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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0189.ドラゴンvsドラゴン



 視点:俯瞰


 

『第三試合、開始ッ!!』


 銅鑼の音が響くや否や、

 黄金の幼竜が空へと舞い上がった。

 

「がおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 可愛らしい咆哮と共に、

 その口元に膨大なマナが収束する。

 

 対するカルドは、動かない。

 ただ静かに、大盾を構えるだけだ。

 

「……いくよ、カルドおじちゃん!」

 

 キロロが口を開く。

 

 ──カッッッ!!!!

 

 放たれたのは、極太の熱線ブレス。

 ビャッコを蒸発させ、

 ニケの結界すら震わせた破壊の光。

 

 それが一直線にカルドを飲み込む。

 

「……行くぞ、ラグアス」

 

 カルドは呟き、盾を前に押し出した。

 


 ──数十分前。控え室にて。

 

『カルドさん! これを!』

 

 息を切らせて駆け込んできたのは、

 弟分のラグアスだった。

 

 彼が抱えていたのは、一枚の大盾。

 表面が異常なまでに磨き上げられ、

 鏡のように周囲を映し出す特注品だ。

 

『僕、磨いて準備してたんです。

 もし、カルドさんが勝ち進んで……

 あのドラゴンと戦うことになったらって』

 

 ラグアスは、誇らしげに笑った。

 

『僕も、カルドさん達の仲間ですから!

 役に立ちたいんです!』

 

 その言葉と、熱意。

 カルドが受け取らない理由などなかった。

 


 ──ジュッ!!!!

 

 熱線が盾に激突する。

 

 だが、盾は溶けない。

 鏡面加工された表面が光を弾き、

 乱反射させて拡散していく。

 

「熱いな……だが、耐えられる」

 

 盾が赤熱し始める。

 普通の金属なら、とっくに飴状だ。

 

 だが、カルドはここで、

 シンからの助言を思い出していた。

 

『いいかカルドさん。

 熱ってのは温度の変化だ。

 なら、土の『保持』で、

 “熱くない状態”を固定しちまえ』

 

 無茶苦茶な理論だ。

 だが、今のカルドにはそれができる。

 

「不動明王……ッ!」

 

 カルドのマナが盾を包む。

 熱伝導を阻害し、形状を維持する。

 ブレスの奔流が止むと、

 そこには無傷で立つカルドの姿があった。

 

「なんでぇ!?」

 

 キロロが目を丸くする。

 最強の矛が、最強の盾に防がれた瞬間だ。


「なら、これならどうだー!」

 

 キロロが戦法を切り替える。

 

 竜の翼をはためかせ、急降下。

 その両手には、

 光り輝く巨大な爪が形成されていた。

 

 膂力と質量、

 そして落下の加速を乗せた物理攻撃。

 

 カルドは即座に大盾を捨て、

 背負った大剣を引き抜いた。

 

「来いッ!」

 

 キロロが爪を振り下ろす。

 カルドは逃げない。

 大剣に全身のマナと筋力を叩き込む。

 

「不動明王・つどいッ!!」

 

 ガギィィンッ!!!

 

 光の爪と鋼の大剣が激突する。

 衝撃波が地面を抉る。

 

 パリンッ!

 

 砕けたのは、キロロの爪だった。

 

「うわぁ!?」

 

 キロロが空中でバランスを崩す。

 

 だが、すぐに翼を羽ばたかせ、

 距離を取って態勢を立て直した。

 

「まだだよ! なんかいだって!」

 

 キロロが手を振ると、

 砕けた爪が瞬時に再生する。

 マナだけで構成された武器。

 本体が無事な限り、何度でも蘇る。

 

「……厄介だな」

 

 カルドが顔をしかめた。

 

 キロロは空中を自在に飛び回り、

 ヒットアンドアウェイを繰り返してくる。

 

 ガムシャラな連撃だが、

 一撃一撃が重く、速い。

 カルドはカウンターで迎撃するが、

 爪を砕いてもキリがない。

 

 本体を狙えば一撃で終わるだろうが、

 空を飛ぶ相手を捉えるのは至難の業だ。


(長引けば、こちらが不利か)

 

 カルドの呼吸が荒くなる。

 

『大地喰ら・あぎと』を使えば、

 あるいは届くかもしれない。

 

 だが、あれはタメが必要だ。

 地面からマナを吸い上げる隙を、

 野生の勘を持つキロロが見逃すはずがない。

 

 距離を取られ、遠距離からブレスを

 撃たれれば、今度こそ防ぎきれない。

 

 膠着状態。

 カルドは、ふと視線を向けた。

 

 そこには、次の試合を控えた、

 まよねこたちの姿がある。

 そして、反対側にはヴェルも。


(……俺は、見たいんだ)

 

 カルドの胸中に熱い想いが去来する。

 

 この次の試合。決勝戦。

 ヴェル対まよねこ。

 

 あの坑道で腐りかけていた俺たちに、

 夢を見せてくれたヴェル。

 

 そして、異世界から来て、

 必死に足掻いてここまで来たまよねこ。

 

 カルドは、あの小太りの男を、

 心の底から気に入っていた。

 

 誰よりも弱かったのに、誰よりも仲間想いで。

 折れずに、一人で努力する姿を、

 カルドはずっと見てきた。尊敬すらしていた。

 

(あいつらが最高の舞台で戦うところを……。

 俺の手で、実現させたい)

 

 その為には、ここで負けるわけにはいかない。

 俺が勝って、バトンを繋ぐんだ。と。


「……考えるのは、やめだ」

 

 カルドは思考を放棄した。

 良いアイデアなど浮かばない。

 ならば、身体で答えを出すまで。

 

「失敗しなければいい。それだけのことだ」

 

 カルドが剣を下ろす。

 足元の地面を、強く踏みしめる。

 

(使うのは……『ささげ』だ)

 

 アマドリブル戦で見せた、

 自身を依り代にする禁断の奥義。

 

 あれで一瞬で跳躍し、

 空中のキロロを叩き落とす。

 

 一度きりのチャンス。

 外せば、自滅して終わりだ。


 ズズズズズ……。

 

 地面から色が抜けていく。

 カルドの身体に、

 膨大なマナが吸い上げられていく。

 

「……ッ!」

 

 空中のキロロが、ビクリと反応した。

 本能が、警鐘を鳴らしている。

 

(なにか、くる……!)

 

 アマドリブル戦で感じた、

 あの得体の知れない恐怖。

 

 キロロは反射的に高度を上げた。

 安全圏へ。手の届かない場所へ。

 だが、カルドは止まらない。

 

「ぐ、ぅぅぅぅぅッ……!!」

 

 血管が浮き上がり、

 皮膚がひび割れていく。

 限界を超えたマナの奔流。

 

 身体が内側から崩壊していく感覚。

 だが、それとは別に。

 カルドは、奇妙な感覚に囚われていた。

 

(……なんだ、これは)

 

 身体が、熱い。

 痛みを通り越して、何かが……変わる?

 

 背中が痒い。

 皮膚が硬質化していく。

 視界が赤く染まり意識が遠のいていく。

 

 制御が、効かない。

 飲み込まれる。

 大地そのものの、荒ぶる力に。


(だめだ……! 失敗はできん!)

 

 カルドは、薄れゆく意識の中で、

 必死に自我を繋ぎ止める。

 

 喰らえ。

 この暴走するマナを。

 のたうち回る大地の怒りを。

 全てを、俺の糧にしろ。

 

『俺は……カルド……』

 

『俺は……不撓不屈……』

 

『俺は……全てを喰らう、竜だッ!』


 ──バキンッ!!

 

 カルドの中で、何かが弾けた。

 

 意識が、消し飛ぶ。

 理性が、砕け散る。

 残ったのは、ただ一つの本能。

 

『目の前の敵を、排除する』


「グォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 人の声帯から出たとは思えない、

 地響きのような咆哮。

 

 カルドの身体が、膨張した。

 鎧が内側から弾け飛び、

 その下の皮膚が、茶褐色の鱗に覆われる。

 

 筋肉が異常に隆起し、

 骨格がきしんで変形する。

 そして、背中から。

 

 バサァッ!!

 

 巨大な、茶色の竜翼が生え出した。


「えッ……!?」

 

 キロロが目を見開く。

 観客席が静まり返る。

 そして、貴賓席のバーン王が、

 身を乗り出して叫んだ。

 

「まさか……あれは!」

 

 王家に伝わる古き文献。

 四英傑の記述。

 

 空間を把握し戦場を翔ける、風の英雄。

 魔族を統べ、火を纒いて敵を屠る、火の英雄。

 天翼閃き、祈りで人々を救った、水の英雄。

 

 そして……。

 

『大地の力を宿し、竜と化した、土の英雄』

 

「ガイア……!!」


 竜化したカルドが、地を蹴る。

 

 ドォォォォォンッ!!

 

 地面がクレーターのように陥没した。

 その反動で、

 巨大な身体が弾丸のように空へ射出される。

 

「はやっ!?」

 

 キロロが回避しようとするが、遅い。

 

 カルドは一瞬で間合いを詰め、

 その巨大な拳を振り上げた。

 

 武器などいらない。

 その拳そのものが、岩塊であり、凶器だ。

 

「ガァァァァァァッ!!」

 

 ドゴォォォォォォンッ!!!

 

 拳が、キロロの脳天に叩き込まれた。

 自分よりも巨大なはずの黄金竜が、

 ハエ叩きで叩かれた虫のように、

 垂直に地面へ叩きつけられる。

 

 ズシャァァァァァッ!!

 

 キロロが地面にめり込む。

 砂煙が舞い上がる中、

 カルドは翼を広げて急降下した。

 

 追撃。

 容赦などない。

 

「うぅ……」

 

 キロロがよろりと首をもたげる。

 その目の前に、

 茶色の暴竜が迫っていた。

 

 カルドはキロロの尻尾を掴むと、

 そのままハンマー投げの要領で振り回した。

 

 ブンッ! ブンッ! ブンッ!!

 

 遠心力が最大になったところで、手を離す。

 

「グォッ!!」

 

 キロロは一直線に場外へ吹き飛び、

 コロッセオの高い壁を突き破って、

 遥か彼方へと消えていった。


『しょ、勝負ありぃぃぃッ!!

 勝者……カルド選手ゥゥッ!!』

 

 実況の声が震えている。

 誰もが、言葉を失っていた。

 

 だが。戦いは、終わらなかった。

 

「グルルルル……!」

 

 リングに残ったカルドは、

 勝利の雄叫びを上げる代わりに、

 血走った目で周囲を睨みつけた。

 

 意識がない。

 制御が効いていない。

 暴走した力は、行き場を求めて荒れ狂う。

 

「ガァァァァァァッ!!」

 

 カルドが、観客席を隔てる結界に向かって、

 拳を叩きつけた。

 

 バギィッ!!

 

 結界にヒビが入る。

 

「きゃあぁぁぁぁッ!?」

「に、逃げろぉぉぉッ!!」

 

 観客がパニックに陥る。

 

 暴走する“竜”を止める者は、

 果たして誰なのか。

 混乱の中、ヴェルたちが立ち上がる。

 

「カルドッ!!」

 

 相棒を呼ぶ声も、

 今の彼には届かない──。



 

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