第202話 泥と根の鎧
「みんな、準備はいいか?」
俺は仲間たちを見渡した。
「待って」
ワカナが不意に口を挟んだ。眉をきつくひそめている。
「今この部屋、本当に開けて大丈夫? 外はあんなに気圧低いのに、こっちはエアバッグで正常気圧まで上げちゃってるよね。今開けたら、それって……」
はっとした衝撃が走り、俺はこの致命的な問題を完全に見落としていたことに気づいた。
「くそ」
俺は鋭く息を呑んだ。
「こんな気圧差を一気に解放したら、低気圧そのものよりも危険かもしれない」
「潜水士が浮上速すぎて減圧症になるのと似てるけど、この気圧差はそれよりずっと極端だ」
ユウキの表情が曇り、彼女も息を呑んだ。
「直接開けるわけにはいかない」
「じゃあどうするの?」
サチが不安そうに尋ねた。
「外にはもうひびが入ってる、いつまでもここに座ってるわけにもいかない」
「先に外の低気圧に体を慣らせるような装備、何かないかな?」
ワカナは頭を絞り、それから何かに思い当たったようだった。
「ダイビングスーツとかどう? あれなら耐えられる?」
「ダイビングスーツは加圧なんてしない」
ユウキがすぐに首を振った。
「あれは保温と防水のためのものだ。こんな気圧差には対抗できない。着ても意味がない」
「じゃあどんな装備ならこの気圧差に耐えられるんだ?」
俺は眉をひそめながら考え込んだ。
「宇宙服」
ユウキがほとんど考えるより先に言った。
「宇宙服は密着した素材を使って、機械的に通常の大気圧を模擬してる。密閉した船室で気圧を保つんじゃなくて、皮膚の表面に直接圧力をかけるやり方だ」
「でも宇宙服なんてどこから調達すればいいの?」
ワカナが困った様子で言った。真理の鏡で複製したり保管したりできるとはいえ、これまでそんなものを探す理由なんてなかった。低気圧まで武器にしてくる敵なんて、誰が予想できただろうか……
俺は近くで静かに待機している樹妖たちに目をやり、不意にある考えが閃いた。
「本物の宇宙服なんて要らない」
俺は樹妖たちを見つめ、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「自分たちで作ればいい」
「どういうこと?」
サチが困惑して尋ねた。
「樹妖は大地を操れる。もし湿った泥を皮膚の上にしっかり詰めてもらったら、似たような効果が得られるはずだ」
俺は話しながら考えを組み立てていった。
「泥にはある程度の可塑性があって、体の曲線に馴染む。それに木の根を包帯みたいに巻きつけて補強すれば、この気圧差に耐えられるだけの機械的な圧力が生み出せるはずだ」
「この案、正直……ローテクすぎる」
ワカナが笑いたいのか顔をしかめたいのか分からない様子で言ったが、それでも他にいい案があるわけでもなかった。
「何もしないよりはマシだ」
ユウキが力強く頷いた。
「試す価値はある」
俺はすぐに近くの樹妖たちに指示を出した。彼らは部屋の内壁から湿った泥の塊を掘り出し、丁寧に俺たちの露出した皮膚――腕、首、頬、急激な気圧低下の影響を受けそうな場所すべてに、均一に厚く塗り広げていった。
「この感触、本当に言葉にできない」
サチが思わず小さく呟き、冷たく湿った泥が皮膚に押し当てられる感覚にかすかに震えた。
その直後、樹妖たちの体から細くしなやかな木の根が伸び、泥で覆われた部分に包帯のように巻きついていった。何重にも巻かれ、その湿った泥の層をしっかりと固定し、弾力性がありながらもぴったりと密着した天然の拘束具を作り上げていく。
「うわ、この見た目、間抜けすぎる!」
ワカナがみんなの泥と根に包まれた姿を見て笑った。
「土から這い出てきたミイラの集団みたい」
「お前が言うな」
サチが不満げに言い返しながらも、思わず一緒に笑ってしまい、辺りの緊張が少し和らいだ。
ニャリクは泥と根に包まれた腕を曲げ伸ばしし、感心したように口を鳴らした。
「こうやって包まれると、なんかぎゅっと抱きしめられてるみたいで、意外と安心する感じがするな。残念なのは……これじゃ飛べないことだ」
小柄なフェアリーは、樹妖たちに特に丁寧に巻いてもらっていた。自分の泥まみれの姿を見下ろし、頬をかすかに赤らめた。
「これ……本当に効くんでしょうか?」
イヤピースの中のコメントが一気に流れ込んできた。
『この見た目、独創的すぎる、泥ミイラ』
『最も原始的なやり方で耐圧スーツ作るとか、その発想力に敬意』
『効果あるのか気になるし、ちょっと心配』
『ワカナのツッコミ、いつも的確すぎる』
『これで本当にうまくいってほしい、じゃないと大変なことになる』
みんながこの即席の泥の鎧を身につけ終えると、俺は自分の四肢を丁寧に曲げ伸ばしてみた。泥と根によるきつく安定した感覚がある。しっかりと包まれていることに、本当に安心感があった。
「みんな、まだ急いで出るな」
俺は注意を促した。
「これが本当に効くか確認してから出ないと」
俺は樹妖たちに合図し、部屋の密閉の一角だけをほんのわずかに緩めさせ、ごく細い隙間だけを残した。かすかだがはっきりとした低気圧の感覚がすぐさま隙間から染み込んできて、俺は反射的に体を強張らせ、あの馴染み深い痛みがまた襲ってくるのを覚悟した。
だが今回は、皮膚に巻かれた泥と根が本当にちゃんと機能しているようだった。本来なら即座に広がるはずのあの膨張の感覚は大幅に抑えられていて、かすかな不快感が残るだけで、先ほどまでのあの耐え難い痛みには程遠かった。
「これ……本当に耐えてる気がする!」
サチが嬉しそうに叫び、自分の体の反応を丁寧に確かめた。
「この手、本当に効くじゃん!」
ワカナも表情を明るくした。
イヤピースの中のコメントも興奮に沸き立った。
『効いた! これはすごい』
『泥と根が本当に即席宇宙服として機能してる』
『これでやっと安心して助けに行ける』
『ローテクの知恵、永遠に最強』
「効果が確認できたところで、出発の準備をしよう」
俺は深く息を吸い込み、泥と根に包まれた仲間たちを見つめた。見た目は間抜けでも、確かな決意が漂っている。泥と根に隠れてその表情は見えなかったが、それでもみんなの闘志が再び燃え上がっているのが伝わってきた。
外からまた重い衝撃音が響き、部屋のひびがさらに広がった。外の戦いがもう待てないことを、改めて思い知らされる。
「今度こそ、本当に出る時だ」
俺は知恵の書を強く握りしめ、樹妖たちに部屋の密閉を完全に開けるよう合図した。
分厚い土の層がゆっくりと裂けていき、あの馴染み深い低気圧が再び襲ってきたが、今回は体を覆う即席の泥の鎧が、あの耐え難かった気圧差に本当に持ちこたえてくれた。俺たちはこの束の間の息継ぎの場所から、無事に足を踏み出すことができた。
「みんな固まって進め!」
俺は叫び、依然として激しい戦いが続くその戦場へと一行を導いた。アラユ、プルートゥンシャ、セバスティアンと合流し、あの手強いゴーレムとの戦いを続ける準備を整えて。




