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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0183.一触即発



 視点:ヴェル


 

 アンチとの決着がつき、

『自由の風』の勝利で幕を閉じた。

 

 熱狂の余韻が残る中、

 俺たちはフィールドを降りて、

 関係者用の観客席へと移動する。

 

「ふぅ……。なんとか勝てたな」


 席に腰を下ろしながら、

 俺は大きく息を吐いた。


 全身の倦怠感が、

 波のように押し寄せてくる。

 シゾットとの戦いで酷使した脳が、

 ズキズキと痛む。


「お疲れ様です、ヴェルさん」

 

 隣に座ったセリアが、

 冷たい水を差し出してくれた。

 

「ありがとう。……生き返るよ」

 

 一口飲むと、冷たさが染み渡る。

 カルドやシン、アノンも、

 それぞれ安堵の表情で座り込んでいた。

 

 フィアだけは腕を組んで、

 難しい顔をしているが、

 その口元は僅かに緩んでいる。

 

「さて……次は、いよいよだな」

 

 シンの言葉に、俺たちは顔を上げる。

 フィールドの修復が終わり、

 次なる戦いの準備が整えられていく。

 

虹の都(アイリスガルド)』 対 『三風神(トリヴァン)

 

 水の国のトップファミリアと、

 謎多きS級パーティの激突だ。

 俺たちにとっては、

 どちらも因縁浅からぬ相手である。

 

『選手の入場だァッ!!』

 

 実況の声が響き渡る。

 西のゲートから現れたのは、

 色とりどりのローブを纏った集団。


『虹の都』。

 

 先頭を行くのは、慈愛の笑みを浮かべる

 緑髪の女性、エメラルド。

 それに続く、赤、黄、橙、藍の使徒たち。

 相変わらずの、異様な集団だ。

 

 対する東のゲートからは、

 三人の女性が現れた。

 

『三風神』。

 

 蝶の仮面をつけた淑女、ミストラル。

 銀仮面の剣士、ゼフィール。

 そして狐面の少女、ラフェル。

 

 人数差は明らかだ。

 五対三。

 だが、纏うオーラの質は互角。

 

 いや、個々の重圧で言えば、

 三風神の方が上かもしれない。

 

 両チームがフィールド中央で対峙する。

 

 その時だった。

 ミストラルが、ふと、こちらを見上げる。

 

 観客席にいる俺たち──いや、俺を。

 

 仮面の下の瞳が、細められる。

 優雅に扇子を振り、

 小さく、けれど確かに手を振った。

 

「……げっ」

 

 俺は思わず身を固くする。

 

『見ていてくださいませ、ヴェン』

 

 そんな声が聞こえてきそうな、

 嬉しそうな様子だった。

 

「あらぁ〜? ミストラルさん、

 どちらに愛想を振りまいて……?」

 

 対面にいたエメラルドが、

 不思議そうに視線を追う。

 そして、俺と目が合った。

 

「まぁっ!! ヴェル様ぁぁぁ♡」

 

 エメラルドの顔が、

 パァァァッと輝いた。

 

 能面のような笑顔ではなく、

 恍惚とした、熱っぽい笑み。

 彼女は両手を口元に当て、

 投げキッスを送ってきやがった。

 

「愛しいヴェル様……♡

 私の愛の鞭、見ていてくださいねぇ〜♡

 勝ったらご褒美に……じゅるり」

 

 最後の音が、マイクに乗っていないのに

 聞こえた気がした。

 

「…………」

 

 会場の空気が、凍りついた。

 いや、正確には。

 俺の周りの空気が、絶対零度になった。

 

「……モテモテですね、ヴェルさん?」

 

 セリアの声が低い。

 笑顔なのに、目が笑っていない。

 

「な、なんでじゃ!

 あの変態女、ヴェルに色目を!」

 

 アノンがキィキィと喚く。

 

 そして何よりフィールド上の空気が、

 修羅場へと変貌していた。

 

 ミストラルは、扇子を閉じる。

 

 パチンッ。

 乾いた音が、やけに大きく響く。


「……あら? どこの泥棒猫かと思えば。

 発情期は春だけにして頂けなくて?」

 

 ミストラルの声は、

 優雅だが、底冷えするほど冷たい。

 

「あらぁ、ひどい言われようですわね♡

 愛に季節などありませんもの~。

 溢れ出る想いは、止められません♡」

 

 エメラルドが頬を染めて返す。

 

 バチバチバチッ!!

 視線の間で、火花が見えた気がした。

 

「ヴェル……お前、罪作りな男だな」

 

 シンが憐れむような目で俺を見る。

 

「うるせぇ。俺は被害者だ」

 

 胃が痛い。

 試合前からこの険悪ムード。

 とばっちりが来ないことを祈るばかりだ。

 

「さて、皆様」

 

 エメラルドが、話題を切り替えるように

 手をパンと叩いた。

 

「私たちは五人、そちらは三人。

 数で押し切るのも愛がありませんわねぇ」

 

 彼女は慈愛の笑みを浮かべ、

 とんでもない提案をした。

 

「いかがでしょう?

 代表者三名による、一対一の三本勝負。

 先に二勝した方の勝ち、というのは?」

 

 会場がざわめく。

 

 数的不利を自ら捨てる提案。

 余裕か、それとも舐めているのか。

 

 ミストラルは、

 扇子で口元を隠し、冷ややかに笑った。

 

「……よろしいですわ。

 数に頼るだけの有象無象など、

 何人いても同じことですもの」

 

 挑発には挑発を。

 プライドの高い彼女らしい返しだ。

 

「決まりですわねっ!

 ではでは、誰が行きますの〜?」

 

 元気な声で割り込んだのは、

 オレンジ髪の『希望の橙(カーネリアン)』だ。

 

 彼女は懐から、紙とペンを取り出す。

 

「運命は天に任せるもの!

 あみだくじで決めますわよ〜っ!」

 

 カリカリカリ……。

 

 戦場のど真ん中で、

 あみだくじを作り始める少女。

 能天気にも程がある。

 

「……あいつら、緊張感ねえな」

 

 カルドが呆れたように言う。

 

「できたですわ!

 さぁさぁ、皆さん選んでくださいな!」

 

 虹の都の面々が楽しそうに線を指差す。

 

「じゃあ、一番手は……」

 

 カーネリアンが線を辿る。

 

「エメラルドお姉様ですわっ!」

 

「あら、私ですの?

 愛の力、見せつけてさしあげますわ♡」

 

 エメラルドが前に出る。

 対する三風神側。

 

「じゃあー、私が行くー」

 

 気だるげに手を挙げたのは、

 狐面のラフェルだった。

 

「お腹すいたしー。さっさと終わらせるー」

 

 第一回戦。

 

『慈愛の緑』エメラルド

 vs

『風の闘神』ラフェル。

 

 異色の取り合わせが、

 フィールド中央で対峙した。

 

『第一試合、開始ッ!!』


 銅鑼の音と共に、

 ラフェルの姿が消えた。


「……っ!」


 速い。


 俺の動体視力でも追いきれない。

 風を纏い、抵抗を消し去る歩法。

 俺の『風の滑走』の上位互換だ。


 ドゴォッ!!


 衝撃音が響き、

 エメラルドの身体がくの字に折れる。

 ラフェルの蹴りが、

 横腹に深々とめり込んでいた。

 

「はい、終わりー」

 

 ラフェルがつまらなそうに足を戻す。

 普通なら、内臓破裂で即死だ。

 

 だが。

 

「うふふっ、いい蹴りですわねぇ♡」

 

 エメラルドは、笑っていた。

 ボコボコと音を立てて、

 陥没した脇腹が盛り上がり、元に戻る。

 

「愛を感じますわ……ッ!」

 

「……うわ、気持ち悪っ」

 

 ラフェルが本音を漏らしてバックステップ。

 

「なら、これならどうー?」

 

 ラフェルが手刀を振るう。

 

 ヒュンッ!!

 

 真空の刃が飛び、

 エメラルドの腕を切り飛ばした。

 

 鮮血が舞う。

 しかし、その血すらも空中で止まり、

 逆再生するように傷口へ戻っていく。

 瞬く間に、腕が繋がった。

 

「無駄ですわよぉ♡

 私の愛は、不滅なのですから」

 

 エメラルドが両手を広げる。

 その背後に、

 緑色のマナが揺らめき立つ。

 

「超再生……か」

 

 俺は呻いた。

 以前見た時以上の回復速度だ。

 ラフェルの攻撃力は間違いなくS級クラス。

 だが、相手は不死身のゾンビだ。

 

「んー、めんどくさいなー」

 

 ラフェルが頭をかく。

 

「じゃあ、消し飛ぶまで殴るー」

 

 ラフェルの雰囲気が変わる。

 纏う風が、暴風へと変わった。

 

 ドガガガガガガッ!!

 

 ラッシュ。

 拳、蹴り、膝、肘。

 全身を凶器とした、怒涛の連撃。

 

 エメラルドの身体が、

 ボロ雑巾のように舞う。

 

 肉が弾け、骨が砕け、

 原形を留めないほどに破壊される。

 

「す、すげぇ……」

 

 シンが息を呑む。

 これなら、再生も追いつかないはずだ。

 

 だが。

 

「あぁっ……♡ 激しいっ……♡

 もっと、もっと愛してぇ……ッ!」

 

 エメラルドは、

 肉塊になりながらも笑っていた。

 

 狂気。

 痛みすら快楽に変える、歪んだ愛。

 

 ラフェルの動きが、

 わずかに鈍った。

 生理的な嫌悪感か、あるいは疲労か。

 その一瞬の隙をエメラルドは見逃さなかった。

 

「そろそろ、終わりにいたしましょうか♡」

 

 ブワッッッ!!!

 

 エメラルドの身体から、

 信じられない質量のマナが噴出した。

 

 緑色のオーラが、

 可視化できるほどの濃度で渦巻く。

 

 それは、癒やしの光ではない。

 生命力を強制的に活性化させ、

 暴走させる毒の光だ。

 

「なっ……!?」

 

 ラフェルが飛び退こうとする。


 だが、遅い。

 再生したエメラルドの手が、

 ラフェルの足首を掴んでいた。


「愛の重さ、知ってくださいな♡」


 ドォォォォォォンッ!!!


 エメラルドが、

 ラフェルを地面に叩きつけた。


 ただの力任せではない。

 接触点から『過剰回復』のマナを流し込み、

 身体のバランスを崩壊させる。


「ぐぇっ……!」


 ラフェルがカエルのような声を上げて、

 バウンドする。

 そこへ、エメラルドの蹴りが突き刺さった。


「愛の鞭です♡」


 ズドンッ!!


 ラフェルの身体が、

 砲弾のように場外へと弾き飛ばされた。

 壁にめり込み、ズルズルと落ちる。


『しょ、勝負ありぃぃッ!!

 第一試合、エメラルド選手の勝利ィッ!!』


 会場が静まり返るほどの、

 圧倒的な逆転劇。


 不死身の再生力と、

 底知れぬマナ量。

 これが、七彩の使徒の実力か。


「うふふ♡ ありがとうございましたぁ♡」


 エメラルドは傷一つない姿で、

 優雅にお辞儀をした。


 一方、場外のラフェルは。


「ぐえー、負けたンゴ〜」


 大の字になりながら、

 妙な言葉で呟いていた。


 悔しさはなさそうだ。

 ただ、面倒くさかった、という顔をしている。


「……あいつ、絶対本気出してないだろ」


 俺は呆れて呟いた。

 まあ、ラフェルらしいと言えばらしいが。


 これで、虹の都が一勝。

 後がない三風神。


「さぁさぁ、次は誰ですの〜?」


 カーネリアンが、

 また楽しそうにあみだくじをなぞる。

 緊張感のかけらもない。


「次は……トパーズお姉さまですわ!」


「うぇ〜、アタイかよ。面倒だなぁ」


 黄髪の少年のような女性、

 トパーズが頭をかきながら出てくる。


 対する三風神からは、

「まったく、あの子は……」と

 ため息をつきながら、

 蝶の仮面の淑女が進み出た。


 リーダー、ミストラル。

 S級の実力者が、早くも登場だ。


「アタイの硬さ、試してみるかい?」


 トパーズが不敵に笑い、

 拳をバチンと合わせる。


「ええ。粉々に砕いて差し上げますわ」


 ミストラルが扇子を開き、

 冷ややかな瞳で見下ろす。


『堅固』vs『霧魔女』

 

 第二回戦。

 開戦の狼煙が、上がろうとしていた。


 俺は、ごくりと喉を鳴らした。

 リリーの……S級の本気が、見られる。

 その予感に、肌が粟立つのを感じていた。



 

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