第195話 ようやく攻撃が来た
「マスミ、さっき変な顔してたよね」
サチが俺のそばに歩み寄った。声に心配が滲んでいる。
「何か気になることでもあった?」
俺は少し迷ったが、最後には胸に重くのしかかっていたその思いを口にすることにした。
「もしこのボスを永遠に見つけられなかったらどうなるか、考えてたんだ」
「見つけられなかったら……」
ワカナも身を寄せてきた。顔が徐々に真剣な色を帯びていく。
「いつでも撤退できる。この気流は実際に誰かを殺せるようなものじゃない」
俺はゆっくりと言い、周囲の静かな荒野を見渡した。
「でも撤退したら、これより先には進めなくなるし、ベルゼブブの真の姿の覚醒も止められなくなる」
ユウキが勇気の剣を握り直した。表情も曇っていく。
「見つけられないことと、倒せないこと、結局同じ結果になるってこと?」
「まさにそうだ」
俺は頷いた。声に重みが滲む。
「あいつは俺たちを倒す必要すらない。ただ完全に姿を隠し続けるだけで、俺たちを打ち倒すのと同じ結果が得られてしまう」
みんな一瞬黙り込んだ。言葉にしがたい重苦しさが辺りに広がる。
「確かに恐ろしい考えでございますな」
セバスティアンが真っ先に沈黙を破った。口調は相変わらず落ち着いている。
「ですがマスミ様、だからこそ、ここで諦めるわけにはいかないのです」
「セバスティアンの言う通りだ」
ニャリクも真剣に口を挟んだ。
「敵がこういうやり方で俺たちを消耗させようとしてるなら、なおさら士気を落とすわけにはいかない」
アラユも珍しく反論せず、ただ重く鼻を鳴らした。
「俺たち五人がここに来たのには理由がある。お前たちだけにこの重荷を背負わせるつもりはない」
プルートゥンシャも急ぐ様子なく口を開いた。声には年季の入った落ち着きが滲んでいる。
「マスミ様お一人でこの重荷を背負う必要はございません。我々は仲間です。共に分かち合うのが道理というものでしょう」
マファガイスは相変わらず簡潔に、「共にある」とだけ言った。それでもその一言には、確かな重みと安心感が込められていた。
「みんな、ありがとう」
みんなの反応を見ていると、胸の中の重苦しさが少し和らいでいくのを感じた。
「その通りだ。一人で悩んでても何も解決しない。前に進もう」
俺たちは大規模な捜索部隊を伴いながら、荒野の奥へとゆっくりと進み続けた。ピクシーと風霊鳥は依然として頭上を旋回しながら巡回し、蟑螂とシロアリとアリは地面とその隙間を探り続け、樹妖たちは海民の四人のそばに着実に立ち、歩く俺たちに少しばかりの安心感を与えてくれていた。
「そういえば」
ワカナが歩きながら気軽に尋ねた。声に好奇心が滲んでいる。
「みんな、普段中孚堂で何してるの?」
「水域の巡回、それに手に負えなくなった海洋生物の討伐だ」
プルートゥンシャが急ぐ様子なく答えた。
「時々、揉め事の仲裁も手伝う」
「俺のお気に入りは、外海で波を追いかけることだな」
ニャリクが張り切って付け加えた。その話をするだけで翅の羽ばたきが少し速くなる。
「あの風に乗る感覚、たまらないんだよ!」
「お前、本当にじっとしてられないよな」
アラユが呆れたように言い返したが、かすかな笑みを隠しきれていなかった。
マファガイスは相変わらず静かに側面を歩き、時折短く言葉を挟むだけだったが、それでもみんなが見落としがちな細かいことに、なぜかいつも気づいていた。
「セバスティアンは、普段何に時間を使ってるの?」
サチが興味深そうに尋ねた。
「面倒な外交事務の処理と、時々自分たちの種族間の揉め事の仲裁でございます」
セバスティアンがかすかに微笑んだ。声に自嘲の色が滲んでいる。
「お恥ずかしい話ですが、この仲間たちに比べると、この老いぼれは近年、実戦の経験がずっと少のうございます」
「でも前にマスミと戦った時、全然錆びついてる感じしなかったけど」
ワカナが興味深そうに食い下がった。
「あれは単に長年の経験でどうにか支えていただけで、辛うじて持ちこたえていたに過ぎません」
セバスティアンが謙虚に手を振った。
「実際の戦闘力で言えば、プルートゥンシャの防御力もアラユの近接技術も、この老いぼれをはるかに上回っております」
こうした気軽な雑談を通して、道中の雰囲気は徐々に和らいでいき、みんなの顔に浮かんでいた緊張も目に見えて薄れ、代わりに肩を並べて戦ってきたことで築かれた信頼と親しみが漂うようになった。
イヤピースの中のコメントも温かい雰囲気で盛り上がった。
『この十人パーティー、本当にファミリーみたいになってきた』
『ニャリク、本当にじっとしてられないんだな、笑う』
『セバスティアンも謙虚だし、好感度上がる』
『敵はまだ見つからないけど、チームの雰囲気は本当にいい』
『早く突破口が見つかりますように』
俺たちはこうしてかなりの距離を歩き続けた。時間の経過とともに地平線の光が静かに移ろい、みんなの顔には徐々に疲労の色が浮かんできたが、誰も休憩を提案しなかった。この捜索がどれほど重要なのか、全員が痛いほど分かっていた。誰も自分から気を緩めたくなかったのだ。
「みんな、まだ大丈夫か?」
俺は心配しながら一行の一人ひとりを見渡した。
「心配すんな、俺たち海民のスタミナは思ってるよりずっとあるぞ」
アラユが誇らしげに胸を張った。
「私もまだ大丈夫!」
ワカナが無理に元気を出そうとしたが、その足取りはすでにふらつき始めていた。
雰囲気が少し和らいできたちょうどその時、遠方の区域を捜索していたピクシーの一匹が慌てて飛び戻ってきた。羽ばたきが乱れ、顔には恐怖がはっきりと浮かんでいる。
「し、主様! 何かおかしいです!」
彼女は息を切らしながら叫んだ。声にはっきりとした震えがある。
「どうした?」
俺はすぐに身構え、知恵の書を握りしめた。
「前方で捜索していた仲間たちが、攻撃されました!」
ピクシーが焦った様子で言った。翅には何本もの細い傷跡が見える。
「何かが突然現れて、みんなを散り散りにしたんです!」
「ついに!」
ワカナが目を見開いた。興奮を隠しきれない様子だった。
「ようやく見つけた!」
「よし」
ユウキも剣の柄を握り直し、目つきを鋭くした。
「ようやく手がかりを掴んだな」
サチも表情を明るくした。
「これだけ何日も探し続けて、ようやく突破口だ!」
俺の中にも、長らく感じていなかった興奮が湧き上がってきた。これだけの時間をかけて掃討し続けて、ようやく敵の痕跡を掴んだのだ。ずっと影に隠れ続け、俺たちを完全に無力にしていたあのボスが、ついに姿を現すかもしれない。
「どの方向だ?」
俺はすぐさま尋ねた。
そのピクシーは震える指で近くの区域を指した。かすかな騒ぎが聞こえてくる。ピクシーや虫たちの慌てた叫び声が混じっている。
「みんな警戒しろ、俺についてこい!」
俺は叫び、真っ先にその方向へと飛び出した。残る一行もすぐ後に続き、全員が新たな希望と改めた警戒心を胸に、その騒ぎのほうへと駆けつけていった。
その区域に近づくにつれ、周囲の空気に言葉にしがたい違和感が滲み始めた。かつて絶え間なく吹き荒れていた風の轟きが、いつの間にか途切れ途切れになっていた。はっきり聞こえたと思ったら、次の瞬間にはくぐもって消えていく。まるで誰かが強く手で塞いでいるかのようだった。息を吸うたびに、かすかで薄い倦怠感が空気に混じっていて、どれだけ深く吸おうとしても、肺が満たされないような感覚があった。
「なんかここ、空気がおかしくない?」
ワカナが飛びながら眉をひそめ、思わず深く息を吸い込んだが、胸に締め付けられるような息苦しさを感じるだけだった。
「たぶん緊張のせいだよ」
サチが気にも留めずに答えた。意識はすっかり前方の騒ぎに向けられていて、その細かいことには構っていられなかった。
イヤピースの中の視聴者たちが興奮して口々に話し始めた。
『ついにガチの対決だ!』
『こんなに長く探し続けて、ようやく成果が出そう』
『みんな気をつけて、うまくいきますように』
『ちょっと待って、ワカナが言ってた空気の話、なんか気になる』
『この戦い、もうずっと続いてる感じだったけど、やっと動き出しそう』
俺は相変わらず騒ぎの続くその前方の区域を見つめた。胸の中に様々な感情が入り混じって湧き上がってくる。ついに正面から向き合えるという興奮と、何かがそこで俺たちを罠へと誘い込もうと待ち構えているかのような、かすかで消えない不安とが同時にあった。




