第160話 あいつ、ミディアムレアに焼けてた
炎から引きずり出されたばかりのエンヴェルは、今にも息絶えそうな様子だった。
全身が火傷に覆われていた。脈はまだあり、呼吸もかろうじて続いていたが、完全に意識を失っていて、胸は浅く不規則に上下し、今にも止まってしまいそうだった。指は少し丸まっていて、爪の縁にはまだ煤がこびりついていた。
「今すぐ応急処置を始めないと」ワカナはすぐさま真理の鏡を起動させた。いつものおどけた様子は一瞬で消え、代わりに珍しいほど鋭い集中力が浮かんでいて、その目つきはまるで外科医に憑依されたかのようだった。
体のほとんどの皮膚が焼け尽きていた。焦げて裂けた部分からは「肉汁」のようなものが染み出し始めていて、まるで直火でじっくり炙られた仔豚のようだった。空気には焦げた肉と血の匂いが入り混じり、まともに直視するのが難しいほどだった。
ワカナの配信カメラが一瞬揺れた。明らかに慌てて地面に置かれたせいで、空と揺らめく炎の光だけが映っていた。
配信の向こう側から、好奇心と焦りの入り混じった質問が次々と押し寄せてきた。
『え、この人誰、探してた対象がこの人?』
『ワカナ?なんで急に静かになったの』
『さっきの映像だけでなんとなく察した』
『これあんまりはっきり撮らないで、この怪我はちょっとキツいかも』
『上の人心配しないで、ワカナは多分アップにはしないと思う』
『はっ!腰抜けどもが、こういうグロい内容こそこのチャンネルの本領でしょ!』
ワカナはエンヴェルのそばにしゃがみ込み、鏡からハサミを取り出すと、素早く効率的な動きで焼け焦げた服を切り裂いていった。炭化した布地は触れた瞬間にぼろぼろと崩れ、静かに地面へ散らばっていった。
それから彼女は生理食塩水の袋を次々と取り出し、惜しみなく注いで傷口を冷やしていった。透明な水が黒ずんだ皮膚の上を流れ、白い湯気を巻き上げながら、鋭いジュウジュウという音が空気に満ちた。
皮膚から湯気が立ち上るなんて……
この男、本当にまだ生きているのか?
炎は収まる気配を見せなかった。タンクの亀裂から明るいオレンジ色の炎が絶え間なく噴き出し、空全体を不穏な暖色に染め上げていた。消防士と警備員たちが野次馬たちを押し戻し始め、サイレンと怒鳴り声が混ざり合って混沌とした喧騒を作り出し、細かい灰が黒い雪のように舞い、俺たちの肩にそっと積もっていった。
警察官の一隊が近づいてきて、鋭く切迫した声で俺たちに命令を浴びせてきた。彼らの拳銃はまだホルスターに収まっていたが、その張り詰めた姿勢が、どれほど警戒し、神経を尖らせているかを物語っていた。瓦礫を踏むブーツの音が大きく響いていた。
彼が何を言おうとしているのか、知恵の書の力を借りるまでもなく分かった。
まあ、これだけの敵意を向けられても、俺には言い返すつもりはなかった。こんな状況で冷静な話し合いなんて成立するはずもない。
普通の人間だったら、言われた通りにさっさとこの場を離れていたはずだ。
だが……
さらなる爆発が次々と起こり、いくつものタンクを空へ吹き飛ばした。トタン板、コンクリートの塊、鉄筋、機械の破片が嵐のように降り注ぎ、空気を切り裂く悲鳴のような音を立てながら俺たちの周りに叩きつけられ、濃い土埃を巻き上げた。
コメント欄が再びざわついた。
『今の爆発やばすぎ、配信の音声完全に割れてる』
『みんな逃げて、そこに留まっちゃ駄目』
『これもう救助任務じゃなくて、サバイバルゲームじゃん』
『上の人、フラグ立てないで、あの四人ならきっと大丈夫だから』
サチは何のためらいもなくエンヴェルのそばに立ち、しっかりと足を踏みしめた。その目には恐怖の色は一片もなかった。彼女は自分自身の幸運――致命的な害を受けないというあの規格外の免疫――に頼って、エンヴェルとワカナの両方を守ろうとしていた。
巨大な鉄板が警察隊のほうへ落下してきた。全員の顔が瞬時に青ざめ、誰一人として避けきれず、口を開けたまま立ち尽くしていた。
ユウキは勇気の剣を振るいながら空へ飛び上がり、刃を何度も閃かせた。赤と青の軌跡が空に幾つもの弧を描いた。パトカーほどの大きさの鉄板は、まるで壊れたレゴブロックのように粉々に砕け散り、地面に音を立てて降り注ぎ、土埃を巻き上げた。
フェアリーが俺の隣で突風を呼び起こし、空を埋め尽くしていた破片を一気に吹き飛ばした。その強風が地面の土埃と灰を巻き上げて俺たち全員を包む盾となり、服が激しくはためいた。
『今のユウキの一撃、めちゃくちゃかっこよかった!!!』
『あの反応速度、人間業なの?』
『フェアリー体は小さいのに風の力えぐい、このギャップ反則すぎる』
『これスクショした、一生自慢する』
俺は笑みを浮かべて警官たちに向き直り、こう告げた。「Ради вашей безопасности вам лучше как можно скорее укрыться.」
(あなた方自身の安全のために、できるだけ早く避難したほうがいい)
警官たちは呆気に取られたように俺たちを見つめ、警戒の表情が瞬時に驚きへと変わった。数秒理解するのに時間がかかった後、隊長らしき人物が振り返り、部下たちに向かって他の場所へ向かうよう怒鳴った。彼らはつまずきそうになるほど慌ただしく動き出し、その中の一人は何度も俺たちのほうを振り返っていた。今見たものが信じられないとでも言うように。
もう誰も邪魔をしてこないと確信すると、俺はワカナの様子を確かめに向かった。
彼女はエンヴェルに点滴を打つ準備で忙しく動いていた。その手つきは、とても初めてとは思えないほど慣れていて、針は彼の腕に残っている数少ない無傷の皮膚部分へ正確に滑り込んでいった。
点滴……そりゃそうだ、彼女ならとっくに用意していて当然だった。彼女は本当に、必要な時に何でも取り出せる、無限のポケットを持った猫型ロボットみたいな存在だった。
「傷口からずっと体液が漏れてる、早く水分を補給しないとショック状態になっちゃう……」ワカナは眉をひそめながら点滴のチューブを固定し、指先で軽く彼の手首に触れて脈を確認した。あのナポレオン時代の軍医から、かなりのことを学んでいたようだった。
俺は妖精の秘醸酒の瓶を取り出した。ガラスがかすかな金色の光を放ち、中の液体が揺れるたびに小さな気泡が立ち上っていた。
「目を覚ましたらこれを飲ませてやってくれ。傷の治りが早くなるはずだ」
ワカナは、あらゆる状態異常を治せる奇跡の飲み物を見つめ、少し考え込んだ。
「別に目が覚めるのを待つ必要ないよね」彼女の顔にすぐさまいたずらっぽい閃きが浮かび、目が輝いた。
彼女は点滴のラインを外すと、瓶の中身をまるごと注ぎ入れた。金色の液体が、チューブにまだ残っていたわずかな透明な液体と混ざり合いながら、ゆっくりと流れていった。
正気の沙汰じゃなかった。
点滴スタンドにワインボトルを吊るして、酒好きの男の血管にそのままアルコールを流し込む、なんてジョーク画像を見たことはあったが、まさか実際にそれをやる人間を目の当たりにするとは思ってもみなかった。
「本当にそれでいいのか?」俺は思わず口を挟んでしまった。声にはためらいが滲んでいた。
「駄目だったら、目が覚めてから考えればいいでしょ」ワカナは顔も上げずに答えた。その手は一度も動きを緩めなかった。
コメント欄はそれを見た瞬間に爆発した。
『待って、ワカナ何やってるの、それ点滴でしょ、酒じゃなくて』
『死んだ、この動き、いかれすぎてる』
『あのミーム、実際にやった人がいるの???』
『上の人、笑いすぎて打つ手が震える』
『これ本当に大丈夫なの、基本的な医療知識どこ行った』
『これもう基本的な医療知識どころか、異世界の知識だから』
秘醸酒は着実にエンヴェルの血管へと滴り落ち、チューブを通ってゆっくりと焼け焦げた腕へ流れ込んでいった。生気のなかった顔にかすかな痙攣が走り、瞼が何かに引っ張られるように震え、呼吸も次第に落ち着いていった。黒く裂けた皮膚の縁には、かすかな赤みが差し始めていた。
サチは彼の血色が少しずつ戻っていくのを見つめ、緊張した表情のまま両手を合わせて何かを小さく呟いた。指先がかすかに震えていて、まるで彼のために祈っているかのようだった。
ユウキは剣を鞘に収め、俺の隣に来て立った。その目はエンヴェルから離れず、目覚めた時にどんな反応をするか身構えているかのような、専門家らしい警戒の表情を浮かべていた。剣を握る手は一度も完全には緩まなかった。
ワカナは袋の中で減っていく秘醸酒の量をじっと見つめながら呟いた。
「早く良くなってよね。まだ聞きたいこと山ほどあるんだから」
フェアリーはエンヴェルの頭上に浮かびながら、徐々に戻っていく血色を興味深そうに観察していた。「何百年もこれを飲んできたけど、こんな使い方を見たのは初めて」
俺がエンヴェルに意識を戻そうとしたその時、タンクのほうからピザとチーズの濃厚な香りが漂ってきた。かすかな焦げの匂いも混ざっていて、風に乗ってどんどん強くなり、みんなの腹が一斉に鳴るほどだった。




