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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第三章 火の国フレイナス

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0121.吸引力


 

 


「頼むよー。死んじゃうんだよー。

 ワタシかわいそー。夢半ばー」


 地面に突っ伏したまま、

 ピクリとも動かない人影。

 ボロ雑巾……にしては服の生地がいい。

 行き倒れ……にしては声がデカい。


 気だるそうに、死んだような目で。

 とにかく助けを求めてる……のか?


 カルドとシンは何も言わずに、

 俺をじっと見てくる。


 ……なんで? なんで俺??


「行けよ」と二人は目で語り、

 カルドに至っては顎で「ほら早く」と

 無言の圧力をかけてきやがる。


 お前ら、俺がリーダーだからって

 汚れ役を押し付けてないか?

 特にシン、お前この街に詳しいんだろ!?


 仕方ない。

 俺は覚悟を決めて、その背中に声をかける。


「えーと、まずさ。何でその体勢なの?」


 まずそこかよ!!

 シンがそう思ったのが顔に出ている。

 だが、隣のカルドは深く頷いていた。

 だよな? 普通に気になるじゃんね!


 その人物は、顔を地面につけたまま、

 器用に目だけをギョロリとこちらへ向けた。


 ……あ、生きてる。

 でも、目の光が死んでる。


「説明をするとー、長くなるー」


 間延びした声。

 緊張感のかけらもない。


「そっか、じゃあいいや。それじゃ──」


 俺は即座に踵を返した。

 変な奴に関わると碌なことはない。

 この数週間の経験則だ。

 S級に囲まれて得た教訓は、

 “ヤバそうな奴からは逃げろ”である。


 その場を去ろうとすると……。


「あれはー、私がー、この街に来てー」


 勝手に話し始めたのである。

 しかも、俺の足首をガシッと掴んで。

 握力がすごい。万力かよ。


 じゃあいいやって言ったよね??


「はぐれてー、迷子になってー、

 お腹すいてー、気を紛らせようとしてー、

 でんぐり返りしてー、こうなったー。

 ……んだっけー?」


「知らねぇよ!!」


 思わずツッコミを入れる。

 そして、大して長くない!!

 あらすじにもならない長さだよ!!


 要するに、腹が減って動けなくて、

 奇行に走ったら力尽きたってことか。

 アホなのか?


「というわけだー。奢れー」


 ピクリとも体勢を変えないこの人。

 地面に這いつくばったまま、

 要求だけは一人前だ。

 人へ頼むときの礼儀とやらはいずこへ?


「よし。シン、カルド。行くぜ!」


 放置である。俺の勘が告げている。

 こいつは多分|(色々と)やばい奴だ。

 主に頭が。次点で生き様が。

 関わったら、ロクなことにならない。


 だが、シンは「まあまあ」と言いつつ、

 その子に手を伸ばして俺たちに言う。


「俺が金出すからいいだろ?

 連れてってやろうぜ。

 可愛い子には優しいんだよ、俺」


 おぉー、チャラいぞ!

 さっきヤエさんに熱い言葉をぶつけ、

 一生かけて守るとか言ってたクセに、

 こいつしっかりチャラいぞ!!


 ……いや、違うな。

 シンの目が、少しだけ細められている。

 情報屋としての目が光っている。

 こいつ、何か“匂い”を感じ取ったのか?


 そして、シンの言葉にピンッ!

 と反応をしてその人は跳ね起きた。

 バネ仕掛けの人形みたいに、ビヨィンと。


「仕方ないなー。奢られてやるー。

 いいことあるよー。良かったねー」


 その人はパンパンと背中の土を払う。

 シンも土を払うのを手伝いながら、

 俺たちにチラリと目配せした。


「名乗ってなかったなー。

 ワタシはラフェルー。風の拳士ー。

 三風神(トリヴァン)のー、下っ端ー?」


 だから知らんて。

 三風神(トリヴァン)も聞いたことねえし。

 下っ端って言ってる割に、態度がデカい。


 と思っていたが、

 その人が振り返って気づいた。

 さっきの体勢じゃ見えなかったが、

 腰元で揺れるプレート。


 俺たちが、この前貰ったばかりの銀。

 ……ではない。

 夕日を受けて、鈍く、重く輝く色。


 ゴールド


 ……しかも、刻印されたランクはAだ。


 Aランク。

 俺たちが目指している場所。

 あの無惨な姿で転がっていた、

 古代遺跡の先人たちと同じ高み。


「なっ? 大物だろ?」


 と耳打ちしてくるシン。

 やっぱり気づいてたのか。

 

 俺は胃がキリキリと痛くなるよ。

 Aランクが道端で野垂れ死にかけてる?

 そんなの、面倒事の匂いしかしない。


 ゼノンさんやディアさんのせいで、

 高ランク=変人という図式が

 俺の中で確定しつつある。


 こうして俺たちは、

 謎のAランク拳士とやらを連れて、

 シンのおすすめの飯屋とやらに向かった。


 ◇


 飯屋についてからは、

 もう怒涛の勢いである。


 店に入るなり、一番奥の席を陣取り、

 いの一番に注文を始める。


「すまん店員ー。これ、肉追加で三皿ー。

 あと、このスープー。いやー、まってー。

 ここからここまでー。二個ずつー」


 メニューの端から端まで。

 貴族の遊びか?

 運ばれてくる皿、皿、皿。

 串焼き、骨付き肉、大盛りのパスタ。

 テーブルがあっという間に埋め尽くされる。


 そして、それを片っ端から吸い込んでいく。

 食べる、というより吸引だ。

 アノンのケーキ好きも凄いが、

 こいつは純粋な“燃料補給”って感じだ。


 吸引力の変わらないただ一つの拳士である。


 俺はヒソヒソとシンに告げた。


「おい、いいのかよ! 金、大丈夫なのか?」


「いや、まあ必要経費だから気にすんな」


 シンは涼しい顔で、自分の酒を飲んでいる。

 肝が座ってるというか、なんというか。


「何者なのコレ」


 俺は机の下でラフェルを指差す。

 それに対してシンはニヤニヤしてはぐらかす。


「内緒だ。まぁ、俺を信じろよ。

 この出会いはお前のためになるぜ? ……多分」


「多分って何だよ!!」


 お前のためって、俺にメリットあるか?

 ただの大食い妖怪に餌付けしてるだけでは?


 と、俺らのヒソヒソが気になったのか、

 ラフェルが、骨付き肉をかじりながら、

 低い声で言ってきた。


「おいー、お前たちー」


 ギロリ、と目が合う。

 その瞬間、背筋が冷えた。

 ただの変人だと思っていたが、

 纏っている空気が違う。

 肉を食ってるだけなのに、隙がない。


「な、なんだ?」


 何となく、声が震えた。

 

 S級たちとの修行で慣れたと思ってたけど、

 やっぱり、強そうな奴は怖えよ。普通に。

 特にこいつは、

 何をしでかすか読めない怖さがある。


「それ食べないならー、貰うー」


 ラフェルの箸が、

 音もなく俺の皿へ伸びていた。


「あっ、いや、食べ……」


 俺が言い終わる前に、

 皿の上からハンバーグが消えた。

 

 有無を言わさず取られた。

 神速の強奪。

 この技術、盗賊が欲しがるぞ。


 俺のおかずは無くなる。

 二口しか手をつけてない米が、

 僕と二人きりだね! と微笑んでいる。

 うるせえ。米だけで食えってか。


 俺は仕方なく自分の分を追加注文して、

 今度は渡さないように、行儀は悪いが、

 しっかり腕で囲って食べる。

 ……美味いな。

 悔しいけど、この店の飯は美味い。


 そして、積み上がる皿を両脇に抱え、

 ラフェルは満足そうな顔を浮かべて言った。


「やー、まあまあお腹膨れたー。

 腹六分ー。奢られる身だからなー。

 今日はこれくらいでいいぞー。

 ワタシは遠慮を覚えたー」


「どこがだよ」


 テーブルの上には、

 洗った後みたいに綺麗な皿の塔。

 これで腹六分? 遠慮?

 お前の辞書の「遠慮」の項目、

 書き換えたほうがいいぞ?


 そして会計。

 シンは追加でパンを何個も何個も、

 袋に詰めてもらっていた。

 それ、明日の朝飯か?


「あー、計算面倒だからここは俺が持つ。

 次はお前らが奢れよ?」


 シンがさらりと言う。

 太っ腹だ。さすが情報屋見習い。

 俺とカルドは顔を見合わせた。

 持つべきものは、金払いのいい友だな。


 と言って会計額は……約14万ゴルド。


 ……じゅうよんまん。

 一食で。四人で。

 いや、実質一人で食ってたようなもんだ。


「美味かった。感謝する」


 額を見てササっと出ていくカルド。

 お前、そういう時の逃げ足だけは速いな!

 不動の山はどうした!


「やはりー、ワタシは控えめできてたー。

 わーい、よかったー」


 ラフェルも楊枝をくわえて出ていく。

 反省の色なし。

 Aランクの胃袋は金庫より頑丈らしい。


 シンは財布を開いて、中身を見る。

 一瞬、その手が止まった。

 糸目が、カッと開いた気がした。


「いや、まぁ、えーと。サンキューな、シン!

 ごちそうさん!」

 

 俺も、とりあえず礼を言って、

 外に出ようとしたところ……肩を掴まれる。

 ガシッ、と強い力で。


「すまん、ヴェル。やっぱり半分……」


「そうなると思ったよ!!」


 かっこつけきれないのが、シンだ。

 知ってた。

 財布の中身を見て固まった時点で、

 嫌な予感はしていたんだ。


 結局、俺が六万払うことになった。

 シンが八万。

 まぁ、俺たちの分も含まれてるし、

 シンも頑張った方だろう。


 この街に来て以来、俺の手持ちから、

 少しずつ、でも確実に削られていく。

 自分のことには殆ど使ってないはずなのに、

 どんどん金が減るのはどうなってんだ火の国。


 俺は軽くなった財布を懐にしまいながら、

 満腹で幸せそうなAランクの背中を、

 恨めしそうに睨みつけたのだった。



 

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