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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る 〜奴隷の坑道で磨いた"物理的な空気読み"。死闘を重ねて俺は這い上がる〜  作者: ミツキイザナ
第四章 闘技大会

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0178.俺達の天使


 

 視点:俯瞰

 


 静寂が、闘技場を支配していた。

 

 先ほどの壮絶な相打ち。

 その熱気が冷めやらぬまま、

 次なる戦いの幕が上がる。

 

 フィールドの中央。

 対峙するのは、二人の男女。

 

 『アンチ』のリーダー、シゾット。

 黒い装束に身を包み、

 その瞳は凍てつくように冷たい。

 

 対するは『自由の風』セリア。

 白と水色のローブを揺らし、

 手には愛用の杖を握りしめる。


「……シゾット、さん」

 

 セリアが静かに名を呼ぶ。

 だが、男は答えない。

 

 ただ、無造作に右手を掲げた。


「……行くぞ」

 

 短く、それだけを告げる。

 シゾットが自らの左腕に、

 右手を触れさせた、その瞬間。

 

 ボゥッ……。

 

 黒い靄のようなマナが溢れ、

 彼の中から“もう一人”が現れた。

 幻影ではない。

 

 質量を持った、肉体そのもの。

 

「なっ……!?」

 

 セリアが息を呑む間もなく、

 二人に増えたシゾットが、

 さらに互いに触れ合う。

 

 二人から四人。

 四人から八人。

 

 ねずみ算式に増殖していく影。

 能力名『届かぬ模倣品(レプリカ)』。

 

 触れたものを、

 思考、能力、機能、外見、

 その全てにおいて完全に複製する。

 

 ただし、シゾット以外の生物が触れれば、

 十秒で消滅するという制約はある。

 

 だが、裏を返せば。

 触れられなければ消えない。

 そして、触れられても、

 “十秒間は”そこに存在し続ける。

 

「オレは、お前に…………近づかない」

 

 本体と思われるシゾットが、

 後方へと下がりながら告げる。

 

 代わりに前に出たのは、

 無数に増殖した“シゾットたち”。

 その数、既に二十を超えている。

 

「かかれ」

 

 号令一下。

 黒い軍団が、雪崩のように、

 セリアへと殺到した。


 「くっ……!」

 

 セリアは杖を構える。

 『火の活性』で身体能力を上げ、

 『風の循環』で思考を加速する。

 

 ディアモンテとの地獄の組手で、

 身体に叩き込まれた戦闘術。

 今の彼女は、ただの僧侶ではない。

 

 ──ヒュンッ!!

 

 先頭の分身が、手刀を突き出す。

 その指先は『土の保持』により、

 鋼鉄の刃と化している。

 

 一流の暗殺術。

 

 かすれば肉が削げ、

 刺されば骨ごと貫かれる。

 

 セリアは紙一重でそれを躱し、

 杖で横薙ぎに払う。

 

 ──ガィィィン!!

 

 硬質な音が響く。

 分身は防御すら完璧だ。

 腕をクロスさせて杖を受け止め、

 衝撃を殺してくる。

 

「速い……!」

 

 一体だけでも厄介な敵。

 

 それが、四方八方から、

 波状攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 右から突き。左から蹴り。

 背後から首を狙う手刀。

 

 セリアは舞うように避ける。

 だが、避けきれない。

 数が、あまりにも多すぎる。

 

 ローブが切り裂かれ、

 白い肌に赤い線が走る。

 

「きゃぁっ……!」

 

 セリアがたたらを踏む。

 そこへ、三体の分身が、

 同時に飛びかかってきた。

 

「終わりだ」

 

 後方で腕を組む本体が、

 冷酷に勝利を確信する。

 

 だが。

 その時、セリアの瞳から、

 迷いの色が消えた。

 

「……邪魔ですっ!!」

 

 彼女は、杖を放り投げた。

 カラン、と乾いた音がする。

 

 武器を捨てた?

 いや、違う。

 

 彼女にとって、杖は、

 “手加減”のための枷だったのだ。

 

 セリアが腰を落とし、

 小さく拳を握りしめる。

 

「ふぅぅぅ……ッ!」

 

 呼気と共に、膨大なマナが練られる。

 『撲殺天使』の本領発揮。

 

 迫りくる分身の懐へ、

 セリアは自ら飛び込んだ。

 

 ──ドンッ!!

 

 鋭い踏み込み。

 そして、流れるような掌底。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 分身の腹部に、

 セリアの一撃がめり込む。

 

 ──ドガァァァンッ!!

 

 衝撃波が突き抜け、

 分身の身体がくの字に折れて、

 砲弾のように吹き飛んだ。

 

「なッ……!?」

 

 本体のシゾットが目を見開く。

 

 吹き飛んだ分身は、

 後続の分身たちを巻き込み、

 ボウリングのピンのように弾け飛ぶ。

 

 そして、十秒後。

 

 セリアに触れられたその分身は、

 黒い霧となって消滅した。

 

「そうか……そういうことか」

 

 観客席で、ヴェルが身を乗り出す。

 

「触れたら消えるなら、

 自分から触りにいけばいい。

 殴って、蹴って、吹き飛ばせば、

 十秒後には勝手に消える!」

 

 単純明快な攻略法。

 

 だが、それを実行するには、

 敵の攻撃を掻い潜り、

 至近距離で打撃を当てる技量が必要だ。

 

 それを可能にしたのは、

 他ならぬディアモンテとの、

 血の滲むような特訓の日々。

 

「やぁぁぁっ!」

 

 セリアが駆ける。

 

 杖がない分、動きは軽快だ。

 右の分身の腕を取り、背負い投げ。

 左の分身の蹴りを捌き、カウンターの肘鉄。

 正面の分身には、強烈な正拳突き。

 

 触れる。

 殴る。

 投げる。

 

 次々と吹き飛ばされる分身たち。

 そして時間が経つごとに、

 ポン、ポンと音を立てて消えていく。

 

「馬鹿な……。あの女、本当に僧侶か!?」

 

 会場がどよめく。

 

 癒やし手が最前線で、

 暗殺者集団を素手で殴り倒している。

 

 その光景は、あまりにシュールで、

 そして痛快だった。

 

 だが、シゾットの能力の真価は、

 そこからだった。

 

「……小賢しいぞ」

 

 シゾットが指を鳴らす。

 すると、残った分身たちが、

 さらに互いに触れ合い、増殖を始めた。

 

 二十人。

 四十人。

 八十人。

 

 フィールドが、黒一色に染まる。

 軍隊だ。

 一人で軍隊と渡り合うチート能力。

 それが『届かぬ模倣品』の真の姿。

 

「数は力だ。貴様のスタミナが尽きるまで、

 何度でも増やしてやる」

 

 シゾットの冷酷な声。

 黒い津波が、セリアに襲いかかる。

 

「くっ……!」

 

 セリアは必死に拳を振るう。

 

 だが、倒しても倒しても、

 次から次へと湧いてくる。

 

 キリがない。

 十秒待つ間に新たな十体が生み出される。

 

「はぁ、はぁ……ッ!」

 

 呼吸が乱れる。

 動きが鈍る。

 その隙を、分身たちは見逃さない。

 

 ──ガッ!

 

 背後から羽交い締めにされた。

 

「しまっ──」

 

 触れられた分身は、十秒後に消える。

 

 だが、逆に言えば。

 十秒間は、消えない。

 その十秒が、致命的だった。

 

「終わりだ」

 

 数体の分身が、手刀を構える。

 硬質化した凶刃が、

 無防備なセリアへと振り下ろされる。

 

 絶体絶命。

 

(……もう、ダメかも)

 

 セリアの脳裏に、

 弱気な言葉がよぎる。

 

 だが、その時。

 思い出した。

 あの人の、熱い言葉を。

 

『恥じらっちゃダメよ♡ さらけ出すの!

 アナタの全てを、愛を、情熱を!』

 

 ディアモンテの笑顔。

 そして、ヴェルたちの顔。

 

 ここで負ければ、

 みんなの頑張りが無駄になる。

 そんなことは、許されない。

 

(……ごめんなさい、おじいちゃん。

 私、お嫁に行けないかもしれません)

 

 セリアは、覚悟を決めた。

 

 顔がカッと熱くなる。

 耳まで真っ赤に染まる。

 けれど、迷いはない。

 

「あ、あぁぁぁぁぁッ!!」

 

 死に物狂いでシゾットを投げ飛ばし、

 セリアが、自らの手で。

 纏っていたローブを、脱ぎ捨てた。

 

 ──バッッッ!!!

 

「なッ!?」

 

 分身たちの動きが止まる。

 会場中の視線が、一点に集中する。

 舞い散るローブの下から現れたのは。

 

 ──水着だった。

 

 それも、ただの水着ではない。

 

 ディアモンテが厳選したフリル付きの、

 それでいて露出度の高い勝負水着である。

 

 白磁のような肌が、陽光に輝く。

 健康的な肢体が、露わになる。

 恥ずかしさに震える身体。

 

 だが、その身体から。

 爆発的なマナが噴き出した。

 

「奥義……ッ!!」

 

 セリアは、涙目でポーズを取る。

 

 両手をハート型に組み、

 片足を可愛く上げる。


 ディアモンテ直伝。

 露出するほどステータスが上がる、

 禁断の強化術式。

 

「あ、愛裸武勇(アイラブユー)ですぅッ!!!」

 

 ──ドォォォォォォォォォンッ!!!

 

 ピンク色の衝撃波が、

 セリアを中心に炸裂した。

 

「な、なんだそれはァァァッ!?」

 

 シゾットが初めて声を荒げた。

 会場は一瞬の静寂の後、大爆発した。

 

「うおおおおおおおおッ!!」

「天使だ! 天使が降臨したぞ!」

「ありがとう! 神様ありがとう!」

 

 男たちの野太い歓声が、

 地響きのように轟く。

 

 その熱狂の中で。

 『自由の風』のベンチだけが、

 凍りついていた。

 

「あいつ、何やってんだ」

 ヴェルが、口を開けたまま固まる。

 

「……なんてこった」

 カルドが、頭を抱える。

 

「あやつ、捨ておったな。人としての尊厳を」

 アノンが、遠い目をする。

 

「……僕の国で、何をしてくれている」

 フィアが、顔を覆う。


「へぇ、フリルを差し引いても以外におっきいな」

 シンは鼻の下を伸ばしていた。

 

 そう、ヴェルたちの清楚な癒やし手。

 可憐な僧侶セリアは、今。

 完全に、色物キャラへと転落したのだ。

 

 ──いや、覚醒したと言うべきか。

 

「うぅぅ……恥ずかしいですぅ……!

 でも、負けませんからぁッ!」

 

 涙目で叫ぶ水着の天使。

 その身体能力は、いまやAランク、

 いやSランクの領域に片足を突っ込んでいる。

 

「さぁ、後半戦ですッ!!」

 

 セリアが地を蹴る。

 その速度は、もう誰にも止められない。

 戦いは、混沌の後半戦へと突入する。



 

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