第180話 電光石火
ユウキは勇気の剣を握り直した。青い輝きが混沌とした風の中でかすかに震えている。まず前に出て構えた。
飛行に特化したその生き物が再び急降下してきた。四肢を大きく広げ、鉤爪を空中で冷たく光らせながら、顎と爪を同時に俺たちへと迫らせてくる。
「散れ!」
俺は叫んだ。
風霊鳥の歌のおかげで、今回は反応が明らかに速くなっていた。全員がほとんど苦もなくその攻撃の軌道をかわし、巨体は何も掴めないまま通り過ぎていく。巻き起こった突風も轟音とともに流れ去り、服にすら触れなかった。
「見た目ほど怖くないのかも」
ワカナが息をついた。声には予想外の安堵が滲んでいる。
その生き物も明らかにその変化に気づいたようだった。空中で旋回し、血のように赤い目をこちらにしっかりと据えると、苛立たしげな低い唸り声を上げてから再び急降下してきた。今度は先ほどよりも速く、羽ばたきがあまりに速すぎて、もはや動きの残像にしか見えない。
「速くなってる!」
ユウキが鋭く叫び、辛うじて体をひねってその黒い残像をかわした。鉤爪が肩をかすめる。怪我はなかったが、袖がきれいに切り裂かれていた。
「捕まえられなくて苛立って、本気を出してきた!」
俺は歯を食いしばりながら分析し、かわしつつその動きを追った。速度はすでに反応する余地がほとんどないほどにまで上がっていて、ユウキがかすったことで全員の緊張が一気に高まった。
サチもすんでのところで次の攻撃を転がってかわした。
「このペースだと、いつか誰かが捕まっちゃう!」
声には本物の恐怖が滲んでいた。
俺は空中でますます速く旋回するその巨体を見つめ、あることに思い至った。速さで真っ向勝負をしたいなら、こっちも本気を出す時だ。
「これの出番だな」
俺は長らく手をつけていなかった鈴を取り出した。混沌とした風の中でかすかに揺れながら、澄んだ美しい音色を響かせる。
「承風鈴?」
ワカナが目を見開いた。声には喜びが滲んでいる。
「そろそろ出す頃だと思ってた!」
俺は鈴を握りしめ、深く息を吸い込んだ。
「増幅・木霊」
その音色は一気に広がり、風霊鳥の歌によってすでに重ねられていた強化が瞬く間に何倍にも跳ね上がった。すでに余裕をもってかわせるようになっていたその力が、一気に激しく高まり、全身を巡る力と反応速度がまったく別の次元へと変わっていく。まるで世界全体の時間の流れが急に緩やかになったかのようだった。
「この力……」
ユウキが息を呑んだ。剣の柄を握る手が、これまでのどんな時よりも軽く、そして力強く感じられた。
「まだ終わらない」
俺は歯を食いしばりながら詠唱を続けた。
「増幅・拡散」
鈴の共鳴は見えない波紋となって、俺たち一人ひとりの間を行き来しながら重なり合い、複製されていく。積み重なった強化が坂を転がる雪だるまのように膨れ上がり、その数値の上昇は俺自身でさえ正確に把握できないほど速く、ただその力が終わりなく全身に湧き上がり、広がっていくのを感じるだけだった。
イヤピースの中のコメントが一気に爆発した。
『あの鈴また出た、ステータス爆上がりしてる』
『ワカナたちの周りの光やばい』
『これバフ重ねがけできるって本当?』
『このアイテムの強化幅、完全に壊れてる』
生き物は再び急降下してきた。その速さはほとんど稲妻のようだった。だが承風鈴の強化を受けた今、俺たちの反応速度はすでにその攻撃のテンポを完全に上回っていた。ユウキは軽く体をひねって牙をかわし、その勢いのまま翼膜の縁を斬りつけ、小さな血飛沫を上げる。サチは翠甲羅を構えて薙ぎ払われた爪を正面から受け止め、その衝撃で巨体が目に見えるほど大きくのけぞった。
「もう捕まらない!」
ワカナが興奮した声で叫び、また別の攻撃を軽やかにかわした。
生き物は頭上で旋回しながら、苛立ちと怒りの滲んだ唸り声を上げた。血のように赤い目が鋭く収縮する。速さと力任せの攻撃だけでは、もう二度と俺たちの守りを崩せないと、ようやく悟ったかのようだった。
それは翼を勢いよく畳み、再び急降下することなく空中でぴたりと静止した。代わりに不気味な静けさが辺りを包んだ。
「止まった?」
サチがその動きを警戒しながら見つめた。声に不安が滲んでいる。
俺はその生き物を見つめながら、この突然の静けさは、先ほどまでの猛烈な攻撃よりもむしろ危険なのではないかという予感が膨らんでいくのを感じた。
次の瞬間、その分厚い毛皮がかすかに藍色の光を帯び始め、毛並みに沿って細い電流がぱちぱちと弾ける。そしてすぐに、その電流が急速に開いた顎へと集まり、目もくらむような光の球へと凝縮されていった。
「放電してくる!」
フェアリーの声が鋭く跳ね上がった。これまでにない恐怖が滲んでいる。
この高度の空気は乾ききっていて、しかもずっと高速で動き続けていた。つまりその毛皮には、かなりの静電気がずっと蓄積されていたということになる。
「みんな気をつけろ――」
言い終える前に、その光の球はすでに目もくらむ稲妻へと変わり、まっすぐ俺たちに向かって迫ってきていた。
その瞬間、俺は悟った。どれだけ反応速度を強化されていても、これをかわすことはできない。
電気は、光そのものを除けばこの世界で最も速いものだ。承風鈴がどれだけ馬鹿げた領域まで俺たちの反応を押し上げていようと、空間全体を一瞬で駆け抜ける稲妻には敵わない。
「これはかわせない!」
ユウキが歯を食いしばりながら叫び、剣で受け止めようとしたが、構えを整える時間すらなかった。
稲妻は瞬く間に距離を詰め、目も眩むような白い光が視界を丸ごと呑み込んだ。そして激しい電流が一人ひとりを貫き、鋭い痛みと痺れが一斉に襲いかかる。四肢が一瞬で硬直し、まったく動かせなくなった。
「あああ――!」
ワカナの悲鳴が轟音に混じり、かろうじて聞き取れるほどしか響かなかった。
俺は自分の意識が電流の痛みの中にほとんど呑み込まれそうになるのを感じた。耳の中にはただ低いノイズだけが残り、呼吸すら途切れ途切れになっていく。
生き物は空中で長く勝ち誇るような咆哮を上げた。血のように赤い目には、ようやく俺たちの守りを崩す方法を見つけたと言わんばかりの高揚感が浮かんでいる。
イヤピースの中の視聴者コメントは数秒間途絶えたあと、慌てたように一気に流れ込んできた。
『え、今の光何、ワカナたち大丈夫?』
『まさか全滅?』
『誰か反応して、お願い』
俺は痺れる四肢を無理やり動かし、まだ頭上で旋回しながら次の一撃を溜めているその巨体を見上げた。これまで感じたことのない焦りが胸に湧き上がってくる。承風鈴の力がどれだけ馬鹿げていても、それが押し上げられるのは反応速度と動きの速さだけだ。光の速さを超えさせることは、絶対にできない。
早く対抗策を見つけられなければ、次に落ちてくる稲妻は、俺たちを痺れさせるだけでは済まない。




