第205話 空中ピンボール
その上昇気流が俺たちを乗せて舞い上がり、どんどん高く昇っていった。重い泥の鎧のせいで自分の体勢を調整することすらできず、その激しい力に完全に翻弄されるしかなかった。
だがその気流が絶え間ない空気の流れをもたらしてくれたおかげで、ずっと俺たちを苦しめていた低気圧の症状が静かに和らいでいたことに、遅ればせながら気づいた――関節の痛みが目に見えて鈍っている。
俺は酸素マスクを外してみると、呼吸も楽になっていることに気づいた。
「この風……マスクいらないの、すごく楽!」
近くでワカナの声が響いた。驚きと喜びの色が滲んでいる。
「体もそんなに重く感じない」
サチも同意した。声には長らく感じていなかった安らぎがあった。
俺はピクシーのタトゥーも発動させてみた。あの馴染み深い浮遊感が、かすかにだが実際に反応しているようだった。泥の鎧の重さのせいで本当に飛び上がることはできなかったが、それでも落下速度を多少緩めてくれた。
「この気流、今回は俺たちに味方してくれてるみたいだな」
一筋の希望が湧いてきたが、完全に油断するわけにはいかなかった。
案の定、頭皮がぞわつくほどの高さまで放り上げられたちょうどその時、あの上昇気流は何の前触れもなく途切れた。
一瞬にして辺りには不気味な静けさが降り、あの轟いていた風の音すら跡形もなく消え去り、あの呼吸の楽さもまったく同時に完全に消え失せた。
「まずい――」
言い終わる前に、俺の全身は何にも支えられないまま地面へと落下し始めていた。
慌てて酸素マスクをつけ直す。
ピクシーのタトゥーを発動させて体勢を立て直そうとしたが、浮遊感のかけらすら感じられなかった――この場の空気は今や完全に抜き取られ、正真正銘の絶対的な真空になっていた。
「またこれか! これは……真空だ!」
ユウキの声には、これまでにない恐怖が滲んでいた。この死んだような静寂の中で不自然なほど小さく、まるで音自体が伝わる媒体を失ってしまったかのように、薄く鋭く響いた。
残りのみんなも空中に散らばり、それぞれまっすぐ地面へと落下していった。風もなく、抵抗もなく、ただ容赦のない重力だけが少しずつ引きずり下ろしていく。
奇妙なことに、この落下はこれまで経験してきたどんな落下ともまったく違っていた。
抵抗もなく、風が押したり引いたりする感覚もない。代わりに、体はまったく何にも引き止められずに真下へと引っ張られている感覚があり、その速度は妨げられることなく際限なく上がっていき、どんどん速くなって、肺の息を奪うほどだった。
「この感覚……おかしい」
少し離れたところからワカナの声が震えながら聞こえてきた。
「風がない!」
彼女の手にはパラシュートがあった。おそらくエクストリームスポーツ用品店から複製してきたものだろう。すでに投げ出していたが、まったく開く気配がなかった。
「この落下の感覚、あまりにも……滑らかすぎる!」
ユウキの声にも同じ困惑が滲んでいた。彼女は四肢を伸ばし、体の姿勢を使って落下を多少緩めようとしたが、まったく効果がなく、まるで押しのけるべき媒体そのものが周囲に存在しないかのようだった。
俺も腕を広げてみて、過去の落下の経験を頼りに多少なりとも体勢を制御しようとしたが、皮膚に触れる風圧のかけらすら感じられなかった。あの馴染み深い、体が感じ取って利用できるはずの空気の流れが、完全に消え去っていた。
「空気抵抗もない……摩擦もない……」
考えが頭の中を閃き、心臓が一気に締め付けられた。
「こんな落下、終端速度がない!」
通常なら、高いところから落ちる物体は、空気抵抗が重力と釣り合う点に達して、それ以上速度が上がらなくなる。だがこの真の真空の中では、その釣り合いの点そのものが存在しない――俺たちはただどんどん速く落ち続け、運動エネルギーが際限なく蓄積していき、自然な制動の仕組みなど何もない。
「本当にこの落下だけで死ぬかもしれない!」
ワカナの悲鳴が死んだような静寂に混じり、ことさら痛ましく響いた。
俺は周囲に散らばる仲間たちを見つめた。それぞれが必死にもがきながらも逃れる術がない。頭の中を必死に巡らせた。ピクシーのタトゥーの瞬間移動――それが唯一思いつく選択肢だった。
まっすぐ地面まで転移できれば、実際の落下距離は劇的に縮まり、蓄積される運動エネルギーもそこまで極端にはならないはずだ。着地の衝撃も、生き延びられる範囲に収まるだろう。
それに、その道すがら自力で転移できない仲間の何人かも助けられるかもしれない。
俺は一番近くにいて、一番手も足も出ない姿勢で落下していたセバスティアンを狙い、瞬間移動を発動させた。
馴染み深い空間の歪みが俺を包み、次の瞬間にはセバスティアンのそばにいて、その腕を掴んでいた。
「マスミ様!」
セバスティアンが驚いた様子で俺を見た。
「離すな、今すぐ地面まで移動させる!」
俺は俺たちの下方の地面を狙い、もう一度能力を発動させようとした――だが何も起こらなかった。
「どうして……」
胃の底がすっと冷えた。何度か試してみたが、あの馴染み深い空間の歪みは二度と戻ってこなかった。
「この能力、連続では使えない!」
ようやくこの致命的な事実に気づいた。これまでにない後悔が湧き上がってくる。
これまでずっと、俺はピクシーのタトゥーの瞬間移動の限界を実際に試したことがなかった。無限に使える万能の解決策だと勝手に思い込んでいて、今になってようやく、それがずっと命を救ってくれるはずだと思い込んでいただけの計画にすぎなかったと気づいた。だが実際にはそんなものではなかったのだ! この思い込みは、事前にその限界を学ぼうとしなかったからこそ存在していたに過ぎない。
「みんな気をつけろ、この能力は連続では発動できない!」
俺は声の限りに叫び、散らばる仲間たちに警告しようとしたが、すでに手遅れだった。
少し離れた場所で、フェアリーもニャリクのそばへ転移していたが、その直後まったく同じ呆然とした表情を浮かべていた――二度目の転移もまったく何も起こらなかった。ユウキ、サチ、ワカナもそれぞれ別々の海民の戦士のそばに現れていて、誰もが同じように不意を突かれた衝撃の表情を浮かべていた。明らかに、みんなそれぞれ独立して同じ計画に行き着き、そして誰も事前に学ぼうとしなかった同じ限界に、揃って引っかかってしまったのだ。
「これは本当にまずいことになったな」
セバスティアンが空中に散らばるみんなを見渡しながら言った。片腕を俺の肩にしっかりと巻きつけたまま。
地面が恐ろしい速さで迫ってきていた。このまままっすぐ落ち続ければ、俺たち全員がその道すがら蓄積した運動エネルギーによって、おそらくバラバラに引き裂かれてしまうだろう。
セバスティアンが不意に俺の腕を掴み、別の方向へと強く投げ飛ばした。
「マスミ様、申し訳ございません!」
俺の体は即座に元の垂直な落下軌道から外れ、遠くにいた別の人影の集団に向かって斜めに飛んでいった。振り返ると、セバスティアンの体が、俺を投げ飛ばした瞬間、俺と自分二人分の落下の勢いをすべて一人で受け止め、地面へと激しく落ちていくのが見えた。
「あの力は……」
背筋に震えが走ったが、それを噛みしめている暇はなかった。目の前に急速に迫ってきていたのは、アラユとユウキだった。
アラユの複眼が大きく見開かれ、俺に鋭い視線を送ってきた。
俺はすぐに察し、拳を握って彼に向かって強く振るった。同時にアラユも紫がかった赤茶色の大きな鋏を掲げて受け止めに来た。
二つの力が空中で激しくぶつかり合い、それまでまっすぐだった落下軌道がその衝撃で大きく捻じ曲がり、二つの斜めのベクトルへと分かれていった。アラユはその衝撃で転がされたが、その転がり自体が、まっすぐ叩きつけられる代わりに、転がることで勢いを逃がす機会になった。
アラユは自分の甲羅でユウキを庇いながら、何度も転がった。
「このちびすけ、ちゃんと分かってるじゃないか!」
彼は立ち上がりながら豪快に笑った。
その同じ衝突の勢いに乗って、俺が息をつく間もなく、アラユの鋏がすでに俺を別の方向へと弾き飛ばしていた。
俺はまるでフィールド外まで打ち上げられたフライボールのように飛んでいき、マファガイスとサチのほうへとまっすぐ向かっていった。
俺は体を捻り、重なり合ったその二人の姿へと強く突っ込んだ。自分の勢いを利用して、また垂直だった落下を斜めの角度へと押し曲げる。
「掴まって!」
サチが叫び、爪を広げて俺たちを包み込んだ。三人は太陽グモが砂丘を転がり落ちるように絡み合いながら、一緒に斜めに地面へと転がっていった。
この連鎖する衝突を通して、少しずつ勢いを散らし逃がしていくうちに、俺にまだ纏わりついていた運動エネルギーはようやく扱える程度にまで落ちた。俺は最後にもう一度体勢を整え、腕を精一杯伸ばして、ニャリクとフェアリーへと強く飛びついた。
今度は二人ともしっかりと腕の中に受け止めることができた。もう衝突する必要はなく、そのまま二人を直接庇いながら一緒に転がり落ちていった。
俺自身の力だけでは……風霊鳥の強化なしでは、二人を受け止めるので精一杯だった。
だがほぼ同時に、俺たちのどこかから、紛れもない震動が下から立ち上ってきた。
横目で見ると、プルートゥンシャの分厚い甲羅に覆われた体がワカナの下でしっかりと構え、地面に激しく叩きつけられ、彼女にとって致命的だったはずの衝撃を代わりに受け止めていた。
「ワ――ワカナ!」
俺は叫んだ。
ワカナはプルートゥンシャの腕の中からゆっくりと起き上がった。顔は青ざめていたが、無傷だった。
「私、みんなを助けようとしてたのに……なんだか自分が助けられる側になっちゃった」




