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空気を読めない男、空気を読んで最強に至る ~10年間の暗黒奴隷生活。空間を数え続けた俺は、物理的な”空気”を読み切って成り上がる~  作者: ミツキイザナ
第三章 火の国フレイナス

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0115.シン




「「シン!!」」


 俺とカルドの声が重なる。

 

 あの声だ。あの調子だ。

 あの穴ぐらの中でも笑いを作ってた声だ。

 一瞬で、胸の奥が暖かくなる。


 シンは鼻をこすりながら、拳を突き出す。

 

 相変わらずちょいキザ。

 キザだけど嫌味じゃない。

 

 むしろ、こういう

 久しぶりでも距離が変わらない仕草は救いだ。


 もちろん、俺もカルドも拳を突き合わせる。

 ここにラグアスもいたら良かったのに。

 そう思った瞬間、胸のどこかが小さく疼いた。


「あの新聞見たぜ?

 二人とも、立派に冒険者やってんだな!」


「ふっ、ヴェルがバンザイしてるやつか?」


「おい、それ言うなよカルド!!」


 カルドがいじってきた。

 普段そんなことしないから、ちょっと嬉しい。

 ……嬉しいけど恥ずかしい。

 でもバンザイの件は世界から消えてほしい。


 そんな俺たちを見て、

 シンは笑って――その笑いが、

 少しだけ落ち着いた声に変わった。


「いや、あれ見て思ったよ。

 どうせまたヴェルが調子に乗ってさ。

 無茶したんだろうなーってな」


「そうだ」


 カルドが即答した。即売り。即確定。

 俺の尊厳が床に落ちた。


「いや、カルドだって巨人戦で

 ボロボロになってたじゃんかよ!!」


「はっはっは!」


 シンが笑って、笑って、

 そして――ふっと息を吐くように言った。


「本当に良かった。二人とも無事で。

 そして、二人とも成功してて、さ」


「シン……」


 俺は、シンがここにいる理由より先に、

 今この言葉が嬉しかった。

 

 坑道の地獄を抜けて、別れて、また再会して。

 “変わらずに心配してくれる声”がある。

 その事実だけで、胸の中の何かがほどける。


 シンも同じ気持ちだったのだろう。

 

 俺の視線に気づいて、照れたのか、

 誤魔化すように明るい調子に戻した。


「まぁ、話しようぜ!

 この先に俺の行きつけの酒場がある」


 そう言って案内される俺たち。

 シンは後ろ向きで俺たちを見ながら、

 あの頃みたいに大げさに両手を広げて言った。


「とりあえず、だ。ようこそ、火の国へ。

 そして、首都フラムタウンへ!」


 ぷっ。やっぱシンはシンだな。

 おちゃらけキャラは変わってない。


 ……と思ってたら、シンのベルトに

 ドラゴンソードが付いていた。


 お前もなのか。


     ◇


 酒場は熱かった。

 火の国の酒場は、匂いと音が強い。

 焼いた肉の匂い、香辛料、汗、油。

 笑い声が壁に跳ね返って、天井に溜まって、

 また落ちてくるみたいな騒がしさ。


 シンは手慣れたように酒を注文する。

 シンはまだ十九歳のはずだが……。

 なんてことは火の国では問題にならないらしい。


「お前たちも頼めよ。

 火の国は酒に年齢制限ないんだぜ!」


 そう言われて、無理やり俺達の分まで頼まれる。

 運ばれてきたのは、キンキンに冷えたビール。


「よしっ、それなら!

 兄弟との再会を祝って! 乾杯ッ!」


 シンの音頭で、俺たちは乾杯した。


 こっちの世界で初めての酒。

 カルドもたぶん同じだろう。


 カルドは一口飲んで……無言のままだ。

 でも俺にはわかる。

 あれは“苦みがあるッ!”って顔だ。


 俺もこの身体だからか、苦くて飲めないッ!

 胃が「ちょっと待って」って言ってる。


 だが、シンはグビグビと飲んでいた。


「キンキンに冷えてやがるっ……!

 あ……ありがてえっ…………!」


 バンッと机にジョッキを置き、

 俺の知ってるセリフを吐く。

 なんでお前がそれ知ってんだよ。


 それからは、シンに聞かれて、

 俺たちは今までのことを話した。

 クロムの街でシンとラグアスと、

 別れた後のことをできるだけ簡単に。


 セリアとアノンがパーティに入ったこと。

 異世界人のまよねことミキが増えたこと。

 S級ゼノンさん、ディアさんが来たこと。

 果てはリーゼロッテさん。

 そしてドラゴンもいる。

 あと貢ぎ癖のある吟遊詩人。


 つまり、化物みたいな環境になってることを。


 聞き終えたシンは、堪えきれずに吹き出した。


「ヴェル、カルドさん……悲惨だな!

 そりゃAランク任務で活躍するわけだ!」


「いや、笑い事じゃないぜ?

 百回は死んだと思ったよ」


「同感だ。特にゼノンの初めての修行は、

 随分と堪えた。思い出したくもない」


 カルドがここまで言うのは珍しい。

 シンがさらに笑う。腹を抱える勢いだ。


「カルドさんがそこまでいうなんて、

 マジでやばかったんだろうな……ぷっ!

 しかし、S級ってやっぱりまともな奴、

 全然いねえんだな!! ははは!」


 笑い声が止まらない。

 ったく……と思いつつ、正直嬉しい。

 あの頃の愚痴とは違うからだ。


 生きることへの絶望の愚痴じゃない。

 未来に続く笑い話としての愚痴だ。


 そした、カルドが静かに聞いた。


「で、お前はここで何してたんだ?」


 怒ってるわけじゃない。

 ワクワクしてるだけだ。

 俺にもその空気はわかった。

 俺も気になっていた。


「そうだぞ、シン。

 お前、ほどほどの生活はどうしたんだ?

 早くも挫折か?」


 俺もおちょくるように聞く。

 すると、シンがしたり顔になった。


「ほどほどに生きると。

 キッパリ言ったばかりなのに……

 スマン、ありゃウソだった」


 俺の中の何かが反応する。

 何だこの違和感。


 そしてシンは両手を机の上で組み合わせ、

 口元を隠すように話した。

 いわゆるゲ◯ドウポーズ。


「俺はな……恋をしたんだ」


 ……は?

 それに対して、相棒の言葉は淡々だった。


「そうか、色々あったんだな」


「いや、まだ何も話してねえだろ!?

 もっと、ほら、深掘りしてくれよ!?」


 カルドがクククと笑う。

 必死なシンは実に面白い。


「まぁ、勝手に話させてもらうぜ?」


 シンが咳払いして言う。


「俺は今、情報屋をやってる。

 俺の好きな人が情報屋なんだよ」


「情報屋? シンが??」


 口から生まれた男を

 自称してたシンには確かに似合う仕事だが。


「いや、マジでさ。本気なんだ、俺。

 美人で、はつらつとしてて……胸もでかい」


「ごめん、情報屋の話は??」


「あ、そっち? そっちも本気だぜ?」


 なんだろう。シンらしい。

 変わってない。すごく変わってない。


 シンは少し真面目な顔になって言葉を続ける。


「元々は土の国で、余計なことにさ……。

 まぁ、首を突っ込んじまってよ。

 ちょっと死にかけたんだわ」


 いわく、放浪先の街の一つで、

 歳の離れた妹が攫われたって子がいたらしい。

 その子がまた美人で、シンは救うと決めた。

 人攫いって言葉で、自分の過去を思い出し、

 憤慨もしたんだと。


 で、案の定、見つかって殺されかけたところを、

 たまたまその一味を追っていた人に救われた。

 その人が、今の好きな人らしい。


「その人攫い達ってのはよ。

 どうやら俺たちを攫った組織と

 関係があるっぽいんだ」


 そこだけ、シンの声が少し低くなった。


「俺は俺の人生を崩した奴らへのケジメとして。

 そして、あのおっぱい……あ、いや、

 あの先生についていくって決めたんだ」


「お前、きちんと本音出てたな」


「うるせー! おっぱい好きで何が悪い!!」


 カルドがうっすら頷いている。

 おい! お前もなのかよ!!

 やっぱ露店はあのお姉さん目当てか!?


 シンは笑い、でもすぐに真面目な目に戻った。


「実際、情報屋って凄いぜ?

 本来なら一生知ることのないようなことを知る。

 勿論、それを得るには命懸けだがな」


 坑道の俺たちが、もしこの言葉を聞いていたら。

 「馬鹿言ってんな」で終わっただろう。

 でも今は違う。命懸けの意味を知ってしまった。

 だからシンのこの言葉は重い。


「だからこそ、俺はそれに生涯を捧げる。

 情報が世界を救うことだってあるんだぜ?」


 そう言って、シンは立ち上がった。

 右手で襟元を掴み、キメ顔。


「こうしてこの俺は、

 冒険者のS級に憧れるよりも……

 情報屋に憧れるようになったのだ!!」


 また、違和感が仕事をする。

 最近似たようなとんでもない人が、

 周りに居るから当たり前と思ったけど。


「ってわけでだ」


 それは、シンがイタズラをする時の顔。

 何かを企んで、口にする時の顔。

 何かが始まる時の顔だ。


「お前達が来るのも勿論わかってたぜ。

 会いにきたんだろ? 俺の先生にさ」


 

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