第131話 もつれ合う乱戦
ネズミの群れには、アリの巣のような何万という規模はなかった。
でも巨大ネズミ一匹で普通の戦士百人分の戦闘力があるとなれば、この群れの戦闘能力は、たぶんアリの十倍以上になる。
最初は、こいつらの弱点のほうがアリよりも致命的だろうと思っていた。
何しろ哺乳類だ――喉、脳、心臓、どれも一撃で命を奪える急所だ。
体中に神経節が散らばっているシロアリやゴキブリとは違う――あいつらは首を切り落としても、死んだことにすらならない。
でも、哺乳類が地表の世界を支配しているのには理由がある。
このネズミたちの俊敏さは、アリのそれとは比較にならなかった。
僕はダイアガストロポッドの割殻大槌を取り出した。一撃必殺の威力で、グラトン・ジャイアントラットを威圧するつもりだった。
大槌は重い。普通の敵なら、僕が構えるのを見ただけで、まず躊躇したはずだ。
でも素早いネズミたちは、明らかに僕の手の中の重い武器を大したものとは思っていなかった。大槌を振り上げるたびに、彼らは横に二歩跳んで、僕の脇から回り込んできた。
僕の手首を見ている。僕が動くと同時に動く。タイミングの精度に、首筋がぞくっとした。
ネズミは齧歯類の中で最も知能が高いと、誰かが言っていたのを、ぼんやり思い出す。
今、僕はそれを疑いなく信じた。
苦労して、僕は風の香讃のブーストで自分の動きを速め、グラトン・ジャイアントラットを数匹、回避の余地がない場所まで追い詰めることに成功した。
でも、大槌を一発叩き込んだ後……
HP -243
このダメージは微妙だった。
グラトン・ジャイアントラットには殻がない――殻持ち対象へのボーナス補正は適用されない。
たった二百ちょっと……
さっきの二匹の猫の防御力が、よっぽど低かっただけだと気づいた。
そしてこの程度の攻撃力じゃ、ネズミは死なない――傷を負ったネズミは、すぐに群れの中に逃げ込んだ。
後方のネズミ王が二、三回チューチューと鳴いた。すると、傷を負ったネズミは即座に、無傷の別のネズミと守備位置を入れ替えた。
これは文字通り、トップレベルのRTSのマイクロ操作だった。
ネズミ王はその場に座っているだけで、視線が戦場を行き来し、彼の一鳴き一鳴きが個別の命令だった。
彼にマップは要らない。彼自身がマップなのだ。
ネズミ一匹一匹のHP、位置、攻撃状態、すべてを把握している。
こいつを相手にした戦いでは、こちらの兵力の消耗速度は、彼が自軍を入れ替える速度を上回ることはあり得なかった。
大槌を振り下ろし、振り上げる前に振り返ると、無傷のネズミが僕に飛びかかってきていた。
反射的に左腕を上げて防いだ。
二本の長く鋭い門歯が、僕の左腕の皮膚と肉を、まっすぐに貫いた。
「ぐぁっ――」
僕は痛みの叫びを抑えきれなかった。
グラトン・ジャイアントラットが僕の尺骨に食い込んでいた。鋭い痛みが走り、左腕全体が一瞬で痺れて、頭の天辺にめまいの波が押し寄せてきた。
背中のシャツに、すぐに汗が滲み始めた。
これまで何度も噛まれてきたけれど、骨にまで届く噛みつきは、虫に噛まれるのとは全くの別物だった。
僕は迷いなく割殻大槌を取り落とし、無理やり切風翎を引き抜いて、グラトン・ジャイアントラットの喉に突き立てた。
ネズミは激しく暴れて、僕の腕を引きずって全身のバランスを崩した。
その突きは、案の定、外れた。
ずれた切風翎は空中に弧を描き、最後にはネズミの耳の先をかすめただけだった。
HP -78
ネズミ王がもう数回チューチューと鳴いた。
すると、七、八匹のグラトン・ジャイアントラットが、本来の標的から離れて、僕のほうへ向き直った。
これはまずい!
僕が集中砲火の最優先標的にされてしまった。
集団攻撃には、いつも部下を分けて掃討するか、ミストキャノンの絨毯爆撃で対処してきた。
でも今は、二つの軍勢が絶望的に絡まり合った近接戦闘だ――広範囲攻撃を撃てば、こちらの味方まで巻き込む。
僕は突進してくる七、八匹のネズミを見て、その瞬間、B級ゾンビ映画の最初の犠牲者にでもなった気分だった。
切風翎を強く握っているけれど、四方八方から迫ってくるものに対して、どれから刺せばいいのか分からなかった。
「トレギュルの左手!」
サチの声が聞こえた。
僕の足元に旋風が巻き起こり、僕に飛びかかっていたネズミたちが風に巻き込まれて、空中に吊り上げられた。爪が空を切るばかりで、何も掴めない。
「ビュゴルの右手!」
一筋の炎が空中に唸りを上げて駆け抜けた。
HP -579 HP -698 HP -1299 HP -751……
巨大なグラトン・ジャイアントラットたちは空中で身をよじって痙攣し、旋風の中で生きたまま焼かれていった。
顔を上げると、ピクシーのタトゥーを発動させて宙に浮いているサチがいた。
片手には縁に炎を燻らせる猫の手の棍棒。もう片手には、気流の循環を纏った猫の手のガントレット。
その表情は集中していて、僕は一瞬目を奪われた――戦場での彼女を見るのは、本当に久しぶりだった。
その立ち姿、その目の色――一瞬、彼女が少しだけ大人になったように見えた。
でも、彼女の目が僕を捉えた瞬間、集中していた表情が、満面の笑顔に変わった。
「サチ!」
僕が口を開く前に、別の方向から駆けつけてきていたユウキが、僕の傍を駆け抜けて、サチに飛びついて抱きしめた。
「ようやく戻ってきた!」
声に隠せない喜びが滲んでいて、ずっと胸に抱えていた心配が、ようやく下ろせたようだった。
サチは抱きしめられて息もできないくらいだったけれど、ユウキを抱き返して、にっこり笑った。
「あらあら、私たち助けに行くつもりだったのに、助けられたのはこっちか」
ワカナも歩いてきた。腰に手を当てているけれど、口角が上がっている。
彼女はサチの手の二つの武器に目を向け、目を輝かせた。
「何これ?猫の手の武器?可愛すぎるんだけど!」
「あとでちゃんと教えるよ」
サチはさらに明るく微笑んだ。
「サチの新しい武器、このネズミたちを片付けられる?」
フェアリーも僕の傍に降り立った。表情からして、彼女自身、何か不満そうだった。
たぶん、追い詰められた僕を救うのは、自分の役目だったと思っていたんだろう。
僕が目をやると、彼女はすぐに目を逸らして、戦場を見つめるふりをした。
その仕草に、思わず吹き出しそうになった。
「うーん……この新しい武器二つで、一気にたくさんのネズミを燃やせるけど、でも――」
サチは戦場で続いている乱戦に目をやり、少し困った様子を見せた。
「両軍がここまで密集して絡み合ってると、味方を傷つけずにネズミだけ一掃するのは難しい。違う?」
老昆布は、僕が派遣した隠密部隊の援護を受けて、ようやく追ってくるネズミを振り切ったところだった。
彼はカタツムリに乗ってこちらへやってきた。息を切らし、昆布の繊維が風に乱れていた。彼のこんなくたびれた姿は珍しい。
サチは驚いたように老昆布を見て、それから頷いた。
「まさにその通り」
老昆布は僕の前まで来て、片膝をついた。
「我が主、この老人、人を見る目を誤り、ネズミ王を信じてしまいました。まだ、私の進言をお聞き入れくださるかどうか――」
口調には謝罪があり、同時に、跪くというその仕草が、彼の忠誠と自責の両方を伝えてきた。
老昆布ほど尊敬される人物が、こうも軽々と身を低くするべきじゃない――長老にとって、この動作の重みは、決して小さくない。
「外交で敗れたんであって、戦術で敗れたわけじゃない」
僕は急いで彼を引き起こした。
「全くの別領域だよ。戦術については、これからも進言が必要だから」
「我が主……」
彼は立ち上がった。声に、僕が示した認識への感謝が滲んでいた。
膝の草の屑を払い落とすと、その目に、僕が信頼できると感じられる、あの鋭さがゆっくりと戻ってきた。
「それでは、我が主はお気づきでしょうか――サチ様の炎の一閃の後、これらのネズミたちは、我が主が連れてきたアリやゴキブリよりも、激しく息を切らしておるのです」
老昆布は、後方で隊列を組み直しているグラトン・ジャイアントラットの何匹かを指さした。腹は大きく波打っていて、何匹かは口さえ開けていた。
口の端には湿った光沢が浮かんでいた。
「哺乳類の肺活量は昆虫より大きいですが、その分、酸素の消費もずっと速うございます」
老昆布が言った。「密集した近接戦闘の後は、息を整える時間が必要なのです」
僕は息を切らしているネズミたちを見つめ、頭の中でその言葉を二度反芻した。
彼が何を言いたいのか、おおよそ察しがついた。




