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国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    


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シーン21 地下駐車場



 シーン21 地下駐車場



 気密防護衣を着用した隊員が、地下駐車場のゲート前に配置されていた。強張こわばった表情で酸素マスクしに、僕を見た目が泳ぐ。無理もない。兵器化された“ red eyes“ に僕らはれたのだから・・。ふと、バックミラーを見る。白目がかすかに赤い。その目を見ても不安は湧き出てこなかった。恐れを感じてもいない。今世に未練がないからだろうか・・・そう思った矢先、“やっとこの世から、抜け出せるな”僕の中の魔が脳裏に語り掛けて来た。僕には永遠の休息きゅうそくは魅力的で・・・正直、安堵あんどした。




 国防大に入学していなければきっと、この歳まで生きてはいなかっただろう。早々(そうそう)に実家を出て、孤独の中でやさぐれた日々を送り、自暴自棄の破壊衝動から誰の信頼もられず、悪友はいても親友はおらず、その日をうれいて短命を願い、何がしらかのなんに首を突っ込みたくて、魔と共に街を徘徊はいかいしていたはずだ。僕には寛容かんようにそう確信が持てる。魔はいまだ僕の奥深くに居座り、たまに、こうやって思い出したかのように顔を出しては、この世からの離脱りだつを僕にほのめかす。魔は子供の頃からの僕の憧れと願望、失意と疲れ、希望と望みを知っている。


 


 富士子がいるのに・・死を持って安堵する僕は・・勝手なのだろうか。



 [送る。ターキーからイエーガー並びにチャンス、地下3階の左手に、大型隔壁おおがたかくりユニットが設営してあります。そこに車を入れてください。その後、防護班が個々に付いて個室ユニットにアテンドします。チャンス、コンパクトはそのまま車内に置いて出て下さい。後で、、2人の顔を見に行きます]ターキーの声は沈んでいた。心配してるのだ。もっともな話で[了解した。ターキー、ありがとう。心配するな。宗弥の追跡、頼んだぞ]明るく返してハンドルを切り、地下へと続くスロープを降りてゆく。おだやかなカーブになずらえてハンドルを切る。そのたびにタイヤがきしんで音を立てる。耳障りだった。今までそんな事、思ったこともなかったのに・・・僕は畏怖いふかかえたか・・・・他人事ひとごとのようにそう思う。




 大型ユニットに車を停め、振り返ってチャンスにうなずく。チャンスの白目も赤い。僕の目の色に気づいたのか、チャンスの喉仏のどぼとけが上下した。「楽観視はできないが、大丈夫だ。心配するな。必ず助ける。僕に任せろ。お前はどこまでも冷静でいろ」何の根拠こんきょもなく、僕はそう口にしていた。無責任、きわまりない。そんな自分が嫌になる。



 うなずいたチャンスが「敏子さん、もういいですよ。車から降りましょう。手荷物はここに置いていってください。行きましょう」と声を掛け、チャンスのポンチョからモゾモゾと出てきた敏子は「あの、ここは、どこですか?どうして、置いていかなければならないの?」とあわただしい。



 敏子の甲高い声を聞いて、眉間にシワが寄る。「この場所はお教えできません。申し訳ありません。これから僕たちは個々に隔離かくりされて、検査を受けます。感染してないかの検査です」と言うと、キョトンした敏子は話が飲み込めていない様子で、僕は続けて言葉をつむぐ「あなたが持っていたコンパクトに、汚染物質が混入されていたかもしれないからです。その検査です」と正直に話す。敏子の顔付きが徐々(じょじょ)にけわしくなってゆく。



 表情を凍らせた敏子が能面の顔で「わた、私はなに、何も知りませんでした。ただ、渡せと言われただけで、あの人を取り戻したくて、だから、言われた通りにしただけで、私は、かん、関係ありません」と案の定の言葉を吐く。その声はかわき、ザラザラとザラついていて、聞いていて心地悪かった。こういう女は苦手だ。冷静ではいられず、砂糖に群がる蟻のように、己に関してばかりに貪欲どんよくで無責任だ。当たり前のことながらもちろん、こうなる権利はある。



 それでも、思わずにはいられない。なぜ、決められない。なぜ、捨て身になれない。なぜ、保身ばかりを優先する。なぜ言い訳を考える余裕がある。なぜ、客観的に考えない。なぜ、ゆずらない。なぜ、こうなっても自己愛を発揮はっき出来る。浅ましい。と。



 気持ちをなだめて「わかっています。その事情も聞かせてください。さあ、行きましょう」と言った僕の顔から、嫌悪がにじみ出ていたのだろう。読み取ったのであろうチャンスが、後部ドアをスライドさせて開く。僕はどこまでもめ、優しさは身をひそめ、影さえないらしい。



 ドアの外に、気密防護衣姿の隊員3人が立っていた。



 「待って!待ってください!!嫌です!!やめてください!!私は何も知らない!!!何も悪いことはしていません!!」敏子は懸命に泣き、狼狽うろたえる。3人の中から一歩進み出た女性隊員が「お気持ち、おさっしします。ご心配はごもっともです。私はあなたのお世話を責任をもって致します。どうか、今は、こちらの指示に従っていただけないでしょうか?」と敏子に語りかけ、敏子はマスカラの落ちた赤い目で、瞬時にチャンスを見た。見るな!許さない。この女の弱さがチャンスを誘っている。僕は「やめろ」と知らず知らずのうちに口にしていた。



 僕の声を聞いたチャンスがチラリと僕を見る。止めるく、その視線を敏子に移したチャンスは「敏子さん、元気になったらお茶でも、あっ、食事しましょう。約束しませんか?」と銀の鈴が鳴るような声で快活かいかつに言い、右手の小指を敏子に差し出した。「クソ」僕が毒を吐く。取りすがりの上手い女。手段、わざ無垢むくは、本能なのだろう。だからこそ人は許す。チャンスのような男は白々しいとは思わず、権利と意思を尊重し、手を差し伸べて、純粋な気持ちで助け上げようとする。



 すがるように小指をからませた敏子が「ゆびきりげんまん、嘘ついたら・・・」と歌う。その歌声にはささえ無しには生きられない弱さと、無邪気な場違いさがあった。このひとは結婚相手を間違えたのだ。女のたたずまいが僕にそう思わせる。不幸を試練しれんとする神は、なんと慈悲じひあふれているのだろう。



 敏子が、チャンスが、防護班にともなわれて車から降りて行く。チャンスの背中がいつもより小さく見えた。あの女にチャンスは不釣ふつり合いだ。僕は不作法にそう思う。

 


 個室ユニットに入室して服を脱ぎ、特殊ビニールに入れ、そばに立つ防護服の男に渡し、洗浄室に入って全身を丁寧ていねいに洗う。両膝がガクリと折れた。涙があふれ出す。チャンスを巻きえにした。僕は最低だ。あの時、たった一言、“ 待機たいき“ とめいじてさえいれば、こうはならなかった。宗弥を失い、チャンスもくすかもしれない。クソ!!なんて、なんて、僕は・・クソ・・たれなんだ・・・。



 [送る。ファイターからイエーガー、大丈夫か?]と内耳モニターに入り、[ああ]と答える。そう答えるしかない。そう言わなければ、僕は折れる。泣き言を言い出し、言い訳をして僕は終わる。今はこらえて前進し続けなければ終わる。立ち上がって、しっかりと落涙する心も洗い流す。なんて・・・無力なんだろう。




 腰にバスタオルを巻いて出て行くと、防護衣を着たファイターとオルガが待っていた。バスタオルをビニール袋に入れて、無表情のオルガに差し出す。下着をつけてベットに座ると、オルガが綿棒を使って口内から唾液を採取し、右腕から採血しようと準備し始めた。「すまないが、僕の右腕の血管は死んでる。足の甲からならいけるはずだ」僕がそう言うと、オルガは殴られたような渋顔になり「資料に書いてありました。すみません」と言った。どこまで知っていると問いただしそうになる。僕の顔色を見たファイターが「どっからでもいい!さっさとやれ!」と大きな声で口をはさむ。今日のファイターはどこまでも、誰に対しても、bigパパで、オルガと僕の会話は初対面から最悪だ。



 奥歯を噛んで内耳モニターをOFFにした僕は、オルガに「チャンスはどうだ?」と聞く。「女性の検査次第です」と言ったオルガの視線が落ちる。良くないと言っている様なものだ。正直なやつと思いながらも、気に入らない。事実を忌憚きたんなく言葉にしろと、今は有事ゆうじだと言いたくなる。口をつぐんだら、眉間にシワが寄った。僕は、まだ、まだ、人間ができていない。



 僕の沈黙を見たファイターが「イエーガー、コロンブスが全力で対処してる。何かあったらすぐに知らせが入る。心配するな」と言い、そばにある椅子の背を右手で取り、僕のそばに移動させて座ろうとすると、オルガが「終わりました」と言って床から立ち上がり、椅子に座ったファイターにオルガは怪訝けげんの顔を向け、ファイターは「俺は、ここにいる!」と知らしめるようにガン見で返す。オルガはファイターに怒鳴られてばかりだ。



 「お前も出ろ」と言ったが、ファイターは「おいおい、これ着てんだぞ、イエーガー。オルガ、行ってくれ」最後はオルガに視線を移して、無意味にオルガをにらむ。ファイターは不機嫌だ。不安なのだろう。うつむいたオルガは不満げに小さく首を振り、それを見逃せなかった僕は「オルガ、コロンブスに対処があるか、さぐってくれ。お前はこれから、多分、アルファーに所属される。それを考慮して動け」おどかすようにそう言った。ファイターが笑みを噛み殺す。その顔に視線を向けると、ファイターは大らかに笑った。



 「オルガ、頼んだぞ」とファイターに言われたオルガは、2人に一礼してユニットを退室した。全く、アルファーは噂通りの気狂いだ。これまで幾多いくたの危なっかしい作戦を担当してきたとは聞いていたが、チーム長は1年半近く所在不明で、奪還だっかん作戦では離反者が出たというし、今回は軽装備で生物兵器に突入した・・あの大男はユニットから出ようとしない・・どうなんだよ、揃いも揃って・・馬鹿なのか・・全く・・。感染したら死ぬんだぞ。わかっているのか・・クソッタレ。笑顔で会話とは・・イカれてる。所属がアルファーだなんてハードル高すぎだ。そう思いながらもオルガは、アルファーが精鋭たる理由わけを知りたいと興味をそそられてもいる。



 「チャンスのこと、すまなかった」そう僕が言うと、ファイターが「責任感からだったんだろう、あいつらしい。俺が余計なことしたんだ。すまなかった。チャンスは考えて、ああいう行動を取ったんだよ・・きっと」くるしげに呟く。にがにが々しく、受け止めきれない僕は「一人でんだものを…」と吐き捨て、「献身からだったんだよ」小さくそう言ったファイターの声は、とても静かだった。



 その静けさは時に人の孤独をいやし、人をみちびいても来た。現役の特戦群の隊員ながらも、日本に滞在している時は率先そっせんして、憎まれるだけのヘルウィークの教官を志願したりもする。誉高きファイターは生まれ出た時から聖職者だ。



 視線を上げたイエーガーが俺に、「お前もそうだったんだろう」と笑う。目が赤い。瞳の漆黒は深さを増し、角膜にビー玉のようなテカリが浮いていた。その光沢こうたくが俺に、人身御供の儀式に使われた黒曜石を思い出させ、背筋に冷たい戦慄せんりつが走る。俺はひそかに狼狽うろたえた。「ファイター、コロンブスは宗弥を、どうするつもりかな?」と俺に聞いたイエーガーに、「しばらく黙認して、状況次第で連絡を入れるか、待つかしてこっちの計画通り、二重スパイにするんじゃないか」俺はとがる声で涼しく言ってしまった。チームにあらゆる凶を、まねき入れたフレミングを俺は許せない。




 俺の気持ちを読んだように「宗弥を許せないのか?」とイエーガーが聞く。えきれずの眼差しを向けた俺は「許す⁈あいつは!自分から、暗黒面に落ちんだぞ!イエーガー!!わかってるのか!サラマンダーとの打ち合わせでは、フレミングが選ぶのはお前のはずだった。俺はな!フレミングの動向どうこうを誰よりも知るお前でも、この作戦には反対だったよ!!!お前でも行かせたくはなかった!!クソみたいな作戦だ!!生物兵器の情報をさぐる為だったとしても!クソみたいだ!!それをわかっていたはずのフレミングは!!一番経験の浅いチャンスを選んで、混乱させた!!クソたれだよ!マジでクソだ!フレミングは嫉妬したんだ!!こわそうと思いついたんだよ!アルファーを!!俺の家族を!!!負傷したチャンスの感染率はお前の何倍にもなるはずだ!!許すなんて!!頼むから!!俺に言うな!!俺にそんなこと言うな!!フレミングのやり方はどこかスパルタンにている!!」俺はイエーガーに怒りをぶちまけていた。防御服が俺の熱気でくもる。最悪だ・・・俺はクソだ・・・クソッタレだ・・・イエーガーに当たり散らすなんて。



 「ファイター、チャンスの事は僕のミスだ。後悔しかない。すまない。僕にはもう、宗弥の気持ちがわからない。お前の言う通り、可愛さあまってだったんなら大成功だ。アルファーは今や3人だ。スパルタンはあの茶番劇でチャンスを痛めつけ、自己顕示欲をチャンスに刻んだ。僕たちの傷痕しょうこんと同じさ。僕がとらわれていたら、スパルタンはあんなことはしなかっただろう。あの20数分がなければ、もっと早く日比谷公園に移動していただろうし、そうなっていたら、敏子の動きもシータやドローンの監視に引っかかっていただろう。行き着く所、チャンスがあんな行動をとる事もなかった。宗弥はなぜ、僕を指名しなかった」寂しいがにじむ、静寂の声でイエーガーは言った。「フレミングの不誠実だ。始末の悪さだと感じる」鉛のように硬く、重い感触の声で俺は言っていた。どこまでも俺は、イエーガーに甘えてる。クソ!!!こんな話はしたくない。今のイエーガーには静養が必要だ・・それでも俺は、わかっていても俺は、ここを離れることが出来ず、図々(ずうずう)しくも居座いすわってる。・・・俺は失う怖さを、グズグズと発散はっさんしてるだけだ・・・俺は弱虫だ。クソだ!!



 [送る。コロンブスから総員、テイに日比谷公園まで送られたと敏子が証言した。現在、周辺の監視カメラを調査中だ。車を降りた時、テイからコンパクトを渡され、テイに好奇心をあおられて敏子はコンパクトを開け、粉で顔をおさえたとも言っている。感染していると思われる]沈痛ちんつうのコロンブスから内耳モニターに入り、ファイターは顔をしかめた。「どうした?」と瞬時に聞いた要に、ファイターはコロンブスからの通信を説明し、要は「チャンスの様子を見てきてくれ」切迫せっぱくした声で、表情で、ファイターを見た。うなずいたファイターは速攻椅子から立ち上がり、洗浄室に走り込んだ。


 

 ジリジリとする時間の中、思い立った要はスマホを取り出してメッセージを打ち始めた。“ トーキー、盾石富士子の保護はどうなってる?”と打つ。



 すぐさま、トーキーから返信が来た。

 “富士子さんの発信機から、けやき坂のハイアットホテルにいることがわかりました。ホテルの宿泊者名簿に名前はありません。ホテルに到着した警備部が館内を捜索してます。“



 まさかと思った要は、“トーキー、2427号室を調べてみてくれ”とメッセージをいれる。2427号と僕が泊まっている2428号の間には中ドアがある。そのドアを開ければ2つの部屋は内部でつながる。2027号室は前回、宗弥が泊まっていた部屋だ。富士子は中ドアの存在を知っている。



“富士子さん、いつもこちらの都合ばかりで申し訳ありません。お願いがあります。今、どちらにいらっしゃいますか?“と要はメッセージを打った。




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