第136話 膠着する戦線
僕は害虫部隊に前進を命じて、ハエの寄生ウジを食い止めさせた。
両軍とも、虫の体を乗っ取ることで戦っていた。僕たちはフェロモンと菌糸を通して、敵は寄生と感染を通して。手段は違っていても、狙いは同じだった。
その結果、戦場には奇妙な最前線が出来上がった。
戦場の最前列には、動きの止まった乱戦帯が一列にずらりと連なっていた。
フェロモンの信号を受け取っていたアリが、ウジに体を貫かれ、六本の脚が硬直したまま、まったく動けない。
頭にウジを飼ったゴキブリは、菌糸で神経系を侵食されていた。触角が下がっては上がり、下がっては上がり、痙攣を繰り返すばかりで、まともな動作にはならない。
支配された害虫たちは、完全に相反する二種類の命令を受け取っていた。凍りついた機械みたいにその場で足を止め、触角だけを硬く震わせ、しかしどちらの方向にも動けずにいた。
戦場の先端には、位置に縫い留められた虫たちがびっしりと並んで、その硬直した光景は、心底不気味だった。
戦場をこう眺めていて、僕はチャンスが来たと確信した。
この膠着はそう長くは続かない。先に打破したほうが優位に立つ。
「前進!」
僕は切風翎を空中に振って、軍勢に押し込みの合図を送った。
その瞬間、フェアリーが僕の腕を掴んだ。声に切迫感が滲んでいた。
「待って――ユウキが変だよ!」
振り返ってユウキを見ると、彼女は地面にうずくまり、頭を抱えて苦悶していた。爪が深く頭皮に食い込み、顎はきつく噛み締められ、額には汗の膜が薄く浮かんでいた。
「ユウキ、どうしたの?」
僕は駆け寄ってしゃがみ込み、彼女の肩を支えた。声から緊張を隠しきれなかった。
「あ――頭が、砕けそう。この虫たちの痛みが――神経も体もバラバラに引き裂かれてる感覚が……」
声が激しく震えて、一言一言を歯の隙間から絞り出していた。
指はまだ頭皮を掻きむしっていた。慎重にその手を引き離すと、指先がかすかに痙攣しているのが伝わってきた。
虫の女王の冠!
もともとこの装備は――虫を操れるという意味で――極めて便利だと思っていた。まさかこんな状況で装着者に牙を剥くとは、想像もしていなかった。
ユウキはそれを被って、僕たちの支配下にある虫全部の神経と繋がっていた。今この瞬間、それはつまり、あらゆる虫の痛みが彼女の頭に一斉に流し込まれているということだった。
僕は急いで彼女から虫の女王の冠を奪い取った。
でも指先が触れた瞬間、害虫たちの内側の痛みが、波また波と僕の意識を叩き始めた。無数の針が一度に僕の頭に突き立てられるような感覚だった。
「うっ……ぐぁっ……これは、キツすぎる……」
痛みで言葉もまともに出てこなかった。膝が抜けて地面についてしまい、額を土に押し当てた。服の下は汗でびっしょりだった。
フェアリーがすぐに、他の二人の仲間を呼んだ。
サチとワカナが駆けつけて、両側から僕に抱きついてきた。二人の腕が僕の肩をしっかりと締めつけて、僕が抱えているものを一緒に分かち合いたいと願っているみたいだった。
フェアリーも飛んできて僕の胸に身を寄せ、羽を絶え間なく打ち続けていた。
虫の群れの痛みは、虫の女王の冠を経由して、僕たち五人全員に流れ込んできていた。神経の重荷を、僕たちは一体となって背負っていた。
そのとき、突然何かが変わった――五人の間にあった心の隔壁が、全て貫かれたのだ。
それは、それぞれ扉を閉じていた部屋の間の壁が、一斉に消え失せて、仕切りのない一つの広い空間になったような感覚だった。
僕は自分の意識が、女の子たちの体を自由に出入りしていくのを感じたし、彼女たちも、なんの障害もなく僕の魂を覗き込んできた。
ワカナの意識は「早く何とかしないと」に貼りついていた。サチは僕のことを想っていた。フェアリーの想いは、苦しんでいる虫たちに全部注がれていて、そこに彼らへの愛しさが混じっていた。
ユウキの意識は、痛みが暴れ狂う荒野だった。膝が抜けかけたその痛みの奔流を、彼女は必死に抑え込んでいた。
そして、五人の意識が一つに融合したその瞬間、僕たちの虫の群れを制御する力は、はっきりと強まった。
虫の体を巡る前線の争いが、こちら側に傾き始めた。
寄生されていた虫たちが動き出して、敵に向かって身を投げ、その一挙一動が、前より断固としたものになっていった。
さっきまでその場に縫い留められていたアリが、大顎を大きく開いて、隣のハエのウジに噛みついた。ゴキブリは頭の菌糸を振り払い、身を翻して、最寄りのフルーツゾンビに飛びかかった。
この生き物たちの体内にある免疫系が、僕たちに有利に働くように書き換えられていた。
僕たちのフェロモン、根、そして菌糸が、虫たち自身の免疫細胞を助けて、内側の寄生ウジを攻撃させたのだ。
体の外に押し出されたウジは、地面の上で身をよじって死に、通りがかったアリにすぐさま運び去られていく。
別のウジは、体内で完全に消化分解されて、切れ端一つ残らなかった。
戦場は、今や完全にこちら側へと傾いた。
僕の部隊は寄生されたフルーツ族を素早く制圧し、集団ごとに包囲して、退路を断っていった。
こちらも今度は、フルーツゾンビの中に自分たちの菌糸を植え付け始めて、彼らの動きを一寸ずつ鈍らせていった。
第一ラウンドの戦闘は、あっという間に終わった。
ユウキは顔を真っ赤にしながら、頭から冠を持ち上げた。指はまだかすかに震えていた。
僕たちの魂のリンクは終了した。
四人の女の子は、どう受け止めればいいのか自分でも掴みきれない精神的な衝撃を、たった今受けたばかりみたいに見えた。しばらくその場に立ち尽くして、自分を立て直そうとしていた。誰もすぐには口を開かなかった。
ユウキが僕を見た。目の中に、これまで見たことのない類の真剣さが宿っていた。
彼女は前触れなく僕の顔を両手で挟み、口に強くキスをした。
このキスにはサチの優しさと、ワカナの直球さがあった。
このキスは、フェアリーがいつもそうするみたいに、何一つ隠さず、全部を差し出していた。
隣に立っていたワカナは、目を見開き口をぽかんと開けたまま、一言も出せずにいた。手のバットが、危うく地面に滑り落ちそうになっていた。
サチの顔は真っ赤に染まっていた。両手で自分のシャツの裾をぎゅっと握りしめていたけれど、その目は僕たちから逸れることを拒んでいた。
フェアリーは宙に浮いたまま、羽を打ち続けていた。どこへ飛べばいいのか分からず、結局その場でくるりと一周回っていた。
そのキスが終わってからも、僕はあの素晴らしい感覚から抜け出せずにいた。
頭の中は真っ白で、周りの騒音は、ずっと遠くから聞こえてくるみたいだった。
エインヘリャルの一人の叫び声が、ようやく僕を引き戻してくれた。
名残を引きずりながら、僕はどうにかその感覚から抜け出して、意識を戦場に戻し、手の中の切風翎をもう一度ぎゅっと握り直した。
僕はフルーツゾンビに集中した。
彼らの中から寄生ウジを完全に取り除いていく、一体ずつ丁寧に、動作はさっきよりずっと手慣れたものになっていた。
それから部隊にも命じて、寄生されていた虫たちからも菌糸を撤収させ、支配下の害虫たちが、あの絡み合った姿勢から少しずつ解放されていくようにした。
フルーツ族は死んだ。
そして僕は、彼らを自分の従者として蘇生させた――本来の姿を取り戻したエインヘリャルが、また僕の隊列に加わっていった。
一人また一人と立ち上がり、果実の殻を脱ぎ捨てて、その下の別々の姿を露わにしていく。褐色の肌の者もいれば、複雑な入れ墨を持つ者もいて、彼らが並んで立つ姿は、まるでいくつもの時代から縫い合わされた軍隊のようだった。




