第193話 見つからない敵
「俺が先に偵察してくる」
ニャリクが自ら申し出た。翅が自信に満ちた勢いで羽ばたいている。
「こういう戦場は俺の得意分野だからな。まずどこに潜んでるか突き止めてやるよ」
「気をつけろよ、風は前触れなく止むから」
俺は注意を促した。
「心配すんな!」
ニャリクは胸を叩き、そのまま空へと舞い上がった。残像がぼやけるほどの速さだった。
フェアリーも飛び立ち、二人は別々の方向へ分かれて偵察を始めた。一人は高く昇り、もう一人は地面近くに留まって周囲を見渡しながら、気流のかすかな変化を丁寧に感じ取っていく。
残りの俺たちはその場に留まって警戒を続け、二人の様子から目を離さず、いつ次の突風が来てもいいよう身構えていた。
しばらくして、ニャリクが戻ってきた。先ほどまでの顔にあった自信は明らかに薄れ、代わりに困惑が浮かんでいる。
「何もない」
彼は眉をひそめながら言った。
「かなり高くまで昇って、あらゆる方向を確認したけど、生き物の輪郭一つ見つからなかった。影すらない」
フェアリーも戻ってきて、首を振った。
「地上も同じでした。気流の方向には細心の注意を払いましたが、はっきりした発生源はどこにも特定できませんでした。この風、まるでどこからも来ていないみたいです」
「そんなのおかしくない?」
ワカナが眉をひそめた。
「風って、どこかから来るものでしょ? 地下にでも隠れてるとか?」
「地下だとしたら、地面が震えたり盛り上がったりする兆候があるはずだ」
俺は周囲の地形を丁寧に観察したが、それらしき手がかりはまったく見つからなかった。
「でもここの地面、完全に普通に見える」
「何か透明化みたいな能力があるとか?」
サチが不安げに推測した。
「大地の盗人が最初姿を隠してて、急に現れたみたいに?」
「それとはちょっと違う」
ユウキが首を振った。声に重々しさが滲んでいる。
「大地の盗人は少なくとも霞んだ輪郭があった。周囲の環境の変化を見て見つけられた。今回は、かすかな痕跡すらまったくない」
アラユが苛立たしげに鋏を鳴らした。
「いっそ真っすぐ突っ込んで、何かに当たるか試したらどうだ?」
「それはあまりにも無謀な提案でございます」
セバスティアンが首を振って反対した。口調は相変わらず落ち着いている。
「風がまた前触れなく止まれば、軽率な行動はかえって危険を招くだけでございましょう」
議論が白熱してきたちょうどその時、あの馴染み深い震動がまた地面から立ち上ってきた。
「また来るぞ!」
俺は叫んだ。
今回は全員が準備できていた。飛べる者たちはすぐに体勢を整え、あらかじめ散開して海民の戦士たちを受け止める準備をしていた。気流が激しく吹き上がり、海民の四人を再び空へと巻き上げたが、今回は全員の反応がずっと速く、気流が発生した瞬間にはほぼ全員が彼らのそばに詰め寄っていた。
「プルートゥンシャは私が!」
ユウキが叫び、真っ先に飛び出した。
「マファガイスは私が!」
サチもすぐ後に続いた。
ワカナと俺はそれぞれアラユとセバスティアンのそばに留まり、風の変化を注意深く見守った。
今回は気流が前回よりも少し長く続き、俺たちはその時間を使って周囲を丁寧に見渡し、この高い視点から何か手がかりを見つけようとした。
「やっぱり何も見えない」
ワカナが空中でホバリングしながら、はっきりとした苛立ちを声に滲ませた。
そのとき、気流がまた前触れなく途切れた。
「風が止まった!」
フェアリーが警告するように甲高く叫んだ。
今回は全員が準備できていたおかげで、海民の四人は無事に受け止められ、先ほどのような危ういことにはならずに地面へと降ろされた。
「今回はさすがに肝を冷やさずに済んだ」
アラユが息をつき、無傷で切り抜けられた安堵を声に滲ませた。
「こんなことをいつまでも続けられないぞ」
ユウキが着地後に周囲を見渡しながら眉をひそめた。声に深い無力感が滲んでいる。
「ずっと受け身に回ってるだけで、どっちに反撃すればいいのかすら分からない」
「本当に普通のやり方じゃ解決できないの?」
サチが不安げに尋ねた。
俺は一見静かなこの荒野を見つめた。至るところに不気味な気配が漂っている。これまでにない苛立ちが胸に湧き上がってくる。大地の盗人の予測可能な侵食から、完全なる飛行者の速さと稲妻、ヒドラの引力と再生――これまでの相手にはすべて、何かしら追える痕跡があった。よく観察し、パターンを見つければ、必ず突破口があった。
だが今回は、敵が存在する証拠すら見つけられない。
「もしかしたら、これはそもそも正面から戦うようなものじゃないのかもしれない」
俺はゆっくりと言った。声には重みが滲んでいる。
「もしかすると、その攻撃の仕方自体が、俺たちの考える『ボス』とは根本的に違うのかもしれない」
「じゃあどうすればいいの?」
ワカナが不安そうに俺を見た。
俺はしばらく黙り込み、相変わらず果てしなく続くその先の景色を見つめながら、残された唯一の選択肢を天秤にかけた。
「とりあえず前に進もう」
俺は歯を食いしばりながら決断した。
「この風は確かに厄介だけど、みんなが警戒を怠らず互いをカバーし続けてる限り、命を落とすようなことにはならないはずだ。見つけられない敵をここで追い続けて時間を無駄にするより、進みながら他の手がかりを探すほうがいい」
「それで本当に大丈夫?」
サチが少し心配そうに尋ねた。
「その場でじたばたしてるよりはずっとマシだ」
ユウキが勇気の剣を握り直した。声に決意が滲んでいる。
「私は前進に賛成する」
セバスティアンが軽く頷いた。
「この老いぼれも同意いたします。ここで足踏みするより、探索を続けたほうがよろしいでしょう。この先に、何か転機があるやもしれません」
俺たちは隊列を整え、慎重に荒野の奥へと進んでいった。いつまた気流が突発的に噴き出すか、常に警戒を怠らないようにしながら。あの断続的な上昇気流はパターンもなく襲い続け、俺たちは同じ救出と防御の動作を何度も繰り返させられた。体力と集中力が、繰り返すたびに静かに削られていく。
イヤピースの中のコメントも目に見えて静かになっていき、時折こんな言葉が流れてくるだけだった。
『本当に手がかりなしか、こいつどこに隠れてるんだ』
『十人で探してもまだ見つからないとか、これはえぐい』
『そもそも普通の生き物の形をしてないとかあるのか』
『みんな無理しないで、安全第一で』
『この敵が見えない感じの怖さ、前より上』
しばらく歩き続けたが、あの上昇気流は相変わらず断続的に襲ってきて、そのたびに全員が緊張し、同じ防御の動作を繰り返させられた。
「このペースだと、その場に足止めされてるみたいで、どれだけ歩いてもこのループから抜け出せない気がする」
ワカナが疲れ切ったようにため息をついた。
俺は相変わらず霞んでいる前方の荒野を見つめた。同じような不安が静かに胸に落ち着いていく。まるでこの見えない、触れることもできない脅威が、まだ予測できないどこかの瞬間で本当の解決策が明らかになるまで、執拗に俺たちにつきまとい続けるかのようだった。
「何が起きても、一歩ずつ進んでいくしかない」
俺は静かに言い、知恵の書を強く握りしめながら、未知に満ちたその荒野の奥へと一行を導いていった。




