シーン23 感染
シーン23 感染
女は治療を受けていた。隔離室の外から女の様子を見ていたファイターが息を飲む。女の赤い目から赤い雫がこぼれ落ち、頬を伝って、糸を引きながら枕に滴り落ちたからだ。
ほんの1時間前まで、女は元気だった。自分の足で歩き、話し、笑顔こそ無かったが、心情以外は健康そのものだった。それが今や、血の涙を流しながら、自発呼吸さえ危うい。感染したのは約2時間前、病状の進行は迅速かつ残酷で凄まじい。
慌ただしくなり始めた医官たちの動きに不安しかないファイターは、隣の隔離室へと歩を進めて入室する。チャンスは食事を摂っていた。ファイターの防護服姿を見上げて、笑みを浮かべたチャンスが「そのサイズの防護服、よくありましたね」と明るく澄んだ声で言い、椅子に座りながら「調子はどうだ?」と聞いたファイターに、チャンスは「変わりありません。あの女性、敏子さんでしたっけ、感染していたんですね」と言いながら、最後はテーブルにフォークを置いて俯いた。
嫌な気がしたファイターは「ああ」短く応え、チャンスの顔を覗き込む。一気に視線を上げたチャンスと目が合った。チャンスの瞳が揺らぐ、その目を見たファイターの表情が一気に曇る。
ファイターの心を読んだチャンスが「大丈夫です。まだ、ピンと来てなくて・・でも、僕で良かった」と言うと、「そんなこと言うな。まだ、感染したとは限らない」ファイターは叱るようにさえぎり、「そうですよね」と返したチャンスは口元に右手の人差し指をあて、軽く左右に擦りながら「なんか、思い描いていたのと違ってます。一瞬で・・終わると思ってました。・・・なんか・・こうもジワジワくると・・。後悔とか、やり残した事とか、数えてしまいます。そんな暇なんて・・僕にはいらなかった。・・・こういうの・・苦手です。あっ・・そうだった。母さんに遺書を書いたんです。渡してもらえますか?」とファイターを真っ直ぐに見上げてそう言い、スッーと視線を落として「クソ」と溢すや下唇を噛んだ。
げっそりと苦悩を滴り落とすファイターが「すまなかった。俺があんなアドリブさえしなければ、こうはならなかった」と萎れた声で言う。チャンスは赤い目で「僕が、ちゃんとできなかったから」と力なくうつむき、二人の間に沈黙が横たわる中、チャンスが「フレミングは酷い」と小さな声で言った。チャンスの声には無念が滲んでいた。
「チャンス、憎むなとは言わない。お前の気持ちは痛いほどわかる。だが、そんな気持ちは持ち続けるな。心が腐る」ファイターは諭すようなに静かに言い、ファイターを見上げたチャンスは素直に「はい」と受け入れる。その純粋さにファイターは屈強が迸る目と濃厚な声で「フレミングには、俺がキッチリとカタをつけさせる」と誓う。
俺の家族になんて事をしてくれたんだ、フレミング。お前はお前の正義を成しただけだろうが、俺は許さない。チャンスは諦め、死を見ている。イエーガーもチャンスのあとを追うだろう・・・アルファーは瓦解したぞ、フレミング。クソッタレ![送る。イエーガーからファイター、こちらに来てくれないか?頼む]と要から入り、ファイターの思考は遮断された。




