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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0187.天才vs天才


 

 視点:俯瞰

 


『準決勝 第一試合、開始ッ!』


 銅鑼の音が、

 コロッセオの石壁に反響する。

 

 その余韻が消えるよりも早く、

 赤い影が疾走した。アノンだ。

 

 彼女は杖を構えることなく、

 身体ごとリラへ突っ込んでいく。

 

「先手必勝じゃあッ!」

 

 全身を覆うのは、

 陽炎のような赤いマナ。

 

 ガレスとの特訓で編み出した

 『魔闘術クロスアーツ』。

 

 火の『活性』で身体能力を上げ、

 風の『循環』で加速させる。

 肉体派魔法使いという矛盾。

 

 アノンの新たなスタイルだ。


「おっと、いきなりかい?」

 

 リラは慌てることなく水晶を前に掲げた。

 アノンの杖が弾丸のような速度で落ちる。

 

 ──ガィィィンッ!!

 

 硬質な音が響き渡る。

 砕け散るはずの水晶が、

 アノンの一撃を受け止めていた。

 

「硬いのう!」

 

「土の『保持』さ。

 水晶の硬度を維持し、

 ボクの足を地面に固定する。

 でなければ飛んでしまうからね」

 

 リラが涼しい顔で言う。

 物理的な防御を持たぬ彼女は、

 法術の理屈で防御していた。


「ちっ、小賢しい!」

 

 アノンは距離を取る。

 同時に、杖先にマナを収束。

 肉弾戦の合間に練り上げた必殺の魔術だ。

 

「吹き飛ぶがよい!『爆炎旋風・核イクスプロージョン・コア』!!」

 

 圧縮された赤と緑の球体が、

 リラへと放たれる。

 

 着弾と同時に内部から炸裂し、

 対象を消し飛ばす極大魔法。

 だが、リラは逃げない。

 

「……風の女神よ」

 

 彼女は静かに手をかざした。

 魔法陣も、派手な光もない。

 ただ、火球の周囲の空気が、

 一瞬だけ不自然に歪んだ。

 

 ──シュウゥッ……。

 

 爆発するはずだった火球が、

 音もなく消滅した。

 まるで、幻だったかのように。


「なッ……!? 馬鹿な!

 火種を……真空で消したのか!?」

 

 アノンが驚愕に目を見開く。

 

 燃焼には酸素が必要だ。

 リラは風の魔術を応用し、

 一瞬だけ真空状態にしたのだ。

 

 それはかつて、父ゼノンが

 語っていた対処法そのもの。

 

「理屈がわかれば対処はできるものさ」

 

「ぐぬぬ……! ならば数で押すまで!

 『一掃する炎槍(クリアランス)』!!」


 アノンが杖を振るう。

 

 空中に無数の炎の槍が出現し、

 雨のようにリラへ降り注ぐ。

 

「ふふ、芸がないね」

 

 リラが指を弾く。

 炎の槍と同じ数の水球が、

 彼女の周囲に浮かび上がった。

 

 ジュワァァァッ!!

 水と炎が対消滅し、

 濃密な蒸気が視界を覆う。


(今じゃ!)

 

 アノンはその霧の中を駆けた。

 

 視界が遮られた今こそが好機。

 魔闘術による超高速機動で

 リラの背後へ回り込む。

 

「もらったのじゃぁッ!!」

 

 渾身の回し蹴り。

 鉄柱すらへし折る威力だ。

 

 ドゴォッ!!

 手応えがあった。

 

 だが──。

 

「……え?」

 

 蹴り抜いた感触が軽い。

 

 リラの姿が揺らぎ、

 霞のように消えていく。

 

「残念、そこにはいないよ」

 

 声は、後方から聞こえた。

 

「な、いつの間に!?」

 

「水の『調和』で風景に溶け、

 土の『保持』で残像を固定した」

 

 リラが眼鏡を直して微笑む。

 観客席のヴェルが息を呑んだ。

 

「あれは……ゼノンさんの、

 『分身の術』と同じ理屈か!」

 

 見た目だけを保持し、

 実体を隠蔽する高度な連携。

 吟遊詩人と名乗りながら、

 その技術は本職を凌駕している。


「さて、そろそろボクの番だね」

 

 リラが水晶を高く掲げる。

 

「星々よ、降り注げ。『神の審判(エルミーティア)』」

 

 上空が赤く染まる。

 

 降り注ぐのは無数の小型隕石。

 土と火と風の複合魔術。

 

「くっ、面倒な!」

 

 アノンは杖を振るい、

 直撃コースの隕石だけを

 正確に打ち払っていく。

 

 魔闘術で研ぎ澄まされた

 動体視力が見切っている。

 

「ほぅ……素晴らしい体捌きだ。

 マナを身体強化と推進力に回しているのか」

 

 リラが感心したように呟く。


「原理はわかったよ。

 ……なら、ボクにも出来るかな」


 リラの全身を、

 青いオーラが包み込む。


 水のマナだ。

 静謐で流動的なマナの鎧。


「水の魔闘術……と言おうか」

 

「なッ!? 貴様、妾の技を!」

 

「学ぶことは真似ることさ」

 

 リラが構える。

 

 アノンは歯噛みした。

 自分の技術を、

 こうもあっさり模倣されるとは。

 

「おのれぇッ!

 付け焼き刃が通じると思うな!」

 

 アノンが激昂して踏み込む。

 

 真正面からの突撃。

 速度、威力共にアノンが勝る。

 リラが受け流そうとしても、

 火力でねじ伏せられるはずだ。

 

「勝負ありじゃ!」

 

 アノンの杖が、リラに迫る。


 だが。

 リラは、悲しげに目を細めた。

 

「……かかったね」

 

 リラの周囲に展開されていた薄いマナの膜。

 それは防御壁ではなかった。

 

 火の負術──『抑制』。

 

 アノンが踏み込んだ瞬間、

 彼女の身体が泥沼に浸かったように重くなる。

 

「な、身体が……!?」

 

 減速するアノン。

 その隙を、リラは見逃さない。

 

「ごめんよ。少し、酔うかもしれない」

 

 リラの手がアノンの胸に触れる。

 流し込まれたのは、

 攻撃魔法ではない。

 

 水の負術──『混乱』。

 

「あ、が……ッ!?」

 

 アノンのマナが暴走を始めた。

 

 右に行こうとすれば左へ。

 止まろうとすれば加速する。

 神経とマナの伝達が、

 デタラメに書き換えられる。

 

 リラが抑制を解く。

 途端、行き場を失っていた

 アノンの運動エネルギーが、

 制御不能のまま爆発した。

 

「うわぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 アノンの身体が勝手に跳ねる。

 

 壊れた玩具のように、

 フィールドをのたうち回り、

 そして──。

 

 ドサッ。

 場外の地面に、無様に転がった。


『しょ、勝負ありぃぃッ!!

 勝者、リラ選手ゥゥッ!!』


「う、うぐぐ……」

 

 アノンが顔を上げる。

 

 服は汚れ、髪はボサボサ。

 怪我はない。

 だが、プライドはズタズタだった。

 

 自慢の魔闘術を真似され、

 罠に嵌められ、

 何も出来ないまま自滅した。

 

「うわぁぁぁぁぁん!!

 くやしいぃぃぃぃ!!」

 

 アノンはその場で大泣きした。 

 手足をバタつかせて。

 

 それをみて、

 リラは申し訳なさそうにする。

 

「あー……。すまないね。

 真っ向勝負では勝てそうに

 なかったから、小細工をね」


「アノン!」

 

 ベンチからセリアが来る。

 

 だが、その姿に会場がざわめいた。

 ローブを脱ぎ捨てた彼女は、

 既に──水着姿だった。

 

 フリルのついた、

 可愛らしくも大胆な戦闘用水着。

 

「セ、セリア……?」

 

 アノンが涙目で見上げる。

 セリアは優しくアノンを抱いた。

 

「よく頑張りました、アノン。

 敵の能力、しっかり見せてもらいましたよ」

 

 セリアの瞳には、静かな怒りと、

 強い決意が宿っていた。

 

「次は、私が行きます。

 見ていてくださいね、アノン」

 

 セリアはアノンの頭を撫でると、

 凛とした足取りでリングへ向かう。

 肌を晒す恥じらいなどない。

 あるのは、友の敵を討つ使命感。


『次鋒、前へ!』

 

 セリアとリラが対峙する。

 観客席のヴェルたちは肝を冷やしていた。

 

「お、おい! 大丈夫かセリア!

 あの『混乱』と『抑制』、

 接近戦には最悪の相性だぞ!」

 

「あぁ。近づけば泥沼、触れれば暴走。

 アノンの二の舞になる危険が高い」

 

 カルドも険しい顔をする。

 

 リラは、先ほどと同じく、

 薄い『抑制』の膜を展開して

 待ち構えている。

 

「ふむ。お嬢さん、悪いことは言わない。

 君のような武闘派は、ボクとは相性が……」

 

「関係ありません」

 

 セリアは言い放ち、地を蹴った。

 速い。

 

 『愛裸武勇アイラブユー』により強化された

 ステータスは、アノンを凌駕する。

 一瞬で間合いを詰めたセリア。

 

「忠告はしたよ!」

 

 リラが『混乱』のマナを集める。

 セリアが『抑制』の領域に

 踏み込んだ、その瞬間。

 

「『零値点回帰アブソリュートキャンセル』ッ!!」

 

 セリアの叫びと共に、

 青白い光が弾けた。

 

 パリンッ!

 

 何かが割れるような音がして、

 『抑制』のフィールドが霧散する。

 

「なッ──!?」

 

 リラの驚愕の表情。

 

 全ての理屈、全ての術式を

 強制的にリセットする、

 調和の極致。

 

 残ったのは、純粋な

 物理的運動エネルギーのみ。

 つまり、セリアの拳だ。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ドゴォォォォンッ!!!

 

 セリアの拳が、

 リラの鳩尾に深々とめり込んだ。

 

「がはッ……!?」

 

 リラの身体がくの字に折れ、

 砲弾のように吹き飛ぶ。

 

 魔法障壁も、保持による防御も、

 全てを無効化された生身への一撃。

 

 リラは地面を何度もバウンドし、

 場外の壁に激突して止まった。

 

 白目を剥き口から魂が抜けかけている。

 

「ボ、ボクは……インテリ系だから…

 パワーには……勝て……ないよ……」

 

 気絶。


『しょ、勝負ありぃぃぃッ!!

 勝者、セリア選手ゥゥッ!!』


 会場が爆発的な歓声に包まれる。

 

 セリアは乱れた呼吸を整え、

 気絶したリラに一礼した。

 

「仇は、取りましたよ。アノン」

 

 ベンチの方を向いてVサイン。

 アノンは涙を拭いて、

「うむ! 当然じゃ!」と

 鼻をすすり手を振り返した。


「……やっぱりこうなる運命ヨ」

 

 『迷い猫』のベンチから、

 一人の少女が立ち上がった。

 無表情で、手には太いごぼう。

 

 ミキだ。

 

「リラがやられたヨ。

 次はミキが相手をするヨ!」

 

 ミキがフィールドへ歩み出る。

 セリアもまた、構え直す。

 

「望むところです、ミキさん!」

 

 撲殺天使セリア vs 電脳少女ミキ。

 

 物理と物理。

 近接最強を決める戦いが、

 始まろうとしていた。


 

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