第137話 蠅の羽音
僕が能力で従者に変換した食料部隊は、単なる僕の部下になったわけじゃなかった。彼らは本来の姿――各時代の精鋭戦士――へと戻っていた。
石斧を握る石器時代の戦士から、鋼鉄のヘルメットを被る二度の世界大戦の兵士まで。
戦場にはこれらの戦士たちが散らばっていた――革の鎧、鉄板の甲冑、羽根冠、迷彩服がごちゃ混ぜに並び、生きた博物館の展示室が、敵に向かって武器を振るっているみたいだった。
銃を撃つ者もいれば、弓を引く者も、槍を投げる者もいた。
中には、蠅が密集している場所に手榴弾を放り込む一人までいた。
鬨の声が戦場のあちこちで上がり、あらゆる言語の叫び声が混じり合って、奇妙で壮大なアンサンブルを奏でていた。
これら偉大なエインヘリャルは、僕への果てしない忠誠を胸に抱えていることに加えて、それぞれの自由意志を持っていた。
そして今、彼ら全員が同じ一つの信念を共有していた――ベルゼブブを絶対に逃してはならない、と。
この魔王こそが、台所の全ての害虫の元凶なのだから。
「饗宴と戦いを楽しんでいたエインヘリャルたちを、堕落した穢れたものに変えたのは、あいつの害虫だ!」
蒸しガニから姿を取り戻したマタカウが、目を大きく見開き、遠くの蠅に向かって舌を突き出した。顔の入れ墨のラインが、歯を食いしばる動きに合わせてかすかに揺れた。
彼の手にある巨大な鋏の兵装が、怒りに震えて金属の擦れる音を立てていた。
この時点で、フルーツゾンビの戦力はもう掃討されていた。
それどころか――彼らは本来の戦士エインヘリャルの姿に戻され、今や僕に仕えていた。
ベルゼブブの前線は今や、一撃にも耐えられないウジの群れになっていた。
ウジたちは僕の兵の弱点を探して潜り込もうとしていたけれど、近づくたびに、まず菌の胞子が彼らの体に降りかかった。
僕が指揮する菌栽培シロアリはすでに、これらのウジを狙い撃ちする菌を培養していた。
その菌の胞子が空中を漂い、ウジの体液に触れた瞬間、爆発的に広がっていく。数秒後には、ウジは丸まって完全に動きを止めた。
戦場の最前線には、青白いウジの死骸が敷き詰められ、エインヘリャルたちの足が一歩ずつそれを踏み潰していった。
フルーツバスケットへの総攻撃の命令を、僕が下そうとしたその時。
髪にケツァールの羽を挿した戦士が、上半身を裸にしてマクアフィトルを手に、勢いよく駆け出した。
道すがら、菌に侵されたウジを何匹も足で踏み潰した。一匹踏むたびに、湿った粘着質の音が弾けた。
彼は黒曜石の武器を高く掲げて、敵陣の奥にいる蠅めがけて跳躍した。
黒曜石の刃が鋭い風切り音を立てて空を裂き、蠅が反応する暇もなく片方の羽が半分削ぎ落とされて、そのまま地面に落下していった。
彼は片膝をついてどっしりと着地し、僕のほうを見上げた。その目には、戦士だけが宿せる荒々しい高揚があった。
その後ろから、プロイセンの青い軍服を着た兵士が、頭上を旋回する蠅にポツダム式マスケット銃で撃ちかかっていた。
一発、また一発と銃声が響き、銃口から硝煙が噴き出す。何匹かの蠅が空から転落して、ダイニングテーブルの縁に鈍い音を立てて叩きつけられた。
彼の装填動作は無駄がなく手慣れていて、肩には百年以上前の戦場で受けた古傷がまだ残っていた。
なるほど――
これは、部下たちに任せる方針で行ったほうがいいかもしれない。
自分たちのリズムを掴んでいく歴戦のエインヘリャルたちを眺めていて、僕はさっき飛び込んで指揮しようとしていた自分が、ちょっと余計だったかもしれないと感じた。
直接指揮を執らなくてもいいかもしれない――ただ、後ろから支援すればいい。
何しろ彼らは、僕が巽の塔に踏み込んで以来、集めた戦力の中でも最強クラスの部隊だ。
僕は無言で一歩下がった。
風霊鳥をさらに何羽も呼び出して、反射神経、筋力、霊感を高める歌を歌わせた。
彼らの歌が幾重にも重なり合って戦場に響き渡り、まるで全ての戦士に見えない鎧を纏わせているみたいだった。
僕自身も風霊鳥の姿に変身して、魔法効率を高めるヴァルナの水の伎楽を演奏し始めた。もう片方の手には承風鈴を掲げて、鳴らして、バフの効果を跳ね返らせた。
ワカナは後方でバットを振り回して、こぼれてきたウジを片付けていた。サチはその傍に寄り添って、自分の運で彼女を守っていた。
ワカナが予想していない角度からウジが近づいてくるたびに、サチは「たまたま」――でも極めて幸運なことに――一歩踏み出して、それをぺしゃんこに潰した。
このエインヘリャルたちも、僕と同じような支援を受けられるはずだと踏んでいた――ステータスを万単位で押し上げてくれる、あの支援を。
でも実際に起きたことは――
エインヘリャルには、何のバフもかかっていなかった。それどころか、逆に敵側のほうがブーストされているように見えた。
「これ、どういうこと?」
ユウキが剣を手に駆けつけてきた。顔いっぱいに驚愕を浮かべ、目を大きく見開いていた。
マタカウが忠実な守護者のように、僕の傍で巨大な鋏を振り回していた。けれど、どんなに振っても、空中を飛び交う巨大な蠅を捉えられない――まるであいつらが、突然速くなったみたいだった。
「妨害されてる気がする!」
僕は叫び返しながら、承風鈴をさらに強く振ったけれど、そこから効果が広がっていかなかった。
ユウキが歯を食いしばって続けた。
「このままじゃ、前線が持たない!」
なんでこうなってるんだ?
僕は目の前の全てを、辛抱強く観察し始めて、原因を探ろうとした。
蠅の羽音以外に、この戦場で風霊鳥のバフ効果を妨害できるものが、正直まったく見当たらなかった。
旋回する蠅の群れを、目がかすむくらいじっと見つめ続けたけれど、それでも具体的な手がかりは掴めなかった。
きっとあの音だと、僕は結論した。
蠅の羽音は、ほとんど気にならないくらいのものから、無視できないほどの大きさへと変わっていた。
今、その音が、風霊鳥のあのチートに近い力を、無効化していた。
「フェアリー、この音、何か特別な特徴を聞き取れる?」
僕は振り向いて彼女に聞いた。
フェアリーは羽を震わせて僕の耳元まで飛んできて、眉を寄せ、数秒間じっと耳を澄ませた。
「この周波数……変。故意に調律されてる感じ」
言い終えると、彼女の表情がぎゅっと引き締まり、指が僕の襟を強く掴んだ。
「何かの歌を演奏してる、みたいな?」
僕は聞いた。
「違う――こちらの歌を打ち消すために、わざと使われてる感じ」
その声には、不安の色が混じっていた。
ちょうどその瞬間、蠅の王ベルゼブブの、苛立った声が聞こえた。
『チッ。ただの下等な人間ふぜいが、我が食事を邪魔するとは!』
その声は空気を伝ってきたんじゃない。頭蓋骨の奥深くから、外に向かって叩きつけられてきた。
低く重厚なその声が僕の頭の中で鳴り響き、僕は足元がふらついて、危うく体勢を崩しかけた。耳の中がブンブンと鳴っていた――蠅の群れが丸ごと僕の頭の中に潜り込んできたみたいだった。
ワカナがすぐさま僕を支えて、もう片方の手でバットを二人の前に横に構えた。彼女は周囲に鋭く目を光らせて警戒した。
「マスミ、顔色ひどいよ――どうしたの?」
声に心配が滲み、眉がきつく寄っていた。
「あ――あいつが、話しかけてきてる」
僕はどうにか言葉を絞り出した。額にはもう汗が浮かんでいて、視界が二度揺れてから、ようやく焦点が戻った。
「誰が話しかけてきたって?」
ワカナが問い詰めるように、声が一段高くなった。
「ベルゼブブ」
僕は乾いた喉で答えた。




