第132話 これは火攻めには入らない
「でも、僕たちもあのネズミと同じで、酸素を速く消費する生き物じゃないの?」
僕はわざと反論を投げかけて、老昆布の頭の回転が、挫折のあとも前と同じくらい冴えているか確かめようとした。
同時に、アワアワ銃で仲間たちに集合の合図を撃ち出した。
「ふっ――それは我が主のご心配には及びません」
老昆布の表情は、まったく揺らがなかった。
「あのネズミたちは我らより体が大きく、しかも動きはより速い。明らかに、酸素消費量は我らよりはるかに多うございます。どう転んでも、ネズミのほうが我らより先に意識を失うか、戦闘不能になりましょう」
サチが僕の隣に座り込み、二つの猫の手の武器をしまい、幸運の指輪を外して膝の上に置いた。一戦終えたばかりの様子だったけれど、顔色はまだ良かった。
ユウキが歩み寄ってサチの隣にしゃがみ込み、自分がまだ飲み切っていなかった水のボトルを差し出した。サチはそれを受け取って、大きく一口飲んだ。
ユウキの視線が、しばらくサチの顔の上に留まっていた。本当に怪我をしていないか、確かめているようだった。
「平気?」
彼女が聞いた。
「すっごく平気」
サチが微笑んだ。
「ユウキたちがいない間に、いろいろあったの。あとで全部話すね」
ワカナが鏡から棒つきキャンディを取り出して、包みを剥いて、そのままサチの手に押し付けた。
「糖分補給して」
自分の妹の面倒を見るような口調で言った。
サチはキャンディを口に放り込み、満足げに「んー」と漏らし、目を細めて笑った。
フェアリーが僕の傍に降り立ち、サチの手の中の猫の手の武器をちらりと見て、それから僕に目を向けた。
「その武器、どこから来たの?」
彼女の口調には、名状しがたい何かがあった――好奇心、あるいはもっと踏み込んだ何かだ。
「あとで説明する」
僕はそう言って、彼女を一歩脇へ連れて行った。
「二つ目の質問」
僕は老昆布との話を続けた――半分は彼の判断力をもう一度試すため、もう半分は実際、細部を詰める必要があったからだ。
「ここは開けた場所だ。アリの巣の状況とは違う。ここで酸素を燃やし尽くしても、周りからすぐに補充されるよ」
老昆布が僕を見つめた。すでに答えを出している、というあの落ち着いた眼差しだった。
「我が主、風の流れを操ることはお出来になりますね?燃焼後の酸素の薄い空気は上昇いたします。気流を操って、それを押し下げ続ければよいだけのこと」
「ご老人、本当にすごい」
ユウキの声に、心からの敬意が滲んでいた。
「アリの巣で私たちが追い詰められたあの状況を、もう敵に向けて使う形に転換しちゃってる」
「お嬢様、お褒めいただきすぎでございます。老人にはもったいないお言葉」
老昆布はまだ片膝をついたままだった。
はあ……
たぶん、ネズミ王の件で一度判断を誤ったから、彼は今、すっかり下僕のように振る舞っている。
お年寄りの前に主人気取りで立ちはだかるなんて、僕の育った文化に全然合っていない。
彼の責任感と無力感には吐け口が必要なんだと分かっているけれど、このいき過ぎた礼儀正しさを、どうやって解いてあげればいいのか、正直分からなかった。
そのとき、傍に座っていたワカナがぴょんと跳ね起きて、老昆布の首――首はないんだけれど、昆布の繊維が生え始めるあたり――に片腕を回して、まるで親友に話しかけるみたいな口調で明るく言った。
「いい作戦じゃん!マスミ、ガスマスクも配ろうよ。たぶんもっと長く粘れるよ」
老昆布は一瞬固まり、それから顔を上げて、真摯な眼差しで僕と目を合わせた。
僕は、いい提案を聞いた時の表情を返した。
それから彼の反対側に回り込んで、ワカナと同じように片腕を回した。
「昆布じいさん、いい案だね、これでいこう!」
ワカナはいつも遠慮を捨てて、気まずい空気をぶち壊してくれる。
彼女がいなかったら、本当に途方に暮れていた。
「サチ、その武器、使用回数とかに制限はある?」
僕は聞いた。
「今のところ見た感じ、ないみたい!」
彼女は立ち上がり、左にガントレット、右に猫の手の棍棒を構えて、手首を振った。
「ここ、盛り上げちゃおうよ!」
蛇と虫がネズミを乱戦に縛りつけている間に、僕は食料部隊を集めた。
食料部隊がマスクを顔に下ろすと、部隊全体が一瞬で覆面の盗賊団の見た目に戻った。
「よし、みんな構えろ」
焼きジャガイモが隊列を組み直した。顔には前の戦闘の跡がまだ残っていたけれど、目はすでに、戦闘前の兵士のあの澄んだ色に戻っていた。
戦場はまだ混沌としていた。ネズミの群れと僕たちの戦力がしっかり絡み合っていて、一回の広範囲攻撃で一掃できる状態じゃない。
「いくよ!」
サチが右手を高く掲げ、ビュゴルの右手の縁にオレンジ赤の炎が灯った。さっきよりも明るい。彼女の武器の扱いに、自信が乗ってきている。
彼女は右手を持ち上げて炎の熱を感じ取り、視線を真剣に茂みの縁に据えた。
そして、深い草の方向へ向けて、空中に大きく弧を描いた――
弧の中心から炎が噴き出した。爆発の速度は僕が思っていたより速くて、低く重い轟音と一緒に来た。僕は思わず半歩下がった。
草はもう台所の外の空気で十分に乾燥していたから、炎に触れた瞬間に燃え上がった。茎から茎へと、細かいパチパチという音を立てて広がっていく。
ネズミと害虫が互いに戦闘で絡み合っていた。火が来た時、何匹かが本能的に逃げようとしたけれど、ちょうど戦っていた相手に背後から攻撃されてしまった――これは両軍ともに起きていた。
逃げる衝動をこらえて、その場で殴り合いを続ける者もいた。
「もう一発、左に!」
僕は声をかけた。
サチはもう振り返って、左手のトレギュルのワールウィンド・クロウを高く掲げていた。握り拳の隙間から強い気流が螺旋を描いて吹き出し、茂みを中央に向けて押し込み、ぎゅっと密集させた。
右手がすかさず追撃の炎を放った。
今度のはさらに大きかった。何列もの草が燃え上がり、炎が空に向かって跳ね、周囲の空気をかすかに歪ませた。
火の輪が出来上がった。戦場にいるどの生き物も、もう抜け出せない。
「やっぱり!」
サチが叫んだ。声に、戦闘中の彼女特有のあの興奮の火花が宿っていた。
僕は風の魔法を使って、燃焼で発生した二酸化炭素を含む熱い空気を地表に押し下げ、周りのまだ新鮮な空気を外周へ押し出した。
フェアリーが僕の傍で羽を広げ、風の魔法の制御の一部を引き受けてくれた。
彼女の風刃は攻撃のためじゃなく――薄い一枚一枚を重ねるように展開して、見えない空気の壁を作り、消費済みの空気をネズミの活動範囲に閉じ込めていた。
「何やってるの?」
僕は聞いた。
「酸素の薄い空気を外に逃さないようにしてる」
彼女は自分の壁を見つめた。
「あのエリアの中に、もう少し閉じ込めておくの」
老昆布がカタツムリの上から目を向けて、頷いたけれど、何も言わなかった。
ネズミたちが息を切らし始めた。
最初の兆候は、足運びが乱れたことだった――あの精密な交代制、ユニットの入れ替えに遅れが出始めた。まるでRTSのゲームでネットラグが起き、命令と実行の間に時差が広がっていくみたいに。
ネズミ王のチューチューという鳴き声は、リズムのある命令から、短く切れた音へと変わっていった。彼が押そうとしているのに、押されているネズミの反応が鈍くなっているような感じだ。
何匹かのネズミが、自分の顔を前足で掻き始めた――その動きが、空気の薄い高山で人がふらつく時の様子を思い出させた。
「ムカデ、突っ込め!」
僕の害虫戦力も酸素の低下の影響をまったく受けていないわけじゃなかったけれど、ネズミに比べれば、状態はずっと軽かった。
ムカデが横から突っ込んだ。今度は三匹のネズミに群がられることはなかった――二匹だけで、しかも両方とも反応が半拍遅れていた。
ムカデが一匹目に噛みついて、毒液を注ぎ込んだ。
二匹目も逃げ切れなかった。ユウキの勇気の剣が、上の角度から振り下ろされた。
HP -941
「これでこそ」
ワカナが横でぱんと手を叩いた。
彼女は真理の鏡から複製した切風翎を握って、よろめいているネズミの首の後ろに投げつけた。
HP -891
ガスマスクを装着した食料部隊の本隊が、息を切らしているグラトン・ジャイアントラットを一匹ずつ取り囲み始めた。
戦場のリズムが、こちら側に傾き始めていた。
僕はネズミ王のほうにちらりと目をやった。
彼も息を切らしていたけれど、他のネズミほど目に見えてはいなかった。
後ろ足で身を屈め、目はまだ戦場を行き来していたが、チューチューという声は、命令というよりも、ただの焦った急かしの音になっていた。
戦場に残るネズミの数が、少しずつ減っていった。
空気の酸素濃度は、僕の害虫たちですらもう耐えられないところまで下がっていた。
ネズミ王には、形勢が逆転したことが分かっていた。その目には、もう絶望が滲んでいた。




