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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第三章 蹂躙されし実習地
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実習地について


「だぁあああ! 負けた負けたッ! 清々しいまでの負けだぜ! ああ、悔しい! 思った通り、やっぱりライクは強ぇな! ハハハッ!」


 大の字になって、地面に倒れ込んで叫んでいるのはヴェイグだ。

 俺との最後の技の打ち合いで負けたことが相当悔しいらしい。

 だが、どう見てもヴェイグの顔に浮かんでいるのは満面の笑み。

 ちゃんとしたことはわからないが、満足しているようにも見える。


 服は地面に倒れていることもあり、舞っていた砂埃などで汚れていた。

 大きな傷も無く、叫んだ後はただただ荒い息の音だけがグラウンドへ響く。

 俺はそんな満足そうな表情を浮かべているヴェイグを見て、自然と笑みが零れてしまう。


「ハハハッ! どうやら楽しんでもらえたみたいだな、ヴェイグ」


 俺が声をかけると、ヴェイグは勢いをつけて立ち上がった。

 体を若干ふらつかせてはいるものの、どうにか立っていられるくらいではあるみたいだ。


「そりゃー、もちろんだぜっ! いやぁお前の本気、堪能させてもらった! 勝つ自信はあったが、俺もまだまだだなぁ……ここまで差を見せつけられたら、俄然やる気出てきたわ」


 心底楽し気なヴェイグは、最後にニヤリとした野性味溢れる笑みを浮かべる。

 どうもヴェイグのやる気に火をつけてしまうくらいには、俺との模擬戦は有意義なものだと思ってもらえたようだ。

 まあ、俺も同じようなものだけど。

 正直、本気で技をぶつけ合うのはなかなか楽しかった。

 同年代でここまでやり合えるのはこのクラスの皆が初めてだったからな。


「はいはい。 青春してるとこ悪いけど、結局休憩時間も過ぎてちょーっと時間押し気味だから、休憩時間返上で次の授業やるわよー」


 アルカは他の皆を連れてやってくるなり、とんでもないことを言い始めた。

 (いや、模擬戦終わったところだし、少しくらい休憩ほしいんですけど……)

 だが、俺の願いは聞き入れてもらうどころか、言葉を発する前に虚しく消え去る。


「ほらほら皆ーっ! 整列整列ーっ! アンタたちが気になってるだろう実習の話をするわよー!」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 グラウンドの端、校舎の方へと向かう途中に存在する階段の傍に、俺たちの姿はあった。


 全員がアルカの言葉に従い、きっちりと整列している。

 ヴェイグですら姿勢を正し、私語をすることもなく、俺たち冒険者育成科のメンバーはアルカの言葉を待つ。

 顔に浮かぶのは疑問、興味、様々だ。

 ただ、皆考えていることは同じはず。


 ――実習ではどこ(・・)()をするのか。


 これに尽きるだろう。

 かくいう俺もすごく気になっていた。

 入学式の時に簡単な説明はされていたが、具体的にどこへ行くだとか何をするだとかを言われたわけではない。

 さて、どこへ行って実習をすることになるんだか。


「よーし。 ちゃーんと並んだわね? それじゃあ、皆も気になっているだろう実習の話をしましょうか」


 アルカは言葉を区切ると、腰に付けている小さな鞄から紙の束を出す。

 ただ、明らかに鞄の容量を超えているほどの数の紙の束だ。


 でも、俺は特に驚いたりはしない。

 なぜなら、アルカの持つ鞄は、昔一緒に買い物に行った時に買ったものだからだ。

 俺も同種の鞄を持っている。 今は家にあるんだけれど。


 ちなみに、なぜ容量を超えたものを入れることができるかだが、固有属性である『空間』の魔術がかけられた特殊な鞄だからである。

 これはとある一族が有する属性で、その一族しか使い手がいないと言われている。

 ただ、実際のところはよく知らない。


 とにかく、その一族の作る鞄が店で売られ、皆がそれを使っているという状況だ。

 どこに住んでいるのかもわからないし、店の人に聞いても教えてもらえないらしい。

 まあ勝手に大事な取引相手の情報を話して機嫌を損ねられるようなことがあったらまずいだろうし、教えてもらえないのはわかる。

 だが、ここまで情報が閉鎖的な状態というのは謎過ぎるけど。


「はーい、皆。 これどうぞ。 その冊子には、皆が行くことになる実習先のことが詳しく書いてあるわ。 一応、今から説明していくけど、わからないところがあったらまずはその冊子を見てね?」


 アルカはおもむろに自分の手に持った冊子を開き、俺たちに視線を向ける。

 俺たちは皆、同じようにうなずいた。

 アルカから手渡された冊子を開いてみて、俺は疑問を抱いた。

 (この冊子、アルカが作ったのか? それにしては丁寧な作りだし、字も綺麗だ。 というか、この字って……セシリアさんのじゃないか?)

 他のページも見て確認したが、やはりセシリアさんの字に見える。

 どうやらアルカはセシリアさんに自分の仕事を手伝わせたらしい。

 (アルカの仕事を手伝わせてしまってごめんなさい、セシリアさん)

 俺はこの場にいないセシリアさんに向かって、心の中で謝罪した。


「じゃあまず、このクラスが行う実習だけど。 冒険者育成科って名前からもわかる通り、実習では冒険者として依頼をこなしてもらうわ。 とはいっても、そんなに難しいことを最初からさせるつもりもないし、そこは安心してくれていいわよ」


 俺がセシリアさんに申し訳ない気持ちを抱いている間に、アルカは淡々と話を進めていく。

 俺以外の皆は冒険者ではないため、アルカの言葉を聞いて安堵の声を漏らした。

 表情はそれぞれ違うが、やっぱり少しは不安に思っていた部分はあったみたいだ。

 ……まぁ一部はそもそも不安とは別の感情が溢れていたみたいだけど。


「えーと、それじゃあね。 次は行き先だけど、この王都から東、馬車で四時間くらい行ったところに『ジゼット村』っていう村があるのは知ってるかしら。 まあ知らなくてもいいんだけど、初めての実習はそこに行ってもらうわ」


 アルカの言うジゼット村とは、人口五十人ほどの小さな村だ。

 村の近くには薬草類が群生している場所があるらしく、この村はそれを採取して売ったり、森にいる動物を狩ることで生計を立てているらしい。

 森には魔物も出るんじゃ? なんて疑問もあるだろうが、この村の周囲にある森にはそもそも魔物が生息していない。

 どうしてかは知らないが、これまで魔物が出たことはないと聞いている。

 とまあ、俺が知っていることはこれくらい。

 何せ一度も行ったことがなく、他の依頼で近くを通ったことがあるというだけだからだ。

 軽く見渡してみれば、皆も特に知らないらしく、顔が疑問の色に染まっていた。


 そして、俺の視界の端で冊子を見ていたメルトが、おもむろに口を開く。


「あの、先生。 場所はわかりましたけど、内容は何なのでしょう? この冊子を見ても、特に書いていないのですが」


 俺はメルトの言葉を聞き、手に持っている冊子に再度目を通す。

 目を通してわかったが、メルトの言う通りだった。

 書いてあったのは持っていくものだとか、必要なもの。

 後は場所と移動方法くらいだ。


「それはね。 実習当日、冒険者ギルドに行って依頼を受ける時にわかるわ。 その時に、アナタたち皆のギルドカードも作ってもらうからね。 あー……ライクは別ね。 アンタは持ってるし」


 アルカはもったいぶった様に言葉を紡ぎ、俺には適当な感じ。


 いや、確かにそうですし別にいいんですけどね。

 ちょっと悲しくなったのは秘密。

 何か仲間外れ感があって……ねぇ?


 俺は内心少し悲しくなるも、顔に出ないように意識を引き締める。


「あー今言ったように、実習当日、つまり今週の週末は冒険者ギルドに行くわ。 場所がわからない人はいるかしら? 場所がわからないなら、一度正門前に集まってからギルドに向かおうかと思うんだけど……どうかしら?」


 アルカは俺たちの方を見回して反応を確認している。

 俺も同じく周りの皆の反応を確認するが、わからないといった雰囲気は誰からも出ていない。

 というか、知らないと言っていないし、皆わかってるみたいだ。


「うんうん、皆ギルドの場所はわかってるみたいね? なら、今週の金曜日は冒険者ギルドの前に集合よ」

「はい!」


 俺たちの返事が重なり、大きな声がグラウンドへと響いた。

 アルカは俺たちの返事に満足げにうなずくと、口を開く。


「良い返事ね。 さて、それじゃあ次は移動方法だけど。 これは馬車を使うわ。 だからさっきも言ったように四時間くらいかかるわね。 暇つぶし用に何か持ってきてもいいわよ? まぁ一応実習だから、そこは理解しておいてほしいけどね?」


 アルカは少しばかりお茶目な感じでウインクし、俺たちに軽く念を押す。


 アルカのことだし、自分でも何かしら持っていくつもりだろう。

 ただ、アルカの場合は移動中に軽くつまめるお菓子なんかが多いけど。

 アルカ曰く、『甘いものは仕事初め、仕事中、仕事終わり、どこであってもいいのよ! 癒しは必要よね!』とのことだ。

 どれだけ甘いお菓子が好きなのかと問いたくなる。

 まあ聞いたら聞いたで、面倒くさいお菓子談義をされるだろうからしないけどな。


「えーっと他には……ああ、持っていくものも言わなきゃよね。 冊子にも書いてあるけど、発煙弾は当日に渡すわ。 今から持ってて当日忘れたらいけないし、何より今持ってても意味ないしね」


 アルカの言う発煙弾というのは、魔力を使わず、遠い場所にいる仲間などに何かを伝えるためのもの。

 もし戦闘があれば魔術を使うことになるだろうから、少しでも魔力を節約しようという考えから生まれた。

 今では連絡手段を作れないかと研究中らしいが、そちらは詳しく知らない。

 とにかく、何かしらの危機を知らせる目的で使用されることが多い。

 恐らく、今回の実習で何か問題があっても対処できるように、との配慮なんだろう。

 

「あ! そうそう、大事なことを忘れてたわ!」


 アルカは顎に指を当てて、他に何かあったかしら、とでも考えていそうな素振りを見せていたかと思えば、左手の手の平を握った右手で軽く叩いて口を開いた。


「このクラスのリーダーを決めておかないといけないんだけど……誰がいいかしら?」


 アルカがそう言った瞬間、クラスの皆が一斉に俺の方を向き、全員から視線が飛んでくる。


「え? ……え? その視線はなんだろうなぁ……ハハハ」


 俺はとぼけたように皆の視線に対して疑問を口にした。

 ただ、そう言った瞬間、皆からさらに鋭い視線が飛んできたけど。


「え? 皆、本気? ……俺なんかがリーダーでいいのか?」


 俺が皆の方を向いて呟いた言葉に、それぞれから言葉が飛んでくる。


「お前以外に誰がいるんだよ。 一番強いだろうし、経験はあるだろうし、リーダーとしても問題ないだろ?」

「ええ、兄さんの言う通りですね。 私もリーダーにはライクさんが適任かと」


 ヴェイグとエレノアはさも当然と言わんばかりに言ってきた。

 ヴェイグの方なんか若干呆れた様子すら見せている。


「ウチもライクでええと思うで? ライクならリーダー任せても問題なさそうやし、この中で唯一現役冒険者やっとるみたいやしな」

「そうですね。 ライクさんは冒険者としての経験もありますし、私もライクさんがリーダーに相応しいと思います!」


 ティアとシャルもヴェイグたちと一緒だ。

 なんでこんなに俺をリーダーに推すのかわからないくらいに賛成の意思を示してくる。


「だねー! お兄さんなら大丈夫だと思う! 任せたよっ、リーダーっ! えへへ」

「うん、ライクくんなら問題なさそう。 私も賛成だなー」


 リルハは元気よく、ミルハは落ち着いた感じで俺をリーダーにするという意見に賛同してきた。

 二人の顔に浮かぶのは笑み。

 どう見たっていい笑顔だ。 本当に俺がリーダーでいいと思っているっぽい。


「私もライクがリーダーというのは賛成です。 あれほどの実力を見せつけた貴方なら問題ないでしょう」


 メルトは模擬戦のことでも思い出しているのか、目を瞑り考えるような素振りを見せて言ってきた。

 なんだろう、なんで皆こんなに俺を押してくるのかわからないんだけど。

 正直俺自身は力不足だと思っているんだけどなぁ。

 そんなことを考えていると、ストルトスとジンも賛同してくる。


「僕も賛成するよ! 先輩冒険者としてご教授お願いね、ライク!」

「ああ、俺も賛成だ。 俺は戦うくらいしか能がないからな。 リーダーはライクに任せよう。 頼んだぞ、ライク」


 ホント、皆何を考えているんだか。

 俺なんかじゃ務まらないと思うんだけど……。

 ただ、ここまで言われて拒否するのもどうかと思う。

 ここはアレだな。 何事も経験ということで引き受けるか。


「はぁ……皆がそういうならやるよ。 そこまで言われてやらないなんて、カッコ悪すぎて嫌だしな。 あはは」


 こうして俺は、このクラスのリーダーを引き受けることになった。


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