第161話 ハルーミの受難
チーズ、オレガノ、バジル、トマトソース、ベーコン、様々な香りが波のように風に乗って漂ってきて、誰もが思わず喉を鳴らすほど濃厚だった。
パン生地はすっかり一枚のピザに姿を変えていた。南欧らしい華やかさをまとい、大げさな動きで踊り出しそうな勢いでこちらへ駆け寄ってきた。自分の体を折りたたんだその姿は、まるで巨大なサンドイッチのようで、折れた生地の縁がリズムに合わせてかすかに脈打ち、中で何かが必死に抜け出そうともがいているかのように震えていた。
「ごめん、ごめん、もうあんまり美味しそうな見た目じゃないんだよね」パン生地は陽気に駆け寄ってきたが、その気軽な口調の裏には気まずさが隠れていた。彼が体を平らに広げた瞬間、焼きたてのピザの香りが一気に押し寄せてきて、まだ湯気がかすかに立ち上っていた。
ベーコン、トマト、バジル、チーズ、ブラックオリーブ、サラミの薄切りが生地全体を覆い、その上の油がたまらない光沢を放っていた。先ほどこの同じパン生地が炎の中に突っ込んでいったところを見た者は、こんなに美味しそうな仕上がりになるとは誰も想像できなかっただろう。
だが残念なことに、彼が持ち帰ってきたのは、世界最悪のトッピングだった――縛られたマルコその人が、なぜか五体満足のまま、ピザの上に乗った溶けたチーズの塊の中に閉じ込められていた。両腕も両脚もそのねばついた塊にがっちりと絡め取られ、身動き一つできなくなっていた。
「うっ――すまん、食欲を台無しにしちまったな」俺は、ピザの上に乗った異様な塊を見つめながら罪悪感を覚えた。この食料部隊たちにとって、食べられない存在になるということが、それ自体一種の死刑宣告のようなものだと分かっていたから、どう慰めればいいのか一瞬言葉が出てこなかった。
「いいって、いいって、また誰かをトッピングすればいいだけだから」ピザは体をぶるっと震わせ、マルコを地面へどさりと投げ落とした。
「ただ……ハルーミの犠牲のほうがずっと大変だったよ」そこでようやく本物の悲しみがにじみ出て、声が低く沈んだ。
「あの……ハルーミはどこに?」ワカナが歩み寄ってしゃがみ込み、パン生地の体についた駄目になったトッピングを一つずつ丁寧に取り除いてやっていた。指先はソースでてかてかと光っていた。
「ここにいるよ!」
ハルーミの声はマルコの体のどこかから聞こえてきた。細く、か細い声で、傷ついたような響きを尾を引いていた。
俺は耳を近づけ、その声が彼にべったりとくっついて溶けたチーズから聞こえてくることに気づいた。元の形は完全に失われていて、焼け焦げた縁を持つ薄くねばついた層となって広がり、マルコの両腕と両脚にぴったりと巻きついていた。
「ハルーミ……これ全部お前なのか?」俺はしゃがみ込み、身を乗り出してよく見てみた。
「そうだよ、僕だ。中の熱があまりにも強くて、僕でさえ溶けちゃったんだ。どんなチーズよりも融点が高いはずなのに!」
その声は鋭く細く、先ほど炎に飛び込んでいった時の自信に満ちたチーズとはまったく別人のようで、頑固な悔しさが滲んでいた。
俺はしばらく探し回ったが、どこに向かって話しかければいいのかすら分からなかった。見えるのは平たく潰れたべたつきだけで、顔のありかを判断する手がかりが何もなかった。
ようやく、マルコの体にくっついた小さな焦げたチーズの塊を見つけた。小さな目、小さな口、細く長い腕を持ち、丸まって縮こまっていて、まるで焼きすぎた小さなおもちゃのようだった。
俺は手を伸ばしてそれを剥がし取った。指先に温かく、かすかにべたついた感触が広がった。
「はぁ!助かった。こんなに小さく縮んじゃったら、もう戦力としてはあんまり役に立たないだろうな……」
彼は本気でがっかりした様子でそう言った。声はまるで空気の抜けたタイヤのようで、二本の細い腕がだらんと垂れ下がっていた。
いっそ一口で食べてしまって、今すぐエインヘリャルに変えてやるべきか?手のひらの上の小さなチーズの塊を見つめながら、そんな考えがふと頭をよぎった。
「ハルーミは、このクズを閉じ込めるために自分の体のほとんどを燃やし尽くしたんだ」
ピザがマルコを蹴りつけた。その声には本物の怒りがにじんでいた。
マルコの口は溶けたハルーミの層でぴったりと塞がれていて、くぐもった怒りの唸り声しか出せなかった。目を見開いて必死に暴れ、逃げ出そうとしていたが、地面の上を無意味に転がるだけだった。
チーズは冷えるにつれて次第に固まっていき、マルコを縛る力はどんどん強くなっていった。かつてはねばついていた塊が徐々に硬く固まり、まるで天然の枷のように彼の四肢を完全に固定してしまっていた。
これほど多くの目がなければ、こいつはとっくに死んでいただろう。俺は悪意に満ちたその目を見つめ、抑えきれないほどの殺意が湧き上がるのを感じた。意図せず拳の関節が固く握りしめられていた。
ユウキが歩み寄り、冷ややかな視線をマルコに向けた。「こういうクズを生かしておくのは、面倒事にしかならないわね」
「とりあえず尋問のために生かしておこう」俺は深く息を吸い込み、その殺意を抑え込んだ。
俺は二人のエインヘリャルを召喚してマルコを押さえつけさせた。二人の武装した兵士がすぐさま進み出て、手際よくマルコの両肩を左右から地面に押さえつけた。それでようやく彼は暴れるのをやめ、切れ切れのくぐもった唸り声を漏らすだけになった。
ワカナが隣でスマホを掲げ、カメラをその場面に向け直しながら、実感のこもった声で言った。「みんな、うちのピザ勇者とチーズ勇者がすごいことをやってのけたよ、拍手してあげて!」
コメント欄がすぐさま押し寄せた。
『この展開すごすぎる、本当にピザで捕まえるとは』
『ハルーミかわいそう、こんなに小さくなっても役に立たないこと気にしてる』
『マスミさっきの表情、正直ちょっと怖かった、我慢してくれてよかった』
『マルコがチーズにくっついてる姿、なんか妙に笑える』
『小さいチーズ君は食べないであげて、可愛すぎる』
『上の人、本気で言ってる?誰かを助けるためにこうなったんだよ』
俺は小さなハルーミのかけらを手のひらでそっと包み込んだ。かすかな温もりを感じながら、声を柔らかくした。「今日、お前はすごいことをやってのけたんだ。家に帰ったら、修復する方法を何とか考えるから」
それを聞いて、ハルーミのだらりとした腕がわずかに持ち上がった。声にも少し元気が戻ってきた。「本当に?じゃあ楽しみにしてる!」
サチはしゃがみ込み、指でそっとピザの端をつつきながら、感嘆のこもった声で言った。「四人ともすごかったよ。今日は本当にありがとう」
ピザは体を大きく広げ、まるで地中海の太陽を全身で浴びようとするかのようにした。生地の縁がかすかに反っていた。「なんでもないさ、全部ご主人様のためだからね!」
フェアリーが俺の肩に降り立ち、二人のエインヘリャルに押さえつけられているマルコを見つめながら、警戒の滲む声で言った。「主様、こいつ、まだまだ厄介そうだね」
俺は頷き、ハルーミをそっと胸元にしまうと、マルコを拘束している二人のエインヘリャルの様子を確認しに向かった。本当に身動きが取れないことを確かめてから、ようやく安堵の息をついた。
それから俺は、少しずつ意識を取り戻しつつあるエンヴェルへと視線を戻した。
彼の瞼はすでにかすかに震え始めていて、呼吸も先ほどよりずっと安定していた。顔にも少しずつ血色が戻りつつあった。
彼に尋ねたいことは山ほどあった。俺は徐々に意識を取り戻していくその顔を見つめながら、目を覚ましたら何から聞くべきか、頭の中ですでに整理を始めていた。




