0112.一週間を超えて
早くも一週間が経った。
正直に言うと、三日目あたりから
時間の感覚が壊れている。
毎日同じ場所へ行って、
同じように考えさせられて、
同じように寝落ちる。
日付だけが増えていった。
カルドとまよねこは、変わらずボロボロ。
会話の機会もめっきり減った。
俺も全然進めてる気配はない。
修行ってのは不思議だ。
“頑張ってる感”が強いほど、
成果が見えなくなる。
成果が見えないほど、
余計に頑張ろうとして視野が狭くなる。
狭くなった視野の先にあるのは、
……だいたい地面だ。
セリアやアノンとも、会う機会はない。
修行の担当が分かれてから、
まさに孤独な修行だ。
そして、遂にゼノンさん達は、
“別件”とやらを始めるそうだ。
◇
母屋の居間。
全員が揃ったのは久しぶりだった。
「話してた通り、私達は別件がある。
今日からはクロムに滞在するし、
クロムにすら帰らない時もある。
ゴードンも連れていくからね」
ゼノンさんが淡々と言う。
その言い方が“いつもの大事な話”のトーンで、
俺の背筋が反射で伸びた。
「えっ、おじいちゃんもですか!?
でもおじいちゃんは……」
セリアが心配そうな目をじいさんへ向ける。
まるで孫というより、看護師だ。
だが、当のじいさんは能天気な反応をした。
「大丈夫じゃよ。みよ、空も飛べるぞい?
むほほほほーい!」
一昨日届いた、例の高機能車椅子。
じいさんは居間の真ん中でレバーを引いた。
ブォォォォ……!!
思ったより飛ぶ。
ふよふよ〜くらいだと思ってたのに、
普通に推進音がする。
“車椅子”じゃなくて“小型飛行魔具”だろそれ。
「お、おじいちゃん待って!?
ここ、家の中ですよ!!」
セリアの悲鳴が遅れる。
じいさんはそのまま天井へ――
ゴンッ!!
鈍い音とともに、天井板が悲鳴を上げ、
ポッカリと穴が開いた。屋根まで抜けた。
木屑がぱらぱら落ちる。
まよねこが「仕事が増えた……」という顔をした。
俺は見ないフリをした。どんまい!!
そんなやりとりはなかったかのように
ゼノンさんがさらっと続ける。
「ゴードンの心配は必要ない。
少なくとも、君たちが束でかかろうと、
ゴードンが勝つからね」
前なら「何言ってんだ」と思う話だ。
でもカルドの修行の様子を見ていたら、
妙に納得してしまうのが悔しい。
「むほほほーい! ホッホッホ〜!」
……まあ、そんな風には見えないのが
このじいさんなんだよな。
見た目は“陽気なおじいちゃん”だからな。
「さて、では君たちの今後の話だ」
ゼノンさんが指を折る。
「自由の風はCランク。
そして迷い猫はEランク。
だが、キロロが入ったから実質Fからだね」
「ぬっ! 聞いておらぬぞ父上!
この豚のパーティにキロロを入れたのかの!?」
アノンが噛みつく。
豚……。
まあ、前は「醜い豚」だったから進歩かな。
「あぁ。いずれは君たちも一つのファミリアになる。
迷い猫のバランスを見ても、
強力な近接ファイターがいる方が良いからね」
セリアの顔も、納得いってない顔だ。
キロロは皆のアイドル、いや、マスコットだ。
戦力扱いするのは、まだ心情的に抵抗がある。
「ぼく、すぐつよくなって、
おねえちゃんたちまもるからね!」
キロロがセリアとアノンの手を握る。
二人は速攻でデレデレ顔だ。ちょろい。
……俺も人のことは言えないけど。
「では、会話を戻すよ?」
ゼノンさんが空気を整える。
「Cランク依頼はクロムに少ない。
いや、滅多に出回らない。ゆえに……」
ゴクリ。
俺の喉が鳴った。
ゼノンさんの“ゆえに”は、
だいたい無茶苦茶の前触れだからだ。
「君たちは火の国に向かってもらう。
火の国の首都、フラムタウンへとね」
別の国に行く……確かに合理的ではある。
Cの依頼がないなら、取りに行くしかない。
こうして、よくわからないまま、
俺たちは火の国に向かうことになったらしい。
◇
俺たちはさっそく、
火の国行きの馬車に乗ることになった。
ゼノンさんの手配は鮮やかだ。
話を終えて出てみたら馬車があった。
スマートすぎるだろ。
見送る側のゼノンさん達は、いつも通り余裕顔。
こっちはいつも通り不安の顔だ。差がひどい。
メンバーは二パーティまとめて。
俺、カルド、セリア、アノン。
そして、まよねこ、ミキ、リラ、キロロ。
計二パーティで火の国へ。
『向こうに、私の旧知の友人がいる。
彼女に君たちを任せることにしている。
私も十数年ほど会ってないからね。
彼女によろしく伝えてくれ』
ゼノンさんはそう言っていた。
そしてディアさんは、不吉なことを言った。
『むふっ♡ 火の国はアタシのホームよ♡
向こうのS級にも手紙送っておいたから、
死神姉妹の二人によろしく伝えておいてね』
……死神姉妹。
ゼノンさん。ディアさん。
師匠リーゼロッテさん。
今までまともなS級を見たことがない。
その中で“死神姉妹”。
嫌な予感しかしない。
名称の圧がもう殺しに来てる。
そんな不安を抱えているのに、
馬車の中は賑やかだった。
「ふひぃっ! 火の国の指名手配……。
本当に解けてるでござろうか……。
ゼノン殿を疑うつもりはないでござるが、
万が一、手配が行き違いになったら、
拙者、即あぼーんでござるよ!!」
「もちつけヨ。gkbrしても仕方ないヨ。
死んで元々ってよく言うヨ!」
「ダメで元々でござるよぉぉぉ!!」
この男はいつも賑やかだな……。
場合によっては捕まった方が楽だぞ?
死神だぞ? ソウルソサエティ編思い出せ。
だいたいみんな襲いかかってくんだぞ。
とはいえ、ミキの言う通りでもある。
震えてても仕方ない。
と思いながらまよねこから視線を外すと、
リラがチラチラ見てることに気づいた。
「どうしたんだ、リラ」
俺が声をかけると、
リラはぱぁっと顔を輝かせる。
「いや、ね。無知を晒すようで悪いが、
gkbrとは何だろうかと思ってね。
君たちの世界の言葉だろうか?
誰も何も言わないから、違うのかと。
知らないのはボクだけかと思って……」
なるほど。
まよねことミキの語彙は、俺たちの世界から。
しかもマイナー寄り。そりゃ分からん。
「gkbrってのはガクブルって意味なんだ。
ガクガクブルブル震えてるってこと」
「おぉ! 一つタメになったよ!
感謝するよヴェル君!!」
タメになったかどうかは意見が分かれるがな
多分、使い道なんて滅多にない。
そして、アノンとセリアは言わずもがな。
端っこでキロロと戯れている。
「おねぇちゃん、くるしいよぉ。むふぅ」
「キロちゃんが可愛いのが悪いんです!」
「セリアばかりずるいのじゃ! むぎゅぅ」
二人によってたかって抱きしめられている。
健全な空間だが、なんだかピンク色だ。
羨ましくはない!
ただ、俺の貴重なあの時期は奴隷に……。
やっぱり悔しい!!
「あぁ、やっぱり危険な匂いがする稀ガス!
拙者の命の灯火が消える可能性が微レ存で、
なんだか人生無理ゲーな気が、ふひぃっ!」
「大丈夫ヨ。墓前の灯火になっても、
ちゃんとミキが助けてあげるヨ!」
「風前!! 墓前じゃそれは、
既に死んでるでござるヨォ!!!」
まよねこ達はまだ騒いでる。
本当に賑やかなやつだな……。
まよねこをみてカルドも少し笑ってる。
何だかんだでムードメーカーかもしれない。
(まぁ、退屈することはなさそうだな)
向かうは火の国フラムタウン。
火の英傑フラムが作った四大国の首都。
こうして俺たちは馬車で、
火の国へと揺られて行くのであった。




