第217話 決して捉えられないもの
「たった一つしか存在するはずのないもの?」
ワカナが眉をひそめた。
「それって……何かの特殊な敵ってこと?」
「それとも違う」
俺はどう説明すればいいのか分からずにいた。
「理屈から言えば、もしそれが気体分子なら、これほど数が少なくなるはずがない。だが俺がマッピングしたこの像の中では、これは本当にたった一つしか存在してない」
「センサーの設定が何かおかしいってことは?」
ユウキが尋ねた。
「そういう問題じゃないと思うし、これは俺自身が直接観測してることだ」
俺は一旦言葉を切った。
「その軌跡は連続してる。最初から最後まで、同じ一つのものが動いてる」
アラユが巨大な鋏で地面を叩いた。
「気体の話だよな? お前の説明の仕方、なんか豆粒か砂粒みたいな感じに聞こえるんだけど」
「あー……」
俺は固まった。これをどう説明すればいいんだ? 海民の文明がこの分野でどれほど進んでいるのか、俺には見当もつかなかった。
「アラユ様、もしこの分野にご興味がおありなら、そのうち渾沌界のいくつかの著作をお貸しいたしましょう」
セバスティアンがそのヤシガニの男の背中に手を置いた。
「あ、ああ、それはありがたいな」
アラユが二本の眼柄を嬉しそうに揺らした。
「見た目に騙されないで、あの大男、実は結構な読書家なんだよ!」
ニャリクがすっかり信じられない様子のワカナに小声で言った。
もちろん、俺にはその一言もはっきりと聞こえていた。
「これまで観測したことから考えると……」
俺は意識を引き戻し、みんなへの説明を続けた。
サチの風纏う爪が不安げに締まった。
「それって……私たちがずっと見つけられなかったあれ?」
一瞬、誰もその考えをさらに先へ進める勇気を持てなかった。
「まだ結論を急がないで」
ワカナが深く息を吸い込んだ。
「そもそもそれが何なのかも分かってないんだから」
「そうであってもなくても、どのみち確認する必要がある」
ユウキが剣の柄を握り直した。
セバスティアンの触角がゆっくりと俺のほうへ漂ってきた。
「マスミ様、近づいて確認していただけますでしょうか」
「試してみる」
俺はこの巨大な体を慎重に制御しながら、先ほどロックオンした方向へと節を一つずつ動かしていった。一歩ごとに力加減を丁寧に見計らう必要があった。少しでも踏み間違えれば、周囲すべてを揺らして粉々にし、そこにいる何かを驚かせてしまうかもしれないと思うと恐ろしかった。
その一歩ごとに、俺の重みで地面がわずかに沈み、砂埃がゆっくりと空中に漂った。仲間たちは少し距離を置いて後ろに控え、俺がその座標に近づいていく様子を静かに見守っていた。わざと息を潜め、わずかな物音でさえ何かに干渉してしまうことを恐れているようだった。
ワカナは手引書を強く抱きしめ、その視線は俺の動きから一瞬たりとも離れなかった。ユウキはずっと剣の柄に手を添えたまま、いつでも反応できるよう構えていた。フェアリーは少し高い位置を飛び、その空間全体を上から見渡しながら、何か異常を見つけようとしているようだった。
俺は動きながら、知覚を先ほどおおまかにロックオンしたその区域へと絞り込んでいった。もう空間全体に広く網を張るのではなく、この小さな一画に集中し、あの粒子の痕跡が再び現れるのを待った。
俺はその座標の核心へと少しずつ距離を詰めていった。
位置がはっきりとしてきた。
まるで手を伸ばせば届きそうな、正確で信じられないほど厳密な一点にそれが浮かんでいるのを、ほとんど感じ取れるほどにまで。
だがまさにその瞬間、俺がかすかに追い続けていたその運動の傾向が、前触れもなく完全に消え去った。
俺は固まった。
「どうしたの?」
サチが不安そうに尋ねた。
「一瞬、位置をロックできてた」
俺はゆっくりと言った。
「でも次にどこへ向かうのか、まったく見当がつかない――軌跡が完全に消えて、まるで最初から存在していなかったかのようで、また見失った」
「どういうこと?」
ワカナが困惑して尋ねた。
「俺にも分からない」
俺はもう一度その粒子の動きをマッピングしようとしたが、先ほどまではっきりしていた傾向が今度は完全に空白になっていた。
「位置はあれほど正確だったのに、動きがまったく掴めない」
俺は別のやり方を試してみた。今度は正確な座標を掴むことにこだわるのをやめ、位置への執着を緩めて、代わりにその粒子の動きの傾向――どちらの方向へ漂っているのか、おおよそどれくらいの速さなのか――を感じ取ることに集中した。
今度は、その傾向が驚くほどはっきりとしてきて、かすかな軌跡が再び浮かび上がり、ある方向を指し示した。
「よし! じゃあこっちに向かって……ん?」
今それが正確にどこにあるのかを確認しようとした瞬間、その座標はぼやけて捉えどころがなくなり、先ほどのように一点に絞り込むことを拒んだ。
「反転した!」
俺は思わず呟いた。
「何が反転したの?」
ユウキが身を寄せて尋ねた。
「その位置を掴むと、動く方向を見失う」
俺は混乱を必死に言葉としてまとめようとした。
「でも動きを掴むと、位置がまったく特定できなくなる。この二つは……同時に把握することができないみたいだ」
みんなが一瞬静まり返った。
俺はもう一度試してみた。今度は先に位置を固定してみる――その位置が確定した瞬間、方向がすぐさま不明瞭になった。それから位置を手放して方向を追ってみる――その方向が確定した瞬間、位置は即座に何万もの可能性へと分裂した。俺は何度もこれを繰り返してみたが、結果は毎回まったく同じで、まるで何か破れない法則があるかのようだった。
俺は切り替えの速度を上げてみて、もしかしたらその二つの状態の切り替わりの瞬間に、位置の欠片と方向の欠片を、残像だけでも同時に捉えられるのではないかと期待した。
結果は変わらなかった――位置がはっきりする瞬間、方向は完全な空白になり、方向が浮かび上がる瞬間、位置は混沌としたぼやけへと変わった。まるでその二つの間に越えられない壁があって、どうやっても両方を同時に存在させてくれないかのようだった。
俺は知覚を膨大な規模にまで広げ、一つの領域全体を一気に覆ってみることまで試した。何らかの平均化の方法で、おおよそ両方を同時に把握できるのではないかと期待して。だが得られたのは、両方の情報がさらに曖昧になっていくことだけで、確かなものは何一つ手に入らなかった。
「これじゃどうやって捕まえればいいの?」
サチの声に無力感が滲んだ。
「分からない」
俺ははっきりしていてぼやけている、確実でありながら不確実なこの存在を見つめた。一瞬、次の一手がまったく思いつかなかった。
「どこにあるか分かれば、どこに向かうか分からない。どこに向かうか分かれば、どこにあるか分からない」
ワカナは眉をひそめ、その一文を何度も噛み締めた。
「これ、ほぼ手詰まりってことじゃない」
「まだ結論を急がないでおきましょう」
セバスティアンの触角がゆっくりと揺れた。
「マスミ様、まだ試していない第三の方法はございませんか」
俺はしばらく黙り込み、頭の中でその二つのまったく相反する知覚方法を何度も比べてみたが、他の切り口はまったく思いつかなかった。
「これはこの体自体の限界なのかもしれない」
俺は一つの可能性を提示した。
「結局のところ、これは震動を通した知覚だ。もしかしたら、そもそも両方の情報を同時に把握できるようには作られていないのかもしれない」
「検知方法自体を変えてみたらどう?」
ユウキが尋ねた。
「視覚とか、他の手段とか」
「視覚だとたぶんもっと役に立たない」
俺は苦笑した。
「これほど小さいもの、視覚的に見る方法なんてまったくない」
アラユの巨大な鋏が不安げに何度か開閉した。
「じゃあ今、敵は見つけたのに、それに対して俺たちには何もできないってことか?」
誰もその問いに答えられなかった。
サチが近づいてきて、頭を上げて俺の巨体を見つめた。
「これってなんか……最初からこうなるように設計されてるみたいに聞こえない?」
彼女がそう言った瞬間、みんな固まり、どう答えればいいのか分からなくなった。
この体は俺にこれまで持ったことのない知覚を与えてくれたが、今この時、初めて、どれだけ耳を澄ませようとしても、決して捉えられないものが存在するのかもしれないという感覚を、俺に与えていた。




