第179話 翼に宿る雷
その低い轟きは次第にはっきりとしてきて、風の混沌はこれまでにない頂点に達していた。方向はほぼ一瞬ごとに変わり、左から強く叩きつけてきたかと思えば、次の瞬間には前触れもなく真上から吹き下ろしてくる。舞い上がる砂埃は目をまともに開けていられないほど濃い。
「この風、さっきより厄介だ!」
ユウキが体勢を保とうと踏ん張りながら叫んだ。声は轟く気流にほとんど呑み込まれている。
風霊鳥の歌は俺たちの周りではっきりと響き続けていた。今回はその歌声が一瞬で断ち切られることはない。あの馴染み深い力の高まりが、一人ひとりをしっかりと包み込んでいく。力、反応速度、集中力、あらゆる数値が旋律に合わせて底上げされ、この混沌とした空気の中で頼れる支えになってくれた。
風がどれだけ混沌としていても、その力は一方向に集中しているわけではない。鳥たちにとっても俺たちにとっても、それは深刻な妨げではあったが、完全に地に縛りつけられるほどではなかった。
「今回は少なくとも強化は保ってる」
俺は歯を食いしばって足元を踏みしめた。少し落ち着きを取り戻す。
そのとき、渦巻く雲の中から霞んだ黒い影が突然飛び出してきた。反応する間もないほどの速さだった。
「危ない!」
フェアリーが甲高く警告を叫んだ。
その影は轟音とともに俺たちの頭上をすれすれに通り過ぎていき、猛烈な突風を巻き起こして全員をよろめかせた。俺はどうにか踏みとどまって見上げたが、その影はすでに渦巻く雲の中へと戻っていて、後に残ったのは低く反響するような唸り声だけだった。
「速すぎる!」
ワカナが動揺したまま叫んだ。胸につけた小さなカメラが、その慌てた動きに合わせて激しく揺れている。
イヤピースの向こうのコメントも勢いを増していく。
『何あの速さ、カメラ全然追いつけてない』
『ワカナ大丈夫? 今の突風やばそうだった』
『音は聞こえるのに姿が見えない、怖すぎる』
『ああやって消えたり現れたりするのやめてほしい、怖い』
「みんな固まれ、背中合わせだ!」
俺は叫び、真っ先にその場に立った。残る四人がすぐに詰め寄り、互いをかばい合える円陣を組む。
ジェリーも俺たちの輪の外側にぴったりと身を寄せ、四本の脚を深く地面に食い込ませて体を安定させた。平たい目で頭上の渦巻く雲を警戒しながら見渡し、喉の奥から低い鳴き声を上げる。まるで何かの警戒信号のようだった。
影が再び現れたが、今度はまっすぐ突っ込んでくることはなく、代わりに空中で一度旋回した。速度も少し緩まり、ようやくその全貌を捉えることができた。
それは巨大な生き物だった。全身が濃い焦げ茶色の毛皮に覆われ、周囲の混沌とした気流にかすかに震えている。一対の巨大な翼を広げると、その幅は優に十メートルを超えていて、翼の表面には細かく複雑な模様が刻まれている。羽ばたくたびに、人一人を軽く吹き飛ばせるほどの突風が巻き起こった。頭部は細長く、口は驚くほど大きく開き、冷たく光る牙がずらりと整然と並んでいて、低い唸り声に合わせて開閉していた。
その四肢は――立つための脚ではなく、同じく強力な四本の付属肢で、それぞれの先端には太く湾曲した鉤爪がついている。体の下にわずかに引き寄せられたまま、地面に触れる気配はまったくなく、まるでこの体は最初から生涯を空中で過ごすことを前提に作られているかのようだった。
「あれって……ドラゴン?」
サチが目を見開いた。声には信じられなさと畏怖の両方が滲んでいる。
「ちょっと違う気がする」
ユウキが目を細め、その巨体をじっくりと観察した。
「毛皮があるし、あの翼の構造も、巨大な哺乳類が進化させたもののように見える」
「何であれ、今こっちをじっと見てる」
俺は低く落ち着いた声で言い、知恵の書を強く握りしめながら、頭上を旋回するあの血のように赤い目に視線を固定した。
イヤピースの中のコメントもまた騒がしくなり始めた。
『このデザインかっこよすぎ、毛皮のドラゴンとか』
『コウモリとライオンが合体したみたいな感じ』
『四つ足で立つこともできないとか、進化の方向性極端すぎる』
『最初のボスより明らかに凶暴そう、みんな気をつけて』
その生き物の唸り声が急に高くなり、翼をぴたりと畳んだかと思うと、全身が黒い残像となって俺たちに向かって一直線に突っ込んできた。巨大な顎はさらに大きく開かれ、牙の列が混沌とした風の中で冷たく光っていた。
「散れ!」
俺は叫び、全員が一斉に別々の方向へ散った。
その巨体は、俺がついさっきまで立っていた場所を凄まじい勢いで通り過ぎていった。顎が恐ろしい力で閉じられ、その牙の周りで空気そのものが引き裂かれるような、歯の芯まで震えるような音が響く。あと半秒遅れていたら、あの大きく開いた口に丸呑みにされていたところだ。
「手加減する気、全然ない!」
ワカナが叫び、必死に転がるようにしてその一撃をかろうじてかわした。
標的を外しても、その生き物は落ちることも怯むこともなく、慣れた様子で翼を羽ばたかせ、優雅でありながら死の気配を帯びた弧を空中に描くと、再び旋回して俺たちに向かって突っ込んできた。
「着地する気配がまったくない」
ユウキがその動きを追いながら歯を食いしばった。声には重々しさが滲んでいる。
「それに、空中での機動力、想定していたよりもずっと機敏だ」
サチは翠甲羅を胸にしっかりと抱え、息を切らしながら攻撃をかわした。
「攻撃のパターン、リズムがまったく読めない。左から来たと思ったら次は上から急降下してくる、大地の盗人みたいな一定のテンポとは全然違う」
「この風、もともと混沌としてたからな。たぶんあの乱気流に乗って動いてるんだ」
俺はかわしながら考えを巡らせ、何とかその攻撃に規則性を見出そうとしたが、一貫したものは何も掴めなかった。その巨体は風の混沌そのものと完全に一体化しているかのようで、どの急降下も予測不可能な角度から襲ってくる。
イヤピースの中のコメントも緊張の色を帯びてきた。
『この攻撃パターン、最初のより明らかにきつそう』
『ワカナ気をつけて、あの噛みつき絶対めちゃくちゃ痛い』
『この戦い、想定してたよりずっと激しい』
『みんな無事に切り抜けられますように』
俺は混沌とした風の中を自在に動き回るその巨体と、鉤爪のついた四本の強力な四肢を見つめた。胸の中に不吉な予感が湧き上がってくる。もしあれが本当に「立つ」ことを完全に放棄し、四肢のすべてを純粋な攻撃用に特化させているのだとしたら、この先待っているのは、単なる噛みつき攻撃だけでは済まないかもしれない。
生き物が再び距離を詰めてきた。今度は牙の並んだ顎を大きく開くだけではなかった。四肢もすべて同時に広げられ、鉤爪が空中で冷たく閃く。今にも獲物を空から掴み取ろうとしているかのようだった。
「今度は爪で来る!」
フェアリーの声にはかすかな恐怖の震えがあった。
ユウキは勇気の剣を握り直し、前に出て構えた。青い輝きが混沌とした風の中でかすかに震えている。
「今度は私があいつの攻撃を試す番だ!」




