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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第三章 蹂躙されし実習地
32/34

刀術師vs双剣士


「いやーホンマ疲れたわぁ……あいたたた。 爆風で吹っ飛んどったからあちこちぶつけとってめっちゃ痛いわぁ。 エレちゃ~ん! ごめんなんやけど、治療してもらえへんかなぁ~!」


 模擬戦が終わり、俺の視線の先では、制服に砂埃を付けたティアが叫んでいる。

 顔には痛みに耐えているような表情が浮かび、声から受ける印象とは違って辛そうだ。

 ティアの周りには、同じように砂を被って少々汚れてしまっているシャルやミルハたち。

 皆は疲れた様子で息を吐き、俺たち男衆がグラウンドの端の倉庫から持ってきた椅子へと腰かけている。


 空からは温かい陽の光が差し、先ほどまで模擬戦で派手に動いていたティアたちへと降り注ぐ。

 そんな四人の傍にはメルトがいて、心配そうな表情で風の魔術でそよ風を吹かせている。

 メルトの魔術によって生まれた風に当たり、ティアたちはとても気持ちよさそうだ。


「はいはい、わかりました。 すぐ治療しますから、少しだけ待ってください」


 エレノアは苦笑して答えると、言葉通りすぐにティアたちの傍に駆け寄って魔術を発動させた。

 周囲には緑色の光が溢れ、ティアたち四人を包み込むように覆っていく。

 完全に四人が緑色の輝きに包まれると、次第にティアたちの表情から苦痛の色が溶けていくように消えていった。


「ごめんなぁ、エレちゃん。 ありがとうな! ごっつ楽なったわ!」

「ホントだねー! エレノアちゃん、ありがと!」


 比較的元気の有り余ってる感じのティアとリルハは、エレノアへと感謝の言葉を返す。

 でも、シャルとミルハは疲れが酷いのか、少しぐったりしたままだ。

 この感じだと、シャルとミルハはかなり体力や魔力を消耗したみたいだな。


「いえいえ、どういたしまして」


 エレノアはティアたちに笑みを浮かべている。

 ちゃんと治療できたからなのか、エレノアはどこか満足げだ。

 そんなエレノアのところへ、先ほどそよ風を作っていたメルトがやってくる。


「すみません、エレノア。 私も治癒が上手く使えたら良かったのですが……」


 メルトは申し訳なさそうに顔に影を作り、エレノアへと謝罪した。

 エレノアは気にした様子なんか見せず、優し気な笑みを浮かべて応えている。


「いえ、大丈夫ですよ。 気にしないでください」


 メルトはどうやら治癒は使えないらしい。

 まぁ水や風は治癒が出来る属性だけど、人によって得手不得手はあるし、そこまでおかしなことでもない。

 ただ、少し疑問は残ったが。

 だが、今は気にしていられない。

 何しろ次は俺とヴェイグの模擬戦だ。


 エレノアたち姿を尻目に、本日最後の模擬戦をすることになった俺とヴェイグが結界の中へと歩いていく。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 結界の中には、先ほどまで行われていたティアたちの戦いの跡が色濃く残っていた。

 俺とヴェイグの立つ場所の周囲のどこを見ても悲惨な状況だ。

 魔術によって穿たれたボコボコの地面。

 足を踏ん張ったことによってできたと思われる、小さな窪み。

 激しく近接戦闘が行われただろうことを思わせる多数の足跡。

 そのどれもが苛烈な戦いだったことを物語っていた。

 

「なぁライク。 ちっと頼みてぇことがあんだけどよ」

「ん? なんだよ急に」


 改まった様子でそんなことを言うヴェイグに、俺は眉をひそめてしまう。

 しかし、ヴェイグは俺の態度を気にすることなく言葉を続けた。


「いやな? せっかくお前と戦う機会がもらったからよ、全力で戦ってほしいんだわ。 恐らく俺らのクラスじゃ、お前が一番強いんじゃねぇかって俺は思ってる。 だから、俺がお前とどれだけ違うかってのを感じてぇんだよ」


 俺は突然の言葉に面食らう。

 どうしてそこまで戦いたがるのか。 ここまで来ると何かあるように思えてくる。

 だが、俺に拒否する考えはない。 なぜなら、俺は強くなりたいからだ。

 ヴェイグがどんな思いで戦いたいと思っているのかは、正直わからない。

 でも、俺に向けられている眼差しは本物。

 真剣過ぎるほどに真剣な色に染まった瞳が、俺を射貫いている。

 なら、俺は自分のためにもヴェイグに応えるべきだろう。


「わかった。 本気でやるよ。 ……って言っても、正直やることはそんなに変わらないけど」

「まぁそうだな。 俺たちはただぶつかり合うだけだ。 でも、俺は勝ちに行くから……よッ!」


 言葉を言い終わる瞬間、ヴェイグは俺の目の前へと迫ってくる。

 動きは複雑だ。

 右へ左へと小刻みに移動し、俺が動いた瞬間を狙おうとでもしているのかと思わせる動き。

 ヴェイグの口元が微かに動いたかと思えば、途端に動きがより機敏なものへと変化し速くなる。

 (ヴェイグのやつ身体強化使ったな? これはジンの時みたいに攻めてくるかもしれないな)

 俺の予想通りに、ヴェイグは素早い動きで翻弄するように周囲を駆け回る。

 周囲を駆け回っていたかと思えば瞬時に俺へと踊りかかってきて、短剣を縦に横に、嵐のような怒涛の勢いで振り回す。


「オラオラオラァアアアアッ!」


 ヴェイグは短剣を振り回すのと同時に叫ぶ。

 叫びで俺を威圧するように、叫びで自分を奮い立たせるように。

 そして全ての斬撃を見切り、的確に対処していけば、ヴェイグは一度離脱して再度周囲を駆け回り始めた。

 (チッ! 動きについていけないわけじゃないが、面倒すぎるぞ!)

 俺は内心悪態を吐きながらも、冷静にヴェイグの動きを見る。

 動きを見ていると、ヴェイグは自分の速度を乗せ、左手の短剣を投げ飛ばしてきた。

 凄まじい速度で迫りくる短剣はまっすぐに俺へと飛翔してくる。

 俺は冷静に動きを見極め、ヴェイグが放った短剣の一撃を刀で上へと弾く。


「ハハッ! これくらいは対応してくるよなッ! ――オラッ!」


 ヴェイグは弾かれた短剣をチラリと見ることさえせず、右手の短剣で斬撃を放ってくる。

 俺の刀とヴェイグの短剣は激しくぶつかり合い、せめぎ合いによって金属同士が擦れる音が鼓膜を揺らす。

 

「いいぜ、やっぱり戦いはこうでないとなぁ! セァッ!」


 ヴェイグは気合を入れて、さらに攻撃を激しくさせてくる。

 そこへ先ほどの短剣が落ちてきた。


「ほいよっと!」


 ヴェイグは俺に蹴りを入れると共に後ろへと飛び、落ちてきた短剣を華麗に掴み取る。

 (これはまた器用なことをしてくれるッ!)

 掴み取った短剣を加え、再度両手に短剣を持ったヴェイグは俺へと迫ってくる。

 すぐさま再度迫る斬撃の対処をしようと、短剣の軌道に刀の刃を合わせるように滑り込ませた。


 その瞬間、俺たちの間に甲高い金属音が鳴り響く。

 右から迫る斬撃を弾き、弾いた瞬間には左から斬撃が来る。

 弾く度に金属を音が響き、動き回る俺たちの足元の地面は砂埃を上げた。

 砂埃は苛烈さを増す俺とヴェイグの戦いに合わせ、次第に色を濃くしていく。

 (さすがに獣人族。 身体能力に優れてるな。 間合いが近いと結構面倒だ)

 迫る斬撃を弾けば、今度はヴェイグの鋭い蹴りが俺の体を襲う。

 蹴りを避ければ、その隙を突いて短剣の刃が迫る。

 右に避け左に避け、俺たちはお互いの体へと己が武器を振るい合う。


 幾度と行われた攻防は、互いの武器を弾いたことで一度振り出しへ。

 俺たちは再び向かい合う。

 舞っている砂塵は俺たちが動きを止めたことによって、徐々にではあるものの、次第に収まっていった。

 向かい合ったヴェイグの顔には、戦いが楽しくて楽しくて仕方ないと書いてあるかのように満面の笑みが浮かんでいる。


「ッハ! やっぱ予想通り強ぇなぁ、ライクは。 息、乱れてないじゃねぇか」

「そういうヴェイグだってほとんど乱れてないだろ」


 そう、俺たちはここまで派手に動きつつも、大して息は乱していなかった。

 乱されていたのは足元の地面や俺たちが着ている服くらいだろう。

 地面はいくつもの足跡が付き、むしろその足跡によって他の足跡が消されてしまうくらいに多く存在している。

 学生服の方へチラリと視線を向ければ、魔術によって防御能力が高められているおかげか、破れているようなところは見当たらない。

強いて言うなら砂埃がいくらか付いていることが気になるくらいだ。

 (ほんとこの制服性能高すぎだろ。 さすがに俺のコートでももう少し切り傷とか付きそうなもんなんだけど)

 俺は改めて制服の性能に感心してしまう。


「まぁな。 お互いこっからが本番だろ? なぁライク?」


 ヴェイグは俺を挑発するようにニヤリとした笑みを浮かべる。

 確かにヴェイグの言う通りだ。

 俺たちは互いに小手調べをしただけ。

 だが、それも今のやり取りで終わった。

 

「だな。 それじゃあお互い、小手調べは終わりにしようか。 もう十分、体は温まったよな?」

「ああ、十分過ぎるくらいにな」


 ヴェイグは俺の問いに力強い声音と共に頷いた。

 ヴェイグが頷いたことを確認すると、俺は刀を肩より高いくらいの高さで固定。

 そして視線をまっすぐヴェイグに向ける。

 (さて、気合入れて頑張るとするか)

 俺は気合を入れなおし、身体強化を体へ施す。


「それじゃ、今度はこっちから行かせてもらうぞ?」


 俺は刀の切っ先をヴェイグへと向け、一足飛びで眼前へと迫る。


「――ッ!」


 突然目の前へ現れるようにして接近してきた俺に、ヴェイグは驚愕の表情を浮かべてすぐさま距離を取ろうとする。

 しかし、俺はヴェイグを逃がしはしない。

 さらに思い切り前へと踏み込んだ。


「――弐ノ太刀 迅雷」


 ヴェイグへと振るった俺の刀は雷を纏い、周囲へと雷鳴を轟かせる。

 同時に、避けきれずに短剣を目の前で交差させることで受け止めたヴェイグ。

 受け止められた雷纏う刀は短剣との衝突の瞬間に、俺たちの鼓膜を震わせる耳をつんざくような轟音を届ける。

 雷撃は爆発するかのごとく周囲へと散らばり、地面に穴を作るほどの威力を発揮した。

 そして、俺の振るった刀の衝撃と雷の爆発を受けとめたヴェイグが足を全力で踏ん張った結果、地面には足の形が刻まれる。

 俺たちの周りには先ほどの雷の爆発のせいで砂埃が立ち昇り、視界が少し悪くなってしまう。


「ぐうぅッ! くっそ! その技ハンパねぇ威力と移動速度じゃねぇか! 最速は桜花じゃなかったのかよ!?」


 額から薄っすらと汗を流すヴェイグは顔を歪めながら、十字に重ね合わせた短剣で俺の刀を受け止めて叫ぶ。

 (初見で受け止めたか。 完全に全力ではないとはいえ、結構自信あったんだが……やっぱり全体的に身体能力高いな、ヴェイグは)

 俺はヴェイグに感心しつつ、油断なくせめぎ合いを続ける。


「ん? あー誤解だ。 移動速度(・・・・)に関して言えば、迅雷の方が早いぞ。 桜花は刀を振るう速度(・・・・・・・)が速い剣術だからな」


 俺はせめぎ合いの最中、ヴェイグが愚痴るように叫んだ問いに答えた。

 するとヴェイグは目を丸く見開き、叫び声を上げる。


「はぁ!? おいおいマジかよ。 それにしたってさっきの動きは俺と遜色なかったぜ!?」

「まぁな。 そもそも迅雷は『縮地』っていう一瞬で間合いを詰める技の応用みたい技だからなぁ」

「そんなのもあんのかよ……ますます面白いじゃねぇかッ!」


 俺の目の前にはヴェイグの獰猛な笑顔。

 言っているように面白いと感じているからだろう。

 俺としてはヴェイグのやる気を出させてしまって失敗だったな、なんて思っているんだが。

 まあとりあえず、現状打破が最優先だな。


「――雷鳴功ッ!」


 俺はアレンジしていない状態の雷鳴功を使い、周囲へと雷撃を放つ。

 あくまで身体強化の派生に位置する技だが、属性の性質上どうしても周りに攻撃してしまう。

 今回はそれを利用し、魔術を攻撃として放てない俺の欠点を補わせてもらった。

 ただ、属性の性質を利用しているだけだから、当たってもちょっと痺れたりするくらいにしかならないんだが。

 だが、それでも十分。

 俺の狙い通りヴェイグは俺から飛び跳ねるようにして離れていった。


「あっぶねぇ。 そうだよな。 いくら攻撃魔術が使えないって言っても、属性考えればそのくらいの芸当はできるわけか。 ――お前、使い方上手いな」


 ヴェイグは自分では思いついていなかったのか、驚いたように呟いた。


「ま、俺じゃあ攻撃魔術は使えないしな。 工夫しないとやってられないんだよ。 これも努力の賜物ってやつかな」


 俺は褒められたことに内心照れつつも、普段通りに言葉を返す。

 ほんと、こうやって工夫しないと、もしもの時に危ないからな。

 ほとんど効果が無いとはいえ、雷鳴流の技を習っておいたのは正解だった。


「なるほどねぇ……俺も負けてられねぇなあ!」


 ヴェイグは叫ぶような声を放ちながら襲いかかってくる。

 身体強化のかかったままのヴェイグは鋭い短剣の刃を振るう。

 俺は一撃一撃を完全に見切り、時に躱し時に弾き、叩き潰すというような気持ちで全力を以て刀を振るった。

 荒れ狂う俺たちの舞にも似た苛烈な争いは砂を吹き飛ばし、新たな砂塵を生んだ。

 徐々に速度を上げていく俺たちの奏でる剣戟の音。

 それはグラウンドという広い場であっても大きく轟くほどの音色。


 そして終わりは唐突に来る。


「アンタたちーッ! そろそろ授業時間終わるわよーッ! さっさと決着付けちゃいなさいッ!」


 そう、忌々しいことに授業の終わりが近づいていた。

 俺とヴェイグは動きを止め、顔を見合わせる。

 俺の視線の先にあったのは悔しそうなヴェイグの表情。

 たぶん、俺だって同じような表情をしているはず。

 こんな良いところで終わりだなんて納得がいかない。

 そういう思いはあれど、さすがに授業。

 俺は落胆からため息を吐く。

 すると、ヴェイグも同じように深く息を吐き、残念でならないといった雰囲気を放っていた。


「あぁ……まじかよ。 ありえねぇ……せっかく良いところだったのによぉ」

「だなぁ……どうする? さすがに延長はできないだろうし、大技で締めるか? 別にまだ機会はあるけど、このまますぐ、はいさようならってのは嫌だろ?」


 悔しさを体中から滲ませるヴェイグを見かねて、そして、納得がいってない自分のためを思って提案する。

 すると、ヴェイグの表情がガラリと変わった。

 悲しさを湛えていた顔は一瞬でニヤリとした悪そうな笑みになり、ヴェイグは俺の提案にうなずく。


「おう、いいねぇ! じゃあ最後は互いに全力の一撃ってので締めるか! お前の大技ってのがすげぇ気になるしなッ!」

「あはは。 ま、楽しみにしててくれ。 退屈させるつもりはない」


 俺は本気の一撃を放つため、魔力を練り上げ始めた。

 体からは魔力が螺旋を描くように渦を巻き、風を起こして吹き荒れる。


 変換する属性は雷。

 抜き放たれていた刀を鞘に戻し、鞘の中で魔力を循環させる。

 循環させた魔力は次第に刀を振動させるほどの膨大な魔力をその身に蓄えていく。

 魔力を蓄えていく鞘の周りには、抑えきれていない雷属性の魔力が形となって暴れていた。

 俺はそれを抑えるべく、言葉を紡ぐ。


「――是は全てを斬り裂く雷花の一刀」


 一方ヴェイグは、体から赤い炎の魔力を迸らせ、持っている二つの短剣へと注いでいる。

 どうやら似たような使い方をするみたいだ。

 短剣に注がれた魔力は、次第に薄い刃の形となって短いはずの短剣の刃を伸ばす。

 伸ばされた刃はだいたい元の二倍、といったところか。

 見た目には普通の片手剣くらいの見える。


 そうしているうちに俺の魔力も限界まで高められ、鞘の中を暴れ回っていると錯覚するほどの大量の魔力が鞘へと溜めこまれていた。


「ライク、そっちは準備できたかよ? 俺はもう問題ないぜ?」

「俺も問題ない。 いつでもいけるぞ」


 俺たちは互いに無言でうなずき、全力の一撃を放つべく己の武器を構える。 

 これで終わり、その気持ちからか、俺たちの間にはとてつもない緊張感が走り、場の空気を支配していた。


 そして。

 

「――|双炎斬瞬ッ!」

「――終ノ太刀 雷華一閃ッ!」


 ヴェイグは十字を傾けたような炎の斬撃を放ってくる。

 対して俺の斬撃は周囲へと雷撃を迸らせる一筋の斬撃。

 俺たちの放った一撃はちょうど互いを直線で結んだ中央で激突。

 激しい稲光と荒れ狂う炎の乱舞が輝き、耳をつんざくような爆発音を周囲へと放った。

 すでに無残な姿を晒していた地面はさらに形を崩し、綺麗に整地されていた面影はどこにも見当たらない。

 雷と炎がぶつかりあった衝撃は凄まじく、地面からは砂が弾け飛び、再び砂塵が空を舞う。


 前が見えなくなるほどの濃い砂塵の舞が晴れた頃、俺は残心を解き、刀を鞘へと戻した。

 なぜなら、戦闘続行は不可能だからだ。

 目の前に映った景色の中にあったのはヴェイグの倒れる姿。


 ヴェイグは空を見つめるように倒れ込み、荒く息を吐いていた。

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