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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0182.悪いことこそ



 視点:俯瞰


 

 氷の迷宮が砕け散り、

 瓦礫のような氷塊が散らばるフィールド。

 

 荒い息を吐くリアッチョの肩が、

 大きく上下していた。

 

(クソッ……! クソクソッ!!

 あの迷宮を作るのにマナを使いすぎたッ!

 もう一度展開するのは……無理だッ!)

 

 『隠したい経歴(ブラックアルバム)』の維持と、

 大規模な氷結魔法の連発。

 彼のマナは既に枯渇寸前だった。

 

 だが、それは相手も同じはずだ。

 そう自分に言い聞かせ、

 リアッチョは眼鏡の位置を直す。

 

「へへッ……!

 だがなァ、テメーも限界だろォがッ!

 近寄らせなきゃあいいんだよォ!」

 

 リアッチョが両手を振るう。

 大気中の水分が凝結し、

 二本の無骨な氷の片手斧が形成された。

 

「死ねやァァァッ!!」

 

 投擲。

 

 回転する氷の刃が、

 唸りを上げてシンに迫る。

 

「っと……!」

 

 シンは身をよじってそれを躱す。

 

 だが、足元が悪い。

 フィールド全体が凍りついているせいで、

 得意のステップが踏めないのだ。

 ツルリと足が滑り、体勢が崩れる。

 

「チッ、やりづれえな……」

 

 シンは舌打ちをし、

 雷槍『アル=ラキーブ』を杖代わりに、

 なんとか踏み止まる。

 

 そこへ、二撃目、三撃目の斧が飛来する。

 

 シンは槍で弾き、あるいは最小限の動きで、

 氷の上を滑るように回避する。

 だが、近づけない。

 

 氷の足場と、絶え間ない遠距離攻撃。

 シンの最大の武器である、

 槍による接触からの雷撃が封じられている。

 

 カツ、カツ、カツ。

 

 シンは苛立つように、

 左手に持ったクナイで、

 槍の柄をリズムよく叩いた。

 

 それは焦りの表れか、

 それとも思考のリズムか。

 

「オラオラオラァッ! どうした情報屋ァ!

 近づけねえのかよォォッ!?」

 

 リアッチョが嘲笑う。

 

 本に記された情報通りだ。

 遠距離手段に乏しいシンは、

 この状況を打破できない。

 

 シンは、ふぅーっと息を吐いた。

 そして、ヤケクソ気味に、

 手にしたクナイを投擲した。

 

 シュッ。

 

 風切り音と共に飛ぶクナイ。

 だが、その軌道は素直すぎた。

 

「ハッ! 無駄だつってんだろォがッ!」

 

 リアッチョは避けようともしない。

 全身に分厚い氷の鎧を纏わせ、

 仁王立ちでそれを受け止める。

 

 カォンッ!

 硬質な音が響く。

 

 クナイはリアッチョの左肩、

 氷の鎧の表面にサクリと突き刺さった。

 だが、それだけだ。

 本体には傷一つ届いていない。

 

「ギャハハハッ!

 なんだァその豆鉄砲はよォォッ!!

 テメーの武器じゃあ、

 俺の皮一枚削れねえってことだァッ!」

 

 リアッチョが勝ち誇る。

 会場中が、シンの敗北を予感した。

 

 決定打がない。

 近づけない。

 そして、唯一の遠距離攻撃も通じない。

 ──詰みだ。

 

 だが。

 シンは、下を向いていなかった。

 むしろ、口の端を吊り上げ、

 ニヤリと不敵に笑っていた。

 

「……へへっ。

 ありがとな、避けないでくれて」

 

「あァ……?」

 

 リアッチョが怪訝な顔をする。

 シンはゆっくりと、

 雷槍の穂先をリアッチョに向けた。

 

「なぁ、リアッチョ。

 お前、俺の弱点は調べ尽くしたよな。

 接触しなきゃ雷は撃てない。

 槍で触れなきゃマーキングできない」

 

「だからどうしたァッ!

 触れてねえじゃねえかッ!」

 

「いいや……触れてるぜ」

 

 シンの指輪が、

 かつてない輝きを放ち始める。

 

「そのクナイ。

 俺がずっと、槍の柄を叩いてたろ?

 ……たっぷりと、セットされてるぜ?」

  

 リアッチョの顔色が凍りつく。

 肩に刺さったクナイを見る。

 その柄が、微かに紫電を帯びていた。

 

「まさか……ッ!?」

 

 シンが吠える。

 

「食らいやがれッ! 『追撃する狼(アクション)』ッ!!」

 

 バチィィィィィンッ!!

 

 槍から放たれた蒼き雷撃が、

 狼の形を成して虚空を駆ける。

 それは一直線に、

 標的であるクナイへと殺到した。

 

「うおォォォォォッ!?」

 

 リアッチョが慌てて氷壁を展開する。

 だが、雷の狼は生き物のように軌道を変え、

 壁を迂回し、背後へ回り込む。

 

「逃げられねえぞ!

 そいつはクナイに吸い寄せられるッ!」

 

「クソッ! クソクソッ!

 なんでだァァァッ!

 本には書いてなかったぞォォッ!」

 

 リアッチョが氷の上を滑走して逃げる。

 

 だが、狼は執拗に追いかける。

 肩に刺さった避雷針がある限り、

 地獄の果てまで追いすがる。

 

「外れろォッ!!」

 

 リアッチョがクナイを引き抜こうとする。

 だが、凍りついた鎧に深く食い込み、

 焦りもあって抜けない。

 

「おせェんだよ!!」

 

 ドガァァァァァンッ!!

 雷の狼が、リアッチョの背中に着弾した。

 

「ぎゃああああああッ!!」

 

 氷の鎧が砕け散る。

 感電し、動きが止まるリアッチョ。

 そこへ、追撃のクナイ。

 ……勿論、帯電されたもの。

 

「トドメだッ! 『粉砕する犀(グランブル)』ッ!!」

 

 巨大な雷のサイが、槍先から顕現する。

 それは、身動きの取れないリアッチョを、

 正面から跳ね飛ばした。

 

 ズドォォォォォォンッ!!!

 

 激しい閃光と轟音。

 リアッチョは氷の破片と共に吹き飛び、

 場外の壁へと叩きつけられた。

 

「が……はッ……」

 

 黒焦げになり、

 痙攣しながらリアッチョが崩れ落ちる。

 本が、手から滑り落ちた。

 

「な……なんでだ……。

 情報は……完璧だったはず……」

 

 うわ言のように呟くリアッチョ。

 シンは、肩で息をしながら、

 ゆっくりと彼を見下ろした。

 

 そして、冷たく言い放つ。

 

「情報ってのはな……。

 自分に都合の良いことばかり、

 集めるもんじゃねえんだよ」

 

 シンは、髪をかき上げる。

 

「自分にとって“都合の悪いこと”……。

 例外や、想定外の可能性。

 そいつを調べ尽くしてこそ、

 本物の情報屋ってもんだろうが」

 

 リアッチョは、悔しげに歯ぎしりし、

 そのまま意識を失った。


『しょ、勝負ありぃぃぃッ!!

 勝者、自由の風、シン選手ゥゥッ!!』

 

 実況が絶叫する。

 

『これにより、準決勝進出は……、

 チーム・自由の風に決定しましたァァッ!!』

 

 割れんばかりの歓声。

 シンは槍を掲げ、観客に応える。

 

「へへっ、やったぜ……!」

 

 満身創痍。

 だが、その顔は晴れやかだった。

 

「よくやったぞ、シン」

 

 ベンチに戻ったシンを、

 カルドが力強く迎える。

 

「ヒヤヒヤさせおって! 心臓に悪いのじゃ!」

 アノンも文句を言いつつ、嬉しそうだ。

 

「ナイスファイトでした!」

 セリアがタオルを渡す。

 

 フィアも、腕を組んだまま、

 小さく頷いてみせた。

「……悪くない戦いだった」

 

 一方、敗れた『アンチ』のベンチ。

 

「チクショオォォォッ!

 なんで負けんだよォォッ!

 納得いかねェッ! クソがァァッ!」

 

 目を覚ましたリアッチョが、

 地面を叩いてキレ散らかしている。

 

 その横で、パイナップル頭のテッシも、

 涙目で喚いていた。

 

「兄貴ィッ! 悔しいっスよォ!

 俺たちの方が強かったはずなのにィ!」

 

 そんな二人を、

 金髪のアマドリブルが宥める。

 

「泣くんじゃあない、テッシィ。結果が全てだ。

 負けたってことは、何かが足りなかった。

 それだけの話だろうが」

 

「でもよォ……!」

 

 リーダーのシゾットが、

 静かに歩み寄り『自由の風』の方を見て、

 小さく呟いた。

 

「……見事だった。次は、負けん」

 

 アマドリブルも、ニヤリと笑う。

 

「ああ。借りは返させてもらうぜ。

 ……勝ち上がれよ、自由の風」

 

 そう残して、彼らは清々しく、

 会場を去っていった。

 

「さて……次は準決勝だな」

 

 ヴェルが、掲示板を見上げる。

 勝ち上がったのは『自由の風』。

 

 そして、もう一つの山からは……『迷い猫』。

 まよねこたちのチームだ。

 

「ついに、来たな」

 

 ヴェルが拳を握りしめる。

 

「まよねこ、ミキ、リラ、キロロ。

 ……最高の相手だ」

 

「望むところだ。

 全力で叩き潰してやる」

 

 カルドが気合を入れる。

 

「ミキのごぼうは脅威じゃが、

 妾の炎で焼き尽くしてくれる!」

 

 仲間同士の潰し合い。

 だが、そこに悲壮感はない。

 互いに全力を尽くし、

 高め合うための戦い。

 楽しみで、仕方がなかった。

 

 そして、会場のスクリーンに、

 次の試合のカードが表示される。

 

 Bブロック、準決勝。

 

 その文字を見た瞬間、

 会場の空気が一変した。

 ざわめきが、どよめきに変わる。

 

 『準決勝 第2試合』

 『虹の都(アイリスガルド) vs 三風神(トリヴァン)

 

 水の国のトップファミリア、虹の都。

 七彩の使徒を擁する、最強の集団。

 

 対するは、

 S級ミストラル率いる、謎多き三風神。

 

 ヴェルにとっては、

 姉と許嫁のチームだ。

 

「……潰し合いか」

 

 フィアが唸る。

 この勝者が、決勝へ上がってくるだろう。

 どちらが勝っても、

 間違いなく化け物が相手になる。

 

「見届けよう。俺たちの、未来の敵を」

 

 ヴェルの言葉に、全員が頷く。

 

 闘技大会は、佳境へと入っていく。

 最強を決める戦いは、

 ここからさらに激しさを増していくのだ。


 

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