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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0188.カオスvsカオス


 

 視点:俯瞰


 

『次鋒戦、開始ッ!!』

 

 

 銅鑼の音が響くと同時だった。

 ミキの姿が、ノイズのように揺らぐ。

 

「『初風ミキの消失』……ヨ」

 

 フッ、とかき消えるように、

 ミキの姿がフィールドから消滅した。

 隠密や高速移動ではない。

 そこに“いない”かのような完全な消失。

 

 セリアは即座に反応する。

 

「小細工は通じません! 『零値点回帰アブソリュートキャンセル』ッ!!」

 

 青白い波動がセリアを中心に広がる。

 あらゆる魔術的干渉を無効化し、

 “あるべき世界”に戻す調和の光。

 

 これならば、どんな幻術も隠蔽も、

 強制的に解除されるはずだった。

 

 ──だが。

 

 ミキは、現れない。

 

「なっ……効かない!?」

 

 観客席のヴェルが身を乗り出す。

 セリアの調和は、法術や魔術といった

 この世界の理に干渉するものだ。

 

 しかし、ミキの存在は違う。

 あれは、まよねこの『転移スキル』。

 

 異世界からもたらされた、

 この世界の理の外にある“具現化”。

 ゆえに、セリアのキャンセルが届かない。

 

「こっちヨ」

 

 声は、耳元からした。

 

「っ!?」

 

 セリアが振り返るより速く、

 透明な刃が振るわれる。

 

 ミキが持つ『ミラプリベル』で姿を変えた、

 見えないゴボウソード。

 その正体は高火力を秘めた炎の魔剣だ。

 

 ジュッ!!

 

 見えない熱刃がセリアの脇腹を薙ぐ。

 

「きゃぁっ!?」

 

 だが、セリアは倒れない。

 

 今の彼女は『愛裸武勇(アイラブユー)』状態。

 肌を晒すことで得た身体能力は、

 人の域を遥かに超えている。

 

 彼女は“切られてから”反応した。

 

 肌が焼ける熱さを知覚した瞬間に、

 筋肉を収縮させ、

 バックステップで威力を殺す。

 

 常人なら両断されているタイミングでの、

 神がかった荒業回避。

 

「そこですッ!!」

 

 セリアは退がると同時に、

 熱を感じた空間へ拳を突き出す。

 

 ドゴッ!!

 

 確かな手応え。

 

「ぐっ……! やるヨ……!」

 

 空間からミキが弾き出される。

 腹を押さえながら、

 それでもミキは不敵に笑った。

 

「流石、ミキのライバルヨ!

 伊達に恥ずかしい格好してないヨ!」

 

「うぅ……それは言わないでください!」

 

 セリアが顔を赤くして構え直す。

 

 ミキは距離を取り、

 ごぼうを指揮棒のように振った。

 

「なら、これはどうヨ?

 ツギハギ狂った……『マトリョシカ』!」

 

 ポンッ!

 

 軽快な音と共に、ミキが増えた。

 いや、分裂した。

 

 一人のミキから、一回り小さいミキが。

 さらにそのミキから、小さいミキが。

 逆に、外側の殻は巨大化していく。

 

 3メートルを超える『極大ミキ』。

 大柄な『大ミキ』。

 通常の『ミキ』。

 子供サイズの『小ミキ』。

 掌サイズの『極小ミキ』。

 

 五体のミキが、

 それぞれ異なるリズムで動き出す。

 

「「「「「遊んでやるヨ!!」」」」」

 

 声が重なり、包囲網が敷かれる。

 極大ミキがごぼう|(丸太サイズ)を振り回し、

 極小ミキが足元をチョロチョロと走る。

 サイズ差を活かした波状攻撃。

 

「くっ……! 邪魔ですっ!」

 

 セリアは超絶的な身体能力で、

 丸太ごぼうを側転で躱し、

 小ミキの足払いをジャンプで避ける。

 

 だが、手数が多い。

 防戦一方だ。このままではジリ貧になる。

 

(どうにかして、隙を……!)

 

 セリアの瞳が、床の石板を捉える。

 彼女は迷わず、地面を拳で殴りつけた。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

「なにごとヨ!?」

 

 衝撃で石板が浮き上がる。

 セリアはその巨大な石板をひっぺがし、

 盾にするように掲げた。

 

 極大ミキの攻撃が石板を砕く。

 その砂塵に紛れ、セリアが地を滑る。

 狙うは、極大ミキの軸足。

 

「はぁぁぁぁッ!!」

 

 ローキック一閃。

 巨体がバランスを崩しグラリと傾く。

 

 セリアはその隙を見逃さない。

 倒れ込む極大ミキの尻尾……

 はないので、足をガシッと掴んだ。

 

「回しますッ!!」

 

 ブンッ!!

 セリアが独楽のように回転する。

 3メートルの巨体が遠心力で宙に浮く。

 

 ブンッ! ブンッ! ブンッ!!

 

 回転速度が上がる。

 近づこうとした大ミキや通常ミキが、

 振り回される極大ミキに弾き飛ばされる。

 

「……マリオ64のクッパ戦かよ」

 

 観客席で、ヴェルがボソリと呟いた。

 

 爆弾の周りで回すあの光景が、

 完全にフラッシュバックしている。

 

「てやぁぁぁっ!!」

 

 セリアが手を離す。

 極大ミキは砲弾となって場外へ飛び、

 壁に激突して消滅した。

 

 巻き込まれた他のミキたちも、

 次々とダメージを受けて消えていく。

 

 残ったのは、

 本体である『小ミキ』ただ一人。

 

「……さすがセリアヨ」


 小ミキが、通常サイズに戻る。

 マトリョシカ解除。

 そして懐から何かを取り出した。

 

 それは、トゲトゲした果実。

 パイナップルだ。

 

「だが、これは防げるかヨ?

『ワールドイズパイン』ッ!!」

 

 ミキがパインを空へ放り投げる。

 

 すると、空が歪んだ。

 一個だったパインが、二個、四個、八個。

 倍々ゲームで増殖し、

 空を黄色く埋め尽くしていく。

 

「な、なんなのですかあれは!?」

 

 セリアが空を見上げる。

 観客たちもその摩訶不思議な光景に言葉を失う。

 シュールだ。あまりにもシュールだ。

 だが、その質量は笑えない。

 

「落ちるヨォッ!!」

 

 ミキが腕を振り下ろす。

 

 ドォォォォォォッ!!

 

 無数のパイナップルが、

 隕石の雨となって降り注ぐ。

 

 果汁が飛び散るような甘い音ではない。

 岩盤が砕けるような轟音が響き渡る。

 リング全体を埋め尽くす、

 範囲攻撃の極致。

 

 逃げ場など、どこにもない。

 

「……逃げません」

 

 だが、セリアは足を止めた。

 

 右拳を固く握りしめ、

 腰だめに構える。

 全身のマナを、右腕一点に集中させる。

 

「ふぅぅぅ……ッ!」

 

 迫りくる最大のパイン隕石。

 セリアは、天に向かって拳を突き上げた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 ドッッッカァァァァァァァン!!!

 

 拳圧が、空を割った。

 

 直撃したパインが粉砕され、

 その衝撃波が後続のパインたちをも

 次々と誘爆させていく。

 

 黄金の果肉の雨が降る中、

 セリアは拳を天に突き上げたまま、

 仁王立ちしていた。

 

 その姿は、まさしく。

 世紀末の覇者の如し。

 

『我が生涯に、一片の悔いなし……!』

 

 と言わんばかりの威圧感。

 水着姿の美少女なのに、

 背後に闘気が見えるようだ。

 

「……硬すぎヨ」

 

 ミキが呆れたように呟く。

 

 飛び道具も、質量攻撃も通じない。

 ならば、原点回帰。

 ミキはいつもの制服姿になり、

 禍々しい金属の棒を取り出した。

 

「やっぱり最後はこれヨ!

『脳漿炸裂バール』!!」

 

 赤黒く光るバールのようなもの。

 

 ミキはそれを両手で構え、

 セリアへと特攻する。

 

「うおおおおおっ!!」

 

「来ますか……!」

 

 セリアも構える。

 近接戦闘なら、分はこちらにある。

 ディアモンテとの修行で培った、

 対人制圧の技術。

 

 ミキが大振りの一撃を放つ。

 セリアはそれを見切っていた。

 

(大振り……隙だらけです!)

 

 セリアは懐に潜り込む。

 がら空きの横腹へ、

 必殺の拳を叩き込むために。

 

「終わりですッ!!」

 

 ドゴォッ!!

 

 拳がミキの脇腹に深々と入る。

 勝負あった。

 誰もがそう思った。

 

 だが。

 

 ミキは、痛みに顔を歪めながらも、

 ニヤリと笑ったのだ。

 

「……かかったヨ」

 

 ミキの手が、セリアの腕を掴む。

 そして、小さく呟いた。

 

「『マグネット』」

 

 キィィィン!!

 

 二人の間に、赤い蝶と青い蝶の

 エフェクトが舞う。

 

 不可視の磁力が、二人を強力に結びつけた。

 

「えっ……!?」

 

 セリアが離れようとするが、

 身体がくっついて離れない。

 

 そして、ミキはセリアのパンチの勢いを、

 そのまま利用した。

 

「一緒に飛ぶヨォォォッ!!」

 

 殴られた勢いで吹き飛ぶミキ。

 それに引っ張られるセリア。

 二人は団子状態になったまま、

 空中を舞い──

 

 ドサッ。

 

 同時に、場外の地面へと落下した。

 

『りょ、両者場外ィッ!!

 引き分けェェッ!!』

 

 実況が叫ぶ。

 磁力が解け、ミキがよろりと立ち上がる。

 

「セリア相手には、まだ勝てなかったヨー」

 

 ミキはごぼうを取り出し、

 フリフリと振りながら笑った。

 

 真っ向勝負では勝てないと判断し、

 肉を切らせて相打ちに持ち込んだのだ。

 その判断力と胆力。

 

「ナイスファイトだ、ミキ君!」

 

 ベンチで気絶から回復していたリラが、

 手を叩いて迎える。

 

「えへへ、褒められたヨ」

 

 ミキは上機嫌で戻っていく。

 対照的に、セリアは肩を落として、

 トボトボとこちらへ帰ってきた。

 

「うぅ……すみません……。

 勝てると思ったのに、油断しました……」

 

 しょんぼりするセリア。

 だが、ヴェルは優しく彼女の頭を撫でた。

 

「いや、十分だ。よくやったよセリア」

 

「ヴェルさん……?」

 

「一番わけのわからないミキを、

 ここで落とせたのはデカイ。

 あいつが残ってたら場を荒らされてたはずだ」

 

 変幻自在のミキは、

 戦況をかき乱すジョーカーだ。

 それを相打ちで封じたのは、

 戦術的に見れば大きな戦果だった。

 

「胸を張れ。セリアは強かったぞ」

 

「……はいっ! ありがとうございます!」

 


 これで一勝一敗一分け。

 勝負は振り出しに戻った。

 

『迷い猫』の残りは、

 まよねことキロロ。

 自由の風はカルド、ヴェル。


「……次は、あの子が出てくるだろうな」


 ヴェルのつぶやきでカルドが立ち上がる。

 その視線はぴょんぴょん跳ねている、

 金髪の少年を捉えていた。

 

「キロロか。……相手にとって不足なしだ」

 

 ドラゴンの化身。

 純粋なパワーなら、大会随一だろう。

 

「俺が行く。力比べなら、負ける気はない」

 

 カルドは大剣を担いでゆっくりとリングへ向かう。

 

 大盾と鎧はいつものではない。

 アマドリブル戦で壊れたため間に合わせの物だ。

 だが、その背中は揺るぎない岩山のよう。


 それに、勿論用意したのはラグアス。

 ただの大盾じゃあない。

 

『第三試合、選手入場!!』

 

「ぼくのばんだー!」

 

 予想通り、キロロが飛び出してきた。

 無邪気な笑顔。

 だが、その身から溢れるマナは、

 大気すら震わせている。

 

「カルドおじちゃん! あそぼー!」

 

「……手加減はできんぞ、キロロ」

 

 カルドが大剣を構える。

 

「うん! ぼくもほんきだす!」

 

 キロロが笑う。

 その瞬間、少年の姿が光に包まれ、

 黄金の鱗を持つ竜へと変貌した。

 

『グオォォォォォォッ!!』

 

 咆哮一発。

 不撓不屈の重戦士 vs 最強の幼竜。

 重量級同士の激突が、今、始まる。



 

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