麻薬密売人たちなら、マフィアの密輸ルートで手に入れられたりしない?」
サチが無邪気に尋ねた。
「おいおい、マフィアが核兵器まで密輸できるなら、俺たちはとっくに何回終末を経験してるか分からないよ」
ユウキが笑いながら言った。
「一理あるな」
俺は頭をかいた。
「ラットンの武器リストに核関連のものなんて一切ないし、あったとしてもたぶん維持すらできないだろうし」
俺は言いながら結局笑ってしまい、その提案は笑いの中で流されていった。
アラユがすっかり困惑した様子でみんなを見た。
「核反応って何なんだ?」
「渾沌界の技術で、極めて強力だが、極めて危険でもあり、その操作の難しさは想像を絶する」
セバスティアンが簡単に説明した。
「絶対に触っちゃいけないやつってことだな」
アラユが頷き、それ以上は聞かなかった。
「じゃあ別の角度から考えよう」
ユウキが沈黙を破った。
「連鎖反応は効かない、核反応は論外、なら一番単純な問いに戻ろう――どうすれば実際に何かを当てられるのか?」
「もっとたくさん当てる?」
サチがおずおずと提案した。
「そう、それがより現実的な考え方だ」
ユウキの目が輝いた。
「特別な反応なんて要らない。周囲の分子が十分速く動いて、十分頻繁に衝突すれば、いつかは標的に当たるはず」
「何回くらい当てればいいの?」
ワカナが尋ねた。
「たぶん十の後ろに何百個もゼロが並ぶような数字だろうね。正確な数字は出せない」
ユウキが正直に認めた。
「でも理屈から言えば、衝突の頻度さえ十分高ければ、確率は積み重なっていく」
俺は考えてから付け加えた。
「それなら、鍵になるのは、それ自体すでに速く動いている気体分子を見つけることだ」
「そのほうが現実的だね」
ユウキが頷いた。
「ヘリウムとか水素とか、分子量が低いから、同じ温度でも他の気体より平均速度がずっと速い」
「ヘリウムなんてどこから調達すればいいの?」
ワカナが眉をひそめた。
「ここ、風船屋さんじゃないんだけど」
みんなが一瞬静まり返った。
そのとき、ワカナのスマホから投げ銭の音が鳴った。
『えー、みんな……聞いてくれ……』
淳一がまた発言権のために投げ銭してきたのだ。
『お前らの残ってる酸素ボンベ、たぶんもうヘリウム入ってるぞ。うちの親父のあのバッチ、ダイビング用のトライミックスボンベだから、最初からヘリウム混ぜてある、純酸素じゃない』
彼も彼なりに世界を守る役目を果たしていた。
「マジで?」
ワカナの目が輝いた。
「じゃあ完璧じゃん!」
俺はすぐさま残っている酸素ボンベを思い出し、その中にどれだけの残留ガスがあるか確認しようとしたが、期待は外れてしまった。
「足りない」
俺は正直に報告した。
「全部使い切っても、この規模の空間を満たすにはまったく足りない」
「そっか……」
ワカナの興奮は急速に萎んでいった。
『悪い、うちはヘリウム工場じゃないからな』
淳一がチャットに付け加えた。声には諦めの色が滲んでいる。
「実は……」
ユウキが口を開いた。
「特定の気体にこだわる必要はない。もうここにある分子を速くする方法を見つければいい」
「どうやって速くするの?」
サチが尋ねた。
「温度」
ユウキが言った。
「気体分子の運動エネルギーは温度と結びついてる。温度が高ければ高いほど、分子は速く動いて、お互いの衝突の頻度も強さも上がる。気体を入れ替える必要なんてまったくない、この空間全体の温度を上げるだけで、あらゆる分子が自然と速く動くようになる。あの標的が当てられる確率も、当然上がるはず」
俺は一瞬固まり、それからこれが実は一番直接的な解決策で、追加の道具をまったく必要としないことに気づいた。
「それは確かに筋が通ってる」
俺はゆっくりと言った。
「特別な気体を追い求めるのも一つの道だったけど、結局ぐるっと回って、温度を上げるのと同じことに行き着くんだな」
ワカナが再び元気を取り戻した。
「じゃあどうやって温めるの? 私たちの誰かにそれできる?」
「みんなの変身能力の中に、火属性のやつある?」
サチがおずおずと尋ねた。
「雷霊鳥にはせいぜい高温の電光くらいだけど、たぶん範囲が足りない」
俺は手持ちのものを一つずつ確認していった。
「この空間、こんなに広いし、俺にできることじゃ平均気温を一度上げることすらできないと思う……」
くそ……この四体目のBossは微小な粒一つでしかないのに、それに対処する方法が一つも見つからないなんて。




