0114.何故買うんだろう
フラムタウンに着いた。
一言でまとめるなら……デカい!!
いや、笑い事じゃなく本当にデカい。
城壁の高さがまず違うし、
門が“門”じゃない。あれはもはや“顔”だ。
街そのものが、胸を張って大地に座ってる!
みたいな存在感がある。
馬車が門をくぐった瞬間、空気が変わった。
熱っぽい。香辛料の匂いと、焼いた肉の匂いと、
砂埃が混じって、喉の奥にくる。
ここに来る途中の街でもそうだったが、
やはり国によって街並みは大きく違う。
うろ覚えだが、風の国ウインディは、
まさに中世ヨーロッパって感じの
石造りの街並みだった。
白灰色の壁、尖った屋根、
清潔な石畳。風が通ると音が澄む。
土の国タイターンはスチームパンク!
……とまではいかなくとも鉄製のものが多く、
蒸気が軽くモクモクしてたりした。
機械油の匂いがして、音が重い。
じゃあ火の国フレイナスはどうか?
俺の知識で一番近そうなのは、
アラビアの街並みである。
土の壁。白っぽい漆喰。カラフルな布。
露店の布屋が風をはらんで波打ち、
香辛料が山みたいに積まれて並び、
商人が声を張り上げる。
騒がしい、いや、賑やかな街並み。
流石にターバン巻いた奴はいない。
が、あのよく見る感じの
刃が反った剣を腰に下げてる人は多い。
太陽を受けて、カーブした刃がぎらりと光る。
そして獣人がやたら多い。
土の国はドワーフだらけだった。
風の国は鳥人が多かったりする。
火の国は、耳がモフモフしていたり、
尾が見えたり、毛並みの色が派手だったり。
そして、歩き方からして“強い”のが多い。
強さが生活に溶けてる国だ。
拳で語るのが日常なだけある。
正直、前世で外国に行ったことない俺は、
かなり興奮している!!
この景色だけで三時間語れる。
いや語るとまた色々言われるから黙る。
とりあえず、各自三時間ほどの自由行動へ。
最初はみんなで固まって動いていたが――
「セリアおねえちゃん! ぼく、これほしいの!」
キロロが露店のスカーフを指差して跳ねる。
「あら、よく似合うスカーフですね!
でもキロちゃんには大きいかも?」
「ふひぃっ! なら拙者もお揃いのものを!」
「でこに小判ヨ。まよねこには不要ヨ!!」
セリア、キロロ、ミキ、まよねこは、
歩くたびに露店に止まっては物色をする。
猫に小判な。
まよねこが迷い猫だからややこしい。
……いや、そこはどうでもいい。
カルドもカルドで興味津々のようで、
さっきから「元気になれる葉っぱ」とか
「力みなぎるエキス」とか、
字面がやべえものにすぐ食いつく。
どっちも薬草なのか危険薬物なのか分からん。
売り文句が“元気”と“力”で雑すぎる。火の国だ。
で、名前の出なかったこの二人だが……。
「んのぅ、相談なのじゃが……」
「ヴェル君、恥を忍んで頼みがあるのだが」
アノンとリラである。
この二人、たった一日で金を使い果たした。
「ちょっとだけじゃ! すぐに返すのじゃ!」
「ヴェル君、ボクに貸しを作っておくと、
必ず将来報われると誓うよ!!」
ずっとこの調子である。
もう既に六回は『やだ』って言ったのに。
火の国の太陽よりしつこい。
「お前たちしつこいぞ〜。
てかリラは何で無くなったんだ?
いくら貰ったんだ?」
「ボクは10万ゴルドだよ。一人10万なのさ。
残ったものはみんなで使うとのことだ」
おぉ、まよねこちゃんとしてるじゃねぇか!
さすがリーダーだぜ!
「無くなった理由は簡単さ。
キロロ君に色々買ってあげたら無くなった」
そう言って小さなカバンを開く。
中には確かにキロロが欲しがりそうな玩具。
干し肉、そして、キロロサイズの帽子。
……なるほど。これは金が溶ける。
「ん〜。で、貰ってどうするんだ?」
「キロロ君にまた貢ぐのさ! 当然だろう?」
「却下だ」
キリがない。
甘やかす気持ちは分かる。俺もキロロには甘い。
でも自分の限度を見極められないのはダメだ。
「ま、まってくれ!
元々、キロロ君はキミが連れてきたんだろう?
可哀想だと思わないのか!?」
「そうじゃそうじゃ! 妾も!
お主に誘われたからパーティに入ったんじゃ!
責任とるのじゃ!!
「アノンのきっかけはぼっちプロジェクトだろ!」
二人とも俺の腰にしがみついて離れない。
何だよ。ってかリラもこの属性なの?
だがここで甘やかしたら調子に乗る!
俺は折れない!!
……と意気込んだが、しんどい。
通算十九回断り続けて、流石に体力が削れた。
精神も削れた……。
結果、一万ずつ渡した。
「もう次はないからな!」
「感謝するよヴェル君!」
「ちと少なくないかのう?」
リラは喜び、アノンはぶつぶつ言いながら
人混みの中へと去っていく。
アノンはマジで許さねえからな。
そんなこんながあってバラバラになり、
それぞれで街並みを楽しみ始めた。
俺は俺で、世話になるっていう人。
ゼノンさんの知り合いと落ち合う場所へ、
先に下見しに行った。
合流場所は『オクテット』って酒場らしい。
その酒場のマスターに、
『何を飲むかい?』って聞かれた後に、
『オリジナルを頼めるかい?』と注文。
『カシャッサ』のロックにライムと砂糖。
つまみは豚肉をカリカリに焼いてくれ。
と伝えればいいらしい。
どこのハンター試験だよ。
合言葉かよ。変な緊張するわ。
メモを読みながらオクテットへ向かっていると、
露店にいるでかいやつを見つけた。
言わずもがな俺の相棒、カルドである。
「よっ、カルド。何買ってんだ?」
後ろから声をかけると、
カルドは照れくさそうに振り向いた。
「お、おう、ヴェルか。どうしたこんなところで」
そして背中越しに、手に持ってたものを、
俺に見えないように机に置いた。
空間把握がある俺にはバレバレだ。
露店の主は肌が少し褐色の美人。
豊満な……お胸だ。
ラテン系っていうのか?
(このお姉さんがタイプなのか?)
ふと机の上に目を向けると……。
おぉぅ。
修学旅行に行くと男子が必ず買う、
竜が巻き付いた剣である。
ほとんどの男子はこれを買う。
捨てた記憶はないのに、
いつのまにか大人になると消えている。
家にあるのかないのかすら分からない。
あれは異世界転移するタイプのアイテムだ。
日本男児が買った三大ドラゴンは、
これと、黒地で青い稲妻の竜のナップザック。
そして青眼の白龍。異論は認めない。
カルドはチラチラ気にしてる。
厨二病なのはもうわかってる。
お姉さん目当てじゃないな。剣目当てだ。
欲しいんだろう。合わせてやろう!
「おっ! 何これかっこいいじゃん!
え〜、俺買っちゃおうかなぁ!!」
少し棒読みだったか?
と思ったが問題なかったようだ。
「お前が買うなら俺も買おう。
……相棒として当然だ」
便利な言葉。相棒。ニヤついてる。
露店のお姉さんが嬉しそうに笑って言ってきた。
「君たち、仲がいいじゃんか。
いいね! 若者にはサービスだ!」
おまけしてくれたのは、
日本刀のキーホルダーである。
また修学旅行のやつじゃん……。
カルドの目がキラキラしてる。
まっ、いっか。喜んだならそれでいい。
「さんきゅー、お姉さん!」
「いやいや、こちらこそ! またね!」
露店を後にして俺たちはオクテットの方へ。
カルドは仏頂面風のニヤケ顔で、
マジマジとドラゴンソードを見てる。
これ、どうするつもりなんだろうな。
買った奴全員悩むんだよな。やり場に。
すると、後ろから声が聞こえた。
「おい! ヴェル! カルドさん!!」
俺とカルドは目を見合わせる。
何故なら、この声は……。
「久しぶりだなぁ、おい!」
あの長い長い奴隷時代を共に乗り越え、
夢を語り、クロムの街で別れた、
糸目姿の胡散臭いチャラついた男。
俺たちの兄弟と言っていい大事な仲間。
「へへっ、変わらないなお前達!」
「「シン!!」」
ほどほどの生活を目指すぜ。
そう言って別れたシンの声だったのだから。




