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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第三章 火の国フレイナス

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0117. 隊長ォォォォ!




 オクテットについた俺たちは、

 早速カウンターに向かおうとする。


 酒場に女子供がわらわらと入って来た訳だが、

 チラチラ見られはしたものの、

 あまり騒ぎにはなってないようだ。

 

 火の国の人間は大雑把で、

 悪く言えば他人に構わない。

 良く言えば“いちいち驚かない”。

 

 俺たちみたいな集団が入ってきても、

 「へぇ」くらいで済むのはありがたい。


「いらっしゃい……何を飲むかい?」


 来た!

 この言葉の後に確か……合言葉。


 俺はメモを頭の中で再生し、慎重に口を開く。


「オリジナルを頼めるかい?」


 このセリフで合ってるはずだ。

 だが、マスターは顔色すら変えない。

 間違ってたのだろうか。胸の奥がひやっとする。


 俺は続きも言ってみる。

 ここまで来たら引けない。


「カシャッサのロックにライムと砂糖。

 つまみは豚肉をカリカリに焼いてくれ」


「あいよ」


 即答。

 マスターは淡々と頷き、次にさらっと続けた。


「料理に時間がかかる。

 アンタらは人数もおおい。

 ……奥の部屋で待っててくれ」


 ……通った。

 通ったらしい。


(おぉ、これはやはりハンター試験……!)


 俺は心の中で勝手に盛り上がりながら、

 奥の部屋に通される。

 

 酒場の奥は静かで、ザワザワとする表の喧噪が、

 一枚の布で遮られたみたいに遠くなる。

 

 板張りの床、簡素なテーブル、

 壁に掛けられたよく分からない獣の角。

 “客を通すための部屋”というより、

 何かを選別するための部屋っぽい空気がある。


 だが――。


 しばらく待って運ばれてきたのは、

 人数分の酒とカリカリの豚肉。

 普通に酒場だ。普通にうまそうだ。

 

 ……あれ?


「ヴェルさんが間違ったのでしょうか」


「まったく、凡人に任せるとすぐこれじゃ」


 女子ーズの非難を浴びる俺。

 メモを見返しても合ってるっぽいんだけど?


「ごゆっくりどうぞ」


 運んできた女性のウェイターが、

 にこりと微笑んで言う。

 そして、スライド式のドアを閉めた。


 ――その時である。


「地震!?」


 大きな揺れを感じた。

 揺れというより足元がずれたような……横揺れ?

 床そのものが、少しだけ“横に滑った”感じだ。


 だが、揺れはすぐに止まった。

 不自然なほど静かに。


「な、なんじゃ今のは!

 ミキ、妾を守るのじゃ!」


「姿勢を低くしろ。重心を下げて構えておけ」


「地震にしては、静まるのが随分と早い。

 ボクは地震ではないと考えるよ」


 アノン、カルド、リラ。

 それぞれの反応が、性格そのままに飛ぶ。

 アノンは相変わらずお子ちゃまムーブで、

 近くのミキに飛びついている。


 束の間。

 今度は逆方向への横ずれ。

 床が、また滑った。今度ははっきりと分かる。


 そして次の瞬間、腹の底がすっと抜けた。


 体が軽い。

 床が、下へ――動いてるのか!?


 リラが「ふむ」とこぼし、淡々と告げる。


「ボクの予想だと、次は床に引かれるように、

 重力を感じることになるだろう。

 カルド君の言う通り、重心を下げると良い」


 そう言って、いきなり腹ばいで寝転ぶ。

 恥じらいとかないのだろうか。

 ぼてっ。って感じで倒れてる。

 

 見た感じ、金◯一少年でよく見る、

 “事件現場”の遺体みたいにしか見えないのだが。


 まよねこも慌ててリラの真似をする。

 だが――腹ばいになったまま、

 左手が前に伸び、人差し指だけを突き出す。


 まさか。


「止まるんじゃねぇぞ……」


 と、まよねこが呟いた。


(鉄血の隊長ォォォォ! いや違う!!)


 お前もミキもいい加減にしてくれ!

 てか、今は止まってほしいんだよこっちは!!

 とりあえず、お前も止まれ!


 そしてリラの言った通り、

 ぐんっと身体全体に重い網をかけられたように。


 ――いや違う。

 

 全ての部位を同時に“掴まれた”かのように、

 下へと引っ張られた。


「ぶへらっ!!」

 

 俺はまよねこに突っ込んでたせいで、

 亀がひっくり返されたみたいに転んだ。

 

 そして、ゆっくりとスライドドアが開けられる。


「何やってんだよヴェル」


 シンの声だ。


「ほら、ここからは俺が案内してやる。

 立てよ、ヤエ先生のところにいくぜ」


 俺に手を貸して、そう言って引き上げる。

 ……? なんか、力強くなってないか?


 こうして俺たちは、

 どこなのかわからない場所を歩いて行った。


 ──地下っぽい空気。


 あたりを見てみると、壁ってよりも、

 掘り進めて作ったような空間だ。

 灯りはたまに埋め込まれた火属性の灯り石。

 湿度は低い。空気は乾いている。


 どことなく、俺は奴隷時代の坑道を思い出した。


 でも、ここには絶望はない。

 理不尽な死の匂いも、乾いた汗の匂いも、

 嘆きも、絶望も感じない。

 あるのは“整ってる”という感覚だけだ。


 進み始めて数秒後、沈黙を嫌ったのか、

 まずはシンが自ら紹介を始めた。

 それを引き取って、俺がみんなに告げる。


「ってわけで、俺とカルドが出会った、

 坑道奴隷の仲間の一人なんだ。

 チャラついててキザだけどいい奴だ」


「……根は熱いやつだ。

 よろしくしてやってくれ」


 俺とカルドの言葉に、鼻を擦ってニヤけるシン。


「へへっ、まぁそんな感じだ。

 ……しかし、可愛い子ばかりで羨ましいぜ」


 そう言ってチラチラと、

 セリア、アノン、リラを見る。

 ……あれ、ミキは?


 シンの言葉に女子ーズが答える。


「可愛いだなんて……。

 なんだか照れちゃいますね?」


「ふんっ、何を当たり前のことを。

 お前は糸目の凡人じゃ!!」


「可愛いと言われると、こそばゆいものだね。

 ボクの名前はリラ。吟遊の詩人うたびとさ。

 よろしく頼むよ、シン君」


「ミキは? ミキには何かないのかヨ!

 糸目で見えてないのかヨ??」


 それぞれらしい返しが飛ぶ。

 もはやこれが自己紹介の代わりになるな。


「シン、セリアとアノンとリラとミキだ」


「あぁ、名前と顔は知ってるぜ」


 シンが軽く言った。


「撲殺天使と紅蓮の大魔導師。

 そして迷い猫(ストレイキャッツ)の参謀と、

 そこのまよねこって人の異世界能力の歌姫。

 だろ? バッチリ調べてあるぜ?」


 その言葉に、それぞれ驚いた顔を浮かべる。

 

 特に“まよねこの能力”のところだ。

 別に言いふらしてるわけじゃない。

 ミキは表情が不自然でも普通に人間に見える。


「言ったろ? 情報屋やってんだ。

 これくらい、序の口って奴だぜ」


 シンが肩をすくめる。


「……それより、着くぜ。

 ここが、ヤエ先生の部屋だ」


 鉄の扉が開かれる。

 中は少し広い土の部屋。

 香の匂いと土の匂いが混ざる。

 

 灯された蝋燭の火が作る影は、

 独特な揺れを持っていた。

 ふわっと火が揺れ、影が揺れる。

 部屋そのものが“呼吸している”ように見える。


 そして中央の奥。

 椅子に座っていた人物が立ち上がる。


 俺は――この人を見たことがある。

 その瞬間、全てが繋がっていく。


 カルドが買い、シンが持っていた、

 この世界にはあるはずないドラゴンソード。

 シンが知るはずのない数々の語録。

 ゼノンさんの旧知なら知ってておかしくない。

 そして、胸が大きい美人という情報。


『いやいや、こちらこそ! またね!』


 露店で聞いた、あの言葉。

 

 ただのお土産屋が言うには、

 妙に“確信”のある言い方だった。

 普通なら『また』なんてものはない。


 部屋の奥、そこに立っていたのは、

 カルドがドラゴンソード露店のお姉さん。


 少し肌が褐色で、胸が豊満で、

 ラテン系か? と感じたお姉さん。


 その人が、静かに言った。


「人の出会いは重力」


 某神父の名台詞みたいに、重く、滑らかに。

 そして続ける。


「君は『引力』を信じるか?」


 これが、シンの先生であり、

 ゼノンさんの旧知の友人。


 情報屋『共解のヤエ』との出会いだった。


 

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