第164話 真犯人を探して
配信の中では、いたずら好きの視聴者たちがコメントを次々と押し寄せさせていた。
『うわあ!ケチャップだ!これ待ってた!』
『現行犯逮捕!フェアリーを逮捕しろ!』
『真面目な話、この二国間って犯罪人引渡し条約とかあるの?』
『いやいや、フェアリーは人殺しなんかじゃないでしょ』
『上の人、それどころか、あの男は正真正銘マフィアだったんだよ』
『どっちにしても、生で殺人シーンを見るのはさすがに衝撃だわ』
ワカナは深く心配した様子で、指をかすかに震わせながらフェアリーを見つめていたが、それでもスマホをしまう気配はなかった。
一方でフェアリーはまったく動じておらず、羽根を軽く羽ばたかせながら、いつも通りの気楽な様子だった。正直、もし誰かが本当に彼女を追ってきたところで、観の門に戻りさえすればいいだけだ。FBIだろうがKGBだろうが、そこでは誰も彼女には手を出せない。
「マスミ、これはあたしが意図してやったことじゃないの、分かってるよね」
彼女は俺に誤解されることをまったく心配していない様子で、その口調はまったく落ち着いていた。
「別に罪悪感を持つ必要はない。こいつはどのみち何百回死んでも当然の男だったんだから」俺は彼女を安心させようとしたが、目はどうしても地面の、もう人間だったとは分からない塊のほうへ戻ってしまった。
フェアリーは鋭く息を吸い込み、少し苛立った様子で言った。
「やめてよ!あたしはあいつを殺したことに罪悪感なんて感じてない、それはあんたたち濁世の道徳とか法律の話であって、あたしの価値観じゃないんだから!」
「えっと……」どうやら、俺の心配は的外れだったらしい。
「あんた一人だけに関わることなら、その理屈も通るかもしれないけど、あたしたちは今、視聴者全員の前でこの男が生で死ぬところを見せられたのよ」ワカナの口調が真剣なものへと変わり、フェアリーに対する本物の怒りの色が滲んでいた。
「感傷的なやつらばっかりで、みんな肝心なところを見逃してる。あたしの術に干渉してきたやつがまだどこかにいるってことのほうが、今話すべきことでしょ、もう死んでる男の話なんかより!」フェアリーは俺たちにすっかりうんざりした様子で、声には苛立ちが尖っていた。
「今それが優先なのはその通りだけど、あなたがあいつを直接殺したことは、結局マスミに面倒を招くことになるわ。いずれ後始末をしなきゃいけなくなる」ユウキはもっと落ち着いた見方をしていた。腕を組みながら、マルコの残骸と周囲を交互に見渡していた。
「じゃあ、これをやったやつをどうやって見つければいいの?」サチが不安げに服の裾を握りしめながら小さく尋ねた。
「あいつは、あたしたちが探してるって分かってる」フェアリーはすでに追跡を試みたことがあるような口ぶりで、その声には苛立ちが滲んでいた。
「なんでそう分かるんだ?」俺は眉をひそめて尋ねた。
「あらゆる方向に魔力を放って、どの方向が干渉されてるか調べようとしたの」フェアリーはそう言いながらも指先をかすかに震わせていた。まるでその術の残滓がまだ体に残っているかのようだった。
「へえ……レーダーみたいな感じ?」ワカナが首を傾げて尋ねた。
「レーダーって何?」フェアリーはさっぱり分からない様子だった。
「えっと……誰かがあらゆる方向に弱い雷の魔法を放つみたいなものだと思ってくれ」俺はフェアリーにも分かるように説明を試みた。「それで魔法が跳ね返ってきたら、敵がどこにいるか分かるっていう」
「ああ、あんたたち濁世の人間もそういう手を使うのね。あたしがやったのもだいたい同じ、ただ魔力を直接放っただけだけど」フェアリーは頷き、その声には納得の色があった。
「それで、見つかったのか?」ワカナが問いを重ねた。
フェアリーは首を振った。「どの方向も干渉されて返ってきた。まるであいつがあらゆる場所に同時に存在してるみたいに」
「複数人であたしたちに干渉してるってこともあるのか?」俺は周囲の廃墟を警戒しながら見回して尋ねた。
フェアリーはもう一度首を振った。「それだと辻褄が合わない。あたしの魔力が乱された範囲は、ほとんど完全な円を描いてた。別々の人間がやってるなら、少なくとも時間のずれくらいは感じ取れるはずだから」
「完全な円……まるで完全に包囲されてるみたい」サチは不安げに周囲を見回し、俺のそばへ身を寄せた。もっとも、周りには人っ子一人見当たらなかった。
ユウキが剣の柄を握る手に力を込めた。「包囲、か……いや、違う考え方をしたほうがいいかもしれない。私たちは包囲されてるんじゃない。見られてるのよ」
コメント欄はさまざまな推測でざわめき始めた。
『見られてるってどういうこと、カメラでもあるの?』
『また新しい神様が出てくるとか言わないでよ、もう十分手一杯でしょ』
『待って、コンスタンティンが誰か尾行させてるとか?』
『上の人、それはなさそう、人間の技術でフェアリーの魔法に干渉できるはずないでしょ』
「見られてる、か……」俺はその言葉を小声で繰り返した。その瞬間、何かがぱちりと繋がった気がして、目を空へと上げた。
ユウキも同じように見上げ、納得したように頷いた。「いい線いってると思う。上からなら、コンパスの針みたいに、あたしたち全員を視界に収められるはずよ」
俺は目を細め、慎重に空を探った。
エンヴェルも不安げに空を見上げていた。その顔からは知らぬ間にまた血の気が引いていて、日差しの下で火傷の跡がひときわ青白く見えた。喉が一度上下したが、彼は何も言わなかった。
ワカナは無意識にスマホを胸元に引き寄せ、何かを守ろうとするような仕草を見せながら、俺と同じ場所に目を釘付けにしていた。呼吸が浅くなっていた。
石油タンクからの黒煙はまだ途切れ途切れに空へ立ち上り続け、周囲の空気を歪ませて、遠くの景色をゆらゆらと揺らめかせていた。低く旋回していたカモメたちがまばらに鳴き声を上げ、それから何かに驚いたかのように一斉に散り散りに飛び去っていった。羽ばたきは慌ただしく、混乱していた。
フェアリーの視線も俺と同じ方向を追い、羽根が空中でぴたりと止まった。完全に静止していて、いつもの軽やかさが辺りから消えていた。
遥か遠く、空の高いところに、小さな黒い点が見えた。
それは雲の下でぴくりとも動かず、じっとそこに留まっていた。周りを漂う雲の切れ端とはまったく同調しておらず、まるで誰かに無理やり打ち付けられているかのように、どの方向に風が吹こうとも一切揺らがなかった。
「あれは……」サチも俺の視線を追い、ためらいがちにそう言った。指が俺の袖をきつく握りしめていた。
ユウキは目を細め、懸命に焦点を合わせようとした。「遠すぎて何なのか判別できない」
「ドローン?」ワカナが不安げに推測した。スマホのカメラも静かに空へと向けられていった。
「違う」フェアリーが不意に口を開いた。その声は不気味なほど落ち着いていて、羽根も止まったままだった。「機械の動作音は一切しない。でも、かすかに生き物の脈動が感じられる」
エンヴェルがごくりと喉を鳴らし、わずかに震える声で言った。「そういうものって……鳥、なのか?」
俺は空高くじっと動かないその黒い点を見つめた。不快な冷気が背筋をゆっくりと這い上ってきた。
「みんな、戦闘準備をしておけ」俺は低い声でそう言った。拳を握る手には力がこもり、指の関節がかすかに白くなっていた。
フェアリーが不意にびくりと身をすくめた。その声には、今まで聞いたことのないほどの緊張が滲んでいた。
「マスミ、動いた!」




