0113.火の国!
五日ほど馬車に揺られた。
馬車で眠るわけにもいけないし、
もちろん風呂に入ったりもある。
ずっと座りっぱなしだと腰が死ぬし、
同じ景色ばかり見てると脳も死ぬ。
だから一日に馬車に乗るのは数時間。
残りは中小いろいろな街や村に寄って、
ギルドに顔を出して、
その場その場で現地の依頼を受けた。
目的地へ向かう“遠征”というより、
移動しながら経験値を拾っていく旅。
そういう形に落ち着いたのは、
ゼノンさんが「旅の間に現地の呼吸を覚えろ」
とか言ったせいだ。
俺たちが「はい……」って言うしかないやつだ。
土の国とは違って、火の国の人は
よく言えばおおらか。
……悪く言えば大雑把な性格だった。
土の国の人は寡黙で、目が合ったらうなずく。
みたいなやり取りが多かったけど火の国は違う。
酒場!でぶつかったら、まず笑う。
その次に「酒飲め!」が来る。
最後に「拳で語れ!」が来る。
……この国、会話に段階を踏ませる気がない。
受ける依頼も毛色が違く、
土の国は採取が多めだったが、
火の国は……討伐系が多かった。
なお、魔物ではなく、対人間である。
人攫い、盗賊、殺人犯。
治安が……悪すぎる!!
しかも、依頼のランクが低い。
ギルドに言っても『たかが盗賊相手だろ?』
みたいな顔をしてくるのも困る。
いや、たかがって言うけどさ。
こっちからすると“刃物を持った集団”は
普通に怖いんだよ。
魔物と違って、
逃げる判断も騙す判断もするし、
弱いやつから狙ってくる。
「火の国は実力主義が売りなところもある。
もちろん最低限の法はあるがね?
ただ、元々は魔王が作った国だ。
暗黙的な部分が多く、犯罪者が集まりやすい。
それに伴って実力者も多い武の国なのだよ」
と言うのは、頼れる迷い猫の参謀、リラ。
つまり?
火の国の人たちはそもそも強いから、
強さの定規が土の国とは違うってことか?
確かに、グレイヴバードの時も、
クロムのギルドが難易度付けをしていた。
ってことは、“目線”の違いで
こういう難度の剥離もあるのか。
……タメになったよ。マジで。
ただ、タメになったところで、
目の前の依頼は消えない。
最初の盗賊団の討伐依頼を受けた時なんか、
一瞬「これ、ランク詐欺じゃね?」って疑った。
グレイヴバードの一見もあるし。
だって“盗賊”って言う割に弓の腕が良すぎるし、
連携は軍隊並み、後方の見張りが妙に冷静。
「“傭兵崩れ”って書くやつだろ」
って言ったら、受付のおっさんは、
「そんな細けぇことはいいんだよ」と。
いや細けぇことじゃないよ。
生死かかってんだよこっちは。
そんなカルチャーショックを受けながら、
俺たちはフラムタウンの一つ前の街についた。
ここで俺たちに……サプライズがあったのだ!
◇
いつも通り、俺たちはギルドに寄った。
受付の無愛想なおっさんが
チラリと俺たちを見て、表情を変えた。
「おぉ、やっと来やしたか!
自由の風のアンタたちに、
遺跡調査の追加報酬が手配されるってんでね!
こっち向かってるって話だったから、
ここでも受け取れる手続きの準備してまさァ!」
追加報酬である!!
報酬の1000万は以下略で無くなり、
宿も安い所を回っていた俺たち。
ゼノンさんが「これも勉強だ」と言い、
アノンに余分なお金を渡さず、
最低限の宿泊費しか手配しなかったのだ。
そのせいでアノンは毎晩毎晩、
「この国は貧乏人の奴隷施設か?」
とうるさかったのだ。いや、本当に。
本当の奴隷環境を知らねえ奴はこれだから困る。
だが! そんな俺たちに!!
ついに報酬が来たのだ!!
アノンはもちろん、
セリア、カルドまで頬を綻ばせてる。
ワクワクが空気に混じって聞こえる。
俺も正直、心臓が踊った。
「で! で!! いくらなのじゃ!」
お金にがっつくアノンを見るのは初めてだ。
貧乏人の気持ちがわかったか?
「巨人、陸亀、大蛇が希少なのはもちろん。
新種の管理者機巧までありやすから……」
なかなか引っ張るな、このおやっさん。
まよねこやミキ、リラも固唾を飲んでる。
キロロは、よく分かってない。
カルドに肩車をしてもらって、
キョロキョロしてる。
「……1億5000万ゴルドらしいっすね。
全部ここで受け取りやすか?」
……は?
いやいやいや……は?
「「「1億5000万ゴルド!?!?」」
全員の声が重なる。
あ、いや、キロロは言ってない。
多分意味わかってないから。
でも、カルドでさえデカい声で言うほどである。
カルドが大声を出すのって、
戦闘中か驚いた時だけだ。つまり今は戦闘。
「内訳は、巨人と陸亀が1500万。
大蛇が2000万、統制者が1億らしいすぜ」
余りの額に全員が壊れていく。
「お、おじいちゃんにあの車椅子を……
25個くらい買ってあげられる……?」
いや、いらんやろ。
てか何でセリアは車椅子で換算するんだ。
その換算、じいさんでも喜ばないぞ。
「ぬほほほぉ! ケーキじゃ! 食べ放題じゃ!
むしろ妾の為のケーキ屋を建てるのじゃぁ!」
何でだよ。普通に食べに行けよ。
てかいつも食べ放題してるじゃねぇか。
「俺が荷物を運んだ依頼は1万ゴルド。
……巨人は俺の筋肉の1500倍なのか?」
相棒は相棒で筋肉換算を始める。
比較対象が自分の筋肉なの、カルドらしい。
ってことはカルドの筋肉はルマ草100束分。
まよねことリラは言葉を失っているし、
ミキは「ゴボウ畑を作るヨ!」とか言ってる。
このままじゃ収拾がつかない。
受付のおっさんも困ってる。
火の国の人は大雑把だけど、
手続きだけはちゃんとするのだ。
いや、当たり前か。
なので、バシッと宣言する。
「取り分を決めるぞ!!」
俺はそう言って区切りをつける。
こういう時、誰かが“現実”を置かないと
全員で溺れていくものなのである。
巨人はディアさんとカルドの
二人で倒したから半分の750万ゴルド。
大蛇はゼノンさんが処理したらしいから無し。
陸亀は俺たちだけで倒したから全部。
統制者は後処理を師匠がしたんだろ?
なら、五等分。つまり8000万。
合わせて1億250万ゴルドを、とりあえず貰う。
後はゼノンさんたちと相談だ。
……って内容を、
その場で“言葉にして”受付へ伝えた。
おっさんは「おぉ、しっかりしてやすね」
と言いながら、帳簿をバサバサめくった。
その上で、さらに言う。
「一気に持ち歩いても仕方ない。
とりあえず一人当たり50万ゴルドと、
迷い猫に50万ゴルド。
合計250万ゴルドを引き出して、
一億は貯金! いいな?」
アノンはブーブー言うが、
キロロが察して噛み付いてくれた。
いいぞ、キロロ。お前がナンバーワンだ。
噛み付かれたアノンは「なぜ妾ばかり!」
って泣きそうになってたけど、
セリアは笑顔でスルーしてた。いいぞ!
「せ、拙者たちは関係ないでござるが……」
まよねこが遠慮がちに言う。
まよねこだけ“まとも”な空気を出している。
「余計なことを言うなヨ!
地獄の鯖も金次第よ! あって困らないヨ!」
ミキはいつも通りだ。
地獄にサバは売ってないと思うけどな!
「まぁ、なんだ。
道中賑やかなのは俺も助かってるし、
まよねこたちは仲間だろ?
いつか稼いだら何か奢ってくれ!」
火の国について、
文無しのままってのも可哀想だしな。
そもそも迷い猫がいなかったら、
旅の空気はもっと重かった。
まよねこが騒ぎ、ミキが殴り、
リラがまとめ、キロロが癒す。
……バランスが取れてるのか
崩れてるのか分からないけど。
まぁ、助かってるのは本当だ。
「ってわけでおやっさん。
250万ゴルドだけ貰えるか?」
「あいよっ! 一億はギルドの方で、
しっかり預かっときまさァ!」
ということで、俺たちは急にお金持ちに。
その日はもちろん、アノン主導で祝宴会へ!
火の国の酒場は音量が違う。
誰かが笑うと、隣が笑う。
隣が笑うと、知らない席が歌い出す。
歌い出すと、机が太鼓になる。
太鼓になると、いつの間にか“祭り”になる。
飲めや歌えやで騒ぎまくり、
俺は「旅してる」って感覚を感じた。
この国は怖いものも多いけど、
ちゃんと“生きてる”音がする。
……ちなみにアノンはバカなので、
50万ゴルドを使い切ったらしい。
祝宴会で知らんやつに奢りまくってたしな。
すぐ見栄張ろうとするのは悪い癖だ。
俺は奢ってやらないからな? にっこり。




