第199話 酸素ボンベ
「マファガイス!」
ユウキは全力で波状攻撃を凌ぎながら、ようやく隙を作って彼のそばに駆け寄り、引き起こした。
マファガイスはくぐもった呻き声を上げながらも、無理やり体を起こした。灰青色の肌にははっきりとした擦り傷が残っていたが、それでも歯を食いしばりながら武器を強く握っていた。
「大丈夫だ。まだ戦える」
「全然大丈夫そうに見えない!」
ワカナが不安そうに叫びながら、武器を振って迫る脚を押し返した。
ゴーレムの猛攻は止まることなく続き、その滑らかで正確な動きに、みんなますますついていくのが難しくなっていた。だが戦いが長引くにつれ、俺はさらに不穏なことに気づき始めた。ゴーレムが強くなっているというより、むしろ俺たち自身の状態が急速に悪化しているように思えたのだ。
「みんな大丈夫か?」
俺は喘ぎながら言った。呼吸がますます苦しくなり、胸に石でも乗せられているような感覚があった。
「ちょっと息が切れる」
サチの声にもはっきりとした疲労が滲んでいた。風纏う爪の四本の爪は相変わらず鋭く動いていたが、その動きは以前より明らかに遅くなっていた。
「俺も同じだ」
アラユが激しく喘ぎながら言った。その巨体にもかかわらず、鋏を振るう力は明らかに以前より弱まっていた。
節足動物は静止時にはそれほど酸素を必要としないが、動き出すと人間よりもずっと激しく呼吸するものだ。
そこで俺はようやく気づいた。この戦いはそもそも単純な力比べなどではなかった。ゴーレム自身はこの環境にまったく影響を受けず、最初からずっと同じリズムと威力を保ち続けていた。一方、俺たちのほうが着実に消耗させられていたのだ。
「この真空の効果、強まってきてる気がする」
ユウキが防御しながら苦しそうに言った。声には息切れが滲んでいる。
「あいつが強くなってるんじゃない。私たちが弱くなってるんだ」
イヤピースの中のコメントが一気に流れ込んできた。
『ちょっと待って、ゴーレムが強くなってるんじゃなくて、こっちが弱ってるってこと!?』
『これでどうやって戦えっていうんだ……』
『環境そのものが敵っていう発想、考えると恐ろしいな』
『みんな耐えて、これガチで危険な状況だ』
『どうにかして呼吸の問題を解決しないと』
背筋に寒気が走った。もしユウキの言う通りなら、この戦いが長引くほど俺たちの勝算は悪化していく。急いで解決策が要る。
「酸素!」
ワカナが何かに思い当たったように不意に叫んだ。
「酸素が要る、それなら手に入れられるかも!」
「どこから手に入れるんだ?」
俺は喘ぎながら尋ね、攻撃をかわし続けた。
「淳一の家! あそこのお父さん、ダイビングのインストラクターだから、絶対余分な酸素ボンベ持ってるはず!」
ワカナは真理の鏡に手を伸ばしかけたが、すぐに固まった。
「やば、鏡の開口部小さすぎて、あんな大きい酸素ボンベ通らない!」
「じゃあどうする?」
サチが不安そうに尋ねた。
「ピクシーに運んでもらおう!」
俺はすぐに思いつき、指を鳴らした。待機していた何匹かのピクシーがすぐに現れる。
「鏡を通って渾沌界の淳一の家に直行して、酸素ボンベを持って帰ってきてくれ。できるだけたくさん!」
ピクシーたちは声を揃えて答え、すぐに鏡の表面へと姿を消した。
イヤピースの向こうですぐに騒ぎが起こり、淳一の少しうろたえた声が聞こえてきた。
『ちょ、ちょっと待って、これ勝手に持ってっていいなんて一言も言ってないぞ!』
『ワカナ、そういうのタダじゃないんだからね!』
淳一はそう文句を言いながらも、結局投げ銭してしまっていた。
『淳一、お前何様だよ? こいつら文字通り世界救おうとしてるんだぞ! ベルゼブブに出てきてほしいのか?』
良太もチャットで昔からの友達に一発言ってやろうと、我慢できずに投げ銭していた。
「大丈夫、代金は俺が払う」
俺はゴーレムの重い一撃を歯を食いしばりながら受け止め、さりげなく答えた。
巽之塔に入ってから、俺はかなりの数の宝物を売り払ってきた。今の懐具合なら、酸素ボンベどころか、それを作ってる工場ごと買えるかもしれない。
『金のことなら話し合おうぜ。酸素ボンベ一本と、ピクシーの秘醸酒一本、交換ってことでどうだ?』
淳一の口調が急に張り切り始めた。
『淳一お前、危機に乗じて金儲けかよ!』
良太が本気で呆れた様子で言った。
「問題ない、その取引で決まりだ」
俺は迷わず頷いた。こんな時に値切っている余裕はない。
正直、淳一が交換を持ちかけてこなかったとしても、俺はどのみち何本かその蜜を渡すつもりだった。彼はもう何年もワカナの仲のいい友達で、これまでずっと応援してくれていた。たかが酒一本、そこまで打算的になる必要はない。
『別に何か交換してもらう必要なんてなかったのに、普通にタダで渡すつもりだったよ。お前の家族には、ワカナがずっと世話になってるし』
俺は付け加えた。
淳一はイヤピースの向こうで冷たく笑った。
『ちっちっ……何もせずに施しを受けるのは、俺の主義に反するんでね』
『いや、お前何企んでるんだよ? あいつらお前のこと友達扱いしてくれてるのに!』
良太が呆れて咎めた。
『友達だからこそ、そういうのはよくないんだよ!』
淳一が少し苛立ちながら言い返した。
『貸し借りをずっと繰り返してると、そのうちどっちかが自分ばっかり与えてる気になって、関係がこじれるもんなんだ』
『ちっ、お前ほんと情がないな。よくこんなに長く友達続けてこられたもんだ』
良太が不満げに呟いた。
まもなく何匹かのピクシーが転移して戻ってきた。重い金属製のシリンダーを協力して必死に運んでいる。一本の酸素ボンベを動かすのに三、四匹のピクシーが力を合わせる必要があり、翅を懸命に羽ばたかせ、顔には努力の色を滲ませながら、ようやく一本また一本と俺たちのもとへ届けてくれた。
「あんなに運ぶの、すごく大変そう」
サチが息を切らしながら頑張るピクシーたちを見て、同情を隠せない様子だった。
ワカナは酸素ボンベをマスクとホースと一緒に手早く配っていった。その動きは素早く手慣れていた。
「これ、登山とかダイビング用の携帯酸素ボンベ。だいぶ助けになるはず!」
俺はボンベを受け取り、純粋な酸素を深く吸い込んだ。長らく続いていた胸の締め付けが即座に目に見えて和らぎ、呼吸が楽になった。頭の中に詰まっていたあの重い霧が、すっかり吹き払われたかのようだった。
「すごく楽になった!」
サチもマスクをつけ、何度か深く息を吸い込むと、それまで鈍っていた動きが即座に生き生きと戻り、風纏う爪の四本の爪も再び鋭く素早く広がった。
ワカナは残りのボンベを手際よく他のみんなに配り、海民の戦士たちも次々とマスクをつけて、あの長らく感じていなかった清々しい空気を吸い込んでいった。
「ようやくまともな空気だ」
アラユが酸素を深く肺いっぱいに吸い込むと、鋏を振るう力が一気に以前の強さへと戻り、ゴーレムに激しく叩きつけられた。
イヤピースの中のコメントも興奮に沸き立った。
『淳一、危機に乗じて金儲けとかえぐい笑』
『良太が咎めるの正解、こんな時に打算的すぎる』
『正直淳一に同意、仲良くてもタダで頼りすぎるのはよくない』
『でも秘醸酒と酸素ボンベの交換って、淳一結構稼いでるな』
『ピクシーが酸素ボンベ運んでるの可愛すぎる』
『まあ今は目の前の危機解決のほうが大事だな』
「みんな、反撃するぞ!」
俺は気力を取り戻して叫んだ。




