第135話 エインヘリャルの本来の姿を取り戻す
この部隊の長は僕なのに、進退の指揮なんて概念は僕の頭の中には全然なかった。
戦術指揮は老昆布と焼きジャガイモに丸投げした。二人は後方の左右に一人ずつ立ち、片方はカタツムリの殻を口に当てて号令を飛ばし、もう片方はあの太い線の腕を振り上げて、周りの食料部隊の陣形を組み替えていく。
僕は自分で前線へと駆け出した――ど真ん中の最前線じゃない。近接戦闘が得意なタイプでもないんだから。
僕はフォッグシェル・サラマンダーを一列丸ごと召喚して、盾役にした。
湿った皮膚が日の光を受けて濃い緑に光っている。一匹また一匹と前へ押し寄せ、頭部の硬化した装甲でフルーツゾンビを受け止めていく。
隊列は密で、ゾンビがぶつかっても鈍い音が一つ響くだけで、そのまま弾き返されていった。
続いてスピア・ピクシーを次々と呼び出して、テレポート突撃をかけさせた。風霊鳥は後ろにつけて、支援の歌を歌わせ続けた。
その歌が上から降ってきて、体を軽くしてくれる。手足が浮くような感覚で、僕の動きも、明らかにさっきよりずっと速くなっていた。
「僕、まだ本気出してないんだけどな!」
倒れていくフルーツゾンビを眺めながら、僕は勝ち誇った声を上げた。
スピア・ピクシーがゾンビを、一体、また一体と貫いていく。
ゾンビの脇にちらりと姿を現し、長槍で果肉を貫き、次の瞬間には消えて、また次の標的の隣に現れる――目でその軌跡を追いきれないほどの速さだった。
フルーツゾンビは、クロスボウの矢に貫かれた風船みたいに、次々と破裂した。
発酵した果汁が四方に飛び散る。
でも、飛び散ったのは果汁だけじゃなかった。中にいたウジも一斉に外へ飛び出して、次から次へと地面に落ち、あらゆる方向に蠢いて、新しい標的を探し始めた。
そのとき、僕の周りの食料部隊から悲鳴が上がった。
その一角が一瞬で混乱に陥った。退く者もいれば、その場で固まって、手を下ろしたまま、助けに行くべきか逃げるべきか判断がつかず立ち尽くす者もいた。
僕は自分の目で見た。ウジの一匹が、蒸しガニの柔らかい腹の下側を噛み破って、中に潜り込んでいくのを。
カニが激しく身を捩った。エイリアンのフェイスハガーに捕まった人間みたいな動きだった。
彼は不自然な痙攣を起こし始めた。カニの関節ではあり得ない角度に節が折れ曲がり、それから――嘔吐した。
自分の内臓と、すでにウジに消化された自分の身の一部を、一緒に吐き出した。
腐った臭いが、さっきまでのアルコールっぽい空気に混じり込んで、僕は喉の奥がぎゅっと締まった。
その隣で、ホタテが仲間が乗っ取られて寄生される様子を、恐怖に見開いた目で見つめていた。ホタテの殻がぱくぱくと、激しく震えるようなリズムで開いたり閉じたりしていた。
最後の瞬間、蒸しガニは覚悟の宿った目で僕を見た。
ハサミはもう抵抗するのをやめていた。今はただ、かすかに震えているだけだ。あの柄眼が真っ直ぐ僕を見つめて、僕の決断を待っていた。
彼が何を求めているのか、僕には分かった。
僕は前に駆け出して、ダイアガストロポッドの割殻大槌を呼び出し、蒸しガニの頭に叩き落として、彼と中のウジを一緒に粉々にした。
正直、既に料理されて食べ物になったカニが、まだ生きていると言えるのかどうか、僕には分からなかった。もう一度殺すなんてこと、そもそも可能なのか?
でも、撃破通知がちゃんと表示された。
暴食寄生ウジ撃破
Exp +800
ヴァンの饗宴のエインヘリャル撃破
Exp +6400
ヴァンの饗宴のエインヘリャル?
死後も戦い続ける伝説の戦士たちは、みんなヴァルハラのどこかにいるものだと、ずっと思っていた。
僕はすぐに蒸しガニを蘇生させた。
「あなたを家族として守ろう――マタカウの巨爪はあなたのものだ」
彼はカニの爪を下ろすと、人間の姿へと変わった。
羽毛でできたマントを羽織り、下は素足に編み込みのスカートをまとい、緑石のアクセサリーをいくつも身につけていた。
マントの羽が動きに合わせてふわりと揺れ、その下から引き締まった胸元が覗いた。
がっしりした体つきで、肩幅も広い。全身の筋肉には、長年の鍛錬による瞬発力が刻まれていた。
長い髪はまげに結い上げられ、羽が一本刺されている。
顔には血筋と一族と功績を示すタ・モコが刻まれていた――そのラインは額から顎まで走り、骨に彫り込んだのかと思うほど深かった。
視線は鋭く、佇まいそのものに威圧感があった。
「うわ、かっこいい!」
僕は人間の姿になったマタカウを見つめた。彼は――死と、僕の変換を経て――もともと自分に属していた姿へ戻ったんだ。
「今、自分で名前を言ったよね。ってことは、昔は人間で、記憶を取り戻したってこと?」
僕は聞いた。好奇心があまりに強すぎて、周りではまだ戦闘が続いているという事実を、一瞬忘れかけていた。
「その通りだ」
彼が頷いた。声は低く落ち着いていて、多くを経験してきた人間の重みがあった。
この人にはたくさんの物語があるんだと感じた。たぶん、この食料部隊の集団全体が、見た目より遥かに複雑なんだろう。
でも今は二軍が激突する戦闘の真っ最中で、これ以上聞いている余裕はなかった。
僕はその疑問を頭の中にしまい込んだ。戦闘が終わってから、ちゃんと聞くことにしよう。
ワカナが駆け寄ってきた。バットを振り上げたまま、目を見開いてマタカウを凝視していた。
「あいつ、ついさっきまで蒸しガニだったよね?なんでイケメンになってんの?」
彼女はバットを振って、飛びかかってきたウジを叩き落としながら叫んだ。声には驚きと、隠しきれない興奮の色が混じっていた。
「戦いが終わってから聞いて!」
僕も撃ち返しながら、切風翎で近づいてきたフルーツゾンビを突き刺した。
ワカナは舌打ちしたけれど、それでもマタカウをもう一度振り返って見てから、身を翻して戦闘に戻っていった。
戦場を見渡すと、かなりの数の食料部隊が寄生されていた。
彼らの仲間たちが、顔をぎゅっと引き締めて、その苦しみに終止符を打っていく役を担っていた。
僕は一人ずつ、彼らを従者に変換していった。
僕の隊列に、ありとあらゆる戦士たちが現れ始めた――革盾と長槍を携えたズールー戦士、熊の毛皮をまとったヴァイキングの襲撃者、刺青を入れた半裸のケルト戦士……
人間の姿を取り戻した瞬間、それぞれが短く鋭い咆哮を上げた。長い間押し込められてきた記憶を、一気に吐き出すみたいだった。
彼らの手の武器はどれも違っていた――槍、戦斧、湾刀――どれも日光の下でそれぞれの光を放っていた。
まさに、神々がここに集めた戦争博物館そのものだった。
人間の姿に戻ったこのエインヘリャルたちの戦闘能力は、爆発的に跳ね上がった。
ただし同時に、彼らにはもう二度目のチャンスはない。
ウジは彼らのことも寄生できるのだ。
ユウキが剣を手に僕の隣に駆けつけ、飛びかかってきたゾンビを一太刀で斬り倒した。刃から果肉の雫がいくつか、地面に飛び散った。
「このウジ、狙いがはっきりしてる――エインヘリャルを狙い撃ちしてる!」
彼女は状況を観察しながら、判断を口にした。
「人間の姿に戻った人を、感知できてるってこと?」
僕は聞きながら、近づいてきたゾンビを払いのけた。
「その可能性は高い」
彼女は眉をきつく寄せ、剣を握る手にさらに力を込めた。「どちらにしても、あの人たちを優先して守らないと」
言うが早いか、彼女はすぐに身を翻して、人間の姿に戻ったばかりで手足の感覚をまだ掴み切れずにいるヴァイキングの襲撃者のほうへ駆け出し、そいつに飛びかかったウジを一閃で斬り裂いた。
「昆布じいさん、何とかしてくれ。ウジが仲間にどんどん寄生してくる」
僕はメッセージのアワアワ銃を構えて、メッセージを撃った。泡は僕の切迫した口調を乗せて漂っていった。
数秒後、こちらの戦闘陣形が動いた。
クーリエアント、トレント、菌栽培シロアリが前に出て、支配下の大量の害虫を引き連れて、ゾンビとウジを堰き止めにかかった。
その害虫たちは波また波と押し寄せ、エインヘリャルに潜り込もうとするウジを迎撃し、噛みつき、絡めとり、地面に埋めていく。戦場の最前線が一気にぎゅうぎゅうになった。
もう戦場は、地表で刃をぶつけ合うだけじゃなかった。
最前線の――フルーツゾンビと害虫たちの体内で――ミクロの縄張り争いが、繰り広げられていた。




