魔物の話と状況確認
彼女――ティアは、隣国エイレンシュキアからの留学生らしい。
エイレンシュキアとは、王国と友好関係を結んでいる国。
皇帝と呼ばれる存在が統治していて、王国で言うならば王様に当たる存在だ。
つまり、正式名称はエイレンシュキア帝国という。
かの国は王国と長きに渡り親しい関係を築いており、資源のやり取り貿易を行っている国。
特に、魔道具に使う鉱石等は主に帝国からの輸入品が多い。
他にも、魔石や帝国の領土にしか生息しない薬草類などは、帝国からの輸入が多いらしい。
まだ色々あったはずだが……あまり興味がなくて覚えてないな。
とにかく、それくらいがメインだったはず。
「ああ、こちらこそよろしくな。 それで、この後どうする? 今日はもう何もなくて明日からは休日だけど……どこかに飯でも食べにいくか? 親睦を深めるってことで」
せっかくだからと誘ってみたものの、俺の胸中は不安で埋め尽くされていた。
なぜ?と問われれば、今まで碌に友達も出来たことがないボッチだからだ。
……威張ることじゃないな、うん。 自分で言ってて悲しくなるやつだわ。
まあ、誘った理由の一つとして、皆が王都に慣れてなさそうだから案内でもしようかな、なんていうのもあるんだが。
「それ、ええなぁ。 出来れば連れてってほしいわぁ。 まだこっちの方はあんまよう知らんし、正直どうしようか困ってたんよ」
ティアは俺の予想通り、まだ王都に詳しくはなかったみたいだ。
いきなり拒否されたりしなかったため、俺は安心から胸をなでおろす。
安堵の気持ちと共に、俺はもう一つ提案してみる。
「だったら昼飯食べた後で良ければ、軽く街を案内でもしようか? 時間は全然あるから、案内くらいなら問題ないしさ」
「ええのん? やったらお願いしてもええかなぁ。 ごめんやで」
ティアは申し訳なさそうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに柔らかな可愛らしい笑顔を向けてきた。
(おぉ、よくやった俺! この調子なら友達付き合いも問題なさそうだな!)
内心の喜びを表に出さないように気を付け、俺は他の二人の方に向き直る。
「あはは、全然いいよ。 それで……ヴェイグたちはどうだ? なんか予定あったりするのか?」
二人の顔色をうかがいながら聞いてみるが、特に困ったような表情は見られない。
「いや、特にねえな。 俺らも一緒に連れてってもらえるとありがてぇ。 王国に住んじゃいるが、俺らは辺境出身だからよ。 ティアとほとんど一緒みたいなもんだし、どうすっか悩んでたとこだ」
「ええ、兄さんの言う通りですね。 私たちもこちらへ引っ越してきたのは最近ですし、ライクさんが案内してくれるというなら非常に助かります」
どうやら問題ないらしい。
ティアと似たような状態のようで、俺の提案に二人は安堵の表情を見せていた。
(まあ王都って結構広いし、引っ越してきてすぐだと特に大変だよなぁ。 俺も最初はそうだったし)
自分の過去を振り返り、ヴェイグたち三人の気持ちに共感を覚えた。
何はともあれ、三人とも俺の提案に賛成してくれた結果、一緒に昼食を取ることが決まった。
「よし、それじゃ決まりだな。 他のやつはどう……ってもういないな。 話してる内に帰ったのか」
俺たち四人が話している間に他にいたやつらは皆教室を出て行っていたようだ。
今、教室には他の生徒は俺たちを除き、誰一人として残っていない。
ふと教室の窓から外に目を向けてみれば、小さく見えるまだ真新しい制服に身を包んだ知らない生徒の群れ。
すでに他のクラスも担当の教師からの話も終わったようで、帰宅するべく校舎を出る者が多くいる。
中には先ほどまで教室内にいたやつの顔も少し見え、やはり先に帰ったんだなと再確認した。
(残念だけど、他の人はちゃんとクラスメイトになってからかな)
少し残念に思うものの、また機会があるだろうと気持ちを入れ替える。
「みてぇだな。 ま、他の奴らはまた今度でいいんじゃね? どうせ全員残んだろ。 学習内容もそんな変わんねぇらしいし、だったら面白そうなこのクラス選ぶだろ?」
「それは兄さんの考えでしょう。 皆さんがそうだとは限りませんよ? 特に先ほどの丁寧な口調の女性なんてその最たるものと言えます。 兄さんは自分の本能に忠実すぎますね」
気持ちを切り替え、話に意識を戻せば、聞こえてきたのはエレノアの兄へのきつい言葉。
(今さら思ったが、エレノアがヴェイグに言ってることって、俺がアルカに対して言うのと同じ感じか?)
実の姉弟というわけではないが、アルカと俺の関係をあえて姉弟という枠組みに入れれば、似たような感じなのかと考えてみた。
うん、実に似たような感じがする。
「でもよ。 実際、冒険者育成科ってのは結構楽しそうじゃねぇか? エレノアもそう思うだろ?」
ヴェイグは実習のことに思いを馳せているのか、楽し気に顔を歪めている。
逆にエレノアの方は、兄の浮かべる表情に呆れたように息を吐いていた。
「まぁ……否定はしません。 実習ということで様々な土地へと行くというのは、色々と経験できそうですからね」
「だろ? てか、実習って具体的に何すんだろうな。 あーそういや、ライクは冒険者だって言われてたよな? 何するか思いつくか?」
ヴェイグはアルカの話していたことをちゃんと聞いていたようだ。
アルカが俺を冒険者と言っていたことを覚えていたようで、どんなことするのかある程度予想がつくと思ったんだろう。
予想自体はある程度つくが、どうにも絞り切れない。
「んー思いつかないわけじゃないが、さすがに候補が多すぎて絞り切れないな。 一応、一番可能性があると言えば……魔物討伐とかか? 最近、街道に魔物が出没することが多いって聞くからな」
俺は学院入学までの三カ月間で見聞きした情報を思い出し、一番の可能性を語る。
(それにしても、なんで最近多いんだろうな。 魔物は基本的に森の中とか、人が通りづらい所にいたりするものなんだが)
ふと思いついた疑問に首をひねる。
ヴェイグとエレノアも同様に何か考えるような素振りを見せているが、ティアだけが口を開く。
「あーそれやったら、ウチもおとんから聞いたことあるで? ウチの家、商売やっとるから色々情報入ってくるんやけど、なんや積荷積んだ馬車が襲われたりとか被害も出たらしいわ」
ティアは記憶を探るように視線を上へと向け、一つの事件の話をしてくる。
正直、王国では魔物の確認される頻度が少し多いくらいだったし、まさか被害が出ていたとは知らなかった。
話からしてティアの故郷の付近のことだったからだと思うが……どうにもやりきれない気持ちになる。
「被害まで出てたのか……襲われた人ってのは大丈夫だったのか?」
被害のことで一番気になったことをティアに尋ねる。
俺が調べていた情報の中には無かったし、どんな状態なのかは知っておきたい。
(それにしても、被害まで出てるなんて……アルカにも言っておくべきか?)
アルカが知っている可能性もあるが、念のため伝えておこうと頭の片隅に記憶しておく。
「一応、大丈夫やったみたいやで。 さすがに積荷は全部無事とはいかんかったみたいやけど、本人はピンピンしとったみたいやからね。 どうも通りすがりの冒険者の人に助けられたらしいわ」
「そ、そうか。 それは運が良かったな。 いや、襲われたから悪いんだけど……」
ホント、不幸中の幸いってやつだろうな。
通りすがりの冒険者の人たちがいなかったら危なかっただろうし。
「ま、そやけど。 命あっての物種ゆうし、生きてただけめっけもんやで」
「まぁそれもそうだな。 ――死んだらどうしようもないからな」
俺は少し三年前のことが頭をよぎり、思わず真剣みを帯びた声が出てしまう。
(やば、思いの外本気な感じの声出たな……気付かれたか?)
少し不安になりつつ三人の顔色をうかがう。
「あ? どうかしたのかよ、ライク」
「あ、ああ、いや。 何でもないよ、ヴェイグ」
ヴェイグには俺の態度が一瞬おかしかったことには気付かれたらしい。
だが、あまり大きな声ではなかったためか、特に何かを聞かれることはなかった。
「ん? まぁ、それならいいけどよ」
「あはは、 悪いな。 ホント何でもないんだ。 とりあえず、校舎出ようか。 ここでずっと喋ってたら昼飯の時間がどんどん遅くなるしな」
「だな。 そんじゃ親睦会と洒落込むか!」
ヴェイグは意気揚々と教室の扉へと向かうが、背後からエレノアの厳しい言葉が突き刺さる。
「もう、子供じゃないんですから。 はしゃぎすぎないでくださいね、兄さん」
「……エレノア。 せっかく気分よく飯食いに行こうとしてたのに、そりゃねぇだろうよ。 もっと楽しんでいこうぜ?」
対照的な二人に、ティアは楽し気な笑みを浮かべている。
「あはは。 二人は仲ええなぁ。 ウチも姉弟とか欲しかったわぁ」
「確かに、二人は仲いいよな。 正直ちょっと羨ましいかもしれない」
俺とティアは似たような意見を言い、ヴェイグたちは複雑そうな顔をする。
眉をひそめた顔からして、これのどこが羨ましいんだよ、とでも思っていそうだ。
「別に何思おうと勝手だが、さすがに面と向かってそういう感想聞かされっとむず痒い感じするからやめてくれ」
ヴェイグはどこか恥ずかし気な雰囲気を纏い、頬を指でかいている。
「まったく、兄さんのせいですからね?」
「俺かよ!?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。 ほら、時間無くなるしさ。 な?」
俺は二人の間に割って入り、教室に設置されている時計を指さした。
現在、時刻は十二時五十五分を少し過ぎた頃。
すでにお昼時になって一時間近く経ちそうな時刻。
「うぉ、マジか。 早く行かねぇといけねぇじゃねえか」
ヴェイグは時計を見て驚いた表情を浮かべ、我先にと扉へ足を向ける。
「ですね。 早く行きましょう。 お腹すきました」
「ウチもやわぁ。 お腹すいてペコペコやでー」
エレノアとティアの二人は共にお腹に手を当ててお腹がすいていることをアピール。
微笑ましい姿に思わず笑みが零れてしまう。
「あはは、それじゃあ行くか!」
言葉と共に、俺たち四人は教室を出て一階にある出入り口へと向かった。




