第173話 巽の窓
俺はピクシーのタトゥーを起動させた。光が再び俺たち全員を包み込み、俺たちは、まだ誰も足を踏み入れたことのない炊事場のあの扉へと瞬間移動していった。
光が消えた瞬間、足元から地面が消えていた。
「うわあああ!」ワカナが驚きの悲鳴を上げ、反射的に手足をばたつかせ、何もない空間を掴もうとした。
俺の心臓は一気に跳ね上がり、胃が急降下する感覚に襲われた。あの馴染みのような、それでいて異質な無重力の感覚が全身を駆け抜けていった――まるで階段の最後の一段を踏み外したように、世界そのものが前触れもなく足元から引き抜かれたようだった。
「落ち着け!飛べるだろ!」ユウキの声が風の轟音の中に響き渡った。彼女自身も隠しきれない緊張が声に滲んでいた。
すぐにそのことに気づき、俺は急いで背中のピクシーのタトゥーを起動させた。馴染みの浮遊感がすぐさま俺の体を捉え、空中で安定させた。隣ではサチも同じ瞬間に体勢を立て直していたが、顔はまだ青ざめていて、指は俺の袖を強く握りしめたままだった。
「今の、心臓に悪すぎる……」体勢を立て直したワカナは、胸を叩きながら息を整えた。声にはまだ文句が滲んでいた。「飛べるって分かってても、あの一瞬は完全に不意を突かれた!」
「あたしも」サチが震える声でぼそりと同意した。「地面がいきなり消えるの、まるでホラー映画を無理やり見せられてるみたいだった」
フェアリーは俺たちの真ん中に浮かびながら、腰まである髪を強風に激しく乱され、薄い羽根も気流に必死に抵抗していた。「この風、今までどこで感じたどんな風よりも強い」
俺は周りを見回し、そこでようやく、この場所の本当の規模を思い知らされた――天井もなく、壁もなく、目印になるようなものすら一つもなく、あるのは果てしなく続く灰色の空と、足元に広がる底の見えない虚無だけだった。
風はあらゆる方向から吹きつけてきて、まるで実体があるかのような重みを伴い、俺たちの服と髪を激しくはためかせた。
「ここは今までのどの階層とも違う」ユウキは目を細め、風の中で懸命に姿勢を保ちながら、轟音に負けないよう声を張り上げた。「渙の泉庭には少なくとも水面っていう目印があったけど、ここには本当に何もない」
「巽の窓……」俺は名前を小さく呟いた。名づけようのない不安が胸に込み上げてきた。「その名の通り、風しかない場所みたいだな」
俺たちは空中に浮かんだまま、慎重に周囲を観察した。風の強さは絶えず変化し、時折渦のようなものを巻き上げては、唸るような轟音とともに俺たちのそばを通り過ぎていき、そのたびに緊張を保って姿勢を調整し続けなければ、巻き込まれてしまいそうだった。
「みんな気をつけろ、この強さの風だと、一瞬の油断で方向感覚を完全に失いかねない」俺はそう警告しながら、この奇妙な空間を把握しようとあらゆる方法を試したが、返ってくるのはぼんやりとした、はっきりしない印象だけだった。まるでここではまだ何も定まっていないかのようだった。
俺は知恵の書を開き、何か手がかりを期待したが、ジェフティは、まるでそれが当然であるかのように、何の記録も持っていなかった。
ワカナが不安げに周囲を見回し、無意識に腰の道具袋を強く握りしめた。「隠れる場所すらないんだね。それがなんだか特に落ち着かない」
「まだ何もないうちから怖がるな」ユウキがきっぱりと言い、周囲を鋭く見渡した。「油断せず、様子を見続けるだけよ」
ちょうどその時、サチが小さく息を呑んだ。「見て、下……」
俺たちは彼女の視線を追った。すると、それまで何もなかったはずの足元の虚無に、いつの間にかかすかな土色の色味が浮かび始めていて、水に落ちた一滴のインクのようにゆっくりと外側へ広がっていくのが見えた。
「あれは……」俺は目を見開き、その徐々に広がっていく色を見つめた。
土色は不気味なほどの速さで広がり、濃さを増していった。それまで形のなかった空間が、次第に確かな手触りを持つ質感を帯びていく。粒状の模様が浮かび上がり、乾いて粗く、まるで本物の砂塵が無から「呼び出され」、一層また一層と積み重なっていくかのようだった。
「この地面……何もないところから突然現れたの?」ワカナはその光景を見つめ、信じられないという声で言った。声にはかすかな震えが滲んでいた。
「気をつけろ、油断するな」ユウキは勇気の剣を握る手に力を込めた。刃が激しい風の中でかすかに震え、低い唸り声のような音を立てていた。「これほど異常な地形の変化は、あまりいい兆候とは思えない」
土色の地面は広がり続け、あっという間に見渡す限りの範囲を覆い尽くし、果てしなく荒涼とした平原を形作った。あちこちに深さの異なる亀裂が走っていて、まるで長い間乾いたまま放置された川底、あるいは何とも言い表せない種類の傷跡のようなものが、この新しくできた大地を縦横に走っていた。
地面が現れたからといって、風が収まる気配はまったくなかった。むしろ何かに掴まる先を見つけたかのように、渦を巻いた砂塵を空中で回転する柱のように巻き上げ、低く唸るような呻き声とともに荒野を渡っていった。
「風と土……」俺は独り言のように呟いた。言葉にならない不吉な予感が胸に広がっていった。「この組み合わせ、何かがおかしい気がする」
フェアリーが俺のそばに浮かびながら、警戒した目で遠くを見渡していたが、不意に羽根が激しく震えた。「主様、何かの気配を感じる。かすかだけど、確かにある」
「どんな気配だ?」俺はすぐさま問い詰めた。
「うまく言葉にできないんだけど……」フェアリーは眉をひそめ、その掴みどころのない印象を必死に捉えようとした。長い髪が風にさらに激しく乱れていた。「ベルゼブブの気配じゃない。もっと……清らかな世界の管理者の力に近いものを感じる」
サチが不安げに俺の手を掴み、声をほとんど囁くほどに落とした。「これって、新しい敵ってわけじゃないよね?」
俺はすぐには答える余裕がなく、息を潜めながら、変化し続ける周囲の空気に神経を集中させた。強風は唸り続け、砂塵は渦を巻き続け、俺たちの足元にできたばかりの地面はどんどん広がり続けていた。まるで一つの世界全体が、この虚無から作り直されているかのようだった。
「みんな落ち着け、急な動きはするな」俺は静かに指示を出し、ゆっくりと高度を下げていき、ようやくその新しく固まった土色の地面に足をつけた。
足が地面に触れた瞬間、奇妙な振動が下から伝わってきた――地震のような激しい揺れではなく、もっと細かく、途切れることのない脈動で、まるで大地そのものがゆっくりと呼吸しているかのようだった。
ワカナとサチも着地し、二人とも足が地面に触れた瞬間、思わず小さく息を漏らした。フェアリーも俺たちの間に降り立ち、ほぼ俺たちと同じ背丈に立って、まだかすかに羽根を震わせながら警戒を続けていた。ユウキは俺の隣に立ち、剣先をわずかに下げて、いつでも対応できるよう身構えていた。
「この脈動……」ユウキは足元のかすかな震えを感じ取りながら眉をひそめた。「まったく普通じゃない」
遠くでは、風に巻き上げられた砂塵が徐々に集まり、ぼんやりとした人影を形作りつつあった。その広大な荒野の縁で見え隠れしながら、揺れる風とともに明るくなったり暗くなったりし、まるで何かがゆっくりとこちらへ向かってきているかのようだった。




