第119話 掘る時間だ!
酸素が尽きる!
このままじゃ持たない。
確かに、僕たちの後ろで菌をコントロールしていた菌栽培シロアリは、炎の中で丸焦げになっている。
でも、こっちまで窒息の危機に巻き込まれて、このままじゃシロアリと相討ちで全滅しかねない。
僕とフェアリーは急いで風の魔法を起こして、外から新鮮な空気を引き込もうとした。
でも、風の魔法が空気を集めるというのは結局のところ、周りにある空気をかき集めているだけだった。
酸素の薄い空気を集めても、結局酸素の薄い空気のままだ……
最も基本的な風の魔法の中で、僕がこれまで使ってきたのは二つの形だった――鋭く絞り込んだ風刃と、一方向の突風。
視界の範囲内なら、風を操るのはそう難しくない。
理屈で言えば、今は突風の形を使って、通路から淀んだ空気を押し出すべきだ。
でも巣の中はほぼ密閉された空間で、空気は何かが入ってこなければ出ていけない。
一方向の排気だけじゃ気圧が崩れて、最後には何も動かなくなるだけだ。
頭の中で素早く二度計算した。
酸欠で頭の回転が鈍くなって、それがますます焦りを募らせた。
「フェアリー、突風を頼む――ここの空気を外に押し出して」
僕は来た時の入口を指さした。
忠実な小さなピクシーは何も聞かなかった。ただ、信頼の籠った瞳で頷いてくれた。
体はまだ弱っていて、羽を広げるだけでも一苦労なのに、彼女は迷わず両手を地面に押し付け、魔力を流し始めた。
それから僕は同じ魔法を、同じ通路の入口で内向きに使った。
出と入り――循環が出来上がった。
簡素な換気システムが、ようやく動き出した。
全員がようやく、まともに息ができるようになった。
ワカナは地面にへたり込み、何度か深呼吸して、マスクを少し押し上げると、表情がいくらか和らいだ。
ユウキは壁に手をついてゆっくりとしゃがみ込み、勇気の剣を脚に立てかけた。彼女は僕を見上げて、こくりと頷いた。
食料部隊も大きく息を吸い込んでいた。倒れていた何人かが目を開けて、地面にぼんやり座り込んで、辺りを見回している。
ニンジンが意識を取り戻してまずやったことは、隣のゴボウの肩を叩くことだった。
二人は何も言わず――ただ、お互いがまだここにいるという事実を、その仕草だけで確かめ合った。
差し迫った窒息の危機は、ひとまず去った。
でも、これは僕とフェアリーが切れ目なく魔法を流し続けることが前提だ。
根本から解決しないと、僕たちの戦力はこの場所に縛りつけられたままになってしまう。
可能なら、換気用の縦穴を掘りたい。
僕は頭上を見上げた――この巣の天井の向こう側に何があるのか、見当もつかない。
まあいい。今は通気口が最優先だ。
僕はクーリエアントに指示を出した。
彼らはすぐに他のアリたちを天井に這い上がらせ、掘り進め始めた。
土と砂が絶え間なく落ちてくる。頭の上ではアリの群れが、ひたすら奥へと掘り続けていた。
ザザザという土の擦れる音が止まず、時折、小石が落ちる鈍い音が混ざる。
「マスミ、どこまで掘らせるの?」
ワカナがゴボウを床から助け起こしながら聞いた。
「貫通できる場所ならどこでもいい。地上に出られればベストだし、出られないなら隣の部屋でもいい」
「もし掘り抜いた先がフィヨルニルの縄張りだったら?」
「その時はまず偵察を出す」
彼女は少し黙った。
「あんた、本当に出たとこ勝負だよね」
「他にどうしろってのさ?」
僕は両手を広げた。
アリが穴を掘っている間、僕とフェアリーは巣の中の空気を循環させ続けた。
ワカナとユウキはその間、食料部隊に隊列を組み直させ、傷の手当てをし、戦闘物資を整えさせていた。
ユウキは残っていたペットボトルの水を分けて、一本ずつ傷ついた食料部隊の手に握らせ、ちゃんと飲み干すまで見届けていた。
僕たちは三十分近く休んだ。
頭上のアリたちが、通気口を掘り終えた。
新鮮な、土の匂いを纏った空気が上から流れ込んできて、巣の息苦しい空気と混ざり合い、空間全体の呼吸がぐっと楽になった。
土の匂いには湿り気が含まれていて、巣の中のあの酸っぱい臭いとは全くの別物だった。
その対比に思わず深く息を吸い込み、危うく涙がこぼれそうになった。
これで、僕とフェアリーは身を削って空気を循環させ続けなくて済む。
フェアリーは手を下ろし、ぐったりと巣の壁にもたれかかって、肩で息をした。
長く詠唱しすぎたせいで顔色がまた悪くなっていた――思っていたよりずっと体力を削っていたらしい。
「お疲れさま」
僕は声をかけた。
彼女は何でもないと言わんばかりに首を振ったけれど、唇の色は明らかにさっきより薄くなっていた。
ワカナが歩み寄って、フェアリーの背中に手を当てる。容体を確かめるような仕草だった。
フェアリーは顔を上げて、羽を小さくぱたぱたと動かして、大丈夫だと伝えた。
彼女はいつもこうだ――立っているのもやっとなのに、「平気」という顔をしてみせる。
巣の上の世界がちょっと気になった。
そこはフィヨルニルが住んでいる場所のはずだ。
もしかして――神々の領域なのか?
まあいい。巣を片付けて、サチと合流して、ここの害虫を始末してから、外の世界を覗きに行けばいい。
僕は一隊のアリを残して、来た時の通路を広げさせることにした。
三十分で地上まで掘れるんだから、既存の通路を巨大ムカデが通れるくらいに広げるのは、そう難しくないはずだ。
僕たち本隊は、さらに奥へ進んだ。
いくつかの部屋を抜けて、クーリエアントを通してさらに多くのアリを味方に引き入れていった。
群れごと、まるで服を着替えるみたいに、敵から僕の従者へと寝返っていく。
僕の背後に続くアリの列はどんどん長くなり、巣の薄暗い通路の中で長大な黒い龍を成していた。
その光景には見応えがあって、僕は思わず何度も振り返って眺めてしまった。
蟻女王の孵化室に到着すると、案の定、そこに隠された通路が見つかった。
シロアリはきっと、ここから巣に侵入していたんだ。
僕はそれを確かめた。
通路はあまりにも小さくて、僕たちは通り抜けられないし、アリでさえ無理やり押し込まないと入れない大きさだった。
「ちっ……またアリに掘らせるのを待つしかないか」
僕は一歩下がって腕を組み、いらいらした。
この巣に入ってからずっと掘る掘る掘るの繰り返しで、三十分待ち、また三十分待ち――外で待機している巨大ムカデと食料部隊のことも、そろそろ気になってきていた。
「アリに掘らせる前に、これ試してみない?」
ワカナは殺虫スモークの缶をいくつか取り出して、にやりとしながら僕の前に並べた。
僕は一本手に取って、説明書きを読もうとした。
これは正直、目が疲れる文字だった――文字が全部裏返しの、左右逆さまの鏡文字になっていたのだ。
缶を半回転させて、首を傾けて、数秒じっと睨んで、ようやく何が書いてあるのかが大体分かった。
「ワカナ、なんでこんなの用意してたの?出発する前は、こっちの敵が虫だなんて全然知らなかったのに」
僕は彼女を見た。
「あー、これあるのはただの偶然」
彼女は真理の鏡を持ち上げて、僕に見せた。
「これが、真理の鏡の中にある『鏡の世界』」
僕は鏡を受け取って、中を覗き込んだ。
映っていたのはスーパーマーケットの通路だった。
撮影の主な対象は奥のミネラルウォーターの棚で――水を複製したいというのは納得できる。
ただ、その横にあった、ありとあらゆる害虫駆除製品が並んでいる棚まで、ちゃんと写り込んでいた。
「これが、ワカナの複製能力?」
「そう。実は鏡の中にもう一つの世界があってね、映り込んだものは何でも全部、取り出せるってわけ」
彼女はにんまりと自慢げな顔をした。
それから、その殺虫スモークの缶を侵入用の通路に押し込み、蓋を開けて、水を加えた。
何人かの食料部隊が後についてきて、スプーンをシャベル代わりに、近くの土を一杯ずつすくっては、入口を覆い、土をしっかり押し固めていった。
「準備完了――あとは待つだけ!」
ワカナは笑って、鏡からトランプを一組取り出した。
「待ち時間に必要なもの、この鏡があれば本当に便利だね」
僕たちはそれもそうだと思って、座ってカード遊びを始めた。
食料部隊が近くに寄ってきて、好奇心に満ちた目で僕たちの手元のカードを覗き込んでくる。
大胆な何人かは、隣にしゃがみ込み、自分も混ぜてくれないかと身振りで聞いてきた。
「これは何のゲームですか?」
ニンジンがカードの束を指さした。
「これはポーカーっていうゲーム。覚えたい?」
ワカナが顔を上げた。
ニンジンが何度も頷いた。
隣のモチ米腸詰めも割り込んで来て、ゴボウを引っ張って一緒に座らせた。
こうして、巣の奥深くの孵化室で、ちょっとした奇妙な異文化交流が始まった。
「……ちょっと待って。このジョーカーって呼ばれてるやつ、二枚余分に入れたんじゃない?」
ゴボウが手のカードをいじりながら眉をひそめた。
「入れてないよ。元からこういう構成だから」
ワカナは即答した。
「じゃあ、なんでスペードのエースが四枚もあるんだよ?」
ワカナは一瞬黙った。
「複製してる時に、たまたまダブっちゃったの」
彼女は照れ笑いを浮かべた。盗みがバレた泥棒みたいな顔だった。
数分が経過した。
菌栽培シロアリを撃破
Exp +2800
菌栽培シロアリを撃破
Exp +2800
菌栽培シロアリを撃破
Exp +2800
……
こういう通知が、次から次へと流れてきた。
久しぶりだ――指一本動かさずに経験値が上がっていく、あの心地よい体験は。




