第111話 第三回アリ群との会戦――アリの巣襲撃
先頭を歩いていた偵察ゴキブリは、広い空間に踏み込んだ瞬間、アリの群れに飲み込まれた。
四、五匹のメリーアントがその場で挟み撃ちにした。
触角が必死に振り回され、六本の脚が空中で虚しく蹴り続けている。
後方のアシッドスプレイヤーアントが、すかさず蟻酸を吹きかけた。
その噴射は土黄色の光の中で乳白色の霧を立ち昇らせ、霧が散った瞬間に、鋭い酸の臭いが鼻を突いた。
ゴキブリの背中の装甲が酸の腐食でかすかなジュウジュウという音を立て、外殻が中の体ごと陥没していった。
ほんの数秒で、このゴキブリはバラバラに引き裂かれた。
「動きが鋭いね……」
ワカナが隣で息を呑んだ。
無意識に僕の後ろへ半歩下がっていたが、すぐに何事もなかったかのように元の位置に戻った。
僕はそっと彼女の肩に腕を回した。少しでも安心感を持たせてあげたかった。
アリたちはゴキブリをその場で食べなかった。
代わりに、巣の奥から働きアリが何匹か出てきて、死んだゴキブリのかけらを一塊ずつ運んで、巣の内部へと戻っていった。
その働きアリたちはあまりにも見事に連携が取れていて、首筋の毛が逆立った――ちぎれた手足を持ち上げる角度まで、まるで同じ型から抜き出したかのように揃っていた。
彼らが作った列が奥へ向かって伸びていく。まるで細い黒い流れのように。
「どうやら、餌を持ち帰って貯蔵するつもりみたいですね」
老昆布が小声で呟いた。
「この巣の食糧庫は、その奥にあるかもしれません」
ムカデはゴキブリとアリが接触するのを見るなり、動き出した。
僕たちの部隊は、まだ全員がこの戦闘可能な広間に入りきっていなかった。
アリの巣の長い通路が、こちらの戦力を強引にボトルネックに押し込めていた。
部隊はまだ廊下の中で「順番待ち」をしている状態だ。
「やばい……」
僕が警告の声を上げかけたその時。
こちらの態勢が整うのを待たず、巨大ムカデはアリの前線に向かって無謀なほどの勢いで突っ込んでいった。
この行動は正直、彼の本能に反している。
でも彼は、よく訓練された戦象のように、たじろぐ気配のない勇気で突進していった。
体節のある胴体が暗赤色の弧を描いて飛び込み、二十本以上の脚の爪が空気を掻きむしるように振るわれ、着地のたびに床に小さなクレーターが穿たれた。
その勢いがあまりに激しくて、隣を歩いていたワカナとユウキまで足を止めて、目を見開いて見入っていた。
僕もそうだった。
この巨大ムカデの本当の戦闘力を見るのは、これが初めてだった。
アリ側の前線のメリーアントがムカデの突進を受け止めようとしたが、体格差があまりにも大きすぎた。
巨大ムカデが体当たりして、胴体を勢いよく振り回した。
アリの前線が一気に崩壊した。
何匹かのアリが巣の壁にまっすぐ叩きつけられ、外骨格があの凄まじい衝撃力で裂けた。
割れ目から乳白色の体液が噴き出し、壁の表面をゆっくりと伝い落ちていった。
メリーアントたちが慌てて逃げ惑った。
アシッドスプレイヤーアントたちは興奮してやみくもに酸を吹きかけていたが、火力が集中しておらず、かなりの数が味方にも引っかけてしまっていた。
「ふっ、あっちで同士討ち始まってるよ」
ワカナが舌を鳴らした。
「まだ早すぎるよ」
ユウキは眉をぎゅっと寄せた。
「あのアリたち、もっと戦闘力があるはず」
巨大ムカデが大顎を開いて、もがいているメリーアントを一口で丸ごと飲み込んだ。
頭から胸、腹までガリガリと噛み砕いていく。
最後の一本の脚を麺をすするように吸い込んだとき、最初から最後までほんの数秒しか経っていなかった。
巨大ムカデが楽しくて仕方ないという様子で食事をしているのを眺めていて、僕の中に妙な感覚が湧いた。
元の世界では、ムカデはせいぜい人を悲鳴を上げさせる招かれざる客でしかなかった。
ここでは、ほぼ突撃隊長だ。
ムカデがアリの守りを順調に切り崩しているように見えた。
こちらの準備が無駄に念入りすぎたんじゃないかと思い始めた、その時――
群れの中の、見た目はぱっとしないクーリエアントたちが、あちこちを忙しなく走り回り始めたことに気づいた。
触角であちこちをつついている。
時折、立ち止まってあの大きなお腹を揺すっていた。
何かの匂いを放っているようだった。
「マスミ、あれ何?」
ワカナが指さした。
「……たぶん、クーリエアントだよ」
僕は彼らの動きから目を離せなかった。
「何かのメッセージを送ってる」
「匂いでメッセージを送るの?」
「もともとアリはそうやって連絡を取り合うんだ。この世界のアリは、その能力をさらに高めてるみたいだね」
ワカナは片眉を上げて、鼻の前で手をひらひらと振った。
「でも私、何も嗅ぎ取れないよ」
「人間が拾えない匂いはたくさんあるから……」
僕は小さく微笑んだ。
それからしばらくして。
乱れていたアリの群れが、元通りになった。
まるで鎮静剤でも飲んだかのように、アリたちは慌てて走り回るのをやめた。
再び陣形を組み直し、その足音はぞっとするほど完璧に揃っていた。
総玉砕の勅命を受けたばかりの決死隊のようだった。
一匹また一匹、自分の命を惜しむ素振りも見せずに、巨大ムカデへと押し寄せていった。
ムカデの口は一つだけだが、脚は二十本以上ある。
そして、脚一本につき、ちょうどアリ一匹が噛みついて引っ張れる数だった。
メリーアントの群れが巨大ムカデを引きずり、引きずり込もうとした。
ムカデにとっては、アリ一匹は一口にしかならない。
二十数匹、いや……三十、四十、五十匹を超えるアリが一斉に押しかかった。
ついに、巨大ムカデの脚が一本もぎ取られた。
胸がぎゅっと締めつけられた。ちぎれた脚は地面で何度か痙攣したあと、すぐに働きアリに引きずられていった。
「もう待ってられない!」
ユウキが見ていられなくなった。
勇気の剣を振りかざして、巨大ムカデのもとへ駆け出した。
刃の上の赤い光が踏み出した瞬間ぐっと深まり、まるで肩を舐めようとする炎のようだった。
走るたびにポニーテールが跳ね、踏みしめる足が地面を揺らした。
二匹のアリを斬り倒し、勢いを乗せて三匹目に挑もうとした――
その時、さらに多くのメリーアントが背後から押し寄せてきた。
ユウキを取り囲み、回避しながら大顎で受け流そうとし、勇気の剣まで奪い取ろうとする個体まで現れた。
「ユウキ!」
胃がぎゅっとよじれて、悲鳴のような声が出た。
ワカナの手が僕の肩をがしっと掴んで、半歩後ろへ引き戻した。
「マスミ、待って!焦って動かないで!」
部隊はまだ完全には集まっていない。
でも僕もユウキと同じだった――この貴重な戦力があの群れに引き裂かれるのを、黙って見ていられるはずがない。
残っている部隊を前線に送り出そうとしたところで。
「我が主!しばしお待ちを!」
老昆布がヤスデの一隊を引き連れて廊下の出口まで来ていて、隊列を組ませているところだった。
「もう少し遅れたら食われてしまう!」
僕は焦りで待っていられなかった。
「助けないとは申しておりません。ですが、せめて適切な部隊を出さなければ!」
老昆布はあの昆布のヒゲのような繊維を振り回し、その表情はこの上なく真剣だった。
ヒゲが動きに合わせて揺れ、戦場で踏みとどまる老軍師そのものの佇まいだった。
老昆布はジャガイモに向かって頷いた。
ジャガイモが即座に振り返った。
太いマーカーで描いたような両腕をぶんぶん振って、根菜の仲間たちに指示を出した。
彼らは車輪のように丸まったヤスデを転がし出した。
ヤスデの脇腹の臭腺を、ぎゅっと押した。
その臭腺が開いた瞬間、内部から濃厚な濁った黄色い煙が立ち昇った。
「行け!ヤスデ・ガス・ホイール!」
ジャガイモが怒鳴り、あの太い線の腕を全力で振り下ろした。そのポーズは戦場で突撃を指揮する士官そのものだった。
巨大なヤスデたちはアリの陣形の中へ転がっていき、進みながらアリを薙ぎ倒し、同時にあの強烈な臭気を撒き散らしていった。
押し潰されたメリーアントはバキバキとした音を立て、絞り出された体液がヤスデの臭液と混じり合って、地面のあちこちに濁った水溜まりを作っていった。
「これで、あのアリたちの攻撃フェロモンが隠せます」
老昆布は重要な会議を終えたかのような顔で、軽く腰を下ろして息をついた。
「……老昆布、最初からヤスデを使うつもりだったの?」
僕は驚きを隠せずに彼を見た。
「老人はただ流れに乗っただけのことです」
彼はかすかに得意げな笑みを浮かべた。
ヤスデの臭いホイールが転がっていって、あの強烈な臭いを撒き散らしていく。腐食性はわずかでアリの外骨格に大きなダメージは与えないけれど、アリの攻撃フェロモンを完全に打ち消した。
その臭いは僕の頭までくらくらさせるほどだった。襟を引っ張って鼻に当てた。目には涙がにじんでいた。
ワカナは隣で何度も咳き込んで、鼻の前で手を振った。
「……これ、アリの体液よりひどいよ!」
「耐えて、必要なことだから」
僕はもう一方の手で口と鼻を覆った。
あれほど統制の取れていた動きをしていたアリたちが――
また混乱の渦に叩き込まれた。
ヤスデたちのすぐ後を追って、
僕の食料部隊もとうとう集結を終えた。
食料部隊全員が手に武器を握り、目には光が宿っていた。
ジャガイモがあの太い線の腕を前に突き出し、自分の歯まで噛み砕きそうな勢いで顎を食いしばっていた。
ニンジンは背筋をぴんと伸ばし、ダイコンは関節を解した。
ビーツが包丁を肩に担ぎ、バターロブスターが巨大な鋏を大きく広げ、マスカットジャムの人が最後尾で隊列に並んだ。
老昆布はカタツムリの背中から顔を上げ、こちらに会釈してきた。
台所から集められたこの奇妙な軍勢を見て、心の奥から急に熱いものがこみ上げてきた。
ただの台所の食材だった連中が、今、僕のため、そして自分たちの家のために、あの混沌の戦場へ突撃しようとしている。
「突撃!」
ようやく、心の底から叫びたかった命令を、全身全霊で叫べた。
僕の従者たち全員――
根菜の騎士団、シーフードの戦士、カタツムリ、ゴキブリ、ナメクジ、ダンゴムシ、ヤスデ、そして今や数匹のアリまで――全員が僕たちと共に駆け出し、あの大規模なアリの陣形に体当たりした。
足音、カトラリーと虫の殻のぶつかる音、食料部隊の鬨の声――全部が混ざり合い、アリの巣の広大な空間にこだました。
空気まで揺れていた。
「気持ちいいね」
ワカナが隣で笑いながら駆けていた。
「うん、行き詰まりを突破すると、本当に気分が晴れるね」
走りながら彼女に目をやった。
あの真っ赤な髪が走るたびに広がり、戦場へ駆け込む戦乙女そのものだった。
「マスミは自分のこと気をつけて。私はあの大きい子の面倒見るから」
ワカナはちゅっと僕の頬にキスをすると、真理の鏡からミネラルウォーターのボトルを何本か取り出して、ムカデの体についた蟻酸を洗い落としに駆けていった。
僕は固まったまま、指先で頬を押さえていた。
彼女はもう走り去って、僕の反応を確かめることすらしなかった。
この人、いったいなんなんだ……。
頬を撫でて、ぐちゃぐちゃした気持ちをぐっと押し込んだ。
ワカナはムカデのところまで駆けつけた。巨大ムカデは痛みで波打つように体をくねらせていたが、彼女は迷いなく、蟻酸で焼けた体節にミネラルウォーターを浴びせていった。
水が酸を洗い流し、ムカデの体のジュウジュウという音が次第に止まっていく。複眼がワカナのほうへ向き、彼女に感謝しているように見えた。
僕の目の前には、まだあのクーリエアントが残っている。
知恵の書をぐっと握りしめ、目はあの混乱のただ中でも秩序を立て直そうとしているクーリエアントを、しっかりと捉えていた。
クーリエアントはまだ触角で地面を叩きながら、ヤスデの臭いで掻き乱された命令を、もう一度送り直そうとしているようだった。
あいつこそ、この戦線の鍵だ。
さっき老昆布が立てた作戦通り、あいつを仕留められれば……。
僕は深く息を吸い込み、地面を蹴って、戦場の中央へ向かって突進した。




