第215話 あちこちに跳ね回る微小な軌跡
ワカナはしゃがみ込み、あの分厚い手引書をまた開き、ページをめくりながら密な文字の上を指で滑らせていった。
「雑音の除去方法……」
彼女は項目を確認しながら呟いた。
「あった、ここに一節ある」
彼女は咳払いをし、一語一語読み上げていった。
「守護者五号は標的をロックオンするのに雑音を除去する必要がない。その処理能力は、あらゆる震動を個別に記録・識別するのに十分であり、内部で完全な振動像を構築し、周囲の地形を包括的な表面運動信号によってマッピングする」
「どういうこと?」
サチが眉をひそめた。
「雑音を取り除くんじゃなくて……全部聞くってこと?」
「まさにそういうことっぽいね」
ワカナが俺を見上げた。
「試してみる?」
俺はどこから始めればいいのか分からなかった。
先ほどの「もっと集中する」というやり方は、明らかに間違った方向だった。もし手引書が正しいなら、俺に必要なのは雑音を排除することではなく、その逆――一つ一つの音を丁寧に聞き、選り分けたり捨てたりせず、すべてを記録することだった。
「疲れそうだな」
アラユが呟いた。
その一言が、俺の中にある疑問を実際に浮かび上がらせた――周囲のあらゆる震動を個別に記録・識別する、それほど膨大なデータ量を扱うには、一体どれほどの処理能力が必要になるのか? データが多ければ多いほど消費されるエネルギーも多くなる、それは基本的な理屈のはずだ。
だが俺はまったく負荷を感じなかった。発熱もなく、遅延もない。この体はそういう負荷にまったく影響を受けていないようだった。
もし現実世界でこんなことが起きたら、これだけの量の情報をリアルタイムで処理するだけでも、データセンター丸ごと分の計算能力が必要になるだろうし、その背後にある想像を絶するほど膨大な電力のことも考えなくてはならない――これは現代の人類の技術をはるかに超えている。
「どのみち他にましな選択肢もない」
俺は正直に答え、その驚きをひとまず脇に押しやってこれ以上は言わなかった。
俺は自分に一番近い場所から始め、届いてくる震動を一つずつ丁寧に選り分けていった。
サチの心拍、どくん、どくん、安定したリズムで、安定した背景音のようだった。ワカナがページをめくるかすかな紙擦れの音は、一枚一枚に微妙な違いがあり、まるで紙の繊維の目がめくるたびに違うかのようだった。ユウキの指が剣の柄と鞘に触れるかすかな音は、呼吸の上下に合わせて強くなったり弱くなったりしていた。アラユの甲羅の下からの、ゆっくりとした鈍い呼吸は、くぐもったリズムを帯びていた。
俺はこれらの音を一つずつ心の中に記していった。まるで見えない紙の上に座標点を落としていくかのように。
最初これらの座標はまばらでぼやけていたが、細部を捉え続けるうちに、少しずつ繋がり合って一つのまとまりへと形を成していった――ニャリクの立っている位置、セバスティアンのわずかに前傾した姿勢、ユウキとマファガイスの間の距離、プルートゥンシャの甲羅に入ったひびまで、すべてが震動を通して少しずつ組み合わされ、ある種の立体的な像になっていった。まるで誰かが、それまでぼやけていたスケッチを一筆一筆、確かなものへと描き直していくのを見ているようだった。
「これは……」
俺は思わず口を開いた。
「お前たちを見なくても、どこに立ってるか分かる気がする」
「それはすごいね」
ユウキの声に興味深そうな色が滲んだ。それでも警戒の視線は緩めず、剣先は相変わらず遠くのほうへとかすかに揺れていた。
「今の私たちの陣形、説明してみてくれる?」
ワカナが興味深そうに提案した。
俺は形になりつつあるその振動像に映るものを一つずつ読み上げていった。
「サチが俺の左前、ワカナがそのそばにしゃがんでる。ユウキは少し離れたところに立ってて、アラユとセバスティアンは後ろで、二人並んで立ってる」
「一つも間違ってない」
サチの声に嬉しそうな響きがあった。
俺はさらに意識を外へと広げていった。遠くの風霊鳥の羽ばたき、地中深くのかすかな沈み込む音、空気そのものが一粒一粒の砂埃を掠めていく摩擦音まで、すべてが着実に成長していくその像に折り込まれていった。
その範囲は広がり続けたが、俺はまったく混乱を感じなかった――どの音も正確にあるべき場所に収まり、他と混ざり合うことは一度もなかった。まるで無数の鮮明な写真を一度に見ているようで、雑音の寄せ集めを聞いているのとはまるで違った。先ほどの「集中すればするほど混沌とする」感覚とはまったく別物だった――まるでこの体は、俺が無理にふるい分けようとさえしなければ、すべてを適切に整理する方法をもとから知っているかのようだった。
「範囲、まだ広げられる?」
セバスティアンの触角が俺のほうを向いた。
「できる」
俺はさらに遠くまで伸ばしてみた。細部が増えていったが、それでもなお鮮明だった。
「限界がどこにあるのか感じられない」
俺は逆に焦点を絞り込んでみようとした。もう遠くを見るのではなく、足元近くに転がっている小石に集中する。
その小石の表面のざらついた質感が、極めてかすかな震動を通して伝わってきた――目に見えないほど微小な埃の粒子が石の表面にぶつかり擦れる音までもが俺のもとに届き、重なり合ってその小石の表面全体の完全な像を作り上げた。粗い部分、滑らかな部分、窪んだ部分、突き出た部分、すべてが驚くほど鮮明だった。
「この石の表面の粒子、一粒一粒聞こえる」
俺は思わず呟いた。
「一粒一粒?」
ワカナがその小石を見つめた。目には信じられない思いが浮かんでいる。
「あの石、完全に普通に見えるけど」
「見た目はそうかもな」
俺は言った。
「でも聞こえ方はまったく違う」
俺はさらに知覚を絞り込み、その小石の縁にある、ほとんど見えないほどの埃の粒に狙いを定めた。
その埃の粒は、ほとんど存在しないと言っていいほど静かだったが、あらゆる方向から空気の分子がそれにぶつかるたびに、その結果生じる乱れが、その位置に極めてかすかなずれを生み出していた――俺はその変化を実際に観察できた。これはおそらく「音」などではなく、その埃の粒子自体の震える動きが残した痕跡で、この体はそれを聴覚に連動した何らかの感覚を通して読み取り、再構築しているようだった。
その軌跡は俺の分析の中で伸び続け、曲がり、行きつ戻りつしていた。明確な論理はまったく見えないのに、それでも不気味なほど安定したリズムで続いていた。まるで無数の見えない手が、あらゆる方向から同時にその埃の粒を押しているかのようだった。
俺は固まった。
「どうしたの?」
ワカナが俺の沈黙に気づき、さらに近づいてきた。
「俺は……」
俺は自分が見ているものをどう説明すればいいのか分からなかった。
「空気に弾かれて動く埃の粒の軌跡が聞こえてる気がする」
「埃?」
サチが瞬きをした。
「それよりもっと小さい」
俺は言葉を探しながら言った。
「自分の目で見たどんな像とも重ね合わせられないほど小さい。それなのに、その軌跡を完璧なまでにはっきりと分析できる。どの方向に弾かれたのか、全部計算できる。その軌跡は完全に無秩序で、一度も止まらない」
みんなが一瞬静まり返り、ただ俺の巨体を見つめていた。想像をはるかに超えたこの説明に、どう反応すればいいのか分からない様子だった。
「この体、一体何でできてるんだ……」
アラユが小さく呟いた。声には隠しきれない驚嘆が滲んでいる。
「じゃあ今、あなたは分子レベルまで聞こえてるってこと?」
ユウキの声に信じられない思いが満ちた。
「盗聴器なんかとは次元が違う」
「これには俺自身も驚いてる」
俺は正直に認めた。
俺はその極めて微細な知覚を引き戻した。その衝撃からまだ完全には立ち直れていなかった――この体は、俺がこれまで想像もしなかったほど広い範囲の世界を捉えられるようだった。




