シーン22 SVR
シーン22 SVR
宗弥は走っている。俺は走り続けている。俺は新しい世界に向かって走る。これまでの日々にさよならだ。俺の平穏は尽きた。
先行するSVRのトロスキーが、チラリと俺に振り返り「なんで連絡を入れない、ブラザー。一歩間違えたら、俺、捕まってたぞ」寸刻を争う中、トロスキーはさっぱりとした軽い口調で言う。ニヤリとした俺は「トロスキー、お前の勘は俺に似て動物並みだ。実際、察して逃げれただろう」と言ってやる。笑うトロスキーが「ソウヤ、お前が俺に似てるんだ」、「黙れよ、兄貴」軽口で遮った俺に、トロスキーが「行き場がないんだろう。うちにくるんだよな?」と確かめるように聞く。
行き場がない⁈ムッとした俺は「ああ、だから、何んだ?言っておくが、行き場は他にもあった」とつれなく言い返す。お前に連絡を入れたのは、俺だ。間違えるな。お前が俺を探し当てたわけじゃない。今日から俺はSVRの一員になる。
親父は母さんと結婚したばかりの頃、アブ・ダビに会社の拠点を作るために、2年ほど単身赴任してたらしい。親父はマメだ。行きっぱなしじゃなかったはずだ。盆暮は母さんと過ごしていただろうに、なのに、、、考えたくもないが、母さんは寂しかったんだろう。日本に滞在していたトロスキーの親父、ミハエルと知り合い、トロスキーを産んで、託したという。あの可憐な母さんに、そんな芸当ができたとは・・信じがたいが、富士子馬鹿の俺には女が、如何なるもんかなんてわからない。親父は何も知らない。なぜ、俺が知ったかって?トロスキーの上官マキシムから、俺に連絡があったからだよ。マキシムの仕切りで、トロスキーに会った俺の感想は、目元が母さんに似ている、だ。これで十分なんじゃないかな。時期は富士子の救出作戦が終わった直後、俺は多分、寂しかったんだと思う。それから時々、マキシムとトロスキーに会うようになった。
あの日から俺の命運は月のように満ちたのか、欠けたのか、クソッタレのスパルタンが俺に会いたいと言い出して、全てが特戦群に曝される羽目に陥った。
俺はやりたくも無い作戦に巻き込まれ、要じゃなく、チャンスを選んだのに、あの馬鹿野郎は・・何を考えてるんだ。富士子はお前を選んだんだぞ。富士子が悲しむようなことするな!・・・いつか、要とゆっくり話せる時が来るだろうか。
二七通りに入ったところで、前から来た車が急停車する。トロスキーが乗り込んで、俺も続く。どうやって、俺たちの位置を知った⁈トロスキーのスマホか⁈俺のスマホを⁈ハッキングして、位置情報を得ていたのか⁈ クソ・・今ここで捨てるか・・・いや、待て、既存のスマホが、ハッキングされているのなら囮に使える。どこかで新しいSIMカードを手に入れなければ、面倒はドタバタしてる時に限って、怒涛の勢いを増す。
運転席の男が、名前は確か、、フレドだったか、そう、フレドだ。フレドは運転しながら、あくせくと俺を見て「red eyesを日本は手に入れたって事になるな。特戦群の本陣内にあると思うか?それとも別の施設に移したとか、どう思う?ソウヤ」と聞く。考え事を邪魔された俺は「ちゃんと前見て運転しろよ。危ないだろう。コロンブスがred eyesを手放すはずがない。本陣にある」不機嫌にそう答えた。まったく・・自分の聞きたい事ばかり・・少しはこっちの心情も考えろよ。俺は祖国を捨てたばかりなんだぞ。デリカシーに欠ける奴だ。
信号が赤に代わり、フレドはブレーキーを踏むや、振り返って俺をガン見する。なんだよという目で見返すと、フレドに「本陣の潜入経路、お前ならわかるよな?」さらっと聞かれた。落ち着きのないフレドは、きっと射撃がヘタクソに違いない。いつ、どこから、弾が飛んで来かねない今、戦力にならないであろうフレドの隣りにいるのは、普段から避けた方がいいと俺は頭に刻む。
窓を開けて左腕を外にダラリと出して、俺の腕だとターキーの目に止まるようにして、景色に顔を向ける。前を見ないのはフレドが気に入らないからだ。眺めながら「俺は、もう監視リストのトップになってるはずだ。無理だな」と言う。思っていたよりも暗い声で答えていた。現実を口にして、ちょびっと寂しい気がする。仕方ない。トロスキーが「お前がSVRに、自分の価値を示すチャンスだぞ」声を潜めて親切にもそう言った。俺は右隣に座るトロスキーに顔を向け「おいおい。今更、示すなんていうな。俺が優秀なの知ってるだろう」BIGに笑ってやる。トロスキーは何かと、俺の世話を焼こうとする。俺を家族だと思っているようだ。が、それは大きなお世話だ。トロスキーの気遣いは、俺にどこかファイターを思わせる。実際のファイターは今頃、気が狂うほどに、俺に怒り狂っているだろうに・・・ファイターが既に懐かしい。
ファイター、俺も自分が悩ましいよ。そう思えば眉間にシワが寄る。クソ・・心がガランと鳴るようだ。空虚に、この空っぽな空白に、俺は慣れてゆくしかない。俯いては生けない。何か違う事を考えたくって「ところで、red eyesの開発者、宋の亡命は上手くいったのか?」とフレドに聞く。
「いや、不審死したよ。あくまでも表向きは、どこまでも事故死だがな」フレドは簡単に、そう口にする。コイツらは人の死に無頓着すぎる。力にしか屈服しないロシア人らしい。じゃないと、突撃を拒んで後退する身内を、後ろから撃ち殺せないだろうし、あの広大な領土は守れないのだろう。俺はコイツらの価値観に順応できるだろうか・・・心を分かち合える友もない。話す言葉を選び、生活環境を整え、感情に起伏を作らずで、俺は自分の脳を管理していかないと、きっと孤独に喰われるだろう。その代わり、禁断の果実を口にした俺は、堕落は快楽だと知った。ハメを外なんて表現じゃ生易しい、壊滅的な堕落は、身を持ち崩した俺をワクワクとさせてもいる。不完全でいる事は、なんて自由なんだ。“ヒビは幸運だ、そこから光が差し込む“ えっと、誰の言葉だったっけ?忘れた。
俺は太陽を失ったのだから。
ここからは許して欲しい。
自暴自棄ではなく、やけくそでもない。
いつか、再会するためだ。
富士子は元気でいるだろうか。
現在位置を検索してみる。
なんで、ハイアットホテルにいる⁈
平日だぞ!富士子!
「これから世界のあらゆる諜報機関が、闘争心むき出しで隙あらばと、red eyesを狙うぞ。本陣とやらの備えは大丈夫なのか?ソウヤ」トロスキーが俺に聞く。「問題ないよ」と答える。しかしながら、アルファーは戦力外のはずだ。ベータが前面に出て来るだろう。
要とチャンスがあんな行動に出るとは、予想だにしていなかった。生物兵器をあんな形で確保するとは、どうかしてる。凸バカめ、俺にはあんな真似は出来ない。
2人は生きられるだろうか・・・。




