第146話 欺瞞のベリアル
俺は身をかがめ、この魔王にとどめの一撃を放とうとしていた。
指先で雷が踊る。まるで電気椅子のスイッチを、俺の手ですでに引き倒してしまったかのようだった。配信を見ている視聴者たちにさえ、「何かが起きようとしている」焼け焦げた匂いが伝わってきそうな空気だった。
『ベルゼブブ……』
そいつがぶつぶつと呟くのが聞こえた。
自分の名前を呼んでいるのか?
『ベルゼブブ、ベルゼブブ、ベルゼブブ、ベルゼブブ!!!』
声はどんどん大きくなり、最後にはほとんど絶叫のようになっていた。
その声は、破れた喉から布が引き裂かれるように無理やり押し出されてきた。
配信のコメント欄は、まるで倒れた者を踏みつけるように盛り上がった。
『何を召喚しようとしてるの?』
『これって自己催眠じゃない?』
『魔王:自分の名前を叫ぶ!』
『ベルゼブブ!!!!!!!』
彼は怒りに任せて咆哮した。その顔に浮かんだ悲嘆と怒りの表情は、まるで騙されて戦場に送り込まれた絶望的な兵士そのものだった。
顔は苦痛に歪み、左肩の焼け焦げた傷口から血が滴り、テーブルを赤く染めていった。
『おやおや!何をそんなに取り乱している?』
その声は、彼の口から出たものではなかった。
腹の奥か胸の奥深くから、少しくぐもった響きで聞こえてきた。
まるで体の内側からドアを叩いているかのようだった。
『貴様!』
目の前のベルゼブブが突然目を見開いた。まるで末期の診断を言い渡されたかのように。
瞳孔が急速に収縮し、全身が恐怖に喉を掴まれたような様子だった。
『どうして貴様がその中にいる!』
『ああ!前に俺と同じくらいの力が欲しいと言っていただろう?だから俺自身をまるごと貸してやったんだよ』
その声には嘲るような響きがあった。まるで悪意に満ちた童謡のようだった。
ベルゼブブの全身が震え始めた。
『違う、お前が言っていたのはこんな話じゃない!』
彼の声はどんどん甲高くなっていった。まるで追い詰められた野獣のようだった。
俺は眉をひそめた。
一体何が起きているんだ?
こいつは魔王のはずだろう?誰から、それ以上の力を借りる必要があったんだ?
考えれば考えるほど、不安が募っていった。
配信のコメント欄も緊張し始めていた。
『ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って、これどういう展開!?』
『魔王より強いやつがいるってこと???』
『これ詐欺じゃない!?魔界詐欺!』
腹の中の声はどんどん大きくなっていった。
『ちっちっち。ベリアル――貴様は俺たちの誰にも遠く及ばないというわけだ!』
その口調は、まるで満腹に食べ飲みした後の世間話のように満足げだった。
『偽りの名を騙って歩き回り、神々も悪魔どもも欺けると思っていたのか?』
目の前の魔王は突然、慌てたように自分の腹と胸を掻き抱いた。
爪は自分の皮膚に深く食い込んでいた。まるで何かを内側に押し戻そうとするかのように。
『やめてくれ!俺だってこの目でこの世の終わりを見届けたいんだ――』
彼が言い終わる前に、腹が裂けた。
皮膚は内側から引き裂かれたように見えた。血が噴き出し、俺の顔に飛び散った。
血まみれの赤子が、腹の中から這い出てきた。
くそ!
フレイヤの言っていたことは間違っていなかった……赤ん坊だと?
配信を見ていた多くの視聴者がこの光景に耐えられなかった。
『?????????????』
『こんなもの見るために通信費払ってるんじゃないんだけど!』
『これホラー映画確定だろ』
『魔王が出産って???』
『この赤ん坊、不気味すぎるだろ!』
赤子はぷくぷくとした小さな足で立ち上がった。
体にはまだ血の塊がこびりついていて、まるで屠殺場から這い出てきたばかりのようだった。
彼は、俺たちがベルゼブブだと思っていた男に、軽く一礼した。
違う――真実はもう明らかだった。
こいつはベルゼブブじゃない。ベリアルだ。
あの小さな赤子こそが、本物の暴食の王だったのだ。
『礼を言わせてもらうよ、ベリアル』
血まみれの赤子の声は子供のようだったが、その奥には深い悪意が潜んでいた。
ベリアルは、目の前の血まみれの赤子を純粋な憎悪の目で睨みつけた。
顔は蒼白になっていて、まるで魂を吸い尽くされたかのようだった。
『貴様、俺を騙したな。俺に飲ませたのは、貴様の力の結晶なんかじゃ――』
『誤解だな。あれは本当に俺の力の結晶だったんだよ。だが同時に――俺自身でもあった』
血まみれの赤子は両手を振り、体にこびりついた血を払い落とした。
血の滴がテーブルの上に小さな黒い染みをいくつも作った。
『お前は、伏羲がお前をここに封じ込めたと言っていた。俺の代わりに終末のラッパを吹けるよう、力を分け与えると言っていた……』
ベリアルは話すごとに弱っていき、声は今にも切れそうな糸のようだった。
『そのすべてが――俺がお前についた嘘だったのさ!』
小さな赤子はくすくすと笑い出した。
配信のコメント欄。
『魔界詐欺師キング!』
『ベリアル:俺こそが本当の被害者だ!』
『赤ん坊:僕はただ人を食べたいだけだよ』
ウルフフライの群れが赤子のもとに集まってきた。
まるで護衛のように、その羽音が空気全体を震わせた。
『こうすれば、お前は俺の意識をあの封印から連れ出す手伝いをしたことになる――そしてお前の体は、俺が現れるための養分を供給してくれる!』
ウルフフライたちが赤子を宙へと運んでいった。
まるで黒い雲の塊のように、赤子を中心に包み込んでいく。
ベリアルは必死に体を起こそうとした。
胸からはまだ血が流れ続け、腹が裂けた傷口は二度と塞がらないように見えた。
『どうして俺なんだ……』
『お前だけが、十分に強い悪魔だったからだよ。七つの大罪と肩を並べる魔王でなければ、俺を脱出させる力なんてないんだ』
『まったく想像もしていなかった……』
『だが俺はとっくに想像していたさ。人を騙そうとしている奴が、一番大きな隙を晒すものなんだよ。お前は俺から力を騙し取ろうと考えていたが、代わりにこの食いしん坊に腹の中身をきれいに食われちまったってわけだ』
赤子は自分を抱えているウルフフライを怒って叩いた。
『もっと優しくしろ――今、俺の肌はすごく柔らかいんだからな!』
叩かれたウルフフライの翅は歪み、空中でぐらついた。
『さてさて、それじゃあ皆さん、俺はこれで失礼するよ。本当の俺自身を解き放ちに行かなきゃいけないんでね!』
暗い気配をまとったこの赤子を、ウルフフライの群れが護衛しながら、厨房を飛び出し、ヴァナヘイムの空へと姿を消していった。
『ベルゼブブ、ベリアル……伏羲、貴様は一体何をしているんだ』
ヘイムダルは、本物のベルゼブブが消えていった方向を見つめながら、独り言のように呟いた。
その様子からすると、世界のあらゆる細部を見通せるはずの神でさえ、見えないものはあるらしい。
俺は振り返り、瀕死のこの悪魔――ベリアルを見た。
彼は顔を上げた。その目には絶望が満ちていた。
「見逃してくれ、濁世の人間よ。お前も見ただろう――俺はもう暴食の王に対して恨みを持っているんだ――」
俺はそれ以上、彼に言葉を続けさせなかった。
鉤爪をまっすぐ彼の心臓に突き立てた。
指先から、まるで破裂した水道管のように血が噴き出した。
配信のコメント欄。
『マスミ:もうお前の話は聞かない』
『今のツメの一撃、容赦なさすぎ!』
『魔王:うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』
「ああ……お前が今、暴食の王に恨みを持ってるのは分かってる。でも俺は、お前が完全に俺に忠実だっていう保証が欲しいんだ」
【欺瞞のベリアルを撃破】
【経験値+104,857,600】
【特殊アイテム獲得:迷宮の影 第六層】
【ドロップ獲得:堕天使の右翼】
【ドロップ獲得:堕天使の魂の欠片】
【レベルアップ】
新田真澄 レベル22
経験値 65,443,000 / 209,715,200
HP 1,480 / 1,480
MP 510 / 510
反応 34
筋力 32
閃き 36
幸運 34
未割当 28
『欺瞞のベリアルは、あなたの――』
「従者だ」
知恵の書が言い終わる前に、俺は答えを選んでいた。
「復讐のチャンスをやるよ」
俺は、地獄七魔王と肩を並べるこの力が、知恵の書によって自分の配下へと変換されていくのを見つめていた。
雷が俺の周りにちらついていた。
戦場の風が、ようやく止んだ。




