第115話 菌の培養室
僕はさっき倒したクーリエアントを全員、自分の従者として復活させた。
それと同時に、ワカナが複製したアワアワ銃の一丁を老昆布に手渡した。
「届けたいメッセージを頭の中で思い浮かべて、それから送りたい相手の名前を言うんだ。そうすれば、すぐに相手のところへ届くから」
老昆布はアワアワ銃を受け取り、手の中で何度かひっくり返した。あの老いた目に、ずる賢いきらめきが宿っていた。
「ほう!戦闘指揮には実に都合のいいものですな」
含み笑いをしながら、すぐにいくつかの軍令を発射した。
銃口から泡が次々と漂い出て、それぞれ別の方向へ飛んでいった。
僕は彼に手を振って別れを告げ、振り返って、さっき送った泡が残した跡を辿り始めた。
正直、老昆布が僕たち現代人の通信技術を見たら、たぶんこのアワアワ銃を大したものだと思わなくなるんじゃないかな。
戦場は混乱の極みだった。泡の上にあった粉は、アリと食料部隊に蹴散らされて、あちこちに散っていた。
それでも、カタツムリの粘液が押し付けた箇所には、綺麗な色の線が残っていた。
その線を辿りながら、僕は胸の中でそっと息を吐いた――まだ辿れる。
そこで、ユウキが剣を鞘に納めて、僕の側に歩いてきた。
彼女はあの細い色の線に目をやって、何か考え事があるような口調で話し出した。
「このアワアワ銃……現代の戦場に持ち込まれたら、戦争の流れを丸ごと変えられるくらいの武器になるよね」
歩きながら、考え込むような声で言った。
「そう?携帯電話のほうが使えるんじゃない」
「何馬鹿なこと言ってるの。基地局も通信衛星もない携帯電話なんて、ただの光るガラクタじゃない。
それにこのアワアワ銃の人探し機能……現代の技術で実現できるものなんてないでしょう?」
僕はこの大きな巣の広間の縁に、二つの出口を見つけた。
アワアワ銃がなかったら、今頃どっちに進むべきか、頭を抱えていたかもしれない。
よく考えると、自動で人を探し出す能力って、本当に恐ろしい力だ。
今の世界の各国がドローンと位置測位システムの開発に莫大な研究資源を注ぎ込んでいる――でもこのアワアワ銃は、一言と一念さえあれば、地球上のほぼ誰でも見つけ出せる。
「そう考えると、この銃って一財産になるじゃん!」
ワカナの発想は、いつも通りまっすぐお金に向かう。
「うーん、もし政府に渡せば、テロリストや長期逃亡中の指名手配犯を追跡するのに使えるかも。それなら良い使い道だよね?」
僕はユウキに目をやった。
彼女もその考えに賛成してくれると思っていた。
でも彼女は首を振り、表情を引き締めた。
「独裁者が反対派を一掃するための究極の道具になるよ。約束して――このアワアワ銃を絶対に、絶対に巽の塔の外に持ち出さないって」
返す言葉がなかった。
考えてみれば、僕がこの巽の塔の中で手に入れたものはほとんどすべて、一夜にして地上のあらゆる国家の秩序を覆せるような、馬鹿げた代物ばかりだ。
神々が意図的にここに隠して、人々に見つけられないようにしていた、と言っても過言じゃない。
僕たちは泡の跡が指す穴に身を押し込んだ。
その穴はあまりに小さくて、立ったまま通り抜けることもできなかった。三人とも身を屈めて、一歩ずつにじり進むしかなかった。
通路の幅のせいで、軍勢の大部分は一緒に来られなかった。
山神のような巨大ムカデは、当然だが論外。
巨大なダイアガストロポッドは通り抜けられないし、ダンゴムシや、がっしりした体格の食料部隊も入り込めなかった。
ジャガイモ、ダイコン、カニたちは仕方なく外に残って、後方を固めることになった。
ヤスデ、ゴキブリ、ナメクジは、なんとか追従できる。
体が小さかったり細身の食料部隊は、それでも身をくねらせて通り抜けることができた。
一番スムーズだったのは、僕がさっき支配下に置いたばかりのアリの一団だった――何しろこの通路は、もともと彼らが掘ったものなんだから。
そのほとんどが、僕の直接の命令を聞くわけではない。従者にしたクーリエアントが、彼らに指示を出しているのだ。
進行順序が極めて重要になってきた。
アリが先頭、次に小柄な食料部隊、その後にゴキブリとヤスデ。
ナメクジは絶対に最後尾――彼らが通り過ぎた後の通路は、ベタベタの粘液まみれになるからだ。
「この行軍の仕方……本当に大変ですね」
通路の中に押し込まれたニンジンの声には、ちょっとした文句が混じっていた。
「我慢して。出口はもうすぐそこだよ」
隣のゴボウが慰めた。
比べてみると、ゴボウの状況のほうがよほど厄介だった。ゴボウはまったく背筋を伸ばせず、赤ん坊みたいに最後まで這って進むしかなかった。
僕たちは泡の跡を辿って、巣の奥へとたどり着いた。
ここはまるで……アリの農場?
半ば腐った「食べ物」が至るところに転がっていた。
完全に分解されてしまった食料部隊もいれば、アリが運び込んだ他の害虫もいた。
ゴキブリ、ハエ、ダンゴムシ……
ほとんどが小さく切り刻まれていて、体の表面には灰白色の菌の層が広がっていた。
その白さは、カビたパンに浮かぶような、生気のない白だった。
空気には腐敗の甘ったるい匂いが立ち込めていて、発酵しすぎた果汁のような、しかしもっと重く、もっと鋭い臭いだった。
部屋の中では、働きアリの一団がせっせとその菌を削ぎ取り、別の通路へと運んでいた。
「これを見る限り、ここはアリが食料を栽培している場所みたい……」
ユウキはしゃがみ込み、地面の腐肉の塊を剣先でひっくり返した。眉間にしわが寄っている。
「彼らは植物を育てているわけじゃない。菌を育ててるんだ」
「僕たちの世界のハキリアリと同じだね」
僕は言った。
「有機物を持ち帰って、培地に使うんだよ」
「食料部隊まで利用されてるなんて……」
ワカナの声がぐっと低くなった。
それ以上は続けず、振り返って地面の死骸から目をそらした。
泡の跡は、この部屋の中で途切れていた。
僕はもう一発、泡を撃った。
「フェアリー、ここに来たよ。どこにいる?」
その泡は部屋の中をゆっくりと漂い、積み上がった「お菓子」の山の前で止まった。
僕たちは急いで駆け寄り、何層にも積み重なったお菓子の包み紙の下から、瀕死のフェアリーを見つけ出した。
包み紙を払いのけて、彼女を引っ張り出した。
体は固く小さく丸まり、薄い菌の膜に覆われ、皮膚はほぼ完全に潰瘍化していた。
手足の指先は、ゆっくりと溶かされているように見えた。
羽もぐったりと垂れ下がっていた――あの半透明の紙のように薄い羽には、いくつもの裂け目が走り、縁はぼろ切れみたいに腐食していた。
「もう持ちこたえてない!」
僕は必死で、彼女の体を覆っている菌の膜を剥がし始めた。
手にはすぐに、ぬるぬるとした糸状の白い物質がべったりとついた。吐き気を抑えながら、剥がす作業を続けた。
「急いで!秘醸蜜と秘醸酒、こっちにあるから」
ワカナが素早く真理の鏡を取り出した。
僕は秘醸蜜の瓶を受け取って、数滴をフェアリーの口に垂らした。
彼女の喉が微かに動き、なんとか飲み下した。
「これは内傷用の薬。包帯と外用薬もいるよ」
ユウキがしゃがみ込んで、僕と一緒にフェアリーの傷の処置に取りかかった。
彼女はワカナからミネラルウォーターを何本も、それから医療用ヨードチンキとアルコールを受け取って、惜しげもなくフェアリーの体に注いでいった。
フェアリーは痛みで眉をぎゅっと寄せ、体をかすかに震わせていたが、声を上げる力もなかった。
「外用薬なら……」
僕はずっと前、ナメクジを倒したときに手に入れたものを思い出した。
腰の袋から、小さなチューブに入った緑色のジェルを取り出した――全肌質対応ケアジェル。
傷の治療薬かスキンケアか、ずっと当てずっぽうでしかなく、結局試す機会のなかったあのチューブ。
今がそれを使う時だ。
僕はフェアリーの一番ひどい傷口に、そっとジェルを塗っていった。
傷の下の皮膚が少しずつ繋ぎ直され、あの腐臭もそれと共に薄れていった。
でも、フェアリーの体が菌に侵食された面積は、あまりにも広すぎた。
この小さなチューブのジェルは、森林火災にスポイトで水を汲んで挑むようなものだった。
あっという間に、チューブの中身は空になった。
「くそっ!足りない!」
僕の焦りはどんどん大きくなっていった。
ちょうどその頃、隊列の最後尾に押し込まれていたナメクジたちが、通路を通り終えたところだった。
そのうちの一匹が、何かの匂いを嗅ぎ取ったように、ゆっくりとフェアリーのほうへ這い寄ってきた。
「マスミ、この子、何しようとしてるの?」
ユウキがナメクジの動きに気づき、思わず一歩前に出てフェアリーを庇うように立った。
「ちょっと待って」
僕は脇に避けた。
「予想だけど、フェアリーの体の菌を取り除いてくれるか、それか傷を癒してくれるかのどっちかだと思う」
何しろあのスキンケアジェルも、元を辿ればナメクジから出てきたものなんだから。
ユウキは僕に目をやり、一拍黙ってから、ゆっくりと後ろに下がった。
ナメクジはフェアリーの傍に這い寄り、口で優しく、彼女の体の腐った肉と菌を掻き取っていった。
その動作はゆっくりと丁寧で、皮膚にこびりついた菌糸を少しずつ拾い上げていく。
それからナメクジは彼女の上に身を落ち着け、全身の粘液をゆっくりと滲み出させ始めた。
その半透明の粘液の下で、傷口に小さな泡がぷつぷつと浮かび、傷が少しずつ閉じていった。
腐敗の甘ったるい臭いが徐々に消え、代わりに言葉にできない清涼感が広がった。
部屋の中には、ただかすかなジュウジュウという音だけが残っていた。
ワカナは僕の腕をぎゅっと握りしめ、声を出さずにいた。
ユウキの呼吸も浅くなっていた。
数分後、フェアリーがついに目を開けた。
「よかった!」
ワカナとユウキは抱き合って歓声を上げた。
ワカナは笑いすぎて目が線になり、ユウキも目元が赤くなるのを抑えられなかった。
「ここは……」
フェアリーがぼんやりと尋ねた。声は煙のように細かった。
「ここはアリの巣の中の、菌の培養室だよ」
僕はしゃがみ込み、できる限り声を柔らかくした。
「予想だけど、フェアリーがアリと戦って負けたあと、ここに運び込まれて、菌の培地にされそうになっていたんだと思う」
「アリ?」
フェアリーの顔に困惑の色が浮かんだ。
その視線がゆっくりと焦点を結び、僕を見据えて、次の言葉が囁くような声でこぼれ落ちた。
「違うよ……私たちが戦っていたのは、シロアリだったの」




