第168話 バス整備場のかくれんぼ
獣は積み重なったバスの中へと姿を消し、それ以来一度も現れていなかった。
俺たちは整備場の端に立ち、何十台ものスクラップバスが交差し積み重なった迷路を前に、誰も動こうとしなかった。
辺りは不気味なほど静まり返っていて、聞こえるのは遠くで燃える炎のパチパチという音と、時折冷えていく金属の立てるかすかな音だけだった。
「隠れてるからって、あたしたちを諦めたわけじゃないわ」ユウキが剣を握りしめ、絡み合った車両の迷路をゆっくりと見渡した。「自分たちで踏み込んで、あぶり出すしかない」
「まっすぐ突っ込むのか?」サチの声には本物のためらいがあった。「あのレーザー、あまりにも危険すぎる……」
「無闇に突っ込むのは確かに危険すぎる」俺は声を落として言った。
「でも、空にいた時のあの命中精度、あんまり良くなかった気がする」ワカナが首を傾げた。「あんたの手に当たった一撃と、地面に外れた他の攻撃、それとピザの腹に穴を開けた一撃、命中率が全然違ってた気がするんだよね」
俺は先ほどの戦闘を頭の中で思い返した。俺たちに対する攻撃のほとんどはかすっただけか完全に外れていたが、ピザと焼き芋に対しては、両方とも恐ろしいほど正確に命中していた。
「ピザと焼き芋、匂いがすごく強いもんね……」サチが不意に、静かにそう言った。「チーズ、ケチャップ、あの甘い焦げた匂い、鼻が利く生き物なら、遠くからでも嗅ぎ取れるはず」
俺は一瞬固まり、それからぱちりと繋がった。
「あいつが当ててきたのは、全部匂いが一番強い相手だ。俺たちの残りは汗の匂い以外、ほとんど何もしないし、あの二人とは比べ物にならない」
フェアリーが俺の肩に降り立ち、わざと羽ばたきの速度を落とした。「つまり単に目が悪いだけじゃなくて、匂いの強さだけを頼りに標的を捕捉してるってことね。匂いが薄ければ薄いほど、正確に命中させるのが難しくなる。あいつが先に攻撃してくるのを待つより、まだ前の一撃から回復しきってない今、優位を活かすべきだわ」
「言うのは簡単だけどな」ユウキは静まり返ったバスの迷路を見つめ、重い口調で言った。「こんな地形に踏み込むのは、自分たちで罠に足を踏み入れるようなものよ」
俺たちは一歩一歩慎重に、バスとバスの隙間へと忍び込んでいった。砕けたガラスとオイルが足元でかすかに音を立て、全員がわざと息を潜め、車両の端に沿って身を低くしながら進んだ。
そう遠くまで進まないうちに、近くから低い匂いを嗅ぐような音が漂ってきて、続いてすぐ、あの見慣れたブルーの光がバスの隙間のどこかで灯った。
「まずい、匂いを嗅ぎつけられた!」ユウキが言い終わる前に、俺はすでにサチを掴んで一緒に横へ転がっていた。レーザーが俺たちが立っていた場所を切り裂き、背後にあったフロントガラス全体に焼け焦げた穴を貫通させ、ガラスの破片が降り注いだ――幸い、今回もわずかに外れていた。
「あたしたちの匂い、まだ命中させるには十分強くないみたいね」ワカナは苦笑いしながら数歩下がったが、不意に何かを思いついたように動きを止めた。
「待って――」彼女は真理の鏡を漁り始めた。表面がいつものように波打った。
「匂いの強さを頼りにしてるなら、逆手に取って、鼻を完全に麻痺させてやればいいのよ!」
彼女はまるで宝箱を漁るように鏡の中に手を突っ込み、瓶を次々と取り出しては足元に積み上げていった。その山はどんどん高くなっていった。
「ラベンダーの香りのキャンドル、バラのディフューザースプレー、ウッディ系のエッセンシャルオイル……これは送料無料にするためだけにネットで買ったドリアンの香りのキャンドル、使う理由が一度もなかったやつ」
彼女はそれらを一列に並べながら、まるで生死のかかった状況の真っ只中にいるとは思えないほど軽い口調で言った。「それとこれ――火鍋スパイスのディフューザー、実はさっきエンヴェルをからかうのに使おうかと思ってたやつなんだよね」
「一体どれだけ変なもの買い込んでるんだよ……」俺は雑多に積み上がった瓶の山を見つめ、一瞬言葉を失った。
「これも忘れないで!」ワカナは次に、色とりどりのおもちゃの山を取り出した――歩けるゼンマイ式のカエル、握るとクワッと鳴くプラスチックのアヒル、まだピーピー鳴り続けているデジタル目覚まし時計、それに踊って歌う変なドッキリ人形まで。
「この音の出るおもちゃで耳を惑わせて、匂いと組み合わせれば、もっとたくさんの偽の標的を作れる」
ユウキはすぐに理解し、目を輝かせた。
「ワカナ、あんたの頭の中、一体どうなってるの?」
「フル装備のショッピングカートってやつよ!」ワカナは片方の眉を上げ、明らかに得意げな様子で言った。
俺たちは手分けして作業に取り掛かった。フェアリーが香りつきキャンドルに次々と火をつけるのを手伝い、バスの迷路のあちこちの角に配置していった。
濃厚なラベンダーの香りに、沈香のウッディな香りと、あの強烈で奇妙なドリアンの匂いがすぐに混ざり合い、幾重にも層を成して漂い始めた。誰もがくしゃみをしたくなるほど濃厚で、ピザや焼き芋から漂う匂いよりもはるかに強烈だった。
ワカナとサチはおもちゃのゼンマイを巻いてあちこちに撒き、勝手に動き回って音を立てさせた。一方、目覚まし時計はそれぞれ違う時刻にセットされ、様々な車両の下に隠された。
「このドッキリ人形……」サチはためらいながら、その奇妙な見た目の人形を手に取り、それからスイッチを入れた。人形はすぐさま腰を振り始め、陽気で不気味な小曲を流し始めた。静まり返った整備場には、あまりにも場違いな響きだった。
ワカナはスマホを見て、配信がまだ続いていることに気づき、慌ててカメラに向かって静かにするよう手を振ってから、小声で呟き続けた。「みんな静かに見守ってて、投げ銭はちょっと待ってね、今から香りつきキャンドルでボスを倒すから」
コメント欄がすぐさま押し寄せた。
『待って、これボス戦なの、それともインテリア雑貨の爆買い?』
『ワカナのこのショッピングカート、マジで恐ろしい』
『ドリアンのキャンドル買う人間っている?死ぬ』
『この光景シュールすぎて腹痛い』
『今この瞬間に笑わせるのやめて』
すべての準備が整うと、俺たちはそれぞれ物陰に戻り、息を潜めて待った。
しばらくすると、獣の様子から音が漂ってき始めた――先ほどまで一定だった足音が乱れ始め、正方形の耳があらゆる方向へ激しく回転し、鼻が忙しくひくつき、どれが本物の標的なのか必死に見分けようとしているようだった。
「匂いを嗅ぎつけたわ」フェアリーが宙で小声で言った。声には興奮の色があった。
獣の鼻先が突然裂け、青い光が灯り、レーザーがまっすぐゼンマイ式のカエルへと向かって放たれた。哀れなおもちゃは一瞬で粉々になり、破片があちこちに飛び散った――今回は速く正確な一撃で、明らかにあの騒ぎに完全に騙されていた。
続いてすぐ、それは激しく別の方向へ振り向き、静かに燃えているキャンドルの一つに向けて発砲した。この一撃は近くのバスの屋根の大部分を、金属の悲鳴のような音とともに削り取っていった。
「食いついてる!」俺は思わず小さく声を上げた。「匂いと音が強ければ強いほど命中精度が上がるってことは、今はあいつ自身の力があいつの足を引っ張ってるってことだ!」
獣は匂いと音の壁にすっかり圧倒された様子で、頭を激しく左右に振り、正方形の耳をあらゆる方向へ回転させながら、何一つ本物を捕捉できず、匂いか音が一番強い方向へやみくもに撃ち続けるしかなくなっていた。
バスが次々と被弾し、貫通しては炎上し、濃い煙がさまざまな匂いと混ざり合って何とも言い表せない奇妙な臭気を作り出していった。
コメント欄はこの頃には完全に崩壊していた。
『ボスが匂い攻撃で朦朧としてる、笑いすぎる』
『この落差についていけない』
『火鍋キャンドル、結局何の役に立ったの』
『本気で怖いのに本気で笑える』
「あいつ、もう何が本当の脅威なのか分からなくなってる」ユウキが物陰から顔を覗かせ、煙の中で激しく回転する獣を鋭い目で見つめた。「今がチャンスよ」
「待て」俺は彼女の肩を掴んだ。「一撃で仕留めようとするな。まだ今は危険だ、迂闊に突っ込んだらレーザーに巻き込まれる」
「じゃあどうするの?」サチが不安げに尋ねた。
「誘導する」俺はまだ燃え続けているキャンドルの山を見つめながら、頭の中で計画を組み立てた。「今、あいつは匂いの強さだけを頼りに動いてる。だったら、わざと一番強い匂いを俺たちに有利な場所へ誘導してやればいい……」
ワカナはすぐに理解し、鏡からもう一本スプレーを取り出すと、特定の方向へ強く吹きかけた。「そっちに誘導しよう、あそこなら開けたスペースが多いから、もっと動き回れる!」
濃厚な匂いがその方向へ広がっていき、獣はまるで見えない糸に引かれるかのように、不器用な足取りでそのスプレーのほうへ向かい、道中でいくつものスクラップバスに衝突し、耳をつんざくような衝突音を響かせた。
ユウキはその隙を突いて音もなく獣の脇へ回り込んだ。刃が炎の光を受けて冷たく輝いた。
「今だ!」俺は小声で鋭く言った。




